第十九話 ポンコツエリートたちの再集結
王宮の円形議事堂に入ると、すでに主要な貴族たちや王国の重鎮たちが顔を揃えていた。
その最上段には国王陛下が座し、周囲にはピリピリとした緊張感が漂っている。
私とルーファスが議事堂の中央に設けられた証言台の前に立つと、議長が重々しく口を開いた。
「これより、ヴァルシュタイン公爵領による『不当な価格吊り上げ』に関する緊急御前会議を開会する。……エリザベート・フォン・ヴァルシュタイン。貴殿らは王家の定めた特別連帯税に反発し、悪意を持って市場を混乱させた。これに対して申し開きはあるか?」
「申し開きなどありませんわ」
私は堂々と胸を張り、扇を開いて口元を隠した。
「我が公爵領は、王家からの名誉ある特別税を『全額納付』する意思がございます。ただ、税負担の増加に伴い、領地で生産している商品の価格を相応の額に改定しただけです。これは市場原理に基づく健全な企業努力であり、何ら法に触れるものではありません」
「それは詭弁だ!!」
議事堂に響き渡る声と共に、四人の男たちが進み出てきた。
王太子レオンハルト、騎士団長息子のカイル、魔法学院首席のセリウス、そして高位聖職者のノア。
かつて王立学園で「聖女候補ルミナ」を取り巻き、私を悪役令嬢として断罪しようとした、あの滑稽な攻略対象四人組である。
ルミナが学園から姿を消して以来、彼らはすっかり存在感を失っていたはずだが…どうやら王家は彼らを「各界の若き天才」として持ち上げ、私を論破するための切り札として引っ張り出してきたらしい。
「エリザベート!」
王太子レオンハルトが、まるで悲劇のヒーローのような顔を作って私を指差した。
「貴様のやっていることは、ただの守銭奴の暴挙だ!貴族たる者『ノブレス・オブリージュ』を持ち、民のために利益を分かち合うのが当然であろう!それを自領の利益ばかりを優先し、他領を苦しめるとは言語道断だ!」
レオンハルトの演説に、王太子の派閥の貴族たちから「その通りだ!」と拍手が起こる。
続いて、騎士カイルが一歩前に出た。
「我が騎士団の武具の整備にも、お前の領地から仕入れている特殊な鉄鋼が不可欠だ。それを二倍の値段にするなど、王国の防衛を危険に晒す反逆行為だぞ!」
さらに魔術師セリウスが、眼鏡を押し上げながら知的なフリをして語り出す。
「魔法学院の研究機関も、ヴァルシュタイン領産の純度の高い魔石を必要としている。君の個人的な嫌がらせで学問の発展が遅れれば、それは人類の損失だよ」
最後に、聖職者ノアが慈愛に満ちた(ように見える)笑みを浮かべて言った。
「エリザベート様。富を独占することは、神の教えに反します。どうか悔い改め、全ての民に無償で物資を提供する『愛』を見せてください」
四人の発言が終わると、議事堂はまるで彼らが正義の使者であるかのような空気に包まれた。
「さすが王太子殿下だ」と、貴族たちが頷き合っている。
「……なるほど。言いたいことはそれだけですか?」
私が呆れたようにため息をつくと、レオンハルトが勝ち誇ったように鼻を鳴らした。
「反論できないようだな…。どうだ、自分の強欲さを恥じ入ったか?」
「いいえ。あまりにも中身の無いおままごとのような主張に、どこからツッコミを入れるべきか迷っていただけですわ」
私はパチン、と扇を閉じ、彼らを冷たく見据えた。
「『天才』の肩書きが泣きますわよ、あなた方。そんな幼稚園児の道徳のような精神論で、この国を動かせると思っているのですか?」
「な、なんだと!?」
私はルーファスに目配せをした。
彼は薄く笑いながら、公爵領の分析チームが徹夜で作成した王家の財務データを神にしたものを、ドサリと証言台の上に積み上げた。
「それでは、現実のお話をいたしましょうか。……全員、その浅はかな理想論ごと、完璧な経済データでへし折って差し上げますわ」
私は冷酷な笑みを浮かべ、公開処刑の準備を整えた。
【続く】




