第90話 面接
暗黒闘技場には多種多様な魔獣が捕らえられていた。比較的、丁重に扱われていたのは目に見えて分かるものの、やはり見せ物ということもあって、目を背けたくなるような傷を負う魔獣もいた。
込み上げてくるのは怒りとは違った感情だった。
食物として処理されず、戦うことで人々を満足させていたからこそ延命できた。こうして解放できたのも、ここを運営していた毛利広島のおかげだ。恨み辛みを並べるよりも頭を下げて感謝しなければならない。
とはいえ、当の本人は闘技場内におらず、白軍の管理下にあった。彼らを支配した今となっては魔獣サイドが掌握したといっても過言ではなく、『攻略者狩り』の戦力の一部としてカウントすることができる。ただ、強制するよりも厳選したメンバーを徴収したく、骨のありそうな魔獣を面接することになった。
『…………』
目の前の檻の中にいるのは赤褐色の毛並みが特徴的なキツネ型の魔獣。前世の記憶を有している『回帰種』か、前世の記憶がない『忘却種』かは今のところ不明だった。スカウトする上でどちらの種であるかは主眼に置いてないが、意思疎通を図るためにも現実世界の情報が通じる『回帰種』の方がありがたかった。
『面接はこのわたくしエミリアが担当させてもらいますが、念のため名前を伺わせてもらってもよろしいでしょうか?』
神経を逆撫ですることがないように細心の注意を払いつつ、種の二択を絞るための質問をぶつける。
『あぁ、俺か? 名前はモミジだよ』
気怠そうな物言いで彼は名乗るものの、目を背けており、見るからに心を閉ざしているのかが一目見て分かる。聞いた印象だと、モミジは恐らく偽名であり、種の二択を絞り込むことはできなかった。
『モミジさんですね。単刀直入に申し上げますが、『攻略者狩り』に参加されるおつもりはありますでしょうか?』
『はっ。面接官が言う台詞か? 参加を強制する前提で話を進め、使えるかどうかを見定める質問をした方が建設的だと思うぜ』
質問に対しモミジは、斜に構えた態度でアドバイスを添えている。ある意味で想定通りの反応であり、指摘はごもっとも。彼が発した前世混じりの言葉は十二分に伝わった。『回帰種』の線が濃厚と思っていいだろう。
『では、参加されるおつもりとして話を進めますが、戦闘における長所と短所をお聞かせ願っても?』
『長所は近距離戦、短所は遠距離戦。意思能力は企業秘密だ』
『これまでに得た最大の成果は?』
『毛利広島と出会えたこと』
『あなた自身で成し遂げた功績を一つ挙げるなら?』
『暗黒闘技場の建設に携わったこと』
『闘技場にいる魔獣の中ならどれぐらいの強さだと自負されている?』
『上から四番目ってとこか。『三王』にはさすがに劣るよ』
順調に質疑応答を重ね、おおまかな彼の全体像が浮かび上がる。過度に自己評価が高いというわけでもなく、自分の実力を客観視できているように感じた。この時点で最前線メンバーに採用したい意欲は高まっているものの、どうしても気になる点があった。
『毛利広島と敵対した場合、殺せますか?』
魔獣内での敵か味方かを見定める決定的な質問であり、場の雰囲気が一段と重くなったのを感じる。場合によっては敵対する覚悟も視野に入れていた。
『そいつは厳しいな。少し考えりゃ分かるだろ。最大の成果に対して俺はなんて答えた。相手の感情を読み取る力がねぇのか?』
『……そもそも、『攻略者狩り』に参加する気はないと?』
『いや、それとこれとは話が別だ。今の質問は毛利広島に関してのことだろ。『攻略者』に限定したわけじゃない』
『つまり、毛利広島だけ例外で、他は殺して構わないと?』
『そう思ってもらって構わんよ。見せ物にされた恨み辛みもあるわけだしな』
ふむ。彼なりの筋は通っているし、話に一貫性もある。恩義がある毛利広島だけを抹殺対象から除けば、こちらの言う事も素直に聞いてもらえるだろう。そもそもとして最前線には群れを引き連れていくつもりはなく、『攻略者』の勝手知ったる者を一匹を採用して連れ従え、残りは暗黒闘技場で待機させる予定だった。欲を言えば『三王』レベルの実力者であれば良かったが、必要要件は満たしている。
『採用します。達成報酬に関してですが……』
『一部攻略者を生け捕りにして、闘技させるってのはどうだ』
◇◇◇
「…………」
ターニャの拳によって成仏したゲオルクは、雲の上にそびえたつ大門を見つめていた。人間界に通じる唯一の通行手段であり、決して開くことはないという矛盾を抱えている。ここを通って天国にたどり着いたのか、死後の魂を歓迎するために用意されたモニュメントなのかは判別がつかない。
ともかく、天国の知識が正しければ、魂の純度に応じた階層分けが行われ、案内人に次の目的地を先導されるはずだった。
「――」
そこに降り立つのは白い衣を纏う女天使。見覚えのある人物であり、童顔で背丈は小さく、桃色髪をハーフアップにしている。髪色こそ違うが瓜二つの存在であり、口に出さずにはいられなかった。
「お前は……ターニャ?」
「久しぶり。というか、また会ったね」
時間軸にズレがあるのか、両方の目線に配慮した挨拶をしている。
「どうしてここに……」
「んなことより、今の天界はてんやわんや。大天使二名が派閥争いによって戦争を起こしている真っ最中で、階層分けが全くもって機能してない」
「私にどうしろと?」
「聖王戦に協力して。見返りに権能与えるからぁ!」
両手合わせ、ターニャ(仮)は懇願する。今のところ全容は全く見えてこないが、あの世でも退屈せずに済みそうだった。




