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ナロト奇譚  作者: 木山碧人
第十二章 ナロト攻略

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第57話 エリーゼ

挿絵(By みてみん)





『――――』

 

 恐竜型の魔獣がドシンと地面に倒れ込む。図体のデカさも相まってなかなかにタフだった。とはいえ、白教における最高権力者、元教皇の名は伊達じゃない。危ない場面を見せることなく、一人で大物を仕留め切る。


 問題は遠目から観戦を続けていた三名。


「ターニャとセルゲイ1と2だったかな。そんな離れたとこにいないで、こっちおいでよ」


 エリーゼは手招きし、旧知の仲のように振る舞う。これで警戒心が解けてくれたらと思ったけど、名前を言ったのは逆効果か。


「……」


 ターニャは無言で桃色のセンスを纏い、敵愾心を露わにしている。奥にいる同じ顔の二人は心ここにあらずといった様子で棒立ちだった。彼らの主人である支配の騎士の命令を待ってる感じだ。待機状態を解除するのも傀儡にするのも支配の騎士を継承したセレーナの意のままだけど、本人は取扱説明書を渡されたわけでもないし、気付くまでに時間がかかるだろうな。誤解を解くために一から十まで説明してもいいけど、どうせ聞く耳を持ってくれない。


「仕方ない。力ずくで仲良くなってもらおうかな」


 エリーゼは白いセンスを体表面に纏い、身構える。多少のブランクはあったけど、魔獣戦のおかげでいい感じに身体が温まってきたところだ。そんじょそこらの相手には遅れを取ることはないだろう。


「まずは小手調べ……色触是空!」


 右手の掌を正面に掲げ、そこから生じたのは黒い手。グーンと引っ張ったゴムのように伸びていき、一直線にターニャの元へと迫っている。能力は単純明快で、物理攻撃に特化した疑似的な黒い手腕を生じ、操作しただけ。内容は実にシンプルなんだけど、攻防が単純になるかと言われれば別の話だった。


「――!?」


 距離を詰めようとしていたターニャの表情が歪む。黒い手は入れ子のような構造になっており、スケールダウンした黒い手が次々と発生し、分離。それら全ては意思を持っているかのように縦横無尽に飛び交った。


 逃げ道も詰め入る隙もなく、ターニャは迫り来る魔の手に対して回避を優先している。動き自体は悪くなく、さすがは『白金の道プラチノヴィー・プーチ』の卒業生といったところ。身体能力のポテンシャルは高く、必要最小限の動きであらゆる角度からの攻撃に対応していた。まぁ、基本的には直線的な動きなんだから躱されてもおかしくない。数が多いだけで、変則的な弾幕ゲーの方が遥かに難しいように思える。


 だけど、多体衝突には対応できまい。


「かは……ッッ!!」


 ビリヤードのブレイクショットの如く、不規則に散らばる黒い手がターニャの左脇腹にヒット。当たり強めの掌底を懐に打ち込んだのと同じような形で、威力は彼女の反応と肺から漏れ出た空気の量が物語っている。もちろん殺す気なんて毛頭なく、あくまでじゃれ合い。互いの力関係がハッキリして、聞く耳を持ってくれるようになるまでは、一方的に第三の手で殴り続けるだけだった。


「そら、そら、そらぁ!!」


 呼び声に応じ、黒い手の猛攻に拍車がかかる。能動的に手と手をぶつけることによって、軌道の予測を困難にさせる。そのおかげか、ターニャの被ダメも増えてきており、距離を詰めてくる気配が一向にない。


 このまま一方的にボコって終わりかもな。期待外れというか、罪悪感が勝ってしまうというか、これじゃあ腕試しじゃなく、ただのいじめだった。


「――――」


 そんな時、一筋の黒い閃光が煉獄界の赤い空を駆けた。黒い手の衝突によって生じたものじゃなく、恐らく何らかの能力を発動させた。白髪という特徴から考えるに、邪遺物イヴィルの術式が刻まれた『特異体イレギュラー』である可能性が高く、意思の力に依存せず、異能を行使することが可能になる。


 確か、彼女が持っていた黒い熊のぬいぐるみには反転作用があり、その影響を色濃く受けたかな。意識的にやったのか、無意識的にやったのかは分からないけど、何かを反転させた可能性が高い。恐らく、対象に選ばれるのは彼女の身の回りにあるものに限定されると予想され、一番ストレスを感じているものに反応するとすれば。


「いいね……。そうこなくっちゃ」


 エリーゼは空を見上げ、行き着いた答えと同じものを目視する。生じるのは一本の巨大な白い足。隕石のように降り注ぎ、逃げ場がないほど被害予想範囲は広そうで、出力したターニャも巻き込んでしまいそうな勢い。

 

 ただ、見てくれに騙されちゃいけない。物理攻撃に特化した手を反転させたと断定するなら、精神攻撃に特化した足と考えるのが最も辻褄が合う。ようは、破壊力を追い求めた技じゃなく、相手の心を壊すための技。それなら対象指定は容易で、ターニャたちが巻き添えを食らうことなく、敵の心を粉砕できる。


 名付けるなら、『ハートブレイクショット』。


 シンプル過ぎたかな。まぁ、別に自分の技じゃないからいいや。それよりもあいつをどうにかしないといけない。物体と違う仕様だから手で触れることはできないだろうし、迫る速度と体積的にも避けるのは難しい状況。


 並みの使い手なら大抵は詰んじゃうんだろうな。意思弾を飛ばしても実体がないからすり抜ける可能性大だし、感覚系でもないなら精神に重きを置いている使い手は少ない。目に見えた強さや成果ばっかり追い求め、目に見えない心や感情を疎かにするせいだ。お金や実績も大事だけど、それ以外にも大切なものがあると、身をもって見せつけてやらないとな。


「空触是色!!」


 エリーゼは再び右手の掌を掲げ、上空に創造可変したセンスを放つ。形作られるのは、身の丈に合った白い手であり、体積は降り注ぐ巨大な白い足に劣る。物理法則で考えれば勝てる見込みはなく、見る前から結果は決まっているようなもの。ただまぁ、ここまできたら皆まで言わん。意思能力における学術的な説明は省略し、言いたいことはたった一言に凝縮される。


「天才で、すまん」

 

 言霊に呼応するように、小振りな白い手は降り注ぐ巨大な白い足を突き破る。その間にターニャは距離を詰めてきており、意思能力戦は過熱の一途を辿った。

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