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ナロト奇譚  作者: 木山碧人
第十二章 ナロト攻略

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第47話 拍豹

挿絵(By みてみん)





 ナロト体内の胃低区で行われるのは、二対二の意思能力戦。背中合わせの血の繋がった親子は両目に赤いセンスを纏い、『顛牛』ボリスと『拍豹』ダニールを正面に見据え、状況説明が省かれたまま戦闘が開始される。


「「――――」」


 セレーナは右手で大太刀、バグジーは左手でククリを横薙ぎに振るう。


「「……」」

 

 ボリスとダニールは屈んで避ける。未知の能力を警戒して、直接接触することは避けていた。その判断は正しい。セレーナが用いる滅葬具『迦楼羅』には斬りつけた相手に殺意を伝染させる異能が備わる。刃物傷を負った時点で操作対象となり、殺意に抗う術を持たない限り、敗北は濃厚となる。


 ただ、その一方でバグジーの意思能力『夢現四刀流』の発動条件は満たされていた。ククリを振るうという単純明快なトリガーと共に、ダニールの背後にはセンス産のククリが生成され、首元を斬りつけようと迫っていた。


 度重なるガス爆発によって濃度が薄まっており、接触によって起爆する可能性は少ない。とはいえ、絶対に起爆しないとも言い切れない。センスを全身に覆うのは悪手だとダニールは気付いており、纏うセンスは視界を確保するために必要な両目に留め、全身の防御力は著しく下がっていた。背後から迫り来るククリが身に触れれば、いくら状態3を維持していようと、致命傷になり得る。


「――――」


 ダニールはダダンと足を踏み込み、『拍豹』の名を体で表す。瞬間移動に近しい加速力をもってして、背後に迫り来る偽造ククリを掴み取り、隙を晒しているバグジーに斬りかかる。足音で奏でる二拍の間に動作が詰め込まれており、並みの人間では何が起きたかを把握することすら難しい。


「……」


 ただ、バグジーは食らいつく。超人めいた反応速度をもってして、左足を蹴り上げ、ダニールの右手首に接触。握っていた偽造ククリはポロリと落ち、バグジーはそれを左手でキャッチ。すぐさまジャグリングの要領でククリは空中に放り投げられ、本物を加えた三本のククリが宙に舞う。


 バグジーは自身の変化に気付いていない。何が起こったかを事細かに理解していない。極限状態に追い込まれたことで変容した自身の意思能力を分かっていない。ただ本能のままに身体は動き、仕込まれた芸を披露するマシーンと化していた。


 右腕が壊れようとも、幕が下りるまで止まることは許されない。『曲芸』の延長線上の動作であるなら、反応速度の限界は超越される。


「……ヒャハ」


 青い血に染まるピエロはしたかかに笑う。重力に引かれるククリを次々と左手でキャッチし、投擲を繰り返す。『曲芸』の共演者と化したのはダニールであり、未だに先の攻防の理解が及ばないまま対応に追われていた。


「……っっ」


 常軌を逸した光景を前に、ダニールは表情を歪ませながら、跳躍を開始する。移動は基本的に三拍子で行われ、その規則性に矛盾が生じる二拍の変拍子を伴うことで瞬間移動に等しい超加速を得る。動作は先の攻防と全く同じ。反応されたのは偶然だと高をくくり、得意分野で押し切ることに固執していた。


 迫り来る三刀のククリは通常の跳躍で対応可能だった。三拍子のリズムを維持しながらククリを回収し、小気味いいテンポで投げ返す。


 バグジーの『曲芸』は投擲スキルを向上させるものではない。そのため、迫り来るククリの速度は平凡。ダニールの移動速度に比べれば止まっているようなもので、芸に精通しなくとも対処に手間取ることはなかった。それどころか、先ほどの経験を踏まえて合理的に身体は動き、倍返し以上の速度をもってして、投げ返されたククリがバグジーに迫っている。先の攻防に要求されたのは一動作。斬りかかられるのを読んだ上で、あらかじめ予想した軌道に蹴り上げを配置することで対処は可能だった。それに対して、今度は三動作が要求される。放たれたククリは一刀から三刀に増え、一刀を対処している間に二刀が襲い来る。回避するのも可能だったが、それでは背後にいるセレーナに届く。どう抗おうと受けざるを得ない状況であり、ダニールは今度こそ勝利を確信していた。


 だが、しかし。


「よっ、ほっ、はっ」


 時間的矛盾が発生する。一動作に三動作が詰め込まれ、バグジーは迫り来るククリを左手、左足、右足でキャッチ。負傷した右腕のハンデをもろともしないまま、『曲芸』を継続する。


 ダニールはこの時点で能力の仕様に気付きかけていた。確信には至らないものの、『拍豹』のリズムに食らいつく身体能力があると認めざるを得ない状況にあった。同じやり方をむやみやたらに繰り返しても結果は見えており、行動を改善する必要が出てきていた。


小銃展開アグネヴィーヤ・パジーツィヤ


 バグジーの四方八方に展開するのは無数の小銃。起爆を伴う可能性があり、ダニールは俊足を活かして距離を取り、安全圏に到達。ボリスを巻き込む心配があるものの、上官であれば対処できると信じ、照準を定め、引き金に意識を集中させる。


 そして。


「――【一斉射撃ザルプ】!!!」


 ダニールの合図によって飛び交うのは無数の銃弾。貫通力に特化した性質が付与されており、結界やセンスによる防御を無視する。格上の使い手の場合だと適用されないケースもあるが、ダニールはバグジーを格下だと踏んでいる。実際、同小銃の銃弾によって結界を突き破り、右腕を負傷させたという実績がある。数度の攻防で格下が格上になることは現実的でなく、今度こそは致命になると判断していた。


「芸がない、わねぇ!!!」


 だが、銃声は響き渡らない。代わりにバグジーの声が高らかに発せられ、周囲に展開されていたはずの小銃は真っ二つに斬り裂かれ、撃針が雷管を叩くことはなかった。ダニールが演じた二度目の『曲芸』は不発に終わっており、いくら銃弾に貫通属性が付与されていようと、発射されなければ無意味だった。


「理屈が通らない。芸がないからなんだ! 説明になってない!!」


 度重なる不条理な光景を前に、ダニールは狼狽する。声高らかに不満を露わにする。この問答に意味があるにせよ、ないにせよ、十分な距離が保たれている。安全圏から不平不満を垂れることにリスクはないと判断し、ありのままの感情をぶつけていた。


「種も仕掛けも単純明快。それこそが『夢現四刀流』よ」


 バグジーは意識の外を刈り取る。虚空に生じた四刀目のククリが、ダニールの胴体を弧の字に斬りつけていた。

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