↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナロト奇譚  作者: 木山碧人
第十二章 ナロト攻略

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
86/115

第86話 仇討ち

挿絵(By みてみん)





 オレグとは特別に仲が良かったわけじゃない。敬語を交えない間柄ではあったけど、なんでも打ち明けられるような気心の知れた関係じゃない。友達と同僚のちょうど中間ぐらいに位置していて、コサック部隊内なら平均よりやや上程度。一番ではないけど、百番以内には入るかな程度。部隊の総数は300名弱だから、仲の良い上位グループには属していても、上位の枠に入るか入らないかのギリギリにいる存在だった。


 同じ部隊内で人間関係に優劣をつけるべきじゃないのは分かってる。でも、相手に思ったことをそっくりそのまま伝えたわけじゃないし、心の中で何を考えていようと自由だ。そもそもとして、人類と等しく仲良くなれなんてのは無理な話だし、口では言わないだけで関係者の品定めを行っている人の方が多いはずだ。


 あ、いや……今のは違うな。ちゃんとした根拠やデータがあるわけじゃないから、誰かの心の中を勝手に決めつけるべきじゃない。あくまで自分の脳内に留めるべき問題で、無意味に主語を大きくして自己正当化するのは心の弱い人間がすることだ。根拠に欠ける妄想に囚われることなく、目の前の問題と正面からキチンと向き合わなきゃいけない。


「僕の仇は……取ってくれよ」


「……YES(ダー)


 目の前で繰り広げられる惨劇を受け止め、思った以上にオレグが大きい存在だったことに気付かされる。だけど、今更気付いても遅いし、何か口にしたところで彼が助かるわけじゃない。今はただ……。


「――――」


 地面を蹴りつけ、感情のままにオレグの仇へと飛び膝蹴りを放った。


 ◇◇◇


「…………」


 ゲオルクは迫り来る飛び膝蹴りを両手の掌を重ねるようにして受け止める。目隠しの状態でも感じ取れるほどの濃厚な負のセンス。封じたはずの悪意が取り戻されたと思って間違いなく、センスの有無による戦力差はなくなったと思っていい。


 問題は、力の押し引きが発生した場合、どちらが勝つか。


「――ッッ」


 単純な攻防は相手に軍配が上がり、両手が吹き飛んだのを肌で感じる。膂力で劣っているはずもなく、センスの出力で筋力不足をカバーし、補って余りある熱量が原理種の両腕を欠損させるに至った。頭では理解できるが、いざやってみろと言われて軽々しくできる芸当ではない。これでも人類の平均寿命の数百倍は生きており、センスは雪だるま方式で増え続ける性質上、大多数の使い手には力勝負だけで押し勝てる自信があった。


 それなのに、これだ。


 センセーショナルな出来事が重なり、爆発した感情がセンスに直結したのは理解できるが、それを織り込んだ上でも押し負けるとは思いもしなかった。才能の有無や意思の力がどうこうの小手先の話では説明がつかず、もっと根本的な何かが根っこにある気がしてならない。


 例えば……。


「悪意の、原理種」


 両腕を再生し終えたと同時に、ゲオルクは予想を口にする。悪意の始まりではないだろうが、始まりを受け継いだ可能性は極めて高い。というのも、『起源』と『原理』は全くの別物であり、『起源』は物事の始まりである必要があるが、『原理』は必ずしも物事の始まりでなくともよい。『起源』と因果関係で結ばれていれば『原理』は成り立ち、東洋風に解釈するならこれを『妖術』と呼んでいる。


 『妖術』は『起源』の『原理』を引き継いだ状態を示す用語だ。『起源』と接点さえ持つことができれば、現代人でも『原理』に到達することが可能となり、彼女も例に漏れないだろう。それを使いこなせるかどうかに個人差が出るが、今の攻防を『原理』に到達した結果の押し負けと仮定するなら納得がいく。その上で、いかに出し抜くかが重要となるが、個々の実力や技量をいったん無視し、互いの特性などを差し引いて考えた場合、残るものが一つだけある。


 『吸血鬼』と『悪意』、どちらが言葉として強いかだ。


 『原理』は基本的にそれ以上分解できない言葉で構成されており、抜きん出た差を生むポイントは各々が抱く印象やイメージにある。『吸血鬼』の方が強いと思えば自然とそうなり、『悪意』の方が強いと思えば自然とそうなる。


 問題は、誰の視点を参照しているか。


 これでも人より長く生きているが、答えはハッキリしない。『怪異の城(アーサーブルク)』に住んでいた都合上、『原理種』との戦闘も日常的に経験しているが、興味関心は別のところに注がれていたため、大して気にしていなかった。ただ恐らく、多当人同士のイメージを平均化したものか、人類のイメージを平均化したものの二択であり、言葉の強さだけを考えれば『悪意』が上だと判断せざるを得ない。


 『吸血鬼』は限定的だが、『悪意』は普遍的な概念だ。誰しもが抱く感情であり、意思を持つ生命体の全てに内包されていると思っていい。言葉の強さだけで優劣を決めるなら完全な上位互換。一種族を示す『吸血鬼』が敵うはずがない。


 そう思ってしまう時点で分が悪い戦いなのだろうな。再生能力があるからといって安心できる相手ではなく、一瞬の油断が命取りになる。不老不死に思える『吸血鬼』にも弱点は存在し、気付かれればあっけなく敗北する未来が見えた。


 とはいえ、どちらにせよ、この戦闘が終われば死ぬ運命。勝っても負けても『生涯最後の最高傑作(スワンソング)』は命を奪う。マーリンとの結託も反故になった以上、死後も安泰とは言えず、お先は真っ暗だ。


 だが、どうしてか、不思議と心が躍っている。長い人生において一、二を争う好敵手を前にして、乾き切った感情に火がつこうとしている。これを幸福と言わずになんと表現しよう。勝つにしろ負けるにしろ、人生の終幕を華やかに彩る相手であり、必ずしもそのような機会が訪れるとは限らない。


 今はただ……。


「――竜槍ドラクル・ランツェ!!」


 生涯最後の戦闘を味わい尽くそう。


 ◇◇◇


 両腕を回復した吸血鬼は相も変わらず、両の掌からセンス産の槍を創造し、射出する。一本や二本なら問題ないけど、数が尋常じゃない。弾幕を張るレベルで槍が無数に飛び交い、空中で衝突し、予期せぬ軌道からも襲い来る。今までならパニクってやられてただろうけど、似たような技で事前に学習済み。というか、これに関して言えばエリーゼの方が上手かった。


「……、…………、………………」


 身をひねり、縦横無尽に地面を蹴りつけ、迫り来る槍を難なく躱す。自己評価で及第点を上げられるほどの動作だったけど、さすがは吸血鬼の原理種。懐を詰めさせることは許さず、上手い具合に間合いを管理していた。中遠距離を徹底し、分が悪そうな体術を避けるつもりなんだろう。戦術としては理に適っているし、このまま維持されたらこちらとしても辛いものがある。


 だけど……!


「――――」


 移動と回避を兼ね備え、螺旋状に回転しながらターニャは跳躍する。身に纏うセンスが空気の流れに干渉し、ひいては槍の軌道を乱す。自身を中心に発生した竜巻のように機能し、それがそのまま吸血鬼の方に直撃した。


 派手な必殺技なんていらない。相手の人生を華やかに散らせてあげるなんて、こっちから願い下げ。吸血鬼の弱点を攻略し、満足ゆく耽美な死を与えることだけは絶対に避けなければいけない。その上で描いたプランはこうだ。


「煉獄の成層圏を抜けた先にはあるのは天国。神々の理の前に朽ち果てろ!」


 ターニャは赤い空に吸い込まれる吸血鬼を見上げ、復讐が完遂される瞬間を心待ちにしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。