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ナロト奇譚  作者: 木山碧人
第十二章 ナロト攻略

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第61話 結果と原因

挿絵(By みてみん)





「彼女に触れちゃ駄目だ! 感覚系の意思能力者で情報を読まれる!」


 今が何回目か。そんなもんは些末な疑問だった。どうやったらこのループから抜け出せるかが重要であり、色々と手を尽くそうとしたが、何度やっても結果は同じだった。どのようなルートに持ってくにせよ、負けた時点で『波』が確定する恐れがあり、最終的には勝っておく必要があった。


「「「「――――」」」」


 もはやお決まりのパターンで、各々は様々なパターンで結界を展開する。ジェノは正方形の結界を前方に展開して蹴りつけ、カグラは長方形の小結界を足場に使って上空に移動し、広島はグローブ状の結界を両拳に展開し、スサノオは四方八方に槍状の結界を展開して撃ち放つ。


 ここで痛覚共有の結界を展開して、勝つってのがいつもの流れだったが、今となってはその必要すらないんだよな。


「…………ほいっと」


 ジーナは跳躍し、迫り来る槍の一本に触れる。そこにマーキング済みの四名の痛覚と同期させ、流し込む。


「「「「…………」」」」


 バタリと倒れ、ジェノ一行の全滅を確認。ってな感じで、勝つための効率ばかりがよくなって、一向にループが解ける兆しは見えなかった。真面目に攻略するなら色々と試行錯誤するべきなんだろうが、最終的に勝つという安全領域から抜け出せないでいる。こっから一歩先に行くには、思い切って未経験の成長領域に足を踏み出す必要があるが、結局は慣れ親しんだ結果に落ち着く。


 一番試す価値があるのは負けてみるパターンだが、大なり小なり痛い思いをする必要があるわけだし、それを自ら率先して行うのは性に合わないんだよな。仮に

負ける……成長領域に足を踏み入れることが『波』から出る条件だったとしても、今のままだと難しいだろうな。こういうループものの基本は、同じループ内にいる人間の言動の変化や状況の悪化で変わらざるを得ない状況に持っていくことが多い。尻に火がついてから本番というか、これ以上ループできない足切りラインを設定することで物語が前に進むことがほとんどだ。


 実際、ループに何らかのデメリットが生じなければ手段を変えるつもりはない。勝ちパターンを模索し続けることで強くなってるのは事実だし、突き詰めれば『波』を突破できるかもしれない。その可能性が捨てきれない以上、痛い思いをせずに済む『ぬるま湯』に浸かり続けてやるよ。


「君、それやるの何回目?」


 いつも通りのループが始まると思いきや、かけられたのは冷ややかな声音。周りの時間は停止しているようにすら感じ、その中で動けているのは自分を含め二名。考えるべきことは山ほどあるが、真っ先に抱く疑問は一つに絞られた。


「お前……ループを認知してやがったな」


 ジーナはサメ肌っぽい胃酸用スーツを着る少年ジェノに声をかける。状況から考えて他の理由は考えにくく、今思えばループを生み出した張本人がループを認識できずに囚われたままの状態にいる方がおかしかった。


「見て分かる通りだね。俺はわざと負けていた。『波』の狭間に囚われた君の一挙手一投足を観察し続けていた」


「俺も大概だが……お前もなかなかに狂ってんな。痛覚共有から気絶のループを繰り返しながら、正気を保った演技を続けてたってわけだろ。痛みを伴わずに勝ち続けてる俺の方がよっぽど健全だな。負け続けの人生は楽しいか?」


「こっちはこっちで悪くないよ。おかげで君のことが少し分かってきた」


「へぇ……肉体系のお前が感覚系の俺を一丁前に心理分析したってわけか。普段なら鼻で笑ってやるところだが、一応聞いてやる。勝つばっかりってのも飽きてくるからな。たまには味変も必要だ」


「じゃあまず一言でまとめると、分からず屋かな」


「……その心は?」


「自分自身の感覚に絶対的な自信を持ちすぎるために、周りの意見を聞けなくなった可哀そうな人。能力は確かに優れているけど、人の心の中を覗けるからといって、君の立場が上になるわけじゃないよ。一度でも心理掌握したことがある相手を見下すような態度を続ける限り、君に未来はない」


「偉そうに言ってくれるね。お前は何様だ? 俺をループにハメたってだけでいい気になってんのか?」


「俺は君に一度も勝ててない格下だよ。それ以上でもそれ以下でもない」


「身の程をわきまえない勘違い野郎かと思ったが、雑魚らしく小さくまとまってらぁ。自分の立場を理解してるのは評価してやるが、よく俺に物を言えたもんだな。言ってて恥ずかしくないのか? 格下が格上相手にアドバイスしてんだぞ?」


「今、話しているのは心の話で、強い弱いには直接関係がない。それは感覚系の君が一番よく分かってるんじゃないの?」


「そりゃあ各々の価値観によるだろ。俺の中ではイコールだな。心が弱いやつは力も弱いし、心が強いやつは力も強い。お前も意思能力者なら分かるだろ? フィジカルの強弱だけで勝敗が決まるスポーツじゃない。俺たちがやってるのは、心の強弱で勝敗が決まる心理ゲームだ」


「根本的な歪みはそこか。どうやら、その性根を正さないと『波』は解けないらしい」


 ジェノは視線を落とし、眉根を寄せて、予想を口にする。口振りから考えると、『波』は本人も制御できてないっぽいな。ここでわざわざ嘘をつく必要がないだろうし、そもそもこいつは嘘が苦手だ。いちいち手で触れずとも声と表情だけで嘘か誠かぐらいの判別はつく。予想が合っているかどうかはともかくとして、ループに囚われた者同士ってのは間違いなさそうだった。


「その予想が正しい根拠はどこにある。人格矯正と尊厳破壊が性癖なんですって開示したようにしか聞こえねぇな」


「穿った見方をしてるなぁ。俺の心を読み取ったことがあるはずなのに、なんでそんなに歪んだ認識になるの? 君のフィルター濁ってない?」


「俺がどう思おうが関係ないだろ。いちいち論点をずらすな。それよか、まずは質問に答えろ。俺の性根とループが結ばれているとする客観的な根拠を述べよ、だ」


 どうせまともな返答は来ないと思いながら、パスを投げる。格下はどこまでいっても格下だ。数分や数時間で認識が改められることは絶対にない。


「ループの起点は君の勝利で終わる。逆算すれば原因はジーナってことになるでしょ。それをさらに深掘りすれば心理的問題に行き着く。結果として行き着いた結論は――」


「俺の心の歪みを正すこと。それが『波』から出る条件」


 理路整然と並べられるジェノの言葉に、ジーナは相槌を打つ。深く納得したわけじゃないし、心を開いたわけでもなかったが、一理あると思ったのは確かだった。

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