第20話 直接つながる者
第20話です。
先週の小会議室の続きです。
波多野くん、月曜からだいぶ胃が重いです。
今回は木曽谷の再確認と、神務庁の中でもかなり重い区分の話が少し出ます。
よろしくお願いします。
第20話 直接つながる者
月曜の朝が重かった。
月曜だから、ではない。
先週、榊課長に小会議室へ呼ばれた。
水上様案件について。
非ログ所見について。
自分が何を聞いたのかについて。
榊課長は怒っていなかった。
声を荒げたわけでもない。
処分を告げたわけでもない。
ただ、記録する人の顔をしていた。
何を聞きましたか。
願いましたか。
あの問いが、週末を挟んでも消えなかった。
波多野承平は答えた。
答えられる範囲では答えた。
水の音を聞いたことも、あの場で感じたことも、言葉にできるところまでは話した。
けれど、言わなかったことがある。
あぶさんのこと。
リュックの中にいる白い狐。
名前を呼べば返事をする存在。
花川戸でも、水上様の現場でも、ずっと近くにいた存在。
榊課長は、自分を記録し始めている。
その記録に、一番大事なものが入っていない。
だから、月曜の朝が重かった。
「……行きますよ」
玄関先で、波多野は小さく言った。
リュックの中から返事はない。
けれど、重みだけはあった。
霞が関の官庁街を歩く。
高いビル。
広い道路。
信号待ちをするスーツ姿の人たち。
警備員。
黒塗りの車。
どれも先週と同じだった。
違うのは、自分の方だった。
ビルとビルの隙間に、朱の色がほとんど剥げた小さな鳥居がある。
波多野はその前で足を止めた。
職員証を取り出し、鳥居の柱に取り付けられた小さな黒い読み取り機にかざす。
ピッ。
場違いなくらい軽い電子音が鳴った。
続けて、鳥居の前で軽く一礼する。
ICカードだけでは入れない。
祈るだけでも入れない。
いかにもこの役所らしい仕組みだった。
鳥居の下、真ん中ではなく左端を通る。
敷石の三枚目で、一度だけ足を止める。
景色が、こちらの認識から一枚剥がれる。
鳥居の奥に、細い参道が現れた。
その先にあるのは、古びた神社ではない。
ガラス張りの低層庁舎だった。
入口の上には、小さくこう刻まれている。
内閣府外局 神務庁。
背中のリュックが、かすかに重かった。
INARI運用課のフロアに入ると、すでに端末の起動音と紙をめくる音が混じっていた。
榊課長は自席にいた。
背筋を伸ばし、画面に目を落としている。
「おはようございます」
「おはようございます、波多野さん」
榊課長は顔を上げた。
表情は変わらない。
先週の小会議室の続きが、顔に出ているわけではない。
それが、かえって怖かった。
「木曽谷系統の件、動きがありました」
榊課長は、朝の挨拶と同じ温度で言った。
「保守班から、原因および応急対応後の報告が上がっています」
「はい」
「原因は、道路工事と砂防関連工事に伴う仮設導線の変更。末端観測点から地域側中継点へ上がる経路に、一時的な乱れが出ていた可能性が高い、とのことです」
榊課長が共有画面を開く。
木曽谷系統。
長野県南部。
山側、旧道、集落、末端稲荷。
画面には、保守班の報告が並んでいた。
古い生活道と水路跡の周辺で、末端側からの情報の上がり方にズレが出ていた。
保守班は、仮補正と末端側の再同期を実施。
恒久対応は、工事進捗と地元祠管理者への確認後に検討。
説明がつく。
波多野は、少しだけ息を吐いた。
画面で見える。
人の作業で直せる。
少なくとも、今回の木曽谷はそういう案件として戻ってきた。
「通常画面で、戻り方を確認してください」
「はい」
「それと」
榊課長は一拍置いた。
「非ログ所見も残してください」
波多野の指が、わずかに止まった。
「非ログ所見、ですか」
「はい」
榊課長は波多野を見た。
「先週お伝えした通りです。今日からは、あなたの非ログ所見そのものを観測対象にします」
観測対象。
その言葉が、端末の光より冷たく聞こえた。
「木曽谷の判断根拠にするためではありません。通常ログ、保守対応、あなたの反応。その前後関係を並べて確認します」
「……分かりました」
「何を見たか。何を聞いたか。何を感じたか。その前にどの画面を見ていたか。何を思ったか。可能な範囲で時刻も残してください」
榊課長の声は淡々としていた。
「これは処分ではありません」
波多野は顔を上げた。
「課長管理下の経過観察です」
処分ではない。
そう言われて、軽くなるはずだった。
けれど、波多野の胃は軽くならなかった。
課長管理下。
経過観察。
やはり、自分は記録される側になっている。
波多野は席に着き、端末を立ち上げた。
リュックは、自席の足元に置いた。
木曽谷系統の画面を開く。
先週黄色だった箇所に、少しずつ緑が戻っていた。
完全復旧ではない。
だが、未達の山は明らかに低くなっている。
末端観測点別の収集率。
中継遅延。
再送成功率。
旧道周辺の反応低下。
保守班の応急処置は効いている。
そこまでは、画面で分かった。
波多野は記録欄に入力する。
保守対応後、末端情報収集率は改善傾向。
旧道・水路跡周辺の未達反応は低下。
仮補正後の再送成功率に改善あり。
そこまで書いて、手が止まった。
通った。
そう思ってしまった。
数字とは別に、耳の奥で何かがほどけるような感じがした。
細い糸が、いったん迷って、それから本来の道に戻るような感覚。
声が聞こえたわけではない。
水上様の時のような音でもない。
ただ、詰まっていたものが抜けたような感じ。
波多野は、画面の右下の時刻を見る。
九時四十七分。
非ログ所見欄を開く。
何を感じたか。
その前に何を見たか。
何を思ったか。
榊課長の言葉を思い出しながら、波多野は入力した。
九時四十七分。
末端観測点別収集率および再送成功率を確認中、旧道周辺の反応について、滞留感が低下したように感じた。
音声・言語としての聴取なし。
「通った」という感覚あり。
直前に保守班の仮補正報告を確認しており、通常画面上の改善傾向との切り分けは困難。
そこまで打って、波多野は足元のリュックを見た。
あぶさんは静かだった。
これは、あぶさんのことを書いているわけではない。
自分の感覚を書いているだけだ。
でも、それでいいのか。
あぶさんがいることを書かないまま、自分の感覚だけを記録に出している。
記録は増えていく。
核心だけが抜けたまま。
波多野は保存ボタンの上で指を止めた。
消すか。
そう思った。
だが、消せば、何も残らない。
榊課長は、見なかったことにするつもりはないと言った。
自分だけが見なかったことにするのは、もっと悪いのではないか。
波多野は、小さく息を吸って、保存した。
「確認できました」
榊課長に報告すると、榊課長は波多野の記録を開いた。
しばらく黙って読む。
「午前の確認時刻、保守対応後の数値、非ログ所見の発生時刻。残っていますね」
「はい」
「“通った”と感じたのは、末端観測点別の収集率を確認している時ですか」
「はい。再送成功率も見ていました」
「音として聞こえたわけではない」
「今回は、違います。音というより、詰まっていたものが抜けた感じです」
「その直前に、保守班の仮補正報告を読んでいますね」
「はい」
「では、通常画面上の改善傾向に影響を受けた可能性もある」
「あります」
榊課長は頷いた。
「その書き方で構いません」
波多野は、少しだけ肩の力を抜いた。
「非ログ所見を判断根拠にしていない。通常ログとの切り分け困難とも書いている。現時点では、参考所見として残せます」
「はい」
「午後にも一度見てください。応急処置直後の戻りだけではなく、数時間後の安定も必要です」
「分かりました」
「同じように、通常ログとあなたの反応を並べてください」
榊課長は画面を閉じた。
「木曽谷を見ているのではありません」
波多野は、一瞬意味が分からなかった。
榊課長は静かに続ける。
「木曽谷は、保守班と通常ログで処理できます。あなたに確認してもらっているのは、木曽谷を見た時のあなたの反応です」
波多野は、返事が遅れた。
「……はい」
分かっていたはずだった。
榊課長は最初にそう言っていた。
それでも、改めて言われると、足元が一段沈むような感じがした。
木曽谷を見ているつもりだった。
見られているのは、自分だった。
***
昼前になって、波多野は売店へ向かった。
食堂で座って食べる気にはなれなかった。
パンかおにぎりを買って、自席で済ませるつもりだった。
リュックは自席の足元に置いてきた。
神務庁の中で、あぶさんから目を離すのは落ち着かない。
けれど、売店までの短い往復にまでリュックを抱えていくのも、それはそれで目立つ。
これまでも、そうしていた。
短い打合せやコピー、給湯室に行くたびに、いちいちリュックを持って歩いていたわけではない。
だから、置いてきた。
ただ、それを自分に言い聞かせている時点で、普通ではないのかもしれない。
売店の手前で、波多野は足を止めた。
廊下の向こうから、大柄な男が歩いてきた。
怒っているわけではない。
声を荒げているわけでもない。
ただ、その男の周囲だけ、空気が少し乾いていた。
壁に貼られた掲示物の端が、空調とは違う揺れ方をする。
近くを歩いていた職員が、無意識に半歩だけ進路をずらす。
男は、缶コーヒーを片手に持っていた。
ただ廊下を歩いているだけだった。
それなのに、廊下の空気の方が男を避けているように見えた。
「荒岩さん、今日ピリピリしてるな」
横から声がした。
境界対策課の道上主任だった。
片手に紙パックのコーヒーを持っている。
「あれが荒岩課長なんですね。」
「そう。たまに補償申請とかいくでしょ、あの人のことだから」
「書面ではたまに見ますが…あの感じ、怒ってるんですか」
「違う違う。現場帰り。荒御魂相手にした後は、しばらく残るんだよ」
「残る?」
「神気。あの人、須佐男系の強適合者だから」
強適合者。
その言葉は、初めて聞くものではなかった。
先週、榊課長も言っていた。
未登録神威行使疑いとして上げることも、稲荷系強適合者として上げることもできる、と。
だが、道上主任が荒岩課長に向けて使う「強適合者」は、波多野が言われたそれとはまるで質感が違った。
荒岩の周囲では、空気が乾いている。
掲示物の端が、空調とは違う揺れ方をする。
近くの職員が、無意識に半歩だけ進路をずらす。
漏れている。
道上主任の言葉は、大げさではなかった。
「神威を使ってるんですか」
「今は使ってない。漏れてるだけ」
「漏れてる」
「本人も抑えてるよ。抑えてあれ」
道上主任は、荒岩の背中を見送ってから、少し声を落とした。
「ただ、あれでも直接契約者ってわけじゃない。少なくとも、俺が知ってる区分ではね」
「直接契約者」
波多野が繰り返すと、道上主任は軽く眉を寄せた。
「……まあ、廊下でする話じゃないんだけど」
「そういう人が、いるんですか」
道上主任は、周囲を一度見た。
「いる。少ないけど」
「直接契約者」
「普通の神務官は、神務庁が神格と結んだ契約を、資格と決裁とログの範囲で使う。俺の道開きもそう。荒岩さんの須佐男系も、基本はその枠の中」
「直接契約者は違うんですか」
「本人と神格が直接つながってる」
本人と神格が、直接。
波多野は、反射的に自分の足元を見そうになった。
そこにリュックはない。
自席の足元に置いてきた。
売店までの短い往復だ。
普通なら、それでいい。
それなのに、肩に残っていないはずの重みだけが戻ってきた。
「だから扱いが別。認定して、登録して、管理する。使い方によっては、国家安全保障の話になる」
「国家安全保障」
「大げさに聞こえるだろ。でも、人ひとりが神格と直接つながってるって、そういうことだよ」
道上主任はそこで話を切った。
「ま、俺が廊下で詳しく話すことじゃない。忘れて」
「忘れられますか、それ」
「だよねえ」
道上主任は苦笑した。
「でも、必要になったら、ちゃんと上から説明がある。俺の雑談で覚える話じゃない」
そう言って、道上主任は紙パックのコーヒーを軽く振った。
「じゃ、無理しない程度に月曜やってね」
道上主任は、そのまま廊下の先へ歩いていった。
波多野は、売店の前に立ったまま、しばらく動けなかった。
荒岩は直接契約者ではない。
少なくとも、道上主任が知っている区分ではそうなのだろう。
それでも、あれだけ空気が変わる。
では、自分はどうなのか。
おそらく荒岩のようには漏れていない。
廊下の空気を乾かすこともない。
誰かが半歩避けることもない。
だから違う。
そう思おうとして、違う、と分かった。
漏れていないわけではない。
白い線。
願いと反応の近さ。
水上様の現場で、榊課長が確認したこと。
木曽谷の画面を見ている時に、自分だけが「通った」と感じたこと。
榊課長は、そこを見ている。
ただ、荒岩のようには出ていない。
たぶん、自分から出ているものは、もっと細い。
見えにくくて、言い訳もしやすい。
そして、おそらくあぶさんがそばにいる時は、さらに薄くなる。
水上様の現場で、あぶさんは自分の感覚を少し鈍らせた。
拾いすぎないように。
壊れないように。
それだけだったのか。
それとも、こちらから漏れるものも、抑えていたのか。
波多野は、自席の足元に置いてきたリュックを思い出した。
あぶさんは稲荷神そのものではない。
稲荷の使いだ。
だから、直接契約者そのものではない。
そう思おうとした。
けれど、名前を呼んだ。
呼べば応える。
花川戸でログを整えた。
水上様の現場にもいた。
そして、その存在を、榊課長に言っていない。
榊課長は自分を記録し始めている。
木曽谷の再チェックも、木曽谷のためだけではなかった。
通常ログ、保守対応、自分の反応。
それらを並べて、自分の非ログ所見そのものを観測対象にする。
だが、その反応を抑えているかもしれない白い狐は、記録にいない。
認定されていないなら違う。
そうではない。
似ているなら、認定されていないことがまずい。
波多野は、売店でおにぎりを二つ買った。
何の味を選んだのか、席に戻るまで覚えていなかった。
午後、波多野はもう一度、木曽谷系統の画面を開いた。
榊課長に言われた通り、応急処置から数時間後の安定を確認する。
黄色はさらに減っていた。
緑が戻っている。
未達件数も下がっている。
完全復旧ではないが、少なくとも「声が迷子」だった状態は、かなり解消されているように見えた。
波多野は記録欄に入力した。
十四時二十二分。
保守対応後、末端情報収集率は改善傾向を維持。
数時間経過後も大きな再低下なし。
恒久対応については保守班および地域側確認待ち。
そこまで書いて、非ログ所見欄を開く。
通った感じは、午前より薄くなっていた。
それは、消えたというより、わざわざ聞こうとしなくてもよくなった、という感じに近い。
波多野は少し迷ってから、入力した。
午前時点の「通った」感覚は、午後確認時には低下。
明確な音声・言語としての聴取なし。
通常画面上の改善傾向と併せ、滞留感の低下として認識した可能性あり。
非ログ所見としては継続観察に留める。
保存する。
午前よりは、少しだけ手が震えなかった。
「午後分、確認しました」
榊課長に報告すると、榊課長はまた波多野の記録を開いた。
今度は午前ほど長く沈黙しなかった。
「午後時点では、非ログ所見は弱まっている」
「はい。午前より、はっきりしませんでした」
「通常ログの改善は維持されている」
「はい」
「分かりました。木曽谷系統については、保守班の恒久対応待ちに戻します」
榊課長はそこで一度言葉を切った。
「あなたの反応については、今日の記録を残します」
「……はい」
「今後も同じ形式です。何かを感じた場合、消さずに残してください。ただし、通常ログとは混ぜない。判断根拠にする場合は、別の確認手段を置きます」
「分かりました」
「それと」
榊課長は波多野を見た。
「答えにくいことがある場合は、答えにくいと記録してください」
波多野は息を止めた。
「沈黙は、後から追えません」
静かな声だった。
榊課長が、あぶさんのことを知っているわけではない。
そう分かっているのに、胸の奥を掴まれたような気がした。
「……分かりました」
「今日は以上です」
榊課長は画面に戻った。
波多野は自席に戻った。
答えにくいことがある場合は、答えにくいと記録する。
沈黙は、後から追えない。
その言葉が、午後の端末の明かりよりも長く残った。
終業後、波多野はまっすぐ帰れなかった。
庁舎内の人の流れを避けるように、非常階段前の踊り場へ向かう。
リュックは肩にかけていた。
もう自席には置いていない。
窓の外は、夕方の霞が関だった。
ビルの影が伸び、車の音が遠くに聞こえる。
波多野はリュックを下ろした。
「あぶさん」
小さく呼ぶ。
リュックの口元が、少しだけ動いた。
「なんじゃ」
いつもの声だった。
軽くて、古くて、どこか人を食った声。
波多野は、しばらく黙った。
何から聞けばいいのか分からなかった。
直接契約者なのか。
適合者なのか。
未登録神威行使者なのか。
そもそも、あぶさんは神格ではないのだから、その言葉は違うのか。
制度の言葉は、昼からずっと頭の中を回っている。
認定。
登録。
管理。
記録。
榊課長は自分を記録し始めている。
でも、自分はまだ、あぶさんを記録に出していない。
「僕は」
声が、少し掠れた。
「僕は、何なんですか」
あぶさんは、すぐには答えなかった。
踊り場の蛍光灯が、小さく鳴っている。
庁舎の奥から、誰かの足音が遠く聞こえた。
「人間の分類は知らん」
あぶさんは言った。
波多野は、黙っていた。
「直接じゃの、間接じゃの。認定じゃの、登録じゃの。人間は名札を増やすのが好きじゃ」
「でも、名札がないと、ここでは扱えません」
「そうじゃろうな」
あぶさんは、あっさり認めた。
「だから、怖いんです」
「何がじゃ」
「名前を間違えられることも、名前がないことも」
波多野はリュックの口元を見た。
「榊課長は、僕を記録しようとしています。でも、僕はあなたのことを言っていない」
あぶさんは笑わなかった。
「言えばよかったか」
「分かりません」
「言わねばよかったか」
「それも、分かりません」
「なら、まだ分からんのじゃろう」
波多野は息を吐いた。
「道上主任が、直接契約者の話をしていました」
「ほう」
「あぶさんは神様じゃありません。稲荷の使いです。だから、違うと思います」
「そう思うなら、そう思えばよい」
「でも、名前を呼んだのは僕です」
その言葉だけが、すんなり出た。
白い狐に名前をつけた。
油揚げから連想した、くだらない名前。
それなのに、あぶさんはその名で返事をした。
あれから、ずっといる。
あぶさんは、少しだけ尾を揺らしたようだった。
リュックの中で、布がこすれる音がした。
「そうじゃ」
あぶさんは言った。
「名を呼んだのは、おぬしじゃろう」
波多野は、何も言えなかった。
それは答えではなかった。
少なくとも、神務庁の記録欄に書ける答えではない。
けれど、逃げ道でもなかった。
直接契約者。
認定。
登録。
管理。
記録。
どの言葉も、まだ波多野のものではない。
でも、まったく関係ない言葉として片づけることも、もうできない。
月曜は終わろうとしていた。
それでも、先週の続きは、まだ終わっていなかった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
第20話でした。
波多野が少しずつ「自分が記録される側になっている」ことを自覚していく回です。
荒岩課長も久しぶりに少しだけ登場しました。
彼は波多野とは違う強適合者ですが、神気がだいぶ漏れています。一方で波多野の場合、あぶさんがおそらく外に出るものを抑えています。
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