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僕らは護られていた  作者: 齊藤さや
第二章
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報告

 約束通り二日後の明け方前には、派手な飾りなど何もない質素な居に戻ることができた。道中、コールの契約獣(サーヴァント)であろうフクロウを見掛けたから、相当心配されてたんだろう。それでも、疲れて帰ってくるであろう僕を気にかけてくれたのか、帰宅早々に寝床の蓋を開けても、当の本人は「おかえりなさいませ」以外の言葉は発しなかった。立場が逆だったら絶対聞くね、僕だったら。お言葉に甘えて寝て、今日に至る訳だ。


 どこかからの帰りに寄ったと言うコルロ爺も交え、事のあらましを説明する。まず馬鹿にされたようだと言うと、僕が知ってる中でも一二を争うほどの手の早さの、コルロ爺のこめかみに青筋が立った。


「人間ってヤツはこの前の宴ではころっと死んだんだろ? 俺は歳を理由に断ったが惜しいことをしたと悔やんでるんだぜ。そんな種族の言うこと真に受けてノコノコ出向くから舐められんだ、デュラ王さんよ」

「外交とはそういうもので御座いますから。ここは収めて聞き役に徹しようじゃありませんか」


 コールのお陰でコルロ爺も拳を下ろしてくれた。最も、続きが気になるだけかもしれないけどね。

 王が人間の居住区を襲わせる話を持ち出したこと、七年は鳴りを潜めて欲しいと言われたことを伝える。その上で、僕は年長者に意見を求めてみる。


「僕は人間の提案に頷いた訳だけど、良かったのかな」

「それは(わたくし)がとやかく言えることではありませんから」

「決めちまったんだろ、嘆いても仕方()えじゃねえか」


 二人とも即答だった。王になる、というのは一任される(こういう)ことか。好きに生きたい僕にとっちゃ重い枷だと改めて感じる。


「今度の王は弱腰なのかい? いっちょ老いぼれが根性叩き直そうか」


 言い終わるより先に、コルロ爺は袖の緩い服を捲り出した。そういう暑苦しいのはゴメンなので、愛想笑いで断る。


「じゃ、七年は気長に待とうか。たまには僕の方から親衛隊(あいつら)に会いに行こうかな。他の吸血鬼達にも人間は襲うなと、一応伝えておいて欲しい。リマコール、頼んでいいかな?」

「勿論で御座います、デュラ様」


 一礼してコールは退いた。早速準備してくれるみたいだ。助かるね。


「誰もいなくなるんじゃ俺も居づらいわな。お土産は置いとくぜ」


 コルロ爺は片手を上げて、「じゃあな」と去っていった。その身のこなし、到底六百年弱生きてきたとは思えないね。

 さて、お土産とはなんだろうと部屋を見渡すと、隅に子山羊が倒れていた。山羊はこの辺には生息してないから、随分と遠出をしていたことになる。或いは、人間が餌を与えて育ててる、家畜とかいうヤツを拝借してきたか。一昨日から何も飲んでなかったから有り難い。山羊の血は臭みが少ないから好かれる味なんだ。こいつは成長途中だからね、皮膚は柔らかいし鮮度も落ちにくい。毛の薄い腹の所を一噛みして流れてきた血の味は、多少の腐敗臭はするものの満足のいくものだった。


「腹ごしらえも済んだし、先ずは行き先確認といきますか」


 誰とはなしに呟き、窓を開ける。すぐに一羽来てくれた。


「随分と早いお出ましだね」


 たまたますぐそばを飛んでいたから、と返ってきた。判ったぞ、君は僕に気があるコウモリ君だな。いや、女の子だから君付けは無いか。前にもそんなようなことを言ってすぐ来た小さめな子が居たからね。


「飛んでるのも疲れるでしょ。指にぶら下がってていいよ」


 目の前に小指を差し出すと、嬉しそうに可聴範囲でキイキイ鳴きながら留まった。


「ところで、ヴランザを見かけなかったかい? そう、この前呼んだ子を脅したヤツさ。へえ、西の山で見たって言ってた子が居るんだね。ありがとう」


 右手に餌を乗せて差し出したら、まだ小さい牙を出してカリカリと食べ出した。ウヨウヨ芋虫が蠢く感触は気持ち悪いけど、嬉しそうに食べてるから我慢しよう。凄い早さで食べるからすぐ終わるだろうし。


 一日と少しで例の山に辿り着いたのは良かった。けれど、わざわざ警備を配置していたらしく、捕まって散々待たされた僕は、お供を引き連れたヴランザと縛られながらの対面となった。


「ノコノコ現れたって事は、とうとう俺と挑戦(チャレンジ)する気になったのか?」

「しないって言ってるでしょ。僕が同族と殺り合うの好きじゃないの位知ってるだろうに。とりわけ君とは」

「ほう、まるで俺なんか相手ではないとでも思ってるようだな」

「そうさ、だから君も口だけで本当に挑戦(チャレンジ)はしてこないんだろう? 僕の方から仕掛けてくるのを待ってるわけだ。どうせ今回の種も君が蒔いたんだろうしね」


 図星なんだろう、ちょっと目が開いた。そうだろうね、僕に圧勝できそうなら縛らせる必要も無いからね。


「種とはなんだ? 俺達はここで静かに暮らしてただけだが。なあ」


 四方から慌てたような同意の声が聞こえる。頭の言葉にずっと注意しなきゃいけないのか、大変だねえ。


「人間の王さ」

「へっ?」


 僕が四方にも聞こえやすいよう大声で言ってやったら、動揺したのか震えた声が返ってきた。ほらみろ。


「何とか村でのパーティーが僕達の仕業だって人間に伝えたんでしょ? 実行犯も返事してくれたから、間違ってないと思うけど。王に会ってきたけど、残念ながら僕を殺してくれなかったみたいだよ」


 思ってる事を隠さず全部ぶつけてみたら、ヴランザは豪快に笑い出した。


「お前は、そこまで分かっていながら人間の言うことに従ったのか。何故だ?」

「何故って、君が折角セッティングしてくれたんだ。誰だろうと会いに行くべきじゃないか」

「はっ、そんなに俺が好きなのか」

「好きとは違うよ、僕同性愛者じゃないし。君が面白いから釣られてみただけだよ」


 ヴランザは理解できないとでも言いたげに項垂れた。僕としては褒めたつもりなのにな。縄を軽々引き裂いて、帰ろうと立ち上がってから大事な本題を思い出した。周りの警戒してる奴ら? 気にする程でもない。


「そうそう、君はもう知ってるか分からないけどね、人間の王が、七年は人を襲わないで欲しいそうだよ。人間が吸血鬼(ぼくたち)の事を忘れるのに必要な時間らしい。そのあとも指定した所からしか吸わないって約束しちゃったから守ってもらいたい」


 ヴランザ達は知らなかったのか、本人含め罵る声がちょこちょこ聞こえた。自業自得だろうに。


「まあ人間とは違って、さして強制権の無い吸血鬼の王の命令だけどさ、七年の方くらいは守ってあげないかい?」


 人間は法だとかを作り、破った人を罰するらしいとコールから聞いた。同族を理性で罰するなんて、吸血鬼ももちろん、他の動物もしないさ。罰だとかはは本能でする事だと思うんだけど。


 僕はヴランザの返事も聞かず、言い捨てて山を降りた。こう言っとけば多分暫くは何も騒ぎは起こさないでくれると思う。僕としてはどっちに転んでも面白いんだけどね。

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