013. ふふっ、楽しみにしておりますわ
髪の手入れが終わり、全身を『くまなく』洗われる感触からなんとか意識を逸らし終え、ようやく湯浴みが終わった。アリアさんは終始恥ずかしそうに呻いていたが、それでも俺に触られるよりはマシだろうから、許してくれよな!
その後、髪を乾かすからと移動させられたのは、暖炉のある大部屋だった。暖炉に背を向けて椅子に座り、布で水気を拭き取りながら、櫛を使ってゆっくりと、髪を乾かしてもらう。これまた相当時間がかかりそうだ、ドライヤーが無いのって不便だなぁと思いながら、天井のライトを眺めていたときに、ふと気付く。電気あるじゃん! と。聞けば魔力を光に変換する技術はあるらしく、定期的に魔力を補充することで、部屋を明るく保つことができるとのこと。たとえ世界が違っても、人類の叡智は必ず、夜の闇に打ち勝つのだ!
三十分ほどかけ、ようやく髪を乾かし終わったあと、俺はパジャマ的な物の上に薄いローブを羽織らされ、そのままアリアさんの部屋へと戻った。部屋にはすでに夕食が用意されており、フルコースとまではいかないまでも、豪華で高級そうな献立が並んでいた。
が、そこで俺はアミュレットさんに、こってりと絞られることとなった。なにせテーブルマナーなんて、昼間にアリアさんにちょこっと教わった程度しか知らなかったからだ。傍らに立つアミュレットさんに、手に持つナイフの角度まで細かく矯正され、味もほとんどわからないままに、俺はようやく食事を終えた。
その頃にはすっかり夜も更け、しっかりとした睡魔にも襲われはじめていた。寝支度のためハミガキをするという時になって、また気付く。部屋の隅にあった謎の扉の先に、なんと洗面台があるではないか! しかも同じ空間にはトイレまで! さすが王族、自室でほとんどが完結してしまうほどの豪華仕様だ。恵まれてやがるぜ……。
ハミガキのついでにお花を摘み、また泣きべそをかいてしまったアリアさんを慰めていると、食事の片付けを終えたアミュレットさんがお休みの挨拶をしにきてくれた。促されるままベッドに入ると、優しく布団をかけてもらえたうえ、電気まで消してくれた。王族って、マジで至れり尽くせりなんだな……。
「……あのさ、アリアさん」
ベッドに入ったまま、俺は暗闇に向けて声をかけた。
(なんでしょう、エイト様)
すると頭の中に、アリアさんの声が響く。
「えーっと……さっきの、お風呂でのことなんだけど……アミュレットさんって――」
(……それについては、忘れるようにと申し上げましたわよね……!?)
まるで子犬が威嚇するように、彼女は唸り声を上げている。
「いや違くて! もっと上! 耳のことなんだけど……」
(耳……? アミュレットの耳が、どうかいたしましたの?)
「その……長くて、尖って見えたんだけど……」
――昼間は髪に隠れて見えなかったアミュレットさんの耳が、さっきは水に濡れて乱れていたせいか、髪からはみ出して見えていた。その『先が細長く尖った、変わった形』が気になったせいで、目を閉じるのが遅れてしまったのだ。決して、胸元から目が離せなかったからではない。決して。
(それはもちろん! アミュレットは、『エルフ』ですもの!)
「あ、やっぱり? じゃあ、実はアミュレットさんってめちゃくちゃ年上だったり……?」
(いえ、そこまででは……? たしかアミュレットは、今年で二十二歳になると記憶しておりますわ)
二十二か、それにしてはずいぶん大人っぽいけど……。
(わたくしが今、十二歳でございますから、年上といえば年上でございますが……)
うっ……たぶんそれくらいだろうとは思ってたけど、改めて言われると……こんな小さい子にとんでもない苦労をかけているという事実に、胸が潰れそうだ……。
(それが、どうかいたしましたの?)
「あぁいや、エルフってめちゃくちゃ寿命長い種族って印象が強いから……」
(そうなのですか? ですが、それはあながち間違いではございませんわよ? 実際にエルフの皆様は、我々『ヒューマン』と比べて約1.5倍ほど、長く生きられるとのことですので)
なんだかさらっと出てきたが、普通の人間は『ヒューマン』と呼ばれるのかな? 他にも種族あったりするんだろうか、なんだかワクワクしてきたぜ。
(エイト様の世界では、エルフはもっと長く生きられるのですか?)
「ん、そうだね……ものによっては、千年以上生きるやつとかもあったりするかな」
(千年!? それはすごいですわね!)
といっても、現実に存在してるわけではないが。その点こっちの世界は最高だな。エルフも、魔法もあるんだから。
(今日はもう遅いですが……いずれはエイト様の居た世界のことも、聞かせていただきたいですわ)
「俺の世界? こっちの世界と比べたら、なんも面白いこととかないよ?」
(だとしても構いませんわ。エイト様がどんな世界で、どうやって生きてきたのか……わたくし、興味がありますの)
どこか楽しそうに、彼女は言った。
「そう? なら、また今度……ふあぁっ……」
(ふふっ、楽しみにしておりますわ。ではエイト様、おやすみなさいませ)
「うん、おやすみ」
そう言って、俺は目を閉じた。
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