中編
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人間の何倍もの体躯や膂力を持つ邪神兵器に立ち向かうのが「神兵」だ。
だが、いくらもとが神と言えども、地上に降り、受肉したことで人間に近くなった「神兵」たちは、人間らしく悩むこともあれば疲れることも、弱ることもある。
ただ、人間の崇拝や信仰、畏敬の念を糧にして、人界で武器を振るう「神兵」たちは、そのような「人間臭い」姿を見せることを厭うた。
また、神々の関係性というのも複雑だ。神代から現代まで続く関係性は、ときに衝突やわだかまりを抱えることもある。
ゆえに、神同士であったとしても、よほどのことがなければ己の弱みを見せることはない。
人間は論外だ。人間たちは神々を、「神兵」を崇めながらも、どこかで「自分たちとは決定的に違う部分」を意識的にしろ無意識にしろ、察している。
ゆえに人間たちは神々を畏怖する。
畏怖の感情から、親愛というような温かいものを見出すのは難しい。
畏怖の中から、やがて嫌悪へと感情を転じさせるものもいる。そういった人間は、SNSを覗けば容易に見つけることができる。
人間はしょせん、崇拝や信仰といった精神エネルギーを吸い上げるためのもとに過ぎない――。
アメシスはそう割り切ることで、受肉した身体が感じた、心の軋みを無視した。
二体一柱の神であるアメシスには、クリスタという片割れがいる。クリスタは人間に対しても愛嬌があり、人間の文明や文化を愛する面を持つ。
アメシスにはそんなクリスタの趣味は理解できなかったが、片割れのことは嫌いではなかった。
嫌いではなかったが、たびたびインターネット上での「神兵」の評価や、人間たちの動向を報告してくるところは嫌いだった。
今回もそうだ。アメシスの受肉体――地上で活動するための人間の肉体――が死に、「門」を通って再び産まれ直して戻ってきたというのに、有象無象のくだらないSNSの投稿を見せてくる。
クリスタのそれは、まったくもっていつも通りであったが、心はちょっとささくれ立つ。
「『Tier1神兵・アメシス帰還!』ってみんな喜んでるよ」
「まったくうれしくないね」
吐き捨てるようにそう言って、クリスタに背を向ける。
生まれ直す前に使っていた私室へと向かう道すがら、クリスタはどうでもいい話を続けた。
「いいじゃない。みんな僕たちをちやほやしてくれてるんだよ。可愛いね」
「鬱陶しいし、可愛くもない」
「またまたそんなこと言って~」
クリスタがアメシスの左肩をつつく。
そこへ
「あれっ、アメシスじゃん! 帰って来てたんだ?」
という声が、アメシスの前方からかかった。
廊下の角から足早にやってきたのは、アメシスやクリスタと同じく、「神兵」である珪であった。珪に続き、現れたのはいつも彼とつるんでいる――本人は決して認めないが――晶だ。
「ああ」
珪の問いかけに対し、アメシスは必要最低限の返事で応える。
つっけんどんで、ぶっきらぼうが過ぎるアメシスの声を聞いても、さすがに珪はひるむことはない。
珪はなにやら好奇心に満ちた目でアメシスを見る。アメシスは、珪がそのような視線を向けてくる理由に心当たりがないため、内心では少々戸惑った。
「じゃあ、『母さん』には会った?」
「……母神が受肉したのか?」
「神兵」たちはみな最高神たる父神の血を引いていた。アメシスとクリスタの母神は神々の中では、父神に続く序列二位の席にいる。ゆえに、おいそれと神界を離れて地上へ降りることはない。
そんな母神の話をしているのかと思えば、珪は首を横に振る。
「ああ、違う違う。『門』のほうの『母さん』」
「『門』……」
「門」――アメシスの受肉体をその子宮で育み産み落とした……人間。
「会ってるわけないだろう。お前だって、会ったことはないはずだ」
アメシスが当然のことを口にすれば、珪はあからさまにがっかりした顔になる。
「そっかあ……。『母さん』は前とは違うみたいだから、アメシスは会ったんじゃないかなって期待したんだけど……」
「話がまったく見えない」
「手紙をもらったんだ」
しおれた珪のフォローをするように、彼の隣にいた晶がそう言う。
続いて、アメシスの隣に立つクリスタも、わけ知り顔でうなずく。
「――『母さん』から僕たちへの手紙。アメシスはまだ見てないんだね」
「はあ?」
意味がわからなかったアメシスだが、しかしクリスタが面白がっている様子だけは伝わってきたので、アメシスは威嚇するような声を出していた。
「手紙?」
「そう。僕たちが出撃すれば毎回書いているみたいで。『機関』のひとを介して、こっそり届けてもらっているみたい」
「なんで……」
やはり、アメシスには意味がわからなかった。
「門」は人間である。神ではなく、神が受肉した「神兵」でもない。
そしてアメシスたちは「門」がどのような扱いを受けているのかも、多少なりとも聞き及んでいた。
しかし多を生かすために個を殺すということを、否定したり批難したりできるような情勢ではない。
「神兵」を産み出せなければ地上は邪神たちによって蹂躙され、やがて神界をも蝕み始めるだろう。
「門」は、必要な犠牲だ。
そうとは理解していても、受肉したアメシスはどこかで「門」を憐れんでいたし、心が軋む音も聞いた。
だが、アメシスも「門」を必要とする存在のひとつ。
そして「門」の存在を否定することは、神界に対する裏切りにも等しい。
だからアメシスは、これまで「門」のことをあまり考えないようにしていた。
「門」とて、好き好んでその役割を引き受けているわけではないだろう。
そうであればなおさら、アメシスが「門」を憐れむ資格はないように思えた。
……そんな「門」が、「神兵」たちに手紙を書いて、しかも密かにこちらへ届けてもらっている?
アメシスには、意味がわからなかった。
「愛じゃない? やっぱり」
「恨み言じゃないのか」
「ぜんぜん! そんなことは書いてなくてさ、おれたちが活躍していてうれしいとか、でもあまり無理はしないでねとか、怪我には気をつけてとか、そういう感じの――『母親』みたいな手紙なんだよ」
笑顔の珪を見て、その言葉を聞いて、アメシスはなんだか面白くない気持ちになった。
「それで……そんな手紙ごときで浮かれてんのか」
「お前……相変わらず憎まれ口ばっかり叩くよな」
「事実だ。どうせこちらのご機嫌取りのための手紙だ。『門』自身が書いているかも怪しい」
「いや、『母さん』の直筆だよ。っていうかアメシスだって読んだらわかるって!」
「読まなくてもわかる」
「いや、そこは読めよ! 字とかさー、たどたどしいけど力が入ってて、思いのままに書いたって感じで……って無視するなよー!」




