023. まずは小手調べだよ
「シオン様、おはようございます! 本日も引き続き、よろしくお願いいたしますわ!」
昨日と同じグラウンドにやってきた俺は、昨日と同じ人に向かって、元気よく挨拶をした。
「おはよう、アリア王女。今日は一人なんだね?」
「そうなのです。アミュレットが、休暇を取っておりますので……」
「なるほど。あいにく、こっちもまだ僕一人なんだ。もうすぐ来るとは思うんだけど……なにせ学園長も、忙しい人だからね……」
紙束を片手に、建物のほうを眺めながら、シオンさんは言った。
(エイト様? シオン様に、昨日のお礼を……)
おっと、忘れるとこだった。
「ところで、シオン様? 昨日はわたくしに治療を施してくださり、本当にありがとうございました。とっても助かりましたわ!」
「あぁ、いや、そんなに大したことはしてないよ。たまたま僕もあの魔法を習得していたからやっただけで、治療師に頼めばすぐにやってくれただろうことだしね」
……そういや治療師ってなんなんだ? アミュレットさんが怪我したときにも、そんな単語が出てたけど、こっちでいう医者みたいなもんかな……?
「なんなら、王家お抱えの治療師なんかもいるんじゃないかな?」
「え? あっ! え、えーっと……!」
やべっ……! 考え事してたところにわかんねー質問が来たせいで、つい素のまま反応しちゃった……!
(お、おりますわ! 専属の治療師様に、常駐いただいておりますの!)
すかさずアリアさんがフォローをくれた。サンキューアリアさん! あとで頭を撫でてあげ……いや、そうすると自分で自分の頭を撫でることになるな……。
「も、もちろんですわ! 当家には、専属の治療師様がおられますので!」
「なら、今度からはその人に頼むといいよ。僕なんかより、よっぽど腕がいいだろうしね」
微笑みながら、シオンさんは言った。
……よかった、とくに怪しまれてはなさそうだ。とはいえこんなピンチも、アミュレットさんがいればなんともなかっただろうに……。早く帰ってきてぇ……。
「さて……。お話はこれくらいにして、そろそろ始めようか」
そう言って、彼女はグラウンドに向けて片手を翻した。
「『無機なる傀儡の造成』」
詠唱とともに地面を覆うように魔法陣が展開され、そこから土で出来たゴーレムが姿を現した。
「まずは小手調べだよ。昨日も言ったとおり、使う魔法はなんでもいいからね」
「かしこまりましたわ。では……」
そう言って、俺はゴーレムに体を向けた。そして一歩踏み出し、軽く深呼吸をする。
(エイト様! がんばってくださいまし!)
頭の中では、可愛らしい声援が響いている。……アリアさんの応援に応えるためにも、ちょっとだけ本気出しちゃおーっと!
「――『双陣・制先の氷礫』!!」
ゴーレムに向けて突き出した両手の先、詠唱とともに二つの魔法陣が、それぞれ展開された。
そしてそこから発射されたのは、拳ほどの大きさの氷塊。それらは目にも止まらぬ速さで飛んでいき、着弾とともにゴーレムの両肩をえぐり飛ばした。
その衝撃でゴーレムの体はよろめき、やがて背中からゆっくりと、グラウンドへ倒れ込んだ。
(ま、魔法がっ! 同時に二つもっ!! すごいですわエイト様!!)
興奮気味に、アリアさんが褒めてくれている。へへっ……! ありがとう、君の応援のおかげだよ……!
「……お見事! まさか、『多重展開』までモノにしていたとはね……!」
振り返ると、シオンさんが笑顔で拍手をしてくれていた。
――魔法の威力を高める技術、『制限解除』には、『呪文の有声詠唱』と、もう一つ、『魔法陣の多重展開』というものがある。
定法式における魔法発動において、魔法陣は通常、その形状を頭の中に思い描くだけで、自動的に必要な場所へと展開されるようになっている。魔法陣の形状を細部まで正確に、発動完了までの間思い浮かべ続けるのが、発動の条件だ。
『多重展開』はその名の示すとおり、思い浮かべる魔法陣の数を増やすことで、複数の陣を同時に展開する技術だ。今回俺は、両手の先それぞれに魔法陣を思い浮かべることで、陣を二つ展開することに成功した。その結果、ゴーレムに対して二つの氷塊をぶち込むことができたというわけだ。
やってみて初めてわかる、この難しさ。細かい部分までしっかり形を想像しないといけないのに、それを二つ分。しかも脳内では同時に、呪文の詠唱もしなければいけないという……。一回やっただけなのに、すでに脳が熱を持っているのがわかる。非常に難易度が高い技術だ……。
……それでも、一発で成功できちゃうってのが、俺が天才魔法使いであるという証だな!
「制限解除については、誰かに教わったのかい?」
「いえ、独学でございますわ。ですがあえて申し上げるなら……初級魔法事典が、わたくしの先生ということになりましょうか……」
俺はドヤ顔でそう返した。ふっふっふ……どうだすごいだろう。俺は誰にも教わらずに、ここまでたどり着いたんだぜ。
「なるほど、それで合点がいったよ。だから、魔力操作が少し荒いんだね」
「ふえっ……?」
あれぇ……? 褒められる流れじゃなかったのぉ……?
「キミは他の子たちより、魔力量が相当多いみたいだけど……そのせいでなんだか、魔力に振り回されている感じがするね。きちんとした師がいれば、アドバイスしてくれてただろうけど……」
「そ、そうなのですか……?」
えぇ……アミュレットさんとか初等部の先生とかは、むしろ褒めてくれてたんすけど……。
「といっても、高等部レベルのスムーズさで動かせてはいるから、そこまで気にする必要もないだろうけどね」
「は、はぁ……。光栄でございますわ……」
(え、エイト様……! どうか、気を落とさないでくださいまし……!)
ありがとうアリアさん……俺の味方は君だけだよ……。
「さて、攻撃魔法についてはしっかり見せてもらったから、次は防御魔法かな」
「防御魔法……でございますか……?」
そういや、事典には攻撃魔法とか回復魔法とかは載ってたけど、防御に使えそうな魔法は無かったな。……まず防御から教えるべきじゃない……?
「……ん? あぁ、あれは中等部に入ってから習うのか。うーん……あれが一番、実力を測れるんだけど……」
そう言ってシオンさんは、顎に手を当てて何かを考えはじめた。
「――……よし」
何か思いついたようだ。不意に呟くと、彼女は手に持っていた紙束に、ペンで何かを書き込みはじめた。
「やり方を教えるから、ちょっとやってみてくれないかな?」
「い、今からですの……!?」
「大丈夫だよ、そんなに複雑じゃないから。それに、失敗したところで誰も責めやしないさ」
言いながらも彼女は、どんどんペンを走らせていく。
「これで……よし、と。ほら、これが『基本防御魔法』、『護殻展界』の術式だよ」
「あ、ありがとうござ……ひぃっ……!?」
(な、なんですのこれはぁ……!?)
手渡されたA4サイズの用紙。その裏面には、上から下までびっしりと、謎の文字列が書き込まれていた。
(す、すごくっ、独創的な字を書かれますのね……!)
字が汚すぎて読めねーよ! というのを、アリアさんはオブラートに包んで言った。よく、『ミミズが這ったような字』とか言ったりするが、シオンさんの字はまさにそれだった。まあ俺も字は汚いほうだったから、ギリ読めなくはない……か……?
「あの……! し、少々、お時間をいただいてもよろしいでしょうか……?」
「もちろん、ゆっくりやってもらって大丈夫だよ。わからないところがあれば、気軽に聞いてくれて構わないからね」
……すんません、ほとんど読めないっす。
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