第54話 感覚系の意思能力者
幽霊区に足を急がせ、遭遇したのは見覚えのある白軍兵。ロマノフ家の末裔であり、意思能力者としても極めて厄介だ。相手の身に触れることで記憶から情報を読み取ることができ、仲間の情報は筒抜けだと思っていい。とはいえ、広島たちと合流できたことで、四対一の構図であることに変わりはない。いくら手の内を知られているとはいっても、限界があるはずだ。
「彼女に触れちゃ駄目だ! 感覚系の意思能力者で情報を読まれる!」
ジェノが真っ先に伝えたのは彼女と接敵する上での注意事項。すでに知ってようが、知ってなかろうが、事前に共有しておくべき情報だった。
「触れないように工夫せえ……ちゅうことじゃな」
「俺様の得意分野だ。息つく暇なく終わらせてやるよ!」
二人はジーナから大きく距離を取り、後退。ガスが充満する影響で打てる手は限られているはずだけど、戦闘経験豊富な彼女たちなら対応できるはずだ。
「「…………」」
こちらも負けじとカグラに視線を送り、互いに頷き合い、無言で意思疎通を図る。ジーナと遭遇することを想定していないわけがなく、ナロトの特性を理解した上での対策を立ててあった。苦手分野の強化という課題にも直結し、ガス爆発を伴う事のない静的センスに該当する技術があった。
結界。創造可変に重きを置く『芸術系』の基礎であり、なんにでも形を変えられる汎用性の高さから意思能力戦では必須とさえ言われている。扱えるようになれば戦闘の可動域が大幅に広がり、防御に活用できるのはもちろんのこと、攻撃にも移動にも転用可能。使用者の発想力や趣味嗜好の違いで十人十色の運用方法になるのが見どころだけど、主力として使うというよりも補助的利用の方が多い。ただ、相手の能力と場の状況が噛み合い、引き立て役は主役に抜擢された。
「「「「「――――」」」」」
場にいる五名は期せずして同時に結界を展開する。
ジェノは正方形の結界を前方に展開して蹴りつけ、カグラは長方形の小結界を足場に使って上空に移動し、広島はグローブ状の結界を両拳に展開、スサノオは四方八方に槍状の結界を展開して撃ち放つ。
対するジーナは自身の周囲を三角錐状の結界で覆っている。
理論上、『感覚系』に該当する能力者は、結界を含めた『芸術系』全般のスキルが苦手のはずだ。体系化された教えを真に受けるならジーナの苦手分野であり、四人の猛攻を防ぐのは難しいように思える。
ただ、本当に苦手なんだろうか。意思能力を抜きにして考えると、どうしても違和感が先行する。だって、芸術は感覚が必須だし、感覚も芸術に通ずるものがあり、相互作用を及ぼすことはあれど、片方が得意で片方が苦手になるというイメージができなかった。
まぁ、世間一般の芸術と意思能力者の芸術系は違うと言われればそれまで。積み上げられた歴史と研鑽を考えれば黙るしかない。ただ、あくまで統計的なものだろうし、何事にも外れ値は存在する。全系統を100%習得可能な能力者がいてもおかしくないし、年数を重ねてセンスの平均水準を高めることで苦手を克服したように見せかけることもできる。
果たして彼女は、どれに該当しているのか。
「………」
口端を上げるジーナの表情が目に入る。先んじて接敵する正方形の結界と槍状の結界を目前にして、余裕あり気な振る舞いを見せている。……何かある。あの三角錐には想像もつかないような能力が仕込まれている気がしてならない。だからといって、憶測で手を止めることはできず、止めるように言っても伝達する頃には接触している。
こんな時、『波』が見れたら……って考えはするけど、それは希望的観測だ。能動的に発動できたことはないし、力の根源がなんなのかすら分かってない。今のところ、意思能力の延長線でしか考察することはできず、知り得る理屈をこねくり回して頭に浮かんだのは、シンプルな結論。
「……痛覚、共有か?」
思いつくままにジェノは口走る。仮に複雑な形を作る『芸術系』が苦手なのだとしても、結界に『感覚系』の属性を付与することは理論的に可能。結界に痛覚を通し、読み取られた記憶から場にいる四名を結び付け、対象に選ぶこともできなくはない。予想が外れて欲しいと心の底から願いながらも、その時は訪れた。
「Верно(その通り)」
三角錐が槍状の結界に串刺しにされ、直進する正方形の結界に粉砕される中、答え合わせが終わる。ダメージは即座に反映され、攻撃に及ぼうとした全員に行き渡る。こんなのってありか。誰か嘘だって言ってくれよ。
「「「「…………」」」」
時を同じくして地面に倒れるのは四名。
たった一度の攻防でジェノたちは全滅した。




