018. 決して、誰にも悟られぬよう心得よ
異世界にはスマホもネットもない。アニメや漫画、ゲームなんてのも当然、存在していない。そんな世界で、どうやって暇を潰せばいいのか? 答えは簡単です、勉強してください。
「――つまり、『魔力を変質させて可燃性を持たせる』っていう工程が、この呪文によって行われるわけだね」
まあ、勉強といっても学ぶのはアリアさんのほうで、俺はいつのまにか教える側になってしまっているが。
(へん、しつ……? か、かねん、せい……?)
うーん……。小六? 中一? にはちょっと難し過ぎるかぁ……。
「んーっとね……魔力はそのままだと火が付かないから、火が付くように中身をいじってあげるって感じ……かな?」
(な、なるほど、ですわ……?)
最後語尾上がったな……こりゃ手強いぞ……。教えるのって難し〜……。
「――夜分に失礼いたします。お嬢様、少々よろしいでしょうか?」
その時、ノックの音とともにアミュレットさんの声が聞こえた。
「どうぞ!」
返答ののち、ガチャっとドアが開き、現れたアミュレットさんの表情はなぜか曇っていた。
「……お嬢様、陛下がお呼び立てでございます」
「げっ……」
(お、お父様が……?)
また国王様に会わなきゃなのか……あの人怖えから苦手なんだよな……。
「今朝の学園よりの報告が、陛下のもとへも届いておりまして……。突然の飛び級について、訝しんでおられますわ……」
「げげっ……!?」
(そ、そんな……!?)
――アリアさんの父、ジルローラン王は数年前、メイド内に他国のスパイが潜り込んでいたことが発覚して以来、非常に神経質になってしまっているらしい。そのため、異常事態に対して過剰に反応してしまう可能性が高い。『娘さんの体、乗っ取っちゃいました〜』なんて素直に打ち明けた日にゃ、偽物と疑われ速攻で処刑されてもおかしくはないだろう。せめてアリアさんの魂がまだこの中に居ると、完璧に証明できるような証拠を用意できるまでは、隠し通したほうが無難だ。ダンジョンからの帰り道で、アミュレットさんと相談して出した結論がそれだった。
「お、俺が乗っ取ってるかもって、疑われてる感じですか……!?」
「いや……それはさすがに発想が突飛すぎる。疑っているのは、学園側からの贔屓と、王家側からの贈賄だ」
(ぞっ……!? そ、そんな不正行為には、手を出してなどおりませんわぁ……!)
……不正でいえば、替え玉での試験こそ不正だと思いますけどね……。
「賄賂なんて渡してないって言ってますよ」
「それは……こほん。もちろん、わかっておりますわ。それから陛下も、心底より疑っておられるということではないように、お見受けいたします。贔屓に関しても、あの学園は異常なまでの実力主義として有名ですので。しかし…………無礼を承知で申し上げますが、今までの成績とはあまりにも釣り合わない、『飛び級』という結果が、やはり陛下としては、引っかかってしまうようでございますわ……」
(そ、それは……! うぅ……)
そりゃあ、『今まで落ちこぼれだったはずの娘がいきなり飛び級することになった』なんて不自然な報告、疑って当然か。勝手なことやった皺寄せが、こんな形でやってくるとは……。
「今はまだ、周囲に疑念が向けられている段階に過ぎませんが……これをきっかけとして、お嬢様ご自身に疑惑の矛先が向く恐れがございますわ。追及を逃れるための然るべき弁明を、早急にご用意いたしましょう」
「お、お待たせいたしましたわ、陛下……!」
「……試験の、結果についてだが……」
急いで王の自室に向かい、慌てて声をかけた俺に対し、王は目線も合わせず呟いた。
「そ、その件に関しましてですが……! 陛下がご懸念されているような不正は一切行われていないと、わたくしが保証いたしますわ……!」
俺の言葉に、王は変わらず深々と椅子に腰掛けたまま、机の上に視線を落としていた。
「……では、自らの手で掴み取ったものであると……?」
「も、もちろんでございますわ!」
ハッキリと言い張った俺を一瞥しつつも、王はまた目を伏せた。
「その……! い、以前までの落ちこぼれていたわたくしからすれば、出来すぎた結果であるということは承知しておりますわ……! ですが、それには理由があるのです……!」
口を閉じたままの王に、俺はビビりながら続ける。
「一昨日の外出の際、実はアミュレットに魔法の特訓をつけていただいたのです……! そのせいで帰りが遅くなり、さらには彼女に大きな怪我を負わせることとなってしまいましたが……。ですがそのおかげでわたくしは、飛び級という素晴らしい結果を残せるまでに成長できたのでございますわ……!」
アミュレットさんと相談して、急拵えで用意した言い訳だ。どうか疑われませんように……。
「……………………そうか」
そして気が遠くなりそうなほど長い沈黙のあと、王は静かに呟いた。
「……お前の、『スキル』についてだが……まだ誰にも、漏らしてはいないだろうな……?」
「そ、そちらに関しましても、アミュレットを含めまだ誰にも知られてはおりませんわ……!」
これも嘘だ。アミュレットさんはしっかり知ってる。でも嘘つかないと王に怒られちゃうかもしれないし、しょうがないじゃん。
……そして王の威圧感が凄すぎて、どうしても早口になってしまう……。早く解放してくれ〜!
「……何度も言うようだが……お前のそれは、世の均衡を崩してしまうほどに強大なものだ。決して、誰にも悟られぬよう心得よ」
「か、かしこまりましたわ……!」
お……? 通ったか……!? もう帰ってもいいよね……!?
「そ、それではわたくしっ、これにて失礼させていただきますわ……!」
そう言って俺は深く頭を下げ、くるりと振り返りドアノブを……。
「……アリア」
「はっ、はひっ!?」
急に呼び止められ、たまらず変な声が出た。
「……よくやった、これからも精進せよ」
(ふえっ……!?)
なんだよ紛らわしいな! でもありがとな!
「か、感謝いたしますわ! そ、それではっ!」
そしてなんとか尋問を乗り切った俺は、いそいそと部屋をあとにした。
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