復讐の果て
数年ぶりの更新ですが、前回の宣言通り完結とさせていただきます。
特殊部隊が怒涛の勢いで弓や銃などの遠距離攻撃を開始したので、俺たちは流れ弾に当たるまいといったん林の方へ退避してきた。ロズは、まだ慣れてない銃弾の補充をしなきゃいけなかったしな。
「あいつら、今から敵と認識するとか言うてたよな」
シュログが呟く。確かにそうだ、クエストとして吸血鬼の討伐依頼が出ていたはずなのに、ギルド上位の特殊部隊が敵だと思っていなかったのは不自然だ。
「メフェスさん、あの金の装備を身に着けた部隊って何です?」
「あの遠くからでも分かる色の装備はSランクの証よ。つまり、この国で最上位の戦闘能力を持った部隊ってことになるわね。著名な人もいたから確かよ」
「つまり、ギルドメンバーってことですよね」
「ええ、でもSランクになると国王付きということになるの。だからコースくん達とはちょっと立場が異なるわね。それにしても、今更敵だと公言するなんて変よね」
メフェスさんは不可解といった表情で首を傾げる。
「つまり、国王辺りが一枚噛んでる可能性があるっちゅうことやな。せやったとして、現状はなんも変わらんけど」
肯定の意味を込めて大きくうなずく。俺達の知らないところで何が起きていようが、いま目の前に俺の仇が居て、戦闘のプロが交戦しているという事に変わりはない訳で。そして、なおも止まない悲鳴を聞くに、数で勝っていようが部隊側は善戦しているという訳では無さそうで。
「メフェスさんの放った矢は、吸血鬼に効いていたよな」
「痛がってたわね」
「銀が有効なことに間違いは無さそうだ」
「私も、次こそは必ず当てるから」
ロズは木に向かって構え、冷静に照準を合わせる。
「その意気や、ロズちゃん。わいも、スキができたら迷わず殴り込みに行く。そん時は打つ手止めといてくれぇな」
「もちろんよ」
目を細め、部隊を見やりながら二人は言葉を交わす。
「さて、もう一度倒しに」
「危ないっ」
吸血鬼の方へ向かおうとしたところ、ロズに手を思いっきり引かれ、後ろを振り返る。さっきまでなにも無かった地面に、一本の長剣が刺さっていた。俺もロズも幸い無傷だった。
心配して駆け寄って来てくれたメフェスさんによると、飛んできたこの剣は伝説の二刀流使い、“カナト”のモノらしい。随分と重そうな立派な剣だ。
「Sランク最強と名高い彼が剣を吹っ飛ばされるなんて……」
「ほうなら、わいらは尚更正面からぶつかっても勝てへんやろう。Sランクの“プロ“の皆様に頑張ってもらってる内に、隙をみて突撃した方がええんちゃうか?」
「そうだな、俺は銀の短剣のフェイクとしてこの剣を持って行かせてもらおう……」
俺は剣を引き抜こうと、擦り減り錆びかけている持ち手を握った。……はずだった。突然目の前が光であふれ、感覚が無くなった。
「君にとってははじめましてだな、コース君」
知らない男性の声が頭に響く。
「誰だ?」
優しい声色ではあるが、状況が飲み込めない限り落ち着けない。辺りを見回そうにも、眩しくてよくわからない。ただ、人の気配はしなかった。
「君はデュアルソードの片割れの柄を握っただろう? その剣に縁のある者だ、とだけ伝えておこうか」
カナトと言っていたか、あの剣の持ち主なのか?
「いいや、わたしは彼ではないよ。確かに今この剣は彼のものだが、わたしの声は彼には届かなかった。わたしは今を生きる人ではないのだ」
そんな人がなぜ俺に話しかけてきたんだ?
「わたしは生前の行いから、死後に人間の守護を司ることになってだね。数え切れないほどの人を見守ってきたし、これからも見守っていくよ。それに、今は君だけじゃない、例えばロズ君のことも見守ってきたのだよ」
ロズも?
「そうだ。君達は由来の近い名前を貰っているだろう?」
コースとロズ、考えたこともなかったが、確かに似てなくはないのかもしれない。
「その名を持つ子に対して、命の危機に瀕した両親が我が子を護ってくださいと天に祈りを捧げた。その願いを神が聞きいれてくださり、縁のあるわたしが君達を今日まで護ってきたのさ。わたしはこと対吸血鬼に関しては右に出る同士は居ないほどでね。君達もわたしの力に心当たりがあるんじゃないのかな」
護られた……そうだ、タスカで吸血鬼に遭遇した時、噛まれそうになったところで気を失ったが、俺もロズも無事だったことがあった。
「いまのわたしから吸血鬼に攻撃は出来ないのだが、君達の命はそう易易とは失わせないさ。ほんとうは全ての人間を理由無く襲えないよう、話をつけた筈だったのだがね」
その口ぶりだと、あなたは吸血鬼と戦ったことがあるんだな。
「いかにも。君は、一度は生前のわたしについて見聞きしているのだが……おっと、もう時間が無いようだ。これから吸血鬼と再戦するという時にアドバイスすらできなかったが、君達のパーティなら、身勝手な吸血鬼らとの決着がつけられると信じている」
「……ース君、どうしちゃったの?」
ロズの不安そうな声で、俺の意識は現実世界に戻された。俺は剣の柄を握ったまま、しばし微動だにしなかったらしい。
周りはさっきまでのどこだかわからない空間では無く、木々に囲まれ薄暗く、戦いの音は止んではいない。そこまで長い間意識を失っていたわけでは無いみたいだ。
「俺はなんともない。……ただ、脳内で吸血鬼との戦闘をシミュレーションしていたんだ。この剣は奇襲には向かないから置いておこう。心配させたな」
今体験したことをまともに説明できるとも思えなかったので誤魔化す。
「本人が大丈夫言うんやったら問題無いわな。俺たち三人は吸血鬼の正面側にまわって、機会を伺うで」
「お姉さんとロズちゃんは遠距離部隊に混じって加勢しに行くわ」
「そうしてくれ。俺は吸血鬼の背後の木陰に身を隠して隙を待つことにする」
四人でアイコンタクトを取り、行動を再開する。
俺は三人が去ってから、吸血鬼に一番近い木の側に、ばれないようゆっくりと移動した。十数歩で長剣の間合いに入りそうな距離感だ。しばらくここから吸血鬼の動きを観察することにした。
人間よりも少し長い腕を鞭のように使い、飛んで来る矢やら弾やらを退け。かと思えば剣を受け止め、次の瞬間にはハンマーで殴りかかった兵をギリギリまで引きつけてから避けることでよろめかせて。手数の多さに、守備にまわるしかないといった様子か。
「ええい、ストレス発散出来るかと思ったけど溜まるいっぽうだなぁ。君たちにはタイマンで決着をつけようって文化は無いのかい?」
敵を斬りつけようと剣を構えて突進してきた兵を当て身で突き返しながら、吸血鬼がそうほざいているのが聞こえた。過去に散々蹂躙されており、どう考えても一人の人間の勝てる相手でないから、こうして隊をなして挑んでいるというのに。
「吸血鬼、お前は我々人間を愚弄しているのか?」
部隊のキャプテンだろうか、力強い声が吸血鬼を挟んだ先から聞こえた。
「いいや、そのつもりは無いよ。僕は武器も何も持っていない、君たちで言うところ“丸腰“って言える状態だ。対して君たち、例えば君なんか重そうな剣を二本……一本僕が駄目にしたから残り一本か、持っているだろう? さっきの一撃はまだ余力を残しているようだったし、これでハンデは十分だと思っているのだけれど」
指をさされると声の主は顔を顰め、不快感を一層あらわにした。なるほど、彼があのデュアルソードの持ち主、カナトなのか。吸血鬼ほどではないが腕は左右とも筋肉で膨らんでおり、長剣を得物にしているのも納得の体つきだ。
「非武装ののどかな村を最初に派手に襲っておいてよく言うわ」
「人間の生態なんて知らなかったから、たまたま近くにあった村に向かったのさ。吸血以前に、人間との接触すら避けていたんだからね。戦力も不明だから群れで狩りを仕掛ける、動物としては当たり前の行動だと思うよ」
「動物――所詮吸血鬼も獣の本能に従うのだな」
言われてばかりで我慢ならなかったのか、一人のアーチャーが手を止め吐き捨てた。すぐにそうだと、あちこちから賛同の声があがる。
「他の種族を、用済みだからというような理由で絶滅に追い込むつもりの生き物に言われたくは無いな」
吸血鬼は前列の兵士を一人掴んで地面に倒すと、蹴り飛ばした。ガラガラと鎧をぶつけながら何回転かしたが、俺の身体は彼の安否を確かめる前に動いていた。重い長剣を捨て置き、短剣に持ち変える。刺すなら今だと直感が告げていた。
「うるさい、俺の家族は殺されて帰ってこないんだ」
銀の短剣がヤツの毛の生えた硬い皮膚を通り越し、肉まで刺さったのを感じる。積年の想いを叫びながら、涙が溢れてくる。吸血鬼がもがき倒れこむが、俺の心は晴れない。ロズが真っ先に駆け寄ってきて、呆然と立ち尽くしている俺の背中を撫でながら、一緒になって涙を流してくれた。
「ロズ、心配してくれてありがとう。俺は大丈夫だから、吸血鬼に銃でトドメをさしてくれないか」
「ええ、任せて」
ロズは撃鉄を起こすと、震える右手を左手で抑え込み、しっかりと吸血鬼に焦点を合わせた。
パンッ
銀の弾丸は吸血鬼の胸を貫き、血に塗れた地面にめり込んだ。衝撃で仰け反った吸血鬼は、胸を庇うように両手を前に出した。
「ぐはっ……君達人間の執念はよく解ったよ。ただ、吸血鬼は命令されたとて平気で破る、統率されていない"動物"さ。僕一人を倒したところで、人の味をしめた他の吸血鬼には君たちの性質は伝わらない」
吸血鬼の声は弱々しくも、意識はまだ明瞭らしい。これだけ痛めつけられても即死しない、痛みを堪えて会話すらできる、なんて生命力の強い生き物なのか。そのうえ、俺たちに何を求めて話しているのだろう。
「お前を他の吸血鬼の下に帰して、説得させろという死に際の命乞いなのか?」
「違う、僕は致命傷を負っているさ、ここで息を引き取るだろうよ。背中の短剣を抜いてくれたら、もしかしたら助かるかもしれないけれど」
「親の仇を救うわけ無いだろう」
「はは、こっちも微塵も期待してないさ。ところであそこで遠巻きに眺めている金ぴかな奴らと君たちは目的が違うんだろう、君たちは自分の手で僕らを何人殺せたら気が済むんだい?」
俺は、母を殺した目の前の吸血鬼の言葉に即答できなかった。やつらは俺の故郷を皆殺しにした。俺も吸血鬼を皆殺しにする意気で、女将さんの宿から飛び出してきた。だが、一体倒すのに何人も負傷者が出ている。
反撃に備えてソイツから離れろ、と部隊が叫んでいるのが聞こえる。
「……生き残るため以外に、自ら何度も死地に飛び込む生き物なんて、不思議な種族だと思っただけさ。討伐は彼らに任せて、君たちは昔みたいに禁忌とやらで吸血鬼を抑え込めばいいじゃないか。
話し合いでもいい。もともと僕はそのつもりでヴィレ城まで足を運んだだけなのだから」
吸血鬼がふと口をつぐむ。何かを聞き取ったようだ。
「ヴランザが僕を殺しに来たみたいだ。僕も、餌に殺されるなんて死に様は避けたかったからね、息が合うな」
応援でも呼んでいたのか、と林の奥を凝視していると、「ワオーン」と何匹もの遠吠えが聞こえた。徐々に大きくなるその声は、確実に近づいてきていることを示している。
「狼の群れだ、弓兵は構えておけ。君たちも逃げるんだ」
部隊の声がみなまで届く前に、狼の姿が見えてきていた。辛うじて部隊と狼の直線上から離れるや否や、槍や弓が飛んできて正確に狼を狙い撃つ。さすが国随一の部隊だ。武器が刺さった個体からだんだんと足を止めていくが、一体脇腹から血を流しながら、逃げる俺をめがけて駆けてくる狼がいる。そいつが高くジャンプしようと前脚を強く蹴り出したところで、部隊やメフェスさんがいる方角とは違うところから光のような速さで矢が飛んできて狼の眼に直撃した。遠くて射手が馬に乗っていることしか分からない、誰なんだ?
そちらに気を取られていたところ、一際大きな狼が、背に吸血鬼を乗せて現れていた。ひょいと飛び降り、喋らなくなっていた倒れた吸血鬼を肩に担いだ。去り際に、ロズの方を向いて言う。
「嬢ちゃんよ、躍進してくれてありがとな」
「もうこれ以上人間を襲わないで」
ロズは因縁の吸血鬼に銃を向けた。その手は震えておらず、吸血鬼の目をまっすぐ捉えている。ただ、撃鉄は起こしていない。
「俺への脅しか?」
ヴランザと呼ばれた吸血鬼が目だけ動かし、一瞬俺の位置を確認した気がする。咄嗟に愛用のナイフに手を伸ばした。
「私はもう弾を外さない。ここで誓わなきゃ、吸血鬼の弱点は銀だってあそこのSランク部隊にも言いふらすわ」
吸血鬼は高笑いで返した。
「お仲間さんたちだけにしか銀の弱点を言ってなかったのか。俺ぁツイてるな。あぁいいぜ約束してやろう、俺は今後人間を襲わん」
「あんただけじゃないわ、吸血鬼皆よ」
「次期吸血鬼の王として、ヴランザが責任を持って皆に伝えよう。お互い過度な犠牲は出したくないんでね、人間からはキッパリ手を引かせていただくさ」
俺は、肩に担がれた吸血鬼を指さして尋ねる。
「そいつはどうするんだ」
「人間に殺されちゃたまらないんでね、俺が息の根を止めてやるのさ」
あぁ、とうめき声かのような同意も聞こえた。僅かに頷いてもいるよう。
「誰がとどめを刺すかが、俺たちにとっちゃ重要なんだ。というわけで貰っていくぞ、あばよ」
二体を乗せた狼は無防備な背中を晒しながら、現れたときと同じく嵐のように遠ざかっていった。色々なことが次から次へ起こりすぎて、疲れ果てて地面にへたり込んだところで、Sランク部隊が怒鳴り込んできた。
「お前たちは吸血鬼を逃がしたのか」
「あなたたちも会話が聞こえていたでしょう? 新手の吸血鬼は確実に先の一体を殺しに来ていたわ。それに、私たちの誰も、無傷の吸血鬼を相手取れる力は残っていないでしょうに」
「せや、コースもロズちゃんも悪くない」
「我々に始末を任せておけば、そもそも新手も訪れなかったかもしれないではないか」
シュログとメフェスさんが言い返してくれたが、不満は収まらないようで、俺たちを責める声は止まない。復讐心も何もかも有耶無耶になった今、言い返す気力はまるで起きなかった。
「Sランクの皆様方は、未だに命令をこなすだけの戦闘狂。変わってないね」
高いところから降ってきた新たな声は、いつぶりかわからない、懐かしい女将さんのものに間違いは無く。俺もロズも気付いてすぐに、主の方を振り返った。
「二人とも、生きていてくれたのね。お客さんから、ヴィレタレアンに吸血鬼が出たって話を耳にして、きっと二人も向かって行っちゃうんじゃないかと心配で駆けつけてしまったの。無事で安心したわ」
馬を降りたカディナさんは、俺らを暖かく抱きしめてくれた。
「一応はギルドメンバーなんだから、民の安全確保が第一ではないのかい?」
俺たちが落ち着いたところで、カディナさんは批判を再開した。
「Sランクの使命は王と国家の守護が最優先だと、当時何度も伝えたではないか」
「その方針も変わってないのね、なら良いじゃない。被害ゼロで王も無事。文句の付け所もない守護よ。お疲れさま」
「我々に下された命令は吸血鬼の殲……はぁ、もういい。お前に構っても疲弊するだけだ」
特殊部隊の面々は、キャプテンのカナトの引き上げ号令に従い、城の方へと帰っていった。
「あたし、メフェスって言います。あの、カトリーナさんですよね?」
メフェスさんがちょっと照れながら話しかける。カトリーナ、憧れの人だと聞いた覚えがあるな。
「昔はそう名乗ってたね。ギルドを辞めた時に、名前も住む場所も変えたのさ。今はカディナって名前だよ。貴方がこの二人と共に旅してくれた方?」
「はい。ヴィレタレアンに着いてからだけなので、短い間ですけれど」
「そうかい、こいつらの手助けしてくれてありがとうね」
「カトリーナさんに感謝の言葉をいただけるなんて、光栄です。あたし、貴女のように人を助けるためにギルドに入ったんです」
「素敵じゃない。私からのアドバイスはね、ここぞという時にしか強さを見せちゃいけないってところかな。この国の民が国に守られているのは確かだけれど、あなたが目指しているのはヴィレタレアン国王の支援ではないでしょうから。私が手を止めてしまった分も、悩める民を助けてあげて」
「お任せください」
頷いて応えるメフェスさんは、俺達が見てきたどんなときよりも、たくましい横顔だった。
女将さんは、俺とロズを見やった。
「さてと、二人はこの先どうしたいのかしら」
「飛び出していった私たちがまた宿に戻っても良いのかしら」
「歓迎するさ、お客さんもみんな二人のこと心配してたんだからね。常連さんは例外無くみんな、二人は居ないのかって尋ねてくれてたんだからね。戻ってきてくれたら、暫くはツェベン中の人が泊まりに来てくれるだろうし、きっと忙しくなるよ」
吸血鬼に人間を襲わないと約束させた以上、仇討ちはもうできないし、かと言ってギルドに居続けるつもりもない。何か黒いものが渦巻いていそうなこの国に、長いこと居たくもなかった。
「俺も、今後何をしていくか決められるまでは、また働かせてもらえますか」
「もちろん。だけどコース、宿題はちゃんと出来るようになったかい?」
宿題? 宿での日常は頭からすっかり捨ててしまっていたから何も思い出せず、つい口を開いてポカンとしてしまう。
そんな俺がおかしいのか、女将さんは豪快に笑って続けた。
「笑顔だよ、ロズは可愛らしい顔ができるようになったじゃないか。あんたはどうなんだい」
緊張と喪失感と疲労と。もう当分の感情は使い果たしてしまったよ。
「今はとても笑顔でいられる気持ちではないです」
「コースは固いやっちゃなぁ。吸血鬼に勝ったんやろ、滅入ってる時こそ無理にでも笑ってみぃ。クサクサしてたら、変な奴らに付け入られるで」
食事処でワイが助太刀する前に絡まれてたような奴に、と付け足して笑ってみせるシュログ。俺は、力無く首を振るのが精一杯だ。
「流石に今は難しいか。働くうえではどんな時も顔だけは笑えるようになって欲しいけど、それはまあ追々ね。水浴びでもして戦いの跡を洗い流したら、もう一回テストさせてもらいましょう」
「一緒に帰りましょう、コース君」
「あぁ、帰ろう」
自ら村を飛び出していった僕たちは、それでも多くの人に助けてもらえて、今日も生きている。ずっとずっと昔の人が、未来の人間の平和を願って、紡いでくれた命の繋がり。僕らはこんなにも沢山の人に護られていたんだ。俺も今日から、護る側になれたのかな。
約10年前に始めた物語ですが、ここまでお読みいただきありがとうございました。




