011. ふふっ……! どういたしまして、ですわ!
( で始まって 」 で終わるセリフは、アリアが話した言葉をそっくりそのまま、エイトが話しているという表現です。(毎回地の文で補足するとウザいので……)
道は無事、上の階へと続いていた。引き返し、アミュレットさんを連れて外へ向かおうとするも、引きずった足では思ったより時間がかかりそうだった。小柄なこの体では、支えて歩くこともできそうにない。そこで俺は一足先に洞窟を出て、外で待機していた馬車の運転手を連れてくることにした。
しかし今度は、外套の下に纏った高貴なる服装の走りにくさと、アリアさんのミジンコみたいなスタミナが、俺の行く手を阻んだ。
ぜぇぜぇと、はしたなく息を上げながらようやく運転手を連れて戻り、俺たちは無事、洞窟を抜け出すことができた。
道中、ポーターでアミュレットさんの怪我の応急処置を済ませ、王宮に戻る頃には、すっかり日が暮れてしまっていた。
本格的な治療のため、病院的な施設へ向かったアミュレットさんを見送ったあと、俺はアリアさんの案内のもと、国王陛下の自室へと足を運んでいた。
(お父様、ただいま戻りました。帰るのが遅れてしまいましたこと、深くお詫びいたしますわ……」
頭の中で響くアリアさんの言葉を、まるでスピーカーのように、そっくりそのまま口に出す。
「……アミュレットが、しくじったようだな」
部屋の奥で椅子にどっかりと座り込み、まるで魔王様みたく威厳たっぷりに、王は言った。
――洞窟で何があったのか、さすがに真実を話すわけにはいかないので、『出くわしたスライムから逃げようとした際に、アミュレットさんが足を負傷した』ということになっている。その報告は、すでに王も受けているようだ。
(ち、違うのです! わたくしが無理を言ったせいで……! むしろアミュレットが居なければ、わたくしは今ごろ……!」
王の圧に負け、アリアさんのセリフを繰り返すだけなのに、どうしても声が震えてしまう。
「なら、お前の我儘を御しきれなかったこと、それこそが奴の落ち度だ」
(そ、それは……!)
アリアさんが言葉に詰まる。重苦しい雰囲気にどうしたらいいかわからず、俺はつい顔を伏せてしまった。
「……まあいい、その報いはすでに受けている。よってこの件は不問だ。それで……いいな?」
軽くため息をついたあと、王はそう言って俺に視線を向けた。
(も、もちろんでございますわ! 寛大なお心遣い、感謝いたします!」
そう言って、ついでに頭も深く下げておいた。アリアさんに指示されたわけではないが、そうしたほうがよさそうな気がしたからだ。
(それでは、これにて失礼いたしますわ。おやすみなさいませ、お父様」
王が軽く頷いたのを確認し、俺は部屋を出た。
「き、緊張したー……」
(お疲れ様でございますわ、エイト様……)
扉を閉め、小声で呟いた俺に、アリアさんが労いの言葉をくれた。
(これでアミュレットも、お叱りを受ける程度で済むはず……。お手伝いいただき、ありがとうございます……)
「いやいや、これくらいは全然やるよ」
――アミュレットさんが責め立てられるのを心苦しく思い、アリアさんは先回りして王に謝罪しておきたかったらしい。それでもお叱りは受けるみたいだが……まあ、王女様を危険な目に合わせたわけだから、しょうがないかぁ……。
王への挨拶を済ませ、アリアさんの部屋へと戻った俺は、そのままふかふかのベッドの上に倒れ込んだ。
「だあああぁぁぁ……! 疲れたぁ……」
(え、エイト様! お気持ちはわかりますが……! は、はしたないですわ……!)
「だってさぁ? 一回死にかけたうえに洞窟往復ダッシュだよ? そりゃこんな声も出るって……。んっ、ぐぐぐぅ……! ふあぁ……」
(ふ、ふえぇ……!)
ごろりと仰向けになり、大きく伸びとあくびをした俺に対し、アリアさんは恥ずかしそうに鳴き声を上げた。……自分の体で好き勝手やられるのって、どんな気持ちなんだろうか。
「……ごめんねアリアさん、俺のせいでこんなことなっちゃって」
(と、とんでもございませんわ! 今朝も申しましたとおり、エイト様だって被害者なのですから……!)
「そうだけどさ……俺が魔法使いになりたいとか軽はずみなこと言わなきゃ、アミュレットさんの怪我だって無かったわけだし……」
(そ、それは……そうかもしれませんが……)
静かになった部屋の中、時計の振り子がコクコクと低い音を立てている。
(……それでもわたくしは、エイト様に、感謝しておりますのよ?)
「感謝……? 好き勝手やって迷惑かけてるだけなのに……?」
(迷惑だなんてことありませんわ。むしろ、貴重な体験だったと思っておりますもの)
どこか嬉しそうに、彼女は呟いた。
(……自分に自信が持てず、外に出る勇気を失ってしまったわたくしに、エイト様は素敵なものをたくさん見せてくださったのですから)
「お、俺が……?」
(ええ。素晴らしき技術の詰まった奇術ショーに、初めて見る本物のスライムたち……アミュレットの意外な一面を知ることができたのも、エイト様がわたくしの代わりに、外へ出てくださったからですわ)
「そ、そう……かな……」
(だからもう、謝るのはやめてくださいまし……? エイト様はなにも、悪いことなどしておられないのですから……)
まるで慰めるかのように、彼女は俺に言った。
「……うん、そうするよ。ありがとう、アリアさん」
(ふふっ……! どういたしまして、ですわ!)
年下の女の子に気を遣われてしまった。その情けなさを振り切ろうと、体を起こしてベッドに腰掛けた。
「――お嬢様、アミュレットでございます。入ってもよろしいでしょうか?」
ドアの向こうからくぐもった声が聞こえる。
「どうぞ!」
俺が声をかけるとドアが開き、しずしずとアミュレットさんが入ってきた。そして彼女は後ろ手にドアを閉めると、ひとつ息をついた。
「……お嬢様、陛下よりお伺いいたしましたわ。お心遣い、感謝いたします」
そして彼女は深々と頭を下げた。
(あ、いえ……! わたくしはただ……アミュレットが身を挺して、わたくしを守ってくださったことを、お父様に知っておいていただきたかっただけなのです……」
「……左様でございますか」
(それよりも、足のほうはもうよいのですか……?」
「ご心配はいりませんわ。我が国の治療師たちは優秀でございますから」
そう言って彼女は、片足で何度かコツコツと床を鳴らし、微笑んだ。
「お嬢様のほうは、お変わりはありませんか? 久々の外出でしたので、体調を崩されていないか心配でございますわ……」
(体調は……少々疲れている程度でしょうか……? エイト様は、どう感じますか?)
『少々疲れている程度』とアリアさんは言うが……ベッドに倒れ込んだときに気が抜けたせいか、思ったよりもしんどさが押し寄せてきていた。
「足が痛くて体が重いっす」
「うっ……!? い、いきなり素に戻るんじゃない……!」
顔を引きつらせながら、アミュレットさんは言った。
「そんな嫌そうな顔しなくてもいいじゃないっすか〜」
「しょうがないだろう……! 見た目はお嬢様そのものなのに、言動があまりにも別人すぎて違和感がひどいんだ……!」
(うふふっ……!)
そう言って彼女は片手で顔を覆い、ため息をついた。そんなアミュレットさんの様子を見て、アリアさんは楽しそうに笑っている。
……アリアさんが喜ぶのもわかるな。『お姉さんモード』のアミュレットさんも、優しく包容力に溢れていて魅力的だが、『クールモード』になると一転、冷静で凛とした雰囲気に早変わりだ。これも、ギャップ萌えというやつなんだろうか。
「まったく、調子が狂う……。おいエイト、行くぞ」
「え、どこへっすか?」
「いいから黙ってついて来い」
くるりと振り返り、ドアを開けたアミュレットさんに促されるまま、俺は部屋を出た。
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