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第四章 水上舞踏会 (3)

 学区の露店街で飴売りのばあばと呼ばれ親しまれるメイヴは、口のうまいシンドリを商売の相棒として重宝している。彼は下街の西ノ市に生まれ育ち、入舎前からメイヴについて王城に出入りしていたらしい。腰のまがった老婆には少しの荷を運ぶのも一苦労なので、力のある若衆の手助けはかなりありがたいものなのだ。

 シンドリはいつも、誰より早く昼の休憩に入ってまかないを平らげ、それから威勢のいい声を張り上げて小遣い稼ぎの商売をし、ぎりぎりになって研究室に戻って来る。そんな調子でもフォドラなどより成績が良いのは、王宮司書(ドムン・ティディーヤ)の試験を受けた過去があるからだった。補欠合格者として奨学金を得、学舎にいるという。そんな話を、彼は、少し知り合ううちに気軽に話してくれた。

 今日も、エプィヌはすっかり行きつけになった屋台で昼餉にありついていたのだが、そこに突然、シンドリが飛び込んで来た。

 エプィヌとレィダヤとナッビナーリ、それから店主や他の学徒ら、その場にいた一同は目をまるくした。

「一体、どうしたというんだい?」

 レィダヤは優雅に口元を拭いながら言った。そんな仕草はさすがに貴族だ。

 動物や花を模った色鮮やかな飴は、串にちょこんと刺さっており、シンドリは、それを両手にいっぱい持って息せき切っている。かなり滑稽な姿にも見えた。

瑠璃烏(ラズ・レーグザ)が、また現れたって、メイヴばあが、言っていたんだ!」

 彼が大きな声でまくしたてるので、少し離れた屋台にいた第三学年の学徒らも、すぐに顔を出した。

「噂の義賊?」

「噂の義賊?」

 声を揃えたのは双子のフロルとユミルだ。

(瑠璃烏(ラズ・レーグザ)……)

 ラウル家の食卓で一度話題に上ったことがある。黒い仮面には(くちばし)の意匠。闇の色のマントを翻し、高い屋根屋根を跳び渡る身の軽さは烏だと……。ナタンが噂に神経を尖らせていたのだ。ユディトとバラクは大袈裟だと呆れつつも、邸宅の警備を増やすことを考え、メルセンが武官の伝手をあたってみると請け合った。

「そういえば、赤土通り(トベル・アクメ)で賊騒ぎがあると、数日後には城壁付近で施しがあるって、前々から……」

 エプィヌは頬に人差し指を当て、会話を思い起こしながら呟いた。

「わあ、たぶんそうだよ。義賊かぁ!」

 レィダヤの声は、いつもより僅かにうわずっている。

赤土通り(トベル・アクメ)で貴族の邸宅から盗んだものを、城壁の浮浪者にっていうことなの?」

「そうだろうな。でも今度はとうとう城下に現れたんだ」

 話の種を持ち込んだシンドリは、予想以上の盛り上がりに満足したと見え、得意げに胸を張った。

「だんだん中央へ近付いてる?」

 フロルがぱちんと指を鳴らす。

「狙いは何だ?」

 ユミルが同調する。

 エプィヌも、頭に浮かんだ疑問は彼らと同じだった。

(ーー塔の上に見たのは黒じゃなくて白、だったし)

 噂を聞いた時からずっと、王城の塔の上に立っていた謎の人物と関連性があるのではないかと考えていたが、瑠璃烏(ラズ・レーグザ)はその名に違わず黒尽くめの姿で、エプィヌが見たのとは正反対だった。

(一味なのかしら?)

 瑠璃烏(ラズ・レーグザ)のようないでたちでも、施しを行っているとはいえ人々に姿を知られている。白い装束など賊には不向きだし、全く別の何かという可能性もある。

(このことは、まだ噂になっていない)

 それが不思議だった。

 そんなことを思いつつ、ぼうっと匙を口に運んだ時だった。

「良くない兆候は、前からあったけどさ」

 不穏なことを言う割に軽薄で明るい声は、その場にいた誰のものでもなかった。

「ーー殿下」

 エプィヌはほぼ反射的に呟いた。それを聞いた面々は一斉に、暖簾の向こうでこちらを窺っている背の高い二つの影を振り仰いだ。

「邪魔をしたな」

 エーフロシュネが先立って入って来る。いきなり王子が顔を見せたのでは、この場の空気が凍り付いてしまうだろうから、彼らしい賢明な配慮だった。

「殿下がお越しだ」

 そう言って、暖簾を持ち上げたまま後ろを振り返る。王子はほんの少し腰を屈め、屋台の内装や食べ物に興味津々というような顔をして入ってきた。

「今、借りても良いか?」

 気を楽に。とか、そういう挨拶のようなものもなしに、開口一番、ルチーフェロはエプィヌの肩に手を置きながら言った。レィダヤや他の学徒たちは、王子の前で緊張を隠せないようで、ただ恭しく礼をする。

「ここ、いいか?」

 やれやれと首を振ったエーフロシュネは、そう言って、さりげなくエプィヌに席を立つよう促した。

「はい……」

 腰を上げると、するりと王子の大きな手が背に回る。模範学徒はエプィヌが立った席に入れ替わって座り、何事もなかったかのように、仲間たちの会話を再開させる。素晴らしい連携だった。

 ルチーフェロはといえば、そのまま屋台を出てどんどん歩き、喧騒を離れて庭園の近くまで至った。あまり遠くへ行っては次の講義に遅れてしまう。エプィヌは途中でそう思い至り、足を止めた。

「殿下、殿下は思ったより頻繁に学舎に顔を出されているようですが?」

 連れ出されたところでまだ要件を聞いていない。何と始めれば良いか分からず、エプィヌはややつっけんどんに言った。

「いけないか?」

 ルチーフェロは、これも仕事だ、と言わんばかりの不服そうな顔をする。それから懐に手を遣り、平織りの紐で結んだ真っ白な紙筒を取り出した。

「ーーこれは?」

「もちろんユディトから聞いたよな? ほれ、ちょっと遅れたけど、舞踏会の招待状だ。おれの印が入っている特別だぞ」

 彼は紙を開いて見せ、署名と印章を指し示す。

「わたしに、これを……?」

「ラギもちゃんと引っ張って来いよ、そのために、わざわざこうして言ってるんだから」

 それが一番の目的なのか、と少々ふてくされた気分になる。

「ラーギニールさまのお嫁さん探しですか」

 お嫁さん、というレィダヤに引っ張られた言い方に、ルチーフェロは少し疑問を持ったようだが、すぐにいつもの人の悪い笑みを浮かべる。

「まあそう……ってのもあるが、もちろんあんたがいなくちゃ、おれは壁の花だぞ」

 思わず、ご冗談をと笑いたくなる。王子と踊る機会を、娘たちは逃すまいと必死だろう。見初められれば国母への道も拓けるのだから。

「殿下はお立場がありますので、人前であまりわたしに関わらない方が良いかと」

「あんたが困るかな?」

 食い気味に言った彼は、長く伸びた前髪の隙間からこちらを見つめる。こういう問い方はずるい、といつも思う。

「ーー学舎に女性はいないですから、要らぬ嫉妬を受けることはないと思いますが、憶測を呼びますよ」

「憶測、か」

 まだまだ、何か気に入らないようだ。目線を横に外し、口の中でその言葉を繰り返し呟いている。

「舞踏会であんたが隣に立ってくれたら、こそこそユディトの目を盗んで会う必要もないぜ」

 やはり、彼もそれを言うのだ。

(もう、知られているんだけどな)

 ルチーフェロとて、分かっていても無視しているのだろうが。

「誰だって納得せざるを得ないさ。学舎は男の園だから、別の心配もあるし」

 エプィヌははっとして顎をついと上げた。彼の顔がぐんと近くにあった。

「やっぱり……変な虫がつかないようにって、ラーギニールさまに言わせたのは殿下でしたか」

「何のことだ?」

 しらばっくれてからかうつもりなのか、本当に知らないのかは全く表情から読めないが、彼は息がかかるほど鼻を寄せて来る。

「いいえ」

 咄嗟に俯いて、エプィヌは首を振った。

「ご心配なさらないでください」

 しばらく両手をもみ絞っていたが、ふーっと胸の中の空気を押し出すと、少し心のざわめきが静まった。それから、ある重要なことを忘れていたと気が付く。

「ーーでも、わたしは踊ったことなど、ないですから」

 王子は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして、それから口をへの字に歪めたかと思うと、急に目尻を下げた。珍しくくしゃっと笑いながら、彼は安心しろと言った。

「英才教育を受けたおれが相手するんだから、大丈夫に決まってんだろ。ユディトに鍛えられるとも思うけど」



 木戸を押し開ける前からラーギニールはもう、足音だけで、来客はエプィヌだと知っていたようだった。滝のある森から邸宅へと続く道を脇に逸れると、すっかり夏草が生茂った獣道ーー実際にはラーギニールの通り道である……が細く延びており、簡素な小屋が建てられている。それは、この若き天才の作業場だった。

 水辺でラーギニールに会えない時は、こちらを訪ねることになっているのだ。

 ここも庭の一角のはずなのに、さらに小さな垣に囲われた庭がある。もともとユディトが使っていたということで、異国風の興趣のある珍しい植生の花木ばかりだった。それでも、植物それぞれの特性を考えられているからか、季節に合った花々がさりげなく風にそよぎ、常に手入れも行き届いている。今盛りなのは、鞠に似た形に紫や青の小花が群れた低木で、先ほど少しだけ降った霧雨のなごりで、落ち始めた陽の光を吸い込み、紫水晶の晶洞のような眩さを放っていた。

 そろそろ蒸し暑くなって来たので、雨が肌に纏いつく気がして不快感がある。それを解消しようとしてか、戸は全て開け放たれていた。

 その縁側に藁で編んだ敷物をし、なにやら木を削ったりしながら、ラーギニールはじとっとした目でこちらを見遣った。

「仕方がない。大人しく行けば、母上も殿下も面倒臭くなくて良いし……」

 説得のためにエプィヌが送られて来るのは、彼も想定内だったらしい。“逃げ切るために時間を費やすよりは、一時の我慢の方が効率的”と言いたいようだ。

「消極的な理由ですね」

 エプィヌは内心ほっとしながらも、ここで憎まれ口を叩いては、やはり行かないと言われかねないと思いどきりとした。夕餉までに片を付けたいところだ。今夜はエポナが衣装合わせに来ると言われているし、明日は講読の担当なので色々と対策をしておきたい。忙しいのはあんただけじゃないと、このお坊ちゃんには言ってやりたい。

「消極的と評価されようが、ぼくにとっては戦略的撤退だ」

(なによ、屁理屈だわ)

 エプィヌとて無理矢理引っ張って行くのもどうかとは思うものの、立場上、やはり役回りを断れないのが現実だ。そのところを、ぜひとも彼に分かってほしい。

 しかし、少年の浮かない表情は、つんけんした態度と裏腹に、心細さや恐れを滲ませていた。エプィヌはあれ、と怪訝に思う。

「ーーわがままじゃなくて、実際はかなり無理してるの?」

 弱みを見せられないだろうからと助け舟を出したつもりだったが、ラーギニールはその問いかけに答えず、ただ俯いた。


〽︎ゲッコウカニハダレモフレテハナラヌ

 ソノムカシアルヤクソウシガ

 ゲッコウカヲハムシロシカヲミタソウナ

 

 エプィヌは耳を疑った。ーーぼそぼそとくぐもった声だが、彼は確かに歌っていた。芸術的な感性など持ち合わせていない人間だと思っていただけに、驚きのあまりどんな反応をすれば良いか分からなかった。

「でも、それって……」

「おまじないだよ」

 ラーギニールは柄にもなく、いじけたように膝を抱えた。しかしすぐに、そういえば、初めて会った日もこんな風な調子だったっけ、と思い至る。今でこそ可愛くない素振りばかりだが、ルチーフェロの後ろをおどおどしながら歩いていたのはついこの間のことだ。

「誰かと踊るなんて、そんなの考えただけで。一人で水風琴(オロ・ローン)を相手に笛を吹いてる方がずっと良い」

 久しぶりに、こんなにくよくよするなど、意外を通り越して可哀想なことをしたと後悔させられた気分だが、そこでも水風琴(オロ・ローン)で頭がいっぱいなのは変わらないようだ。しかし、今はもっと確かめたいことがある。

「ーー『花狩唄(リィルーグァン)』」

 エプィヌは言葉の響きを噛みしめるように、小さく呟いた。

「知っているの?」

 ほんの少し顔を上げるが、少年の顔は髪で全く隠れてしまっている。湿っぽい風が吹いたと思ったら、雲が連れて来られたのか、急に辺りが暗くなった。夕日を見る間もなく、夜が始まりそうな気配だ。

「博士がよく竪琴で弾いていたから。でも、そんな歌詞があったなんて……」

 エプィヌは、奇妙な発音の“おまじない”とやらを頭の中で辿った。一字一字の読みを繋げて、古語に落とし込むと「ゲッコウカには誰も触れてはならぬ、その昔ある薬草師が、ゲッコウカを食む白鹿を見たそうな」となるのだろうか。

「その歌、『花狩唄(リィルーグァン)』なら続きがあるんじゃないの」

 胸がとくんと鳴って、エプィヌはほとんど詰め寄った。その勢いに気圧されて、ラーギニールの方も、何に挫けていたのか忘れ去ったようだった。

「あるけど……特に意味のない言葉の羅列で、母上の故郷のおまじないの呪文なんだって。幼い頃によく歌ってくれた」

「意味がないことはないと思うけれど……」

 エプィヌは戸惑った。憑き物が落ちたような彼の表情にもそうだが、ユディトの故郷の歌だという事実に胸を突かれた。

 しかし、彼はそんな感慨をすぐに叩き切ってくれた。

「だって、こんな言語ないでしょ」

「え?」

 博士から教わった鍵文字独特の発音に似ていた。その連なりが偶然にも意味ある歌詞を紡いでいる。ーー偶然、でしかないのだろうか。

「いいから、続きを教えて!」

 思ったより強い調子で言ってしまったが、何かの尻尾が掴めそうな時に大人しくなどしていられるはずがない。

「え……」

 戸惑い、少し顔を赤くしながら、ラーギニールはぶんぶん首を振った。なんとかその口を割らせようと、エプィヌはぐんと顔を近付ける。

「ラーギニールさまの水風琴(オロ・ローン)くらい重要で大切なことなの、わたしにとって!」

「わ、分かったよ」

 彼は子兎のように震えると、観念したのか、再び口ずさむ。


〽︎ゲッコウカノツボミガフクランダヨル

 ハナカリノマツリヲオコナウ

 ゲッコウカガハナヒラクマエニ

 ゲッケイキュニケンジョウスル

 ミセンノゲッケイキュウニスム

 マレビトノイチゾク

 スキトオルヨウニシロイハダヲモツ

 ウツクシイヒトビト

 タンメイデオイルコトナクテンニカエル

 マレビトタチガチジョウニオワスアイダ

 セワスルノハチョウコウシノイチゾク

 ソシテミセントホウヲマモルノハ

 ケガレヲニナッタタダビトソウノシゾク

 ゲッコウカニハダレモフレテハナラヌ

 サワラヌカミニタタリナシ


(ーー博士はこんな歌、聴かせてくれたことないわ)

 エプィヌは顎に手を当てた。顔を見つめたままだったので、ラーギニールは非常に居心地悪そうにしている。その青い瞳に映る自身の顔と睨み合って、集中を極限まで高めようと息を詰めた。

「ゲッコウカの蕾が膨らんだ夜、ハナカリの祭りを行う……って、ゲッコウカは植物? ハナカリは花を狩る。だから、『花狩唄(リィルーグァン)』……」

 これは、何かひどく重要なことで、無視してはならない気がした。

(ーー鍵文字、鍵文字を全て拾ってみたらどうなる?)

「ラーギニールさま、これ、貸してください」

 言うや否や返事を待たず、エプィヌは側にあった(ペン)と製図の書き損じを手元に引き寄せる。

「あっ」

 気が急き過ぎて、(インク)を付けないまま書き始めてしまい、紙に小さな引っ掻き傷が走った。

「はい」

 ことんと音を立て、墨壺が置かれる。

「ありがと」

 何か言う暇すらもったいなく、エプィヌは礼を欠いたことにも気付かなかった。

 歌を繰り返させながら、全てを書き起こしていく。ラーギニールは大人しくそれに従った。


 ゲッコウカには誰も触れてはならぬ

 その昔ある薬草師が

 ゲッコウカを食む白鹿を見たそうな

 ゲッコウカの蕾が膨らんだ夜

 花狩の祭を行う

 ゲッコウカが花開く前に

 ゲッケイキュウに献上する

 ミセンのゲッケイキュウに住む

 マレビトの一族

 透き通るように白い肌をもつ美しい人々は

 短命で老いることなく天に還る

 マレビトたちが地上に在わす間

 世話するのはチョウコウシの一族

 そしてミセンとホウを守護するのは

 マレビトを祖に持ち

 穢れを担ったタダビトソウの氏族

 ゲッコウカには誰も触れてはならぬ

 触らぬ神に祟りなし


「これ、絶対に意味があるわ」

 鼻息荒く宣言するエプィヌを、ラーギニールは呆気に取られたように見つめていた。普段口数が少ないのが祟り、何度も歌わさせられてすっかり息が上がっている。

「なんでエプィヌさんにはそう聞こえるの?」

 こんな文字見たこともないし、と彼はくたびれた様子で付け加えた。

 あまりに素直な疑問をぶつけられたので、どう説明するべきかと、エプィヌは小さく唸った。

「ーー博士の教えてくれた古語の中には『鍵文字』という非常用文字があって、その発音によく似ていたの。一つ一つの文字に意味はなく、他の文字に干渉することで文法を成立させるものだから、鍵文字だけを並べて文章になるかもしれないなんて、考えたこともなかった……」

 ラーギニールはふうん、と鼻を鳴らした。

「それって、新発見ってこと?」

 わくわくしている風でもなく、どこか悔しげな言い振りだ。そんなところに負けず嫌いが滲み出ている。

「ーー分からない」

 そうとしか答えられないもはもどかしかったが、一方で負けん気を突かれてむっとする気持ちももたげてきた。

「でも、これははっきりさせないと。絶対、何かあるから」

 汗ばんだ額を拭い、ふわふわに膨らんだ前髪を整える。

(これは女史の故郷の歌、女史の故郷……)

「ねえ、ユディトさまって……」

 その時、静かだった庭にばさばさと羽音が降り注いだ。軒の上で「かぁ」と甲高い一鳴きが響き渡り、人間どもを急かすように屋根板を嘴でつつく。

「母上が呼んでる」

 もうそんな時間か、とラーギニールは深く長い溜息を吐いた。

「衣装合わせなんかやったら、もう逃げられない……」

(ーーすぐにでも何かやっておきたかったのに)

 エプィヌも内心残念に思ったのは言うまでもない。

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