29話 推理してくれてありがとう
怪盗赤月光の正体は偏さんなのか⁉ ちょっと欠けた推理をするユピタだが、偏さんを追い詰められるのか。だが、何もかも罠であった… 「最強だと思ったもの」が能力になる世界の旅。「俺」と「俺の最強」を探す冒険ファンタジー!
ユピタ「盗んだの、あなただよね、偏さん。いや、怪盗赤月光!」
あたりの空気が凍り付いた。センリ、センリのオヤジあたりはすでに気づいてはいたようだった。
偏「…推理を聞かせてちょうだい。」
偏さんは白衣コートの裾を慣らし、先ほどまで家の土台がはまっていた段差に悠々と腰かけた。
ユピタ「まずは盗難を行った糸の能力について。あの技は、偏さんの研究しているファンデルワールス力の技術を用いたものだ。この世の大多数の物質は、この力が分子どうしを引き合わせることで形をなしている。それを操れれば、粉にでも糸にでも分子を繋げられるというわけだ。」
偏「なるほど、たしかに可能かもね。」
ユピタ「次に、犯行動機だが、姉であるへばりさんに聞いたとおりだ。へばり夫人の父親は地学の巨魁、コマッズさんに殺された。話からして、跡武はコマッズさんの弟子だ。今回跡武自身を誘拐したことから、地学打倒が目的だ!」
へばり夫人「ちょっと、あんた、コマッズさんに恨みあれど、彼の娘さんは…」
偏「姉さんうるさい。たしかに父を殺されたのは動機にはなり得るわね。」
ユピタ「盗んだものを隠した。これもファンデルワールス力の能力によるもの。盗まれたものは透過捜査の網に捕まらなかった。だが誓いの宮へ入っていったのは間違いない。そして怪盗は土地を盗まなかった。なぜなら、地面の下、奈落の天井に張り付けた盗品の糸が発見されてしまうからだ!」
偏「なるほど、ヤモリのように、ファンデルワールス力で奈落の天井にへばりついていると言いたいのね。でも、それなら他の人の能力でもできそうじゃない。なんで私が怪盗なんです?」
ユピタ「それは…」
言葉につまり、わかっていそうなセンリをちらっと見た。
センリ「顔。」
チェイサ「勘。」
…ダメだこいつら! 犯人はわかっていても推理はできていなかったらしい。なんとか言い返さなきゃ。
ユピタ「さっき、赤月光ににらまれた。その感覚が、今日の昼にあなたににらまれた感覚と同じだったんだ!」
偏「なに、そんなに意味不明な感じで私を犯人と指したわけ? だいたいさ、赤月光は仮面つけてるんだから顔も視線もわからないでしょ!」
…墓穴を掘ってくれたなぁ。
ユピタ「俺たちは話してないよ。なんで赤月光が仮面をつけてるってわかったの?」
この場に衝撃が広がった。ただ一人、犯人であるはずの偏さんだけが不敵な笑みを浮かべていた。
警部補「君が赤月光だな。」
警察が手錠をかけようと偏さんに近づいたとき、偏さんの声色が変わった。トーンは高いが語尾だけがらっと籠る、赤月光の声だ。
偏「他人の言葉だけどせっかくだからいわせてもらおう。これが泥棒と怪盗の違い、私たち怪盗は、華麗に逃げ切るアーティストだ! さらば!」
バサァ その場には白衣だけが残り、崩れ落ちた。偏さん、いや赤月光は糸になって脱出した。いったいどこへ…
オプスクラ「上だ!隣の家の屋根の上には脱ぎ捨てられた怪盗装束が掛かっており、月光に照らされた糸が入っていく。服が膨れ上がり、その場所に赤月光が降臨した。
赤月光「ユピタくん。推理してくれてありがとう。なにもかもそのとりです。 私の能力はファンデルワールス力だ。ただし、怪盗の能力の発動条件に「現場に戻る」「推理させる」があったので、今の推理は助かりましたよ。じゃあ最後の条件を満たしに行きますね。」
また糸になって逃げた!
しかし、どういうことだ? この世界の能力、アスピラは「最強だと思っているもの」しか能力にはできない。2番目に強いものではだめだから、一人につき一つの能力しか得られないはずだ。赤月光は二つの能力を使用しているのか?
赤月光は偏さんの研究所方面に逃げたようだ。あっちには探偵の家もあるな。厄介だ。
ー探偵宅ー
赤月光「予告通りだ。ぜんぶ盗んだ。あとはお前の能力で言うことを聞かせるだけだ。」
ガーランド「了解だ。しかし、おまえもワルだな。被害者の意思を尊重する仕組みをかいくぐろうとするなんて。」
赤月光は赤黒いキャリーケースを取り出し、フッと、ワルい笑みを浮かべてケースを開けてみせた。
赤月光「確かにな。この無二の幻怪盗セットは恩人である怪盗赤月照様からいただいた使い捨て能力セットだ。予告、下見、敵の数が味方の倍以上、現場に戻る、推理される、これらをすべてクリアすれば確実に盗み、逃げ切れる能力。まちがいなく私の次に強い能力だ! ただし、犯行後に盗品の意思を聞き、主人のもとに帰りたいか、連れて行ってもいいか選択させる。この意思が最高位のはずだ、本来は。」
ガーランド「そこをオレが操れば、いやがおうにでも連れていけるというわけだ。」
赤月光が盗んだ紙であった糸、家であった糸、あとむであった糸を道に終結させた。
ガーランド「推理します。皆さんは本日ユピタとかいうクソガキに盗まれましたが、我々が救出しました! ついてきてください!」
推理の意味がめちゃくちゃだ。もちろん探偵の能力改竄推理でその歴史は正しくなる。資料であった糸は怪盗にひざまずいた。
資料「ツ、ツイテイキマス…」
家であった糸も探偵にのほうへと飛んでいった。
家「タ、タスケテクレテ、アリガトゴザイマス…ツイテキマス…」
あとむは糸から人型に戻された。そして赤月光の目の前で地面に落ちた。
あとむ「つ、ついて…行きま…行きま…! …っ せん! 操られる!助けて跡武君!」
最後の選択をあとむに迫る怪盗赤月光。だが、あとむは自分自身の二重人格、跡武に助けを求める! 「絶対に逃げ切れる」能力の相手を捕まえることはできるのか⁉ 次回 30話 科学者ならば自分に嘘をつくな!




