32話 現実空間に影響する歪み
奈落へと落下! 走馬灯の共有により、死の恐怖に耐えられなくなった探偵は転生? いや、死んでしまった。ユピタとあとむはどう生き残る!? そして、声だけが聞こえた…何か。「最強だと思ったもの」が能力になる世界の旅。「俺」と「俺の最強」を探す冒険ファンタジー!
探偵は、死んだ。俺ももう死ぬ。ペンがない今、俺にこの窮地を抜け出す方法は皆無だ。と、思っていたのだが…
あとむ「私の能力で脱出できますわよ?」
…あとむの能力? もう、身を任せるしかない。奈落へただただと落下していくのみ。この重力には、どうやっても抗えないのだ。
いつもの走馬灯とは違う。走馬灯を共有している仲間が、人生のパノラマの中から一生懸命生き残る方法を探してくれている。あとむの作戦がパノラマを介して少しづつ伝わってくる。
あとむの能力は、『相手を感動させる』能力だ。この世界において『感動』は最強である。俺もかつて海に感動し、海を『最強』だと思い、海になってしまうという病気、感動病で死にかけた経験がある。
さらに、『最強』は一つだから、相手の能力をかき消すことも可能である。だが、相手のいないこの状況でどう使うんだ?
あとむ「感動芸術! 歌唱! ♪飛び去るわたしの両手に~ この星でつかめるだけのすべてを~」
なにやら歌いだした。何だこれは。独唱かと思ったら伴奏、いや他の声も聞こえてくる! 鼓膜が破れそうな大音量で心を打ちのめしてくる! だが、これで何をするつもりなのだろう。感動で落下を止められる気がしない。
あとむは歌い終わった。…何がしたかったの⁉ そのとき、先ほどの音がこだまのように跳ね返ってきた。奈落の底が近いということか? そして、恐ろしく、まがまがしく、美しい声が奈落の底からこちらへ襲ってきた。これは、あとむの歌とは別物だ。奈落の底にいる誰かの叫びだ!
重力の発生源?「ぐをぉぉぉぉ! 余の発生させている重力が! 感動によって途絶えてしまった!」
ゥワァン 重力が、なくなった⁉ なるほど、重力の発生源を感動させて、無重力にして上に戻るという作戦だったのか。…いや!、重力の発生源て誰だよ! あるとしたらこの星自体だし、星を感動させるなんて無理だろ!
あとむ「よし。うまくいきましたね。あれ?でも、重力がなくても、上への推進力がないので帰れませんわ~! ユピタさま、あとは頼みますわ。はい、ペン。」
ユピタ「いや、ペンあるなら早く渡せよ!」
空中に竜を描き、目を入れる。
ユピタ「画竜点睛を描く!」
画竜は俺たちをつかむと素早くきびすを返し、奈落の外へ! 上へ!
地上で描いた竜より明らかに速い。あとむが重力を消してくれたおかげだろうか。走馬灯とともに遅くなった時空のはずなのに、恐るべきスピードで登っていく。そのとき、後ろから先ほどの声が響いてきた。本当に重力の発生源なのだろうか。
重力の発生源?「今の歌…研究者の跡武だな。やはり危険分子。がーランドめ、しくじりおって。」
なに⁉ あの探偵の親玉か? いったいこの声の主は誰なんだ!
重力の発生源?「そこに…もう一人いるな…。もしや…カエリア、カエリアなのか⁉ いや、今の名は確か、ユピタ。」
⁉奴は…俺の名を知っている⁉…この名は生まれた時から知っていたものだ。ユピタ…俺の名はユピタだ。そう、昔からわかってはいた。だが、なぜか…「カエリア」も、俺の名である気がする…!
重力の発生源?「早く消えろ… 早く寿命を終えろ… 憎い、憎い、寿殿我族… 憎く、愛しい…我が…子…」
声が…遠ざかっていく。あの声が届く範囲を抜け出したのだ。最後の方は、よく聞き取れなかった。もうすぐ、地上につく!
出た! もうこのころには死の淵よりはるか遠くへ来ており、走馬灯は切れていた。数十分の出来事だったが、頭の中では今までの人生もう一回分、つまり8日分の時が流れたように感じた。そして、重力も復活していた。
朝日が差している。もう夜を抜けてしまったのか。誓いの宮から飛び出した! みんなが驚いた顔でこちらを見つめている。
それ
セムカ「ユピタ~ あとむ~、よく無事で帰ってこれたね。8日もずっと、奈落にいたのに。」
センリ「そうやで、めっちゃ心配したんやぞ?」
⁉ あの時と、同じだ。モフェルトンでニコラスと戦った時と同じ…感覚より明らかに長い月日が、現実空間では流れていた。今回の走馬灯は不可解なことが多すぎだ! 誰か説明してくれぇ!
アルガドルグ「説明しよう! キミ、警部補君の能力によれば、6日間のろのろ落ちて、2日間のろのろと登ってきたと聞いている。きっと、体は40分くらいの体感ではなかったか?」
怪盗候補だった老紳士だ。何か知ってそうだったので話を聞いてみることにした。
アルガドルグ「わしはな、一般相対性理論というものを研究しているのじゃが、君たちの動き方がちと興味深くてな。あんなに遅く落ちていくなんて、重力を操っているとしか考えられん。もしくは、『時』を操っているか… そういえば、あとむくんが言いふらしていたので、君が寿殿我族ということも知っている。あまり詳しくはないが、寿殿我族は時を操る種族だとか。何か関係があるのか⁉」
ユピタ「そういえば、走馬灯を見ました。頭の中は現実と同じ8日でしたが、確かに体感は40分くらい?」
アルガドルグ「やはりな、キミの能力と関係なく、『走馬灯』は親譲りの力だろう。本来死の淵において、時空が歪み、周りが遅くなったように見えるものだ。しかし寿殿我族のそれは現実空間に影響する歪みのようだ。」
…ただ死にかけているだけじゃなかったのか。寿殿我族とはなんだ? 知れば知るほどわからなくなる!
寿殿我族の秘密、世界の過去を求めてユピタたちはさらなる冒険へと旅立つ。次回 3章最終話 33話 そうしてここは「古代研究」都市と呼ばれた




