狂銃士
ロズが銃を所持していたなんて知らなかった、と唖然となってしまったが、その間も銃声はバン、バンと連続して聞こえてきていた。反動を堪えながら一心不乱に引き金を引いているようだった。ロズは今まで見たことの無いような形相で、目が血走っている。
合計五発目が聞こえたところで鳴らなくなったが、ロズは撃つ動作をやめない。二、三回繰り返して弾切れだと気付いたのだろう、銃を投げ捨てて相手に掴みかかっていった。だが掴んでやり返されるすんでの所で、シュログがロズを羽交い締めにし、引き離す。俺の方が近かったのに、あまりのことに呆然と立ち尽くすしか出来なかった自分が悔しい。
「この吸血鬼野郎が! 失せろ! 殺してやる」
「やめや、ロズちゃん。落ち着こ、な」
金切り声で罵声を浴びせかける目の前の少女は、本当にロズなんだろうか。分からなくなるほどの変わり様だ。
俺達にこれだけ隙があれば相手も反撃しそうだが、向こうも立ち尽くしたままだ。ロズを怯えた目で見ている。怯えているだと?
「クズめ、銃弾はまだあんだからな」
言い放ち、シュログの拘束から逃れたロズは敵へ走っていく。
「一旦引き上げるぞ」
敵はもう一人にそう告げると、現れたときと同じように音もなく、とても真似できない速さで逃げていった。追おうとしたロズを今度こそ俺が止め、シュログに気を失わせてもらった。
「疲れたなぁ。どうしてロズちゃんもコースも、スイッチ入ったら暴走するんやろか」
「俺は物心ついた時には……」
「ちゃう、答えが聞きたいわけやないわ」
苦笑するシュログはそのまま地面に倒れこんだ。俺ももう神経がひどく疲れた。三人で、寝袋を放ったまま草の上で眠った。
「コースくん、起きて。大丈夫?」
ロズの声がしてはっと目覚めると、いつもの静かな印象のロズが心配そうに覗き込んでいた。
「俺は大丈夫だよ。ロズこそなんともないのか?」
「私? うん、ちょっと疲れてるけど元気だよ」
「昨日の夜のこと、覚えてないのか」
「気を失ってからはよく覚えてないの。起きたら二人とも、私もだけど、寝袋にも入らないで倒れてたから」
どうやらあんなに激しく動いていたのに覚えていないらしい。そっとしておいた方が良いように思える。
「連日移動してたからみんな疲れてるみたいだ。早くカランを見てきて、手掛かりを得てタスカに戻ろう」
「そうみたいね」
ふと気の抜けた声が聞こえてきた。
「なんやもう朝か。ロズちゃんはぶ」
これ以上昨夜について言い出す前に、寝ぼけ眼のシュログの口を慌てて塞ぐ。察しの早いシュログは分かってくれたようだ。
「ともかく、片付けてからすぐ出発しよう」
辺りが焦げ臭くなってきたと思うと、すぐに建物の残骸が見えてきた。
「ここがカランなんか……」
全ての建物が煤だらけで崩壊しており、椅子や机らしき家具が野ざらしになっている。ロズが触った壁は、それだけではらはらと石が剥がれ落ちてしまった。
歩いてまわるが、どこも入念に火を着けたのか、同じくらい焼かれていた。とある家の残骸を調べていた時だった。
「手掛かり言うんもなさそうやな」
「待って、この布の椅子、何か鋭利なもので裂かれたようだよ」
「爪……」
「かもしれないね」
「犬かもしれないやろ」
「犬にしては傷が大きいわ」
周囲をくまなく調べていると、爪跡よりも大事な痕を見つけた。
「二人とも、ここの床赤い絵の具を垂らしたようになってる。もしかして」
シュログが駆け寄り、確認してくれる。
「この色はもしかしなくとも血ぃやな。あ、奥に……ロズちゃんは見に来ん方がええで」
「血……」
奥の部屋に倒れている人が二人いた。表面は焦げているが、火の直撃は免れたらしい。何か確認できるものはないのか、必死に七年前のあの日を思い出す。吸血鬼は両親に何をしたか。血を吸った――どこからだったか?
そうだ、首からだ。同じならばこの人の首にもきっと跡があるはず。くいっと顔を横へ向けて確認する。あらぬ方向まで曲がってしまったが、肩甲骨の上辺りにすぐに見つかるほどの穴が二つ、並んで開いていた。
「なんや、これは……虫にでも刺されたようやな」
「この位置、跡を見たことは無いけれど、多分吸血された跡だと思う。母親が噛みつかれたのを見た時も、この辺りに吸血鬼の顔が被さっていたし」
「焦げてるからよう分からんけど、血色悪いような気ぃもするなぁ。ほんまに来たんやろな、その、吸血鬼ちゅうやつらが」
「あぁ」
恐らく来たのだ、あの時見た吸血鬼の軍勢が。逃げる時にちらりと見えただけだが、村をさ迷い歩く者が数人いた。それだけ数がいたとすれば、村人はみな吸われた後だろうし、火事は証拠隠滅で死体を燃やすためなのか。なおさら酷いやつらだ。
そんななか、ロズが俺達を呼んだ。何かと思うと、俺達が歩いてきた、タスカの方角を指差している。ちょうどいつだかのように夕日が美しい。
「黒い煙が上がっているの。あっちってタスカよね、何か起きたのかな」
奇しくも建物が崩壊しているので、目が利く限り見渡せる訳だが、こんな遠方からでもはっきり分かるほどの大きさの煙だ。狼煙なんかでは無いだろう。
「向こうも火事が起こったんかな」
「ということは吸血鬼がいるのかもしれない」
「……許さない……」
待て、と声をかける暇もなく、ロズは駆け出してしまった。禁句を言ったのが自分だったし、結局ロズが走らずとも急いで駆け付けたい所だったが。




