017. すっ、すんませんっしたあぁ!!
( で始まって 」 で終わるセリフは、アリアが話した言葉をそっくりそのまま、エイトが話しているという表現です。(毎回地の文で補足するとウザいので……)
案内された応接室で、椅子に腰かけたまま、ひとり俯いていた。
「……ごめん、アリアさん……。またやっちゃった……」
アリアさんにかけられた陰湿な言葉の数々。どうしても我慢できず、大人気なく啖呵を切ってしまった。相手は子供だというのに、みっともなくムキになってしまった。借り物の体で勝手なことしかしない自分に、嫌気が差す。
(……いえ、むしろわたくし……エイト様に、感謝したいと思っておりますの)
けれどもアリアさんは、そんな俺を咎めようとはしなかった。
(皆様から心無い言葉をかけられてしまうのは、自分に才能が無いからだと……そう言い聞かせつつも、心のどこかでは、『なぜわたくしだけが』という、暗い気持ちを抱えておりましたの……)
――アリアさんはきっと、聖人君子であり続けようとしてるんだろう。どんな理不尽な扱いを受けようが、他者を憎むことはしない。右の頬を打たれたら左の頬を差し出すような、そんな高潔な精神こそが王族としてふさわしいと、そう考えているんだ。
(……先ほどエイト様が、わたくしの代わりに声を上げてくださったとき……すごく、胸がスッとしましたの。それは本当は、良くないことなのかもしれませんわ。けれど……涙を流すことしかできなかった自分が、その瞬間、救われたような気がして……)
イジメっ子たちにギャフンと言わせたかった。ただそれだけの不純な動機だったが……それでアリアさんが救われたなら、よかったかもな。
(……ありがとうございます、エイト様。先ほどの口上、とってもかっこよかったですわ!)
「え、ほんと……? え、えへへ……」
『かっこいい』だなんて言葉をもらったのは、初めてだ。こんなストレートに褒められると、照れるしかなくて困っちゃうぜ……。
(あっ、ただその……結果に関しては、アミュレットに怒られてしまうかもしれませんわね……)
「んぐっ……」
やべぇ……そういや目立つなって言われてたのに、飛び級することになっちゃった……。でもでも、しょうがないじゃん……? だって俺、才能あるんだもん……。
それからしばらくして、資料を取りに行ったはずの先生が戻ってきたとき、その後ろになぜか、アミュレットさんが立っていた。保護者として、飛び級についての説明を受けてもらうために呼んだらしい。先生がそれを話している間、アミュレットさんは俺を、視線で殺そうとしていた。
先生によると、俺の進級自体は確定だが適切なクラスに行ってもらうために、一度しっかりとした特別試験を受けてもらいたいとのことだった。その時は『王立魔導院』とかいう所から、『国家魔導士』とかいうすごい人が来て立ち会ってくれるらしい。その他、諸々の説明と日程調整を経て、俺は下校することとなった。
憑依の事情を知らない先生の手前、アミュレットさんは終始にこやかに微笑んでいたが、心の中ではきっとブチギレていたことだろう。なぜなら帰りの馬車の中ですら、笑顔のままじっと、無言で俺を見つめ続けていたからだ。さすがに怖すぎてちびりそうになったし、アリアさんはちょっと泣いてた。
部屋に戻り、ドアが閉められたその瞬間、アミュレットさんの顔から笑顔が消えた。
「貴様ぁ……いったいどういうつもりだぁ……?」
「すっ、すんませんっしたあぁ!!」
初手で謝罪を表明するとともに、床の上に膝をつき、深々と頭を下げた。異世界人よ! これがジャパニーズ・ドゲザだ!
「つい数日前まで魔力操作すらおぼつかなかったような人間が、いきなり『有声詠唱』だぁ……? 『目立つような真似はするな』と言っておいたはずだが……そんなに殺されたいのか……?」
「ひ、ひえぇ……!」
が、文化の違いのせいか受け入れられることもなく……頭を上げた俺の視界で、アミュレットさんは怒りに顔を引きつらせながら、俺を見下ろしていた。
そしてこれ以外に打つ手はない。正直に話せば確実に、『アリアさんがイジメられていた』という事実が明るみになってしまうからだ。それを本人が望んでいない以上、もはや座して死を待つしかない……。
(え、エイト様! ここはわたくしがっ!)
そんな中、不意にアリアさんが声を上げた。
(……アミュレット、少々、よろしいでしょうか……?」
「むっ……こほん。どうなさいましたか、お嬢様?」
正座のまま姿勢を正し、『スピーカーモード』となった俺に一瞬怯むも、アミュレットさんもまた、『お姉さんモード』に切り替えてアリアさんに対応する。
(試験結果が、わたくしの実力とはかけ離れたものになってしまったこと……。そしてそのせいで、注目を集めてしまうかもしれないこと……。それについて、まずはお詫びいたします……。ですがそれは、決してエイト様の責任ではございませんわ」
アリアさんの主張に、アミュレットさんは澄まし顔のまま、ほんの少しだけ眉をひそめた。
(むしろわたくしから……『全力を尽くしてほしい』と、エイト様にお願いしたのです」
――もちろん、アリアさんからそんな事を言われた覚えはない。イジメの事実を隠すため、今この瞬間にでっち上げられたものだ。
「……なぜ、そのようなことを?」
(その……せっかく、素晴らしい才能を持った方がわたくしの中に居られるというのに、その才を眠らせておくのはもったいないと……そう、思ってしまったのです」
「……それが、ご自分の首を絞めることになるかもしれないと……わかっておいでですか……?」
そう問いかけたアミュレットさんの表情には、怒りや苛立ちではなく、心配が色濃く浮かんでいた。
(そ、それは……! もちろん……ですわ……」
単に叱るのではない、情に訴えかけるような諭し方に、たまらずアリアさんは口ごもってしまった。『クールモード』のときのような威圧感はないが、これはこれでキツいな……。
(……いずれにせよ、悪いのはわたくしですの……。どんな罰であろうと、受ける覚悟はできておりますわ……。ですのでどうか、エイト様を責めるのはやめてくださいまし……」
そしてどうやら、アリアさんは全ての責任を被るつもりらしい。そうなると、子供に庇ってもらう男という、非常にかっこ悪い人間が爆誕することになるな……。
……待って、体乗っ取ってんだから、罰受けるのも俺なんじゃねえの……!?
「――はぁぁ……」
少しの沈黙のあと、アミュレットさんは片手で顔を覆って、大きくため息をついた。
「かしこまりました……。この件に関しては、大目に見させていただきますわ……」
(ほ、本当ですの……!? ありがとうございます……!」
危ねぇ……情けないうえに罰も受けるとかいう事態だけは、なんとか免れたか……。
「もとより私には、お嬢様の言動を縛りつける権限などございませんわ。ただその身を案じて、ご助言させていただいているだけのことです。ご自分の置かれている状況さえご理解いただけているのであれば……それで十分でございますわ……」
どこか諦めたようにそう言って、アミュレットさんは目を閉じた。
「おいエイト……」
(ひゃわぁっ!?)
「は、はひっ!?」
と思いきや、いきなりクールモードへと豹変してしまった。たまらず、二人揃って変な声が漏れる。
「お嬢様の言葉に免じて、今回だけは見逃してやる……。その代わり、今度また目立つような真似をしてみろ。そのときは――」
(そ、そのときは……!?)
……どうせまた、『殺す』ってんだろ!? いいぜやってみなよ! そんなことしたら、アリアさんまで死ぬことになるけどな!
「――……二度と勝手なことができないよう、お嬢様ともども城内に監禁してやる」
「おぅふ……」
(こ、効果的な罰ですわぁ……!)
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