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ナロト奇譚  作者: 木山碧人
第十二章 ナロト攻略

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第71話 教え

挿絵(By みてみん)





 あなたは落ちぶれた自分を正当化するために生徒を利用している。


 それは、過去に見ず知らずの覚醒都市民から発せられた言葉だった。『七聖獣』の地位から失墜したことで期待を損ない、アンチ化した元ファンと言い換えてもいいかもしれない。路地でバッタリと出会った時にすれ違いざまで声をかけられ、弁明する余地もなく、気付けば姿を消していた。


 忘れられるものなら忘れたい。聞かなかったことにできる性格ならどれだけ良かったことか。あの日以来、胸の内に棘が突き刺さったような感覚があり、完治する兆しは見えない。とはいえ、致死性のものではなく、日を追うごとにジワリと心を蝕んでいく。


 言っていることを理解できてしまうのが余計に辛かった。教え通りに動く生徒を見て、優越感に浸る瞬間がないと言えば嘘になる。自分が良いと思ったものを、相手も良いと思ってくれるのだから、悪い気はしない。誤解を恐れず正直に言うなら、支配欲と承認欲求と自己肯定感が同時に満たされるような快感があった。


 『教える』という行為では、多かれ少なかれ必ず生じる感覚だとロザリアは知っている。教師と生徒の間には明確な上下関係があり、相手の人生の主導権を握っているような気さえする。


 もちろん、その感覚を活かすも殺すも教師次第だ。モチベーションに変えて生徒の自主性を尊重する『生徒優先』タイプもいれば、エゴを剥き出しにして自分の言う事だけ聞いておけという『教師優先』タイプもいる。必ずしもどちらか一方に当てはまるというわけでもなく、教師の数だけ正解があるのだが、『教える』ことで得られる快楽に溺れてしまえば、終わりだと思っている。歯止めが利かなくなると、教師と生徒の枠を飛び越え、誰彼構わず指導するような鬱陶しい人間と化してしまう。


 しかも、指導法を修正するのは難しい。自分の『教え』が合っていたのか、間違っていたのかが分かるのは、ずいぶん先のことだ。生徒が巣立ち、実際に社会に出てどのような活躍するのかを見届けて、ようやくフィードバックを得られる。それまでは自己流で判断するしかなく、覚醒都市の立ち上げに携わった最古参のメンバーだったため、指導者の指導者は存在しなかった。


 果たして、自分がやってきたことは正しかったのだろうか。


 何度目か分からない問いを投げかける。答えを出すことが極めて難しい命題に頭を悩ませる。いくら思いを巡らせようともそれは、自分自身でコントロールできないものだった。自分以外の誰か。回答者がいて初めて成り立つ。


「やったよ! ロザリア先生!! 攻略者は救出できた!!!」


 混濁する意識の中で、耳元で聞こえたのは教え子の声。これが夢なのか現実なのかは判別がつかない。仮に妄想が生み出した産物だったとしても、『教え』が良い方向に進んでいるのだと信じたかった。


 ◇◇◇


 ロザリアの言いつけを破り、ソーニャは若葉色のスーツを着た攻略者ザハールと共に戦地に赴いていた。ロザリア対リーザの戦闘も見届けており、その合間を縫ってミーラを回収。影と影を連結させる能力で覚醒都市の病院送りにして、次は激しい戦闘によって気絶するロザリアを回収していた。

 

 白軍の亡霊たちは指導者を失ったせいか統率力はなく、大した苦労せずに戦地の真っ只中に潜入を成功する。問題はロザリアを覚醒都市に送るか、目覚めるまで待つかの二択であり、ソーニャとザハールはそれで揉めていた。


「いやいやいや、先生ならすぐ目を覚ますから。病院送りにしたらしばらく戻ってこられないだろうし、亡霊たちが動き出した時に備えて戦力は減らしたくない!」


「あぁ? じゃあ何か。気絶しただけのミーラは戦力外通告で、低酸素状態のロザリアはスタメン入りか? 身内贔屓が過ぎるぞ。いくら『七聖獣』とはいえ、限度がある。後遺症が残る可能性もあるし、安全を期すなら精密検査させるのが一番丸い」


「言ってることは分かる、けど……」


 二人は幽門区の胃壁のそばで言い合いになり、意見は平行線。どちらも譲る気はなく、その間にも騒ぎを聞きつけた亡霊たちが集まろうとしていた。


「ひとまず、覚醒都市へ戻れ! 次の手はそれから考えろ!!」


 鬼気迫る様子でザハールは頭ごなしに言いつける。正論も正論だ。もし、先生に言われたのならすぐにでも従っただろう。いつだって正しかったし、損することよりも得することの方が多かった。ただ問題は……誰が言ったか。


「私は大人の言いなりにはならない。帰りたいなら一人で帰って」


「ばっか、お前……。そんなことしたら――」


 反論の余地も残さず、ソーニャはザハールを彼の足元の影に取り込む。残ったのは白軍の亡霊たち。統率は取れていないけど、周囲にいる面々は敵意をこちらに向けている。多勢に無勢の状態で先生を守りながら戦う必要もある。


 だとしても……。


「100万の軍勢だとしても勝つよ、私は」


 彼目線だと根拠のない大口を叩き、ザハールは消える。


 これで目撃者はいなくなった。能力を知られる心配がなくなった。この新技は出来る限り誰にも見られたくない。戦術の概念を戦略兵器級に押し上げるもの。同じクラスメイトであるジーノにできて、自分にできないはずがないんだから。


「――独創世界【絶対闘劇象ヴァイナティスム】」

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