表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕らは護られていた  作者: 齊藤さや
第二章
21/38

祭場

 人の血を吸う事を考え付いてから半日ほどしか無かったが、僕の言葉はあらかた伝わったらしい。「デュラカルは奇人だ」という声もちらほら僕の耳に入ってきたが、一方で城の前の広間には二、三十人の物好きが集まった。


「よく集まってくれたね。今日は僕主催のパーティーだ。会場は知っての通り、人間の居住区――規模からして"村"と呼んでるらしいんだけど――ベギンス村というところだ。全責任は僕にあるから、皆好き勝手してもらって構わない。ただし、僕が合図したら火を放つこと。契約獣(サーヴァント)も無しだ。人間は僕ら吸血鬼より数が多いからね、後日他の居住区から返り討ちにあわないとも限らない。痕跡はなるべく残さないようにしよう」


 広間はうるさいくらいの歓声に包まれた。まだ日が出てるというのに、皆興奮状態にあるようだ。

 火のことは、コールと話し合った結果だ。「(わたくし)は一切関わりませんからね」と念を押されたし、本当に今日も来てない。


 ヴランザを先頭に集団で森の中を駈けていく。動物達が殺気を感じて退いていく。はは、今日は吸わないよ。



 すぐに着いたが、景色は全く面白そうでは無かった。どの家屋も木を組んだだけの簡素なもので、賑わいも無ければ喧騒もない。のどか、という言葉がよく似合う。もはや、生き物の気配すらろくにしない。他の吸血鬼達も似たことを思っているのか、僕への非難が聞こえてくる。見ていても何の変化も無いし、気付かれた様子も無い。


「行くよ」


 そう小声で発し、事前に説明した通り先頭を僕に変えて出陣する。僕らを見て逃げ出そうとした小柄な男がいた。けど僕は走り出す前には既に背後に付き、服を引っ張ってやった。そしたら「ひいぃぃぇぇ」とかいう情けない声を出した。ひっくり返して顔を覗き込む。小鹿の方がまだマシだと思えるほど目が泳ぎ、焦点が定まらないようだ。何故こんな生き物に接触してはいけないのだろうか、こんなにも無害そうなのに。皆によく見えるよう、軽いこの男を高く掲げる。


「喜べ、人間。お前はこの時代の吸血鬼の餌第一号として、王直々に口付けされるのだからな」


 好奇、期待、不安、そして遠くからは沢山の恐怖。様々な感情を持った視線が僕に集まるのが分かる。人間の血管は首に太いものがあるそうで、そこめがけて牙を立てる。


 もし人間の血は毒だったら? その時は……まあ、僕の興味は満たされることだし悔いは無い。


 迷いが消えたところで、ぐっと顎に力を込める。毛も生えていない皮膚は柔らかく、すんなりと僕の牙を受け入れる。口内に流れてきた血は温かく、雑味が多いが飲みやすい。なにより特筆すべき特徴は、人間の血は他のどの動物よりも力がみなぎることだ。もっと、もっとと舌が、喉が、身体がこの血を求めている。夢中になって最後の一滴まで絞りとり顔を上げると、皆が僕の感想を待っていた。


「即効性の毒ではなかったようだが、お味はいかがかな?」


 ヴランザが僕に問う。僕の飲みっぷりを見ていれば、答えなんて決まっているじゃないか。


「格別だよ。さぁ、これより最高のパーティーを始めようじゃないか!」


 散り散りになって各々獲物を探しに扉を開く。やがて、あちらこちらから悲鳴があがり始めた。どこからか逃げ出した人を捕まえ、自分も喉を潤す。一人目を食した者は、我先にと新たな人間を求め歩き回る。こんなに面白い事は初めてだ。僕も早くつぎの人間を探そう。


  何軒目かの空振りを経て、今度こそはと橙色のドアを開いた。(つがい)と思われる男女、男性の方は女性を庇ったのか既に先客がいる。ならば僕は絶望をあらわにしている女性を頂くとしよう。

 ぷつり、と牙を刺すときの感触は快感で、僕を掴んで離さない。何度も場所を変えて噛み痕をつけていると、ドアの開く音がした。誰だか知らないが遅かったね、と思いながらちらりと目をやると、吸血鬼(なかま)ではなかった。

 随分と小さい男、人間の子供だった。呑気な「ただいま」という挨拶が聞こえた。では僕の餌は彼の母親かな。彼は僕らが視界に入る位置まで来るなり、その場から動かなくなってしまった。子供が帰ってきたのを見た(ははおや)は先程まで苦しみにあえいでいたのに、はっきりした声で「逃げて」と発した。しかし子供はまだ動かない。面白いので目を合わせて睨んでやった。大型の契約獣(サーヴァント)でさえ逃げ出すんだ、か弱い人間などひとたまりもないなだろう。はてさて彼は硬直したままなのか、それとも気絶するのか。だが、(ははおや)が邪魔しやがった。


「コース、逃げなさい」


 絞り出すかのようなか細い声で子供を叱ると、子供はとうとう足を動かし家を出ていってしまった。それを見届けると、(えさ)は首をガクンともたげ、息をしなくなった。


「追わなくて良いんです?」

「どうせ外の誰かに捕まるだろうし、放っておこう」


 流石に口には出さないが、仮に彼が生き残ったとしたら、それはそれで面白いじゃないか。


「さて、そろそろ吸い尽くしたよね。この家も火を点けよう」


 ご一緒した吸血鬼にそう告げてから、外へ出て叫ぶ。


「じきに日が沈む、今日はお開きだ。最後に狼煙を上げよう」


 証拠を消すためなので、むしろ狼煙とは逆の意味なのだけれど、響きが格好いいから許して欲しい。

 あらかじめ全員に配っておいた火薬を塗った棒を取り出して、柱に擦り付ける。棒が燃えだしたので家の中に放り込んだ。これなら僕らが燃えてしまうというミスは起きないはず。人間も面白い道具を考えるな。

 家は全て木で出来ているものだから火の手はすぐまわった。村の温度が高くなる。意識の残っている人間がいたのだろうか、新たな悲鳴が時々あがる。家の崩壊が始まってきていたので、自分が燃えないうちに、来た場所へと戻る。おおかた集まっているだろうが、ヴランザが見当たらない。親衛隊の数人が炎の中を探しに行こうとした時に、ちょうど現れた。髪が少し焼けて縮れている。さらに右手を押さえているところを見ると、火傷でもしたらしいな。


「大丈夫かい? 火に魅入られてたのかな」

「そんなところだ、帰ろうか」


 親衛隊に睨まれながら帰路につく。どさくさに紛れて焼こうとしてたはずがないじゃないか。冤罪も良いところだよ、もう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ