014. だって今は、エイト様がおられますもの!
( で始まって 」 で終わるセリフは、アリアが話した言葉をそっくりそのまま、エイトが話しているという表現です。(毎回地の文で補足するとウザいので……)
次の日。王族としての公務は特に無いと聞いていたのだが……なぜかアミュレットさんに叩き起こされてしまった。聞けば『最低限の作法を身に付ける』ため、朝からみっちりレッスンをするらしい。ひどく憂鬱な気分のまま、体を起こした。
顔を洗い、朝食を取り、きちんとしたドレスに着替えたあと、本格的な指導が開始された。姿勢や立ち居振る舞い、歩き方に挨拶の仕方、正しい言葉遣いに発声方法などなど……。頭がパンクしそうなほどの詰め込み教育に、俺は異世界転生してしまったことを、初めて後悔した。
そして日が暮れるころ、アミュレットさんの「……いいだろう、合格だ」という一言とともに、俺はようやく解放された。
「ふぅ……」
ベッドに深く腰掛け、しかし背筋はピンと伸ばしたまま、俺はひとつ息をついた。
「たった一日詰め込んだところで、付け焼き刃にしかならんだろうと思っていたんだが……エイト、お前なかなか覚えがいいな」
「本当でございますか? ありがとうございます、光栄ですわ」
アミュレットさんの言葉に、俺は微笑みを返す。
「いや……口調はもう戻してもいいんだぞ……?」
「よろしいのですか? それでは、お言葉に甘えまして……」
そう言って俺は、背中からベッドに倒れ込んだ。
「ぐあああぁぁぁ……! づがれ゛だぁ゛……!」
「むっ……まあ、今回ばかりは見逃してやろう……」
俺のはしたない行為に、アミュレットさんは一瞬だけ眉をひそめるもすぐに目を伏せ、渋々といった様子で許してくれた。
(本当に……お疲れ様でございますわ、エイト様……)
レッスン中もずっと、アリアさんは不安そうに声を震わせながら、俺を気遣うように声をかけ続けてくれていた。それもあってか、彼女も俺と同じくらい、疲労を声に滲ませている。
「王族って……大変なんだなぁ……」
「まあな。こと王族における礼儀作法というものは、個人の品位だけではなく、国そのものの威信や秩序を体現するためにある。ここを欠けば、王家そのものが軽んじられてしまうからな」
「は、はぁ……」
すません、疲れすぎて何言ってっかわかんねっす。
「とはいえ私の見る限りでは、目立った粗もなかったように思う。これなら、どこへ行っても怪しまれることはないだろう」
「マジっすか? あざーっす」
(アミュレットがここまで褒めるだなんて……! さすがですわ、エイト様!)
……なんだか、こっちへ来てから俺の才能が覚醒している気がする。やればできる子だったんだ、俺って。
「ところで、お嬢様? 昨日仰っておりました『試験』についてですが……もしや、明日なのでは?」
(――はっ!?)
そういや、ダンジョンの中でそんなこと言ってたような……。初級魔法の試験だっけ?
(……いえ、問題ありませんわ! だって今は、エイト様がおられますもの!)
「ん……あぁそっか、俺がやるのか」
体を乗っ取ってしまっている以上、試験を受けるのも俺なわけで。まあ任しときなって、ぶっちぎりでトップ合格してやんよ。
「ふむ……。半ば反則気味な気もしますが……まあ、致し方ありませんわね」
実際、やってることはほぼ替え玉受験なわけだしな。とくにアリアさんは、言っちゃ悪いが魔法の才能がないみたいだし……。
「いいかエイト、くれぐれもやりすぎるなよ? お嬢様のスキルは、あまりにも利用価値が高い。下手に目立てば嗅ぎ回る輩も出始めるだろう。もし万が一詳細が世に出れば……お前を狙って、あらゆる勢力が押しかけてくるぞ」
「おぅふ……」
なんてこった。『魔力収束砲』ぶっ放して、試験官の度肝を抜いてやるつもりだったのに……。
「さて……。今日はこれで終わりだ、よく頑張ったな。私は諸々の準備で席を外すから、湯浴みの時間まではゆっくり休んでいるといい」
「うぃ~っす、あざ~っす」
(え、エイト様……! さすがに緩み過ぎですわ……!)
ベッドに寝転がったまま答えた俺に、アミュレットさんは呆れたようにため息をつき、ドアのほうへ向かった。
「お嬢様、私は変わらず城内におりますので、何かございましたらいつでもお声がけくださいませ。それでは、失礼いたしますわ」
(ありがとうございます、承知しましたわ!」
体を起こし、ドアに背を向けてお辞儀するアミュレットさんに向け、アリアさんの言葉を出力した。
顔を上げたアミュレットさんは、軽く微笑みを浮かべながら部屋をあとにした。
「ん~……! くふぅ……」
大きく伸びをしたあと、立ち上がって本棚のほうへと向かった。
(エイト様? どうかいたしましたの?)
「いや、せっかくだからもうちょい魔法の勉強しようかなって」
(まあ……! 才能に驕ることなく、なお勤勉であられるだなんて……! 本当に素晴らしいですわ!)
「そ、それほどでも……!」
正直、『魔法ってかっけぇよなぁ〜』くらいの憧れと好奇心から言っただけなんだが……まあ、褒められて悪い気はしないぜ。
「あった、『初級魔法事典』。……ってことは、中級とか上級もあるんだよね?」
(お、おそらく……? 進級に伴って支給されるようですので、見たことはないのですが……)
「支給……? どっかに売ってるとかじゃなくて?」
(え、ええ……。なんでも、『正当なる教育を受けた者にのみ魔法の行使が認められる』とのことらしく、一般流通もしていないようですわ……)
……なんだそりゃ! 独占して自分らだけで楽しもうとしてんだろ!
「うーん……じゃあとりあえずは、ここに載ってるやつ全部覚えるかぁ」
(ぜ、全部……ですの……!?)
だったら試験に合格して、上に行けばいいだけの話だ。もっと強くてかっこいい、高位の魔法に出会うためにも、まずは初級魔法コンプリートを目指すぜ!
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