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僕らは護られていた  作者: 齊藤さや
第三章
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過去に囚われすぎないで

 メフィスさんはロズが落ち着くのを待って静かに語り始めた。


「お姉さんはね、ロズちゃんみたいに誰かのせいで悲しい思いをする人が居なくなって欲しくて、賞金稼ぎをやってるのよ。お姉さんが子供の時にね、目の前で泥棒を捕まえた女性がいたの。『私がこの街にいる間は事件は起こさせないよ』って言った時には思わず拍手しちゃうほど格好良くてね、それ以来わたしの人生の目標にしてる人なの。その人はねカトリーナさんって言って、女性初のSランク獲得者として当時ヴィレタレアンで知らない人は居ないほどの有名人だったの。でも、三人とも生まれる前だろうから知らないわよね。カトリーナさんほど強くはなれていないけれど、せめてわたしの周りだけは、ギルドの仲間と協力して守れるようになりたいって」


 ロズの短い髪を手で漉きながら、俺とシュログにも目を合わせるメフェスさん。


「だからね、あなた達三人が今を、未来を幸せに生きられるように、お姉さん力になりたいの。ロズちゃんの考えはよーく分かったわ。でも考えてみて、一人より二人、三人より四人の方が勝機ありそうじゃない? お互いを想って、悲しみは分け合って小さくして、助け合いましょう。もう誰もロズちゃんの前からいなくならないように」


 ロズはコクリと頷いてやおら上体を起こすと、メフェスさんに抱きついた。その目はもう濡れていなかった。


 次の日は大きな雲の無い、よく晴れた空だった。早速メフェスさんに連れられ、馬を繰ってナルバに戻り武器を買いに行くことになった。騎乗も慣れてきて、風が気持ちいいだとか感じられるようになってきた。分かれて買い物した方が早く済むが、なにせ俺達はお金が無い。メフェスさんの懐と信用に頼るほか無いのだ。まずはお得意だという弓矢の店。


「おやじさん、ちょっと難しい注文してもいいかしら」

「メフェスちゃんの頼みなら聞いてやるけど。そうだあんたら、この前のクエスト、Sランク案件だったって聞いたか? 掲示板に詫びが載ってたんじゃが」

「えっ知らなかったわ。その為の特注の矢をお願いしたかったんだけど……」


 そこまで言ってから、メフェスさんは俺達の方へ振り返った。

 俺はメフェスさんが口を開く前に、迷いもせず答える。


「クエストなんて関係無く吸血鬼を倒したいから、造ってもらいたい」

「……みたいだからお願いするわね。(やじり)を"銀"にした矢が欲しいの。出来るかしら?」

「銀じゃと? ふむ加工は可能だが、普段使わん素材だから入手できるかどうか」


 声が裏返る程驚かれたが、すぐに職人の目つきに戻って考え始めた。仕事といえど流石だな。


「それで、何本欲しいんじゃ?」

「10本は欲しいけど、5本あればひとまず当たるでしょうってとこかしら。まだ私達も銀が本当に効くのか試して無いからね。7万ポルくらいあれば足りるかしら」

「そうさな、手を打とう。いつもながら良い交渉の仕方だわな。任された。銀の調達は心当たりを何人か当たってみるわい。お前さんたちにも一つ聞きたいんだがな、ナトエに吸血鬼はいたのかい?」

「ああ。俺達は吸血鬼と対峙した。やつは狼を連れて襲ってきた」

「ほう、本当に出たのか! 獣を手懐ける変なもんと出くわしてよく帰ってこれたもんだな。んにゃこの街にいつ来てもおかしくないってこたぁよく分かった。急いで銀を取り寄せにゃ。何せ国の連中のやることは不透明でアテにならんからなぁ」


 店主はガハハと豪快に笑う。頼りにされているようでちょっと嬉しかった。

 これでメフェスさんの武器はいいだろう。次はシュログのメリケンサックを買いに行く予定だったが、一度ギルドに寄ったほうが良さそうだ。


 ギルドに入ると、受付の人がわざわざカウンターから出てきて頭を深々とさげた。


「メフェスさん方、無事で良かった。皆様にクエストを紹介した次の週に、上から速報が届いたんですが、『吸血鬼の探索案件はすべて今すぐ中止せよ。危険なためSランクの国王直属部隊が引き受ける』と書かれた文を渡されました。すぐに家まで出向こうとしたのですが、通りがかったホスさんからもう出発したと教えられて……」

「私達としては吸血鬼の情報を知ることができて好都合でしたし、謝らないでください。それに、ギルドの不手際じゃないんでしょう?」

「それはそうですが」

「あ、私達クレーム付けに来た訳じゃないわよ。無事ですってことを伝えようと思ったのが一つ、あとはその“吸血鬼“に対峙した時のことを報告しなきゃってね」

「対峙?! じ、じゃあナトエにいたのは弱い吸血鬼モドキだったんですね。良かったぁ、ランク無しのみなさんが大怪我なく帰っ」


 弱い? あいつが? とんでもない。


「ちゃうわ。わいらが敵対したのは絶対化けもんや。吸血鬼や、人間やない。背もこーんなに高いんやぞ」


 シュログはカウンターの台をバシバシ叩きながら抗議する。受付の人はちょっと怯えているようだ。


「そうよ。いくら実績勝負のギルドでも、肩書だけで判断してもらっちゃ困るわよ。吸血鬼に会ったのは初めてだったから断言はできないけれど、吸血鬼がみんな今回会った奴みたいな強さなら、Sランクでも敵わないかもしれないわ」

「せやで。吸血鬼はメフェスさんの矢を素手で握り潰したんやからな」

 

 メフェスさんは、まあまあとなだめながら、受付の人にひとつ質問をする。


「吸血鬼の案件は国の部隊が引き受けるって言ってたわよね。じゃあもうギルドには吸血鬼の情報は入ってこないのかしら」

「付近で吸血鬼が発見されたら、避難をスムーズに行わせるためギルドに協力を依頼する、とはお達しが来ていますが、現在は何も無いですね。多分今後も発見された付近だけに情報が来るのでは無いかと」

「そうか、残念だ。また吸血鬼を探すことからやらなきゃならないのか」


 俺がそう呟くと、受付の人がどうしてか慌てた。


「ええとコースさんでしたっけ、まだ吸血鬼と戦うのです? ギルドとしては危険なことはして頂きたくなくてですね……前回のクエストも討伐ではありませんでしたし」

「じゃあギルド抜ければええんやろ?」

人気(ひとけ)の無い所で戦うからさ。俺は吸血鬼を討ちに国を超えて来たんだ」

「せやな。じゃ、ギルドはおさらばしてわいのメリケンサック買いに行こうや」


 生憎、そんな言葉だけじゃ俺たちは止まらない。ギルドを後にし、次なる武器の新調をしに店へと向かった。

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