王都ノーザン
平地で開発の進んでいる、野生動物なんて滅多に見かけないような街に突如狼が出現したとの噂を聞きつけたのが四日前。俺達は吸血鬼の仕業だろうとアタリを付け、すぐ馬を走らせた。目的地はヴィレ城のある王都ノーザン。
「王都なら、Sランクの人達のみで形成されている兵団がいるはずだけれどね。お姉さんより遥かに強いあの人達なら、例え吸血鬼でもすぐにやられることは無いだろうけれど。既に倒したなら何かしら話が出ていそうね、でも続報が無いってことは、まだ戦っているのかしら」
メフェスさんは呟きながら先導してくれる。
「火の手が上がってないなら、吸血鬼の圧勝って訳じゃないだろうけど」
「せや、なんで村や街ごと燃やしてたんやろな。何か隠したいものでもあるんやろか」
「血を吸われた人達を無かったことにしたかったんじゃないかしら? 吸血鬼に襲われた形跡って話としては知ってるけれど、ギルドAランクのお姉さんだって流石に見たことは無いわ。吸血鬼の存在だって、この国以外じゃ全然信じてもらえなかったんでしょう?」
「そうだよ、あちこち旅して人に会う度に訊いたけど、そんなもの実在しないって相手にしてくれなかった。シュログは別だけどな。 ……でも吸血鬼を信じる信じないって国の違いなのか? 俺とロズがツェベンを発ってから、月の満ち欠けだって何度もあったし、吸血鬼共もなかなか好き勝手暴れていたようだから」
「お姉さんヴィレタレアンを出たこと無いから、地域差なのか、吸血鬼被害が続いているからなのか分からないわ。変な言い方して気に触っちゃったかしら、もうお姉さんとしたことがダメね」
テヘっと言いながら、メフェスさんは振り返って舌を出した。まあ、俺としても故郷を吸血鬼に壊されたと信じて貰えて、仇討ちしやすくなるなら理由なんてどうでもいい。俺は、ははっと小さく笑った。
俺がちょっと喧嘩腰になりかけていたからか、はたまた吸血鬼の話題が一段落したからか、並走していたロズがため息を漏らすのが分かった。もうロズの吸血鬼に対しての発作はおさまっているとはいえ、ちょっと配慮不足だったかもしれない。
俺が喋らなくなったからか、王都までは黙々と馬を走らせた。
昼過ぎにノーザンに着いたはいいが、街は活気に満ちており人通りも多い。本当に狼が出たのだろうか、危機感がまるで無い。
「でっかい街やなぁ。城までどのくらい歩くんやろか」
「あのう、ノーザンに狼が出たって聞いたんですが」
路面店の店主らしき人に声をかけてみた。
「ああ、城の裏手に出たらしいな。でも流石に人の多い城下街までは来ないだろうから、警戒令も出てないさ。見ての通り通常営業中だよ」
「あんちゃん達田舎の出かい? ノーザンは王のお膝元だから、警備も整ってるのさ。ラズゴ王が戦争でも始めない限りは安心してきな」
メフェスさんより強い、Sランクの人達が城下町を守ってるからこその、この賑わいなのか。俺達は店主らに礼を言って、城の裏手の林を目指して歩き出した。
「なんの被害も出てへんっちゅうなら、狼はノーザンの偵察にだされてたんやろか」
「偵察なんてできるのかな。敵意むきだしだったじゃない」
「わいは茂みに隠れてたんやろう狼に気ぃつかへんかったし、普通に狩りのときは気配消してるやろ。ロズちゃんだって大人しそうな見た目やのに……いや、例えが悪いなぁすまん」
「ロズちゃんは可憐な年頃の女の子なのよ、ね。さて、城門が近づいてきたわね」
高台に位置した城は、更に上を目指さんばかりに伸びている。俺が今まで見てきたどの建物より大きいが、繊細な装飾がいくつもあしらわれており、相当な年月をかけて建てられたのだろうと思わせる。もちろんお金も。
門に沿って裏手に回ろうとしていると、門番が近付いてくるのがわかった。明らかに観光目的では無さそうだからな。
「お前らそこで何をしている?」
喉元に剣を向けられた。メフェスさんが先頭に立って、他の三人を遮るように手を広げる。
「私達はギルドから、獣退治の依頼を受けて来ました。あの林に出たのだと」
メフィスさんはAランクの証を取り出して、落ち着き払って答えた。
「ははっ。どこのギルドが手柄を立てようとしたのかは知らんが、狼なら出現した日のうちに我ら兵士にて倒したよ。今行ったとて何も」
門番が林を指差し苦笑しながら話していると、指の方角からバサッバサッという音が近づいてきた。一同驚いて音のする方を凝視すると、林からこちらに向かってコウモリが飛んできていた。
「ま、ああいった鳥ぐらいだろうな。居るのは。さあ帰った帰った」
コウモリは俺たちを越すとすぐに、もと来た林へとターンして帰っていった。
吸血鬼の手がかりは何も掴めないまま渋々道を引き返そうとすると、鈍い音がして門番がお腹を押さえてうずくまった。シュログの右手にはメリケンサックが嵌められている。
「気ぃついたら殴ってたわ。堪忍してな」
門番に向けて頭を下げながらそう宣うが、シュログの顔は笑っている。折角作ってくれた好機を無駄にしまいと、俺たちは林の方へ走って向かった。
歩きまわると、草が踏み固められ幹に剣や爪などでできたであろう跡が残っている箇所があった。血生臭さもあるので、ここで戦闘したに違いない。しかし、本当にあのデカい狼を倒せたのか、狼はどこから来たのかすらわからない。手掛かりは無さそうだ。日も落ちかけているし、宿を探しに戻るべきだろう。
「しっ、何か聞こえるわね」
メフィスさんにそう言われ、耳をそばだてる。微かにザク、ザク、と草木を踏む音がする。各々武器を手に取り、警戒する。
「良い匂いがすると思ったら君たちか。まあ、コウモリちゃんから聞いてたからここに居るのは知ってたけどさ」
枝をかき分け現れたのは、先日の狼を連れた吸血鬼ではなく、俺の復讐相手であった。
それを認識すると、俺は吸血鬼に斬りかかった。だが、ナイフを持つ右手首を掴まれ、上体を持ち上げられた。足をバタつかせて抵抗するが逃げられない。
「ラズゴ王に話があるんだ、通してくれないかな」
「吸血鬼が人間に何の用があるんや」
シュログが吸血鬼の脚にパンチを喰らわせた。
「この城には何度も来…痛っ」
矢が脇を掠めて吸血鬼は悲鳴を上げ、俺は茂みに投げ飛ばされた。
騒ぎを聞きつけた兵士達がゾロゾロ集まってきた。
「お前たち、そいつから離れなさい。じきに対吸血鬼特殊部隊が来るから、下手に構うんじゃない」
「いつもなら城内に入れてくれていたのに、やはり僕たちはもう用済みか。人間とはこうも早々に裏切る生き物なら、契約獣候補にすらならないね。宣戦布告するまでは手を出さないようにしてたけど、もう面倒くさいや」
吸血鬼は俺たちは眼中に無いようで、兵士に突っ込んでいくと一人を掴み別の人に向けて投げ飛ばす。鎧を曲げ、虫でも払うかのように飛んでくる矢や槍を払って落とす。何より動きが速い。的が大きいのにロズはおろか、訓練してるであろう兵士の銃すら当たらない。
吸血鬼がまた新たに人を掴もうとしたその手に、とうとう矢が突き刺さった。メフィスさんのより鋭い矢音は、兵士とは別の方向から聞こえてきていた。対吸血鬼特殊部隊だろう、金色の鎧を纏った十人の兵団が到着していたのだ。
「暴れなければよかったものを。今から吸血鬼 を完全に敵として認識します」
そう宣言すると、特殊部隊は猛攻を始めた。
あと1,2話で完結させます。




