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ナロト奇譚  作者: 木山碧人
第十二章 ナロト攻略

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第79話 行き着く果て

挿絵(By みてみん)





 元帥杖。全ての始まりは古代ローマにあり、軍司令官が当時の皇帝から短いバトンを与えられ、戦地に赴いたことが起源とされている。それを有する者は『皇帝の意思と権限を代行する』意味合いが含まれており、軍司令官の指揮権を絶対的なものとしていた。


 後に中世ヨーロッパの各地で広まり、司令官の象徴であると同時に目印としても機能し、より実用的なものへと進化。近世では、シンプルな木の棒めいた見た目から一手間かかる装飾が追加され、美術品へと変化していった。


 19世紀初頭にはナポレオンがフランス帝国元帥の制度を見直し、脈々と受け継がれてきた元帥杖の意匠や文化にさらに磨きをかけ、標準化したことで、再びヨーロッパ各国に広まるきっかけを作った。


 重要なのは、古代ローマ時代から途切れることなく続いた皇帝の『意思』。肉体が朽ち果てようとも、入れ替わり立ち替わり存在する元帥を介して皇帝の『権限』は代行されようとしていた。


 もちろん、元帥以外の者には扱うことが許されておらず、第三者が悪用することはまず不可能。同じ肩書きを持つ人物であれば効かない恐れもあったが、魔獣と元帥がイコールで結ばれることは万に一つもない。


『…………』


 空中に投げ放たれた元帥杖は、七つ頭の魔獣の左後ろ肢と接触する。数々の猛攻に耐え切ったドミトリーは宙に身を放り出されながら一部始終を見届けていた。勝利に最も近い光景であり、そう感じる理由は元帥杖に秘められた力にあった。


 意思能力『尊厳ある者(アウグストゥス)』。元帥が能力を開示した対象に元帥杖で触れることにより、当人の意思に反した指揮をも可能とする。受け継がれし意思によって効果は極大となり、センスによる防御や解呪は不可能。元帥と元帥杖が揃った場合に自動で付与される力であり、装備者のリソースを消費せずに行使できた。


 ありふれた能力のように思えるが、ポイントは能力の発動条件さえ満たせば防げない点にある。この世に絶対は存在しないが、少なくとも、数十世紀以上に渡って受け継がれてきたレベルの能力やセンスでない限り、当たれば必勝と思っていいだろう。相手がどれだけ歴史が古かろうとせいぜい数世紀止まりであり、初代皇帝には劣る。


「早速だが、指揮権を行使させてもらおうかね」


 空中で体勢を立て直し、浮遊する元帥杖を回収したドミトリーは指揮棒タクトを振るおうとしていた。命令を下し終えた頃には決着がついている。見立てが正しければ、魔獣サイドを従えることが可能となり、攻略者を虐殺する理由が失われる。


『あなたのものは『わたくしたち』のもの。白軍の指揮権を譲渡して頂ける?』


 声を発したのは青頭。元帥杖の術中にハマっているはずが、逆にこちらへ暗示をかけようとしている。意識が失われつつあるのを感じ、意に反して身体は動き出そうとしていた。皇帝の『意思』と『権限』の象徴を明け渡そうとしていた。


 ――なぜ。


 急速に迫る敗北を前に、ドミトリーは限られた自由意思を疑問の解消に使う。何か理由があるはずだ。多重人格だけでは説明がつかず、初代皇帝や元帥に並び立つ肩書きを持っているようには思えない。何らかの触媒が必要不可欠であり、元帥杖並みの歴史と意思が込められた一品でなければ対抗できないはず。


(あれ、は……っ)


 意識が失われる一歩手前、ドミトリーは七つ頭の魔獣の右前肢に乗っている代物を目撃する。宝石が散りばめられた金装飾の球体。上部に十字架が付けられており、少なくとも、帝政ロシア時代よりも前に生成された代物。贋作か真作かはさておいて、『尊厳ある者(アウグストゥス)』を破ったのは間違いなく、世間の認知度と影響力だけで考えれば、元帥杖よりもあちらが上。


(連合王国における戴冠宝器の一つ……宝珠ソブリンオーブ……っ!)


 結論に至ったと同時にドミトリーの意識は途絶える。元帥杖は七つ頭の魔獣のものとなり、白軍の指揮権は彼女たちに委ねられる。空中での攻防は終わりを迎え、呆然としているドミトリーの服を甘噛みして、地面との衝突を避ける。勝負の行き着く果てを目撃した白軍の動揺が広がる。指揮官の敗北によって、統率力が失われつつある。混乱や暴動に発展する一歩手前の状態で、エミリアは新たに手に入れた元帥杖タクトを振るった。


『見て分かる通り、『攻略者狩り』は継続します。異論は認めません』

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