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ナロト奇譚  作者: 木山碧人
第十二章 ナロト攻略

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第51話 孤軍奮闘

挿絵(By みてみん)





 幽門区に取り残されたミーラの周囲に展開するのは、息絶えたはずの白軍の亡霊たち。数を概算しても意味がなく、あらゆる角度から銃口を向けられている事実に変わりはない。イヴァンを逃がすことが目的だし、ここから先は自由時間。あっけなく散るにせよ、孤軍奮闘の華々しい活躍を見せるにせよ、本望。


「…………」


 ボロボロになったスーツを破り捨て、露わになるのは水の衣。白い軍服の表面に幕を張るように纏われており、水分子同士が引き合うことで生じる摩擦……粘性抵抗によって強い衝撃を吸収する効果があった。


 意思能力『流体超力学ギドロキネズ


 流体力学の原理をベースにして気体や液体を操る能力。静と動における流体の変化や性質を拡大解釈し、身に回りにある様々なものに影響を与えることが可能。水の衣はナロト体内から入手可能な淡水を利用しており、センスを直接纏っていないことから爆発を伴わずに運用することが可能だった。


「「「「「―――――」」」」」


 正面には白軍兵の亡霊が五名ほどおり、小銃の引き金に手をかけている。どんな姿に成り果てようと、かつての同胞であることに間違いはなく、手心を加えたい気持ちは少なからずあった。


 でも、死んだ人に足を引っ張られるのは嫌いなの。


「――Я(ヤー) вас(ヴァース) всех(フセーフ) убью(ウビユー)(皆殺しにしてやる)」


 ミーラは両手をかざし、身に纏う液体を勢いよく押し出す。静圧+動圧+位置圧

=一定というベルヌーイの定理を活用し、静圧の配分を削ることで動圧のエネルギーを確保する。ようするに、これは……。


「「「「「――――!!!!」」」」」

 

 超高動圧の水鉄砲。直線状に伸びる淡水は、槍の如く彼らの頭部を貫いた。それを合図にして、周囲にいた白軍兵の第二陣は小銃を発砲。無数の銃弾とガス爆発が同時に襲い来る。


「…………Скучно(スクーシナ)(芸がない)」


 すぐさまミーラは生じた淡水を手元に戻し、周囲に展開。今度は静圧の配分を高めることで、表面に粘性抵抗を生み、周囲の動圧を遮断する盾と化す。もちろん、押し引きは発生する。周囲の気体や固体の動圧が、淡水の静圧に勝っていれば、貫かれる。ただ、残念ながら押し負ける要素がない。


 水は空気の800倍重い。


 爆発といっても結局は空気の塊であり、銃弾はそれに劣る。質量だけで比較するなら、水>空気>銃弾であり、センスの多寡によって威力のムラが出るにしても、水は最終的に空気の800倍の数値を代入するのだから、結果は明らかだった。


「――――」


 水の盾は衝突によって激流を伴うものの、無数の銃弾と爆発を防ぎ切る。この攻防が繰り返されるだけなら負け筋は存在しない。ただ……。


「…………」


 水の盾を緩やかな動作で通過してきたのは一人の女性。水は激しく藻掻けば抵抗するが、緩やかに動けば受け入れる。それを理解できる知性を持ち合わせているというだけでも驚きだけど、問題は中身。彼女は厚手のウールコートを着ており、革のブーツを履き、毛皮の帽子からは短い銀髪が見え隠れしている。


「リーザ・クズネツォヴァ」


 そこにいたのは、ロシア内戦で生き別れた、かつての旧友だった。

 

 ◇◇◇


 決して遠くはない場所から銃声が鳴り響く。幽門区に足を踏み入れるロザリアは、進むべき方角に確信を持ちつつ、糸を縫うようにして軍勢の隙間を潜り抜ける。周りにいた大半が一般人ということもあり、ここまで大した苦労はなかった。指揮官に欠けているせいか、亡霊たちの動きに軍隊じみた統率力はなく、一対一の戦闘を瞬間的に繰り返すだけで事足りた。


 もちろん、完全に成仏させるのは難しい。幽霊を祓うにはセンスを用いる必要があり、爆発をケアするなら少し工夫がいった。


「…………」


 ロザリアは体表面に微量のセンスを込め、厚手のコートを着る一般女性の頭部を両手で挟み込み、ぐるりと回して頸椎をねじり切る。爆発を伴うことなく、一般女性の幽霊は沈黙し、行動不能に陥っていた。時間をかければ復活するのか、あれで祓えたのかは不明。少なくとも、すぐさま襲ってくることはないように感じた。


 起爆を防ぐコツは、体表面に展開するセンスを1μm(マイクロメートル)以下に留め、体術ではなく、柔術で仕留めること。それで今のところ上手くいっており、統率の取れた軍隊との衝突を想定しないなら、問題なさそうではあった。


 ただどうも、違和感が拭い去れない。


「胸騒ぎがしますね。杞憂に終わればいいのですが……」


 目的地が近付いているはずなのに、不安は増す一方だった。

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