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ナロト奇譚  作者: 木山碧人
第十二章 ナロト攻略

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第7話 夢

挿絵(By みてみん)





 ターニャに白確を出し、仲間に引き入れたジェノたちはコサック部隊のキャンプ地である上咽頭から中咽頭にかけたルートを突き進む。後列にはロザリア、ターニャ、ソーニャと横並びになっており、三人には『白金の道プラチノヴィー・プーチ』の生徒と先生という共通点があることから話が弾んでいるように見えた。


 蜥蜴型の魔獣の件を王国に報告するなら、ターニャとは中咽頭で別れることになるけど、コサック部隊の消息が分かるまでは帰る気がないらしい。中途半端な情報を持ち帰っても混乱を招くだけで、少なくとも何らかの手掛かりを得るまでは同行するつもりみたいだ。そのため、ナロト攻略を本格的に参加するつもりはなく、途中離脱する前提でついてくる期間限定の仲間という立ち位置だった。


 戦闘力に関しては未知数。エリートコースを歩んできた経歴を踏まえればそこそこ闘えるんだろうけど、実際のところどうなのかな。彼女の得物である熊のぬいぐるみは壊されたみたいだし、蜥蜴型の魔獣に苦戦していたから彼よりは弱いことになる。それに善戦したロザリアにも相対的に劣ることになり、コサック部隊での実戦経験を加味するならソーニャよりは上ぐらいかな。


 実力順にまとめるとロザリア>ターニャ>ソーニャになるはずだ。


 そこにどこまで食い込めるのかは分からない。さっきの戦闘を見る限り、カグラとは同じぐらいの実力で大差はない。鎧化と魔獣化という各々の切り札を加味しても、どっこいどっこいな気がする。ターニャが良い感じのボーダーになるかな。彼女よりも上か下か……ぐらいの実力がジェノとカグラの立ち位置になるだろう。


 なんにしても、このパーティ内ならロザリアが最強なのは疑いようもない。『七聖獣』の名は伊達じゃなく、ジェノとカグラとターニャが苦戦した蜥蜴型の魔獣を、一人で討伐してしまいそうな規格外の実力を見せつけていた。彼女の肩書きから考えれば、同程度の実力者が6人もいることになるけど、正直言って信じられないな。リーチェや広島も含め、上には上がいるというのは身に染みて分かっているけど、頭が追いつかない。ロザリアが『七聖獣』の中でも最弱……とは考えたくないけど、仮にそうだとしたら全員に勝てないことになる。相性やコンディションによって一を引ける可能性はあるけど、今、目指すべきところは格上を倒すことじゃない。同じぐらいの相手に対し、安定して勝つことだった。


「俺に足りないのは最高火力じゃなくて、最低火力の底上げかもな……」


 思考を整理しながら、至った結論を端的に口にする。リーチェに直接言われたわけじゃないけど、大技の火力がどうこうより、大技を当てられるだけの隙を作れていないのが問題な気がした。そのためには小技で崩す必要があり、手数の多さや初動の速さなどで敵の想定や反応速度を上回る工夫が不可欠だった。


「向上心の塊だねぇ。男子たる者、強さを追い求めるのに理由はいらねぇ……とは言うが、実際のところ何の目的もなしに実力を上げても虚無が待ってるだけだ。対戦相手あり気の相対的な価値だし、一人では成り立たねぇ。強さを追い求めた先に、誰かに誇れるだけの大義名分はあるんだろうな?」


 パーティの最前線で並んで歩くカグラは、正面を向きながら声をかけてくる。大した理由がないなら頑張っても無駄……みたいな、どこか諦めが先行するような問いかけのように感じる。こちらに話しかけているんだろうけど、カグラ自身にも同じ言葉を投げかけているようにも思えた。


「強くなりたい理由はあるっちゃあるけど、大義名分なんかなくてもいいと思うけどな。あくまで個人の感想だけど、強さは相対的なものだけじゃないと思ってる」


「えらく抽象的だな。具体的には?」


「昨日の自分と比べて、どう進歩したか。いわゆる絶対評価で自分の成長を噛みしめるのも一興だよ。仮にこの世に自分一人しかいなかった状態で強さを追い求めていたとしても、俺はそれを虚無とは言わない」


「それ、金になんのか? 強くなって暮らしが豊かになるのか?」


「心が豊かになる。物質的な価値だけがこの世の全てじゃないよ」


 短い問答の果てに、カグラは思うところがあったのか口を閉ざしている。地雷を踏んでしまったのか、受け入れられない価値観だったのか。いずれにせよ、彼にとって耳障りの良い言葉じゃなかったらしく、何かが引っかかってるみたいだった。


「……で、結局のところ、強くなって何がしたいってんだ」


 そこから感情的になるようなことはなく、カグラは極めて冷静に別方向から話を掘り下げていた。あくまでこちらの回答が気になっているみたいで、向こうは自分のことを話したくないらしい。まぁ、彼とは関係値も浅いし、込み入った話はしたくないんだろう。蜥蜴型の魔獣からもカグラに関する意味深なワードも出てきていたし、それが仮に事実なら言いたくないのも理解できる。根掘り葉掘り聞いても答えてくれないだろうし、相手のことを知りたいならまずは自分から……だな。


「悲劇を喜劇に変えたい。具体的には、悲劇の元凶となる犯罪を撲滅するために、事件が起きる手前で全て阻止したい。そのためには、人間界と三界を含めた全ての世界の頂点に立つ必要がある。あれだけ偉そうなこと言ったけど、強くなるのは夢を叶えるための手段であって目的じゃない。目指すは宇宙最強なんだ。今の俺の実力を考えれば程遠い場所にいるかもしれないけど、一個ずつ丁寧に努力を積み上げていけば達成可能だと思ってる」


「あ? ちょっと待て。身の回りで起きる事件を止めたい……なら理解できるが、対象はこの世全ての事件と犯罪か?」


「うん。何か問題でもある?」


「問題大有りだろがい! いくら宇宙最強レベルに強くなれたとしても、人間がやれることには限界がある。神にでもならなきゃ、成し遂げられねぇだろ」


「あれ? もしかして白龍騒動時の生中継見てない?」


「生憎、テレビは嫌いでな。都市の流行り廃りには疎いのよ」


「あーそれなら、知らなくても無理はないか」


「んなことはどうだっていい。さっさと答えを言いやがれ」


「俺の身体の中には『白き神』がいる。知らないかもしれないから補足するけど、世界最大の宗教団体『白教』が崇める唯一神だ。信徒は世界人口の半数近くいる。その信仰心を力に変換できる技術と、それに耐え得る器があれば可能なはずだよ」


「な……に……?」


 予想の斜め上を行く回答だったのか、カグラは見るからに動揺していた。まぁ、『白教』のことを知らなかったら無理もない反応かもな。神が宿ってる以前に、世界人口の半数近くが同じ神を信仰していることに驚いたのかもしれない。なんせここは閉鎖された環境であり、一つの共同体しかない。知識に偏りが出るのも無理はなく、外部から情報を得ようにもナロトの体内にいる以上は限界がある。テレビすら見ないカグラのみならず、永遠王国ネバーキングダムに住まう全ての人々が世間知らずと言っても過言じゃなかった。


「にわかには信じられねぇが、仮に今の話を事実だとしよう。そんでもって、『白き神』とやらの力を最大限引き出し、宇宙最強になれたとしよう。それでも身体は一つしかない。全ての事件に対応しようとすれば、食事や睡眠の時間もなけりゃあ、プライベートの時間なんざ残ってねぇぞ。それでも構わねぇってのか?」


「食事、睡眠に関して言えば、今の俺でも問題ない。神との感覚が同一化する『神格化』の影響で、身体の半分ぐらいは神なんだ。プライベートがなくなることに関して言えば少し残念だけど、人々の笑顔を守るためなら世界のシステムの一部と化してもいいと思ってる。あの日の僕みたいな人間を量産するのは嫌だからね」


「信じられねぇ……。欲ってもんがないのかよ」


「俺の夢は煩悩でしかないよ。エゴと言い換えてもいいかな。誰もそんなこと求めてないし、自分には無理だと心のどこかで諦めてる。だからこそ、やる価値があるんだ。誰もができると思うことを当たり前にこなすのも立派な人生だけど、自分には無理だと決めつけて、やる前から諦める人生なんて死んでも御免だからね」


「いや、それだと一銭の得にもなんねぇだろ」


「そうだね。仮に実現しても俺は儲からないだろうし、何かを受け取るつもりもない。最終的には感謝もされなくなるだろうし、犯罪が起きないのが当たり前の世界になるはずだ。俺はそれでいいと思ってる。今や水道や電気があるのは当たり前だけど、誰も感謝してない。人々が平等に享受できるサービスには何も感じなくなるんだ。むしろ、浸透した当たり前が当たり前じゃなくなれば、残るのは文句だけ。仮に一件でも犯罪が阻止できなければ、俺は死ぬほど叩かれるはずさ」


「それの何が楽しい。世界の傀儡じゃねぇか」


「人々の生活に影響を与えることができるなら、それ以上の報酬はない。行き着く先は罵詈雑言だったとしてもいいんだ。俺は全てを受け入れる。それが一流の神になるってことだと思うんだ」


「…………」


「と、長話が過ぎたね。今は言いたくないだろうけど、いつか聞かせてよ。カグラの夢もさ」


 やり取りを重ね、互いの理解を深め、ジェノたちはコサック部隊のキャンプ地を過ぎ去る。王国への分かれ道がある中咽頭を過ぎた形となり、舞台は食道に通じる下咽頭に移行しようとしていた。

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