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僕らは護られていた  作者: 齊藤さや
第三章
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回想と解放

 結局、大男を追いかけることすら出来なかった。ロズは興奮して、すっかり正気を失っていたので、いつかと同じくシュログに気絶させてもらった。ロズを抱えてナトエに戻ると、村の人の好意に甘えて民家に一泊させてもらうことになった。


「ロズちゃんは、前にもこんな……ええっと、荒っぽくなったことがあったの?」


 メフェスさんは、ベッドで横たわるロズの頭をずっと撫でて、心配そうに見守っている。


「そうなんです。見境無く暴れだしてしまって」

「そん時もわいが強制的に止めたんや、な」


 俺は頷く。シュログは、酒場での出来事を思い起こしているのか、人を蹴散らすような動作をしている。


「ロズちゃん、随分辛そうな顔をしていたわね。それなのに吸血鬼に立ち向かっていくなんて、よっぽどの事があったのね」

「今はましになったけど、"吸血鬼"って単語を聞いただけで手がつけられなくなってたんだ」

「それなのに、吸血鬼を探しに行くコース君の旅に付いてきたのね。もしかして、ロズちゃんはコース君のこと」

「それはないわ」


 ベッドの方から声がした。驚いて三人で振り向くと、気まずそうな顔のロズが、薄目を開けていた。


「あら、聞いてたのね」


 こくりと頷き、身体を起こす。


「コース君はただの幼なじみ、それだけよ。それよりもわたし、倒れる前、三人に怪我させてはいない?」

「大丈夫だよ」

「よかった。わたしね、思い出したの。わたしの家族がどうなったか。あの日のこと」

「あの日っていつのことや?」

「もしかして、バーニング・ダウン、ベギンス村が焼けた日のことか」

「そのとおりよ、コース君」


 メフェスさんは驚いた顔をし、ロズをいっそう優しく撫でた。


「名前を出しただけで辛い顔してしまうなら、無理に思い出さなくても良いのよ?」

「ありがとうございます、メフェスさん。でもわたし、話したいんです」

「ロズちゃんが話したいんなら、わいはしっかり聞くわ」

「じゃあ話すわね、わたしが何で"吸血鬼"を憎むのか」





*********************************




 わたしの家族は四人いたの。お父さんとお母さん、わたし、そして妹のマリーよ。わたしとマリーはとっても仲が良かった。コース君はわたしたちが喧嘩してるところ、見たことないでしょ?


 ここで、コースは神妙な面持ちで頷いた。


 家にいるときだって、めったに争わなかった。それほど仲良く幸せな家族だったわ。……あの日まではね。そう、バーニング・ダウン。でもね、わたしは村が、故郷が全焼したことを、よくは覚えてないの。気絶しちゃったから。わたしにとって最悪だったのは、その前。吸血鬼が火を放つ前に、わたしにしたことのせいなの。

 あの日、一度コース君に会ったよね? 家族で買い物に行った帰りだった。その後はお母さんが夜ご飯を作るのを待ちながら、みんなでお話ししてた。


 そしたら、村のあちこちから悲鳴が聞こえてきた。お父さんは、周りの人が心配だと言って様子を見に外へ出ていった。暫くしてお母さんも、帰ってこないお父さんを探しに、わたしとマリーには隠れているように言い残して外へ出ていった。

 そして、わたしとマリーは別々の所に隠れたの。悲鳴は止むことがなくて、それで怖くなったのか、マリーは泣き出してしまったの。そんなとき、家のドアが乱暴に開けられた音がした。マリーも気付いて、必死に嗚咽をこらえようとしていたみたい。でも、見付かってしまった。


「随分と小さい娘だな、喰い応えはなさそうだ」


 そんな声が聞こえては、わたしも姉として黙って隠れているわけにはいかなかった。


「妹を離し……」


 叫びながら出てきたけれど、相手は想像以上におぞましかった。わたしの2倍は優に越える巨体、血まみれの服、マリーを今にも噛みきらんばかりの歯。勇気は途中で消えてしまった。


「嬢ちゃんがこいつの姉か。いい度胸してるな、名はなんて言うんだ?」

「ロズよ」


 消え入りそうな声で、なんとか答えたの。


「ロズ……ロズか、いい名前だ面白い。よしチャンスをやるぜ」


 相手は少し考えたと思うと、わたしに向かって何かを投げてきた。拾えと言わんばかりに指をさすので恐る恐る手にすると、麻袋のなかから銃が出てきた。相手はにんまりし、マリーを放して両手を広げた。しばらくそのままでいたが、震えるばかりなわたしにしびれを切らして、迫ってきた。


「ほら、早く俺を撃ちなよ。……まさか嬢ちゃん、使い方知らないのかい?」


 お父さんが使っているのは見たことあったけれど、絶対に触るなと言われていた。だからわたしはこくりと頷いた。目をそらすと何が起きるかわからないから、ずっと目を合わせながら。


「へ、人間ってのは弱い上に平和ボケときたか。自分達で作ったんだろうに。こうして、こう撃つんだよ」


 わたしの手は上から掴まれ、銃を握らされた。わたしの指が撃鉄を起こし、引き金を引く。




ばん




 屋根に穴が空いた。


「簡単だろ? それで今度は俺様を撃てば、妹は助かるんだぜ? 早くしないと親衛隊が俺を探しに来るから急いだ方が」


 言い終わらぬうちに、わたしは銃を相手の胸に向け、引き金を引いた。




ぱん



 赤い血が吹き出す。わたしは反動で少し飛び、尻餅をつく。そして、立ち上がれなくなった。痛かったからじゃない。目の前の光景が信じられなかったの。



わたしの撃った銃弾は、マリーを射ぬいていた。






*********************************


「そこからはよく覚えてないの。この手で殺してしまったと泣き叫んで、顔をあげたら大男は居なくなっていて。あいつが何をしたかったのかもよくわからないけど、当てたかったあいつには当たらなかった」


「ロズ、それは明らかに向こうの誘導」

「わかってる」

 シュログの言葉は、遮るロズの声に消えた。


「わかってるわ、頭では。でも、あんなにわたしに撃って欲しそうだったのに、逃げた。そして、今日も。だから私は撃つの、今度こそあいつらを。お父さん、お母さん、マリー、ベギンス村のみんなを殺して、わたしにまで()()()()吸血鬼を撃つの。でも、なんでわたしなの? なんであんなに可愛くて幸せなマリーが死んで、わたしだけが生きてるの?」

「ロズ、そこまで抱え込んでいたんだな。気付けなくてごめん」

「気付くもなにも、わたし自身が忘れてたのだから。マリーを殺したのは吸血鬼じゃないって、忘れたかったのよ」


「でも、マリーちゃんに申し訳無くて、感情まで無くして生きてきたんでしょ? もう十分許してくれてると、お姉さんは思うわ」


 メフェスさんはロズの髪を優しく撫でた。ロズの瞳からぽたぽたと、涙が溢れてきた。バーニング・ダウン以来初めてであろう、ロズの涙、メフェスさんの膝で横たわる暖かそうな表情。どれも眩しく、同時に胸が締め付けられる。





 ふと、旅立つ前の、宿屋での生活を思い出した。


──「辛いことは何時までも抱え込んでないで、忘れちゃうのも一つの解決策さ。忘れられるまで此処に居ていいから」──


 女将(カディナ)さん、忘れすぎるのも辛いんですね。

一年ぶりすみません。リアルが忙しく、書く気力が起きませんでした。エタらせるつもりは全く無く、毎月100字くらいちまちまちまちま書いてました。

完結まで必ず書くので、これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。

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