表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/43

015. ほんと、お可哀想なこと

( で始まって 」 で終わるセリフは、アリアが話した言葉をそっくりそのまま、エイトが話しているという表現です。(毎回地の文で補足するとウザいので……)

 眩しいほどの朝日が窓から差し、外からは小鳥の楽しげなさえずりが聞こえてくる。(うるわ)しく、そしてご機嫌な朝だ。


「ぐえっ……!?」


(うぐっ……!?)


 そんな清々しい朝には不釣り合いな声が、喉の奥から漏れた。


「――はっ!? も、申し訳ございませんお嬢様……!」


 慌ててアミュレットさんが、俺の腹部を強烈に締め上げていたコルセットの紐を解く。危うく朝食をリバースするとこだったぜ……。


「お、お体に何か、異常はございませんでしょうか……!?」


(だ、大丈夫ですわ……! 少し驚いたくらいで、なんともありませんので……!」


 心配そうに俺の顔を覗き込みながら、アミュレットさんは紐を締め直した。昨日よりもずいぶんと緩いが、その分動きやすそうだ。


「申し訳ございません、その……少し、気が緩んでいたようです……」


 気まずそうに目を逸らし、彼女は言った。


(アミュレットが加減を誤るなんて……! 珍しいものを見ましたわ……!)


 が、アリアさんはなぜか嬉しそうに呟く。ミスっても怒られないなんて、なんて素敵な職場なんだ……!


「なにやってんだテメェ、クビにすんぞ! ……って、アリアさんが怒ってますよ」


(えええエイト様ぁ!?!?)


 とはいえ、多少は緊張感があったほうがいいよな! ちょっとだけ脚色しておくぜ!


「黙れ。お嬢様がそんなことを言うはずがないだろう。殺すぞ」


「ひえっ……」


 え、こわっ……。ちょっとしたジョークやないですか……。


(エイト様っ! お(たわむ)れはよしてくださいましっ!)


 アリアさんは可愛らしく、ぷりぷりと怒っている程度だが……俺を睨むアミュレットさんの目はマジだった。


「す、すんません……」


「はぁ……。ほら、次はドレスだ。手を上に上げろ」


 指示通りバンザイをして、上から被せられるようにドレスを着せてもらう。公務用とは違って派手さはないが、それでも生地の手触りから察するに、相当高級なものなんだろう。


「こっちは学園指定のローブだ」


「うおっ! なんかすげーそれっぽい!」


 次に手渡されたのは、外側は黒く内側が赤い、これぞ魔法使いといったデザインのローブだった。


「おおー! これこれ! やっぱ魔法使いはこうでなくっちゃ!」


 姿見で確認してみると、『まさに』といった出で立ちになっていた。杖が無いのが非常に残念だが、その立ち姿からはどことなく勇敢さが感じられる。おでこに傷とかないかな……。


「……あ、忘れてた。これも付けてっていいっすか?」


「ん? ああ、構わないが……」


 ついでに、棚の上に置いてあったカチューシャを手に取り、視界を遮るように垂れさがっていた前髪をかき上げて留めた。


(え、エイト様……!? それはっ……! 学業には必要ありませんわぁ……!)


「いやいや、こうしないと黒板が見えないじゃん?」


 魔法の学校に黒板があるかは知らないけども。


(で、ですがっ、その……!)


「恥ずかしがらなくたって大丈夫だよ。だってほら、こんなにかわいいんだから」


(かっ、かわっ……?!?!)


 姿見の前で、見せつけるように次々とポーズを決めていく。アリアさんという素材が良いのもあってか、どうポーズを取っても絵になるのがすごく楽しい。なんか、もっといろんな恰好したくなってきたな……。


「お嬢様、エイトの言うとおりでございます。せっかく可愛らしいお顔をしていらっしゃるのですから、隠してしまうのはもったいないですわ」


 微笑みを浮かべながら、アミュレットさんはしみじみとそう言った。


(あ、アミュレットまで……! う、ううぅ……!)


 照れくささが限界に達したのか、アリアさんはしばらくの間(うめ)き声をあげていた。




 道中、馬車に乗っていたのは、ほんの数分だった。王女様ともなると、この距離ですら歩かなくていいらしい。ちょっと過保護すぎやしないかと思いつつも、俺は馬車を降りた。


 「いってらっしゃいませ」と、背中にかけられた声に振り向くと、心配そうな表情でアミュレットさんは俺を見つめていた。……まあ、口元が引きつっていたところを見るにそれは、『俺が勝手なことをしないか』に向けられた心配だろうけど。


 入り口に立ち、見上げた建物は王宮と同じく石造りで、正面頭上には王国のものであろう紋章が掲げられていた。アリアさんの指示に従い、目の前の門をくぐり抜ける。




 『セントリアル王立魔導院教導養成局附属魔法学園』。読み上げるのがイヤになるくらい名前が長いこの学園は、王国からの認可を受けた唯一の教育機関だ。そのため敷居が高く、貴族や上流階級の子供くらいでなければ通うことができない。また、貴族は子供といえど忙しいため、一日三時間程度しか授業は行われないらしい。……ずいぶん楽な時間割ですなぁ。


 十二歳になる年に初等部へと入学し、魔力感知(まりょくかんち)などの基礎から魔法を学ぶこととなる。そこで一年ほど学んだあと、進級試験を経て中等部へと上がることができるようだ。つまり今日の試験で合格できなければ、アリアさんは留年ということになる。……めちゃくちゃ責任重大じゃねえか。俺、登校初日なんですけどね……。


 ちなみに、魔力運用の適性には性別差による(かたよ)りがあるらしく、男は身体強化に、女は魔法発動に、それぞれ適性が向きやすいとのこと。そのため魔法使いは基本的に女性が多く、特にアリアさんのクラスでは男が一人もいないらしい。ハーレムじゃんとも思ったが、今は俺も女の子になってしまっているわけで。……つまり、百合ハーレムってことだな!




 講堂内に足を踏み入れ、キョロキョロと辺りを見回してみる。右手側には大きな黒板が向こうの端まで延びていて、左手側にはそれに向かって、弧を描くように座席が配置されていた。


「アリアさん、席どこ?」


 他には誰もいないので、堂々と声をかけた。


「……アリアさん? 起きてる?」


(――あっ、え、えとっ! ど、どこでも大丈夫でございますわ……!)


 とのことなので、適当に前から二列目辺りに腰を下ろす。……席固定されてないのか、大学みたいだな。


「誰も来ないし、早く来すぎた感じかな?」


(へっ……? あっ、そ、そう……かもしれません……)


 黒板の上の時計を見るに、聞いていた開始時刻まではまだ十五分以上ある。まあ、大事な試験の日に遅刻するよりはマシか。


「……あー、アリアさん? なんかあった?」


(ふえっ……!? わ、わたくしでございますか……!?)


 他に誰がいるというのだ。


「なんかずっと上の空っぽいけど、大丈夫?」


(うっ……! そ、それは……!)


 留年がかかっているということで、緊張でもしてるんだろうか。俺はまったくしてないけど。


「――さっきから何を一人で喋ってらっしゃるのかしら?」


(ひっ……!?)


 不意に聞こえた知らない声。いつのまにか、隣に少女が立っていた。


「ここはあなたの自室ではなくってよ? 周りに誰もいないからって、勘違いしてしまったのかしら?」


(か、カーミラ様……!)


 胸元まで伸びた薄金色の髪を、右手でバサッと払いながら、彼女……カーミラは言った。大人の真似事がしたいのだろうその気取った話し方は、幼く甲高(かんだか)い声質のせいで妙に鼻についた。


「それに、いくら早く来たからって、試験で優遇されるわけではありませんのよ? 無能すぎて、そんなこともわからないのかしら。ほんと、お可哀想なこと」


 バカにしたように鼻で笑いながら、カーミラは言った。


 彼女の後ろには、取り巻きらしき少女たちが数人。その誰もが、ニヤニヤと俺を見下(みくだ)すように眺めている。……百合ハーレムどころか、四面楚歌だなこりゃ。


「それにしても……そのカチューシャ、似合っておりませんわねぇ……」


 俺は特に返事もせず座っているだけだが、彼女はお構いなしに喋り続けている。


「ま、陰気臭く前髪を垂らしているよりは、よほどマシなんじゃないかしら? なんにせよ、どう足掻こうが覆せないほどにあなたは無能なのだから、諦めてさっさと帰ったほうが身のためですわよ?」


 ……ずいぶんよく喋るガキだな……。


「……なんですの? その目は。どうせ言い返す勇気もないくせに」


 無意識に睨み付けてしまっていたようだ。途端にカーミラの顔が苛立ちに(ゆが)んだ。


「……まあいいわ。あなたと顔を合わせるのも今日が最後。明日から(ワタクシ)たちは中等部だけれども、あなたは初等部に残ったままでしょうから。……もしかしたら、無能すぎて退学させられてしまうかもしれませんわね?」


 周囲に同意を求めるように、カーミラは嫌みったらしく首を傾げた。すると取り巻きたちから拍手が巻き起こる。


 そして満足気に「おーっほっほっほ!」と高笑いを残し、彼女は取り巻きを連れて別の席へと歩いていった。


「……今の誰?」


(――ぁっ、えとっ……! か、彼女は、王国建国に(たずさ)わった『十二貴族』のひとつである、バートラム家のご令嬢、カーミラ様ですわ……)


 じゅうにきぞく……? そいつら目玉に数字入ってたりしないよね?


「貴族のご令嬢ねぇ、それにしてはずいぶんお行儀が悪いなぁ」


 人を見下(みくだ)して(えつ)に入る、そんな悪い遊びを覚えたばかりなんだろう。甘やかされて育ったんだろうなぁ。


(……その、ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ございません……)


「なんでアリアさんが謝るのさ」


(そ、それは……。ひとえにわたくしが……無能なのが悪いのです……)


 今にも泣きだしてしまいそうに声を震わせながら、アリアさんは言った。


(それこそ入学当初は、皆様にも親しく接していただいておりました……。ですが、ひと月をすぎてもなお、魔力を感じ取ることすら叶わないわたくしを見て、皆様のご様子は次第に変わっていきました……。どうやら、見限られてしまったようで……『第一王女のくせに、こんなこともできないのか』と、厳しいお言葉をかけられてしまいましたわ……)


 ひどい扱いを受けたにもかかわらず、彼女からは恨み節のひとつも出てこない。あくまでも、『才能の無い自分が悪い』らしい。


(あの……! どうかアミュレットやお父様には、秘密にしておいてはいただけないでしょうか……? 余計な心配をかけたくはないのです……)


 もし『王女をイジメている』なんてことが公になれば、カーミラたちはきっとひどい処罰を受けるだろう。おそらくアリアさんはそれをわかっているから、黙って耐え続けることを選んだんだ。どこまでいっても、他人が第一なんだろう。


 ふと周りを見ると、取り巻きだけでなく全てのクラスメイトが、こちらをチラチラと見ながら薄ら笑いを浮かべていた。

読んでいただきありがとうございます!

少しでも「おもしろい」と思っていただけたなら幸いです……。

応援、リアクション、感想、ブックマーク、なんでもお待ちしております!


今後とも、よろしくお願い申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ