第81話 十二の超常
おさらいしよう。ジーナが魔獣化状態3によって披露した能力のテーマは『不確実性』だ。世界終末を予言する『シビュラの書』に記された十二章立ての構成をモチーフとし、章ごとの能力を行使できるらしい。能力発動の触媒となっている黒羽根は12枚中7枚が消費されている。内訳はこうだ。
・『忘却』
・『回帰』
・『槍の雨』
・『時空の魔眼』
・『触手』
・『反意思防御機構』
・『白い牙』
そのうちの『忘却』、『回帰』、『槍の雨』、『時空の魔眼』、『白い牙』は見聞きしたことがあり、残り二つの『触手』と『反意思防御機構』に関しては全く身に覚えがなかった。
再現できるのは章ごとに一つまでと考えるべきで、すでに使用した7つに該当する章から引用されることはないと思っていい。特に『忘却』に紐づく『王位継承戦』、『槍の雨』に紐づく『ナロト攻略』、『白い牙』に紐づく『ストリートキング』からは別の技が登場することはないはずだ。
どれがどの章に位置しているのか分からないけど、考えるべきは未登場の章から引用されるであろう超常現象。残り5つの章にはいくつか心当たりがあり、ジーナに採用されそうな技をある程度は予想することが可能だった。
・毛利広島の『完全結晶』。
・リーチェの『永劫回帰』or『日輪羅針』。
・レオナルドの『虚空刃冥府』。
この辺りを再現されたら非常に厄介だな。他にも候補はあるけど、これ以上考えてもキリがないというか、選択肢を絞った方が精度の高い反応ができる気がした。
「白き神の堕天か。ブラックボックスの多い領域だな。いくらレベルアップしたとはいえ、今のお前が御し切れるようには思えないんだがな」
対するジーナは右手中指に親指を軽く添え、こちらの変化に見当をつけている。まぁ、知ってるに決まってるよな。覚醒都市で至った状態なわけだし、感覚系意思能力者かどうかを抜きにして、都市民の大半は知っている。
ただ、彼女の言った通り、能力は未知数であり、力の大半は白き神に依存する。浸かっている自分自身、何ができて何ができないのかも分かっておらず、『不確実性』そのものを身に纏っているようなものだった。
だからこそ、ジーナが展開する『反意思防御機構』を打ち破る可能性を秘めている。
「俺の限界を第三者が勝手に決めるな。何事もやってみなければ分からない!!」
体表面を覆うセンスの色が銀から黒へと変わっている。悪意というものらしいけど、詳しくは知らない。リーチェに教えを乞うても、『今はまだ早い』の一点張りで結局のところ分からずじまい。得られるメリットもデメリットも把握できないまま扱うことになる。
ただ、ポジティブに考えるなら、詳細不明=底知れずということだ。自由に解釈することもできるし、常識に縛られて可動域を削られずに済む。その分、暴走したり不測の事態を招く可能性もあるんだけど、全部を織り込んだ上でもやらない理由は見当たらなかった。
「そういうと思ってたよ。じゃあ、早速――」
「超原子……」
指を鳴らそうとしたところに距離を詰め、ジェノは右拳にセンスを集中させる。鎧を纏っているおかげで爆発を警戒して余分にセンスを割く心配はない。『反意思防御機構』に阻まれる恐れもあったけど、それに悪意がどこまで適用されるかは未知数だった。
「……っ」
余裕あり気に振る舞っていたジーナの表情が初めて揺らぐ。許容量を超えたセンスだったのか、悪意の詳細を知らないことで付与された何かに気付いたのか。何にしても、怯みを見せたのは確かであり、明らかに警戒している。回避したいのは山々なんだろうけど、黒羽根で構成される円の外側に出れば、恐らく残り5つの超常現象を再現できない。範囲を限定したことによって強化された異能であり、都合よくバンバンと扱うことはできないと読んでいる。
「なんてな」
多少の手心を加えようかと思った矢先、ジーナは高らかなトーンで言い放ち、中指を鳴らす。右拳が届くよりも早く、それは巻き起こった。
「……っっ!!」
見る見ると右拳の輝きが失われ、身に纏っていた悪意が目減りしていくのを肌で感じる。これじゃあ生身の拳で殴っているのと同じだ。大してダメージは与えられないし、それに何より……。
「七星螳螂拳――【輝巨星】……だったか。能力は至ってシンプルだ。相手のセンスを奪い取り、使用者の力に変える。まぁ、発せられた顕在センスのみが対象らしく、お前が有する全てを奪ったわけじゃないが、だとしても痛手だろ。俺の見立てだと、今の一発で全体の四分の一ほどの力が込められていたはずだ。今までの戦闘も考慮すると、センス残量は50%ってところか。今と同程度の技を後二回打てたらいいほうで、鎧を維持するために余力を残すなら後一回が限度。それでどうやって対処する。降参するなら今のうちだぜ」
ジーナのスタンスは変わらず、拳でなく、心を折りにきている。どういう思惑か分からないけど、参ったと言わせたいらしい。もしかすれば、何らかの条件を満たすためかもしれないな。降参させることで相手の心理を掌握し、白き神の支配権を得る……なんて展開も感覚系意思能力者の彼女なら十分に考えられる。
「必殺技だけで、勝負は決まらない!!」
当然、降参するつもりはなく、右拳を引っ込めて放ったのは鎧に備わる六対の翼。センスを微塵も纏わずに、堕天した白き神のポテンシャルとフィジカルを信じ、次々と翼を打ち付けた。
「そうかい。だったら、こいつをくれてやる!!」
再びジーナは中指を鳴らし、円状の輝きが放たれ、放たれた翼に触れる。その瞬間、焼け落ちるように消えていき、その侵食速度は留まることを知らず、身に纏う鎧を蝕んでいく。破壊というよりも調和に近く、心当たりがある能力。
「正常の魔眼……」
「お次はこいつだ!!」
理解するやいなや、ジーナは再び中指を鳴らし、連続で能力を行使する。天と地が突然ひっくり返ったような錯覚を覚え、地面に激突しようとしているのが見えた。今度のは魔眼じゃなく、邪眼。ドイツの地下世界で出会った魔物が秘めし能力。
「空間転移かっ」
「おせぇよ!!」
空中で体勢を立て直そうとするも、ジーナは再び中指を鳴らす。虚空から生じるのはセンス産の虎だった。獰猛な爪を肌に突き立て、切り裂こうとしていた。
「くっ!!!」
反射的に全身を覆う結界を展開し、振るわれた爪を除外する設定を施し、間一髪で難を逃れる。とはいえ、敵の手札は残っている。予想が正しければ、章の最初と黒羽根の最後が結びつく。中身はたぶん……。
「バン」
ジーナは中指を鳴らしつつ、指鉄砲の仕草を作る。そこに放たれるのは一発の白い弾丸。回転する様子がスローモーションで見え、側面には白い十字架が描かれているのが分かる。恐らくアレは、『血の千年祭』のクライマックスで使われた代物。白き神とジェノ・アンダーソンを一度は殺してみせた奇跡の弾だった。




