第43話 交差
上部に広がるのは螺旋の鉄塔。塔の内周沿いに円を描くような螺旋階段があり、上中下の三階層で構成されているのが分かる。天井は鉄やガラスで編み込まれた形状になっており、透けて見えていた。言うまでなくセレーナは最下層に位置し、状況から察するに上まで進めということらしい。
「…………」
ただ、目線を向けたのは上部でなく、正面。黒い結界で覆われているけど、敵対したターニャの姿とセルゲイ1と2が薄っすら見えている。いくら桃瀬桃子の面影がある相手と言っても、見世物小屋の演者にされているような気分で癪に障る。
両手に装着したメリケンサックを握り込み、目の前の結界に思いの丈をぶつけようかと考える。ただ、それこそ相手の思う壺かもしれない。見るからにただならぬ意思が込められているし、無理に突破しようとすれば災いが降りかかる可能性もあった。
「こんなことなら、早めに説明しとくんだった」
声が届かないのは分かってる。ただ、思ったことを口にせずにはいられない。向こうは詳しい事情を分かってないだろうけど、こちらは一部始終を知っている。特にセルゲイが二分割された件については当事者だ。支配の騎士との顛末も伝えれば、戦わずに済んだはず。
「まぁ……過ぎたものは仕方ない。今は上を目指すっきゃないか」
思考を整理し、状況を受け入れたセレーナは螺旋階段を上り始める。塔のてっぺんに何が待ち受けているかなんて、この時は知る由もなかった。
◇◇◇
煙の中に飛び交うのは無数の銃弾。逃げ道がないほどにビッシリと空間内に並んでおり、余すことなくバグジーの身に襲い来る。すかさず自身を囲う三重の結界を展開するも、貫通に特化しているのか壁を易々と貫き、肌に触れようとしていた。
「――――ッッ!!!」
二刀のククリを用い、致命傷となる銃弾だけ切り裂き、その他は捨て置く。無傷というわけにはいかず、身に纏うセンスを盾代わりに使うも、討ち漏らした弾が身を貫いた。不幸中の幸いというべきか、即死というわけじゃない。右腕は使い物にならなくなっちゃったけど、まだ両脚と左腕は生きている。着地と同時に敵の位置を把握して、戦闘を継続すれば……。
「おお――ッッ!!!」
裂帛の叫びと共にチャージタックルをかますのは、人型の赤い牛。白軍高官の服装と声からボリスと思われる。着地間際で攻め立てられており、辛くも動いた左手のククリ刀で迎撃するも、不可思議なことが起きた。
「…………っっ!!!?」
接触と同時に平衡感覚に狂いが生じ、気付けば目の前には地面が迫っている。ククリ刀を胃に突き立て、ブレーキをかける。ナロトの血が派手に飛び散り、白黒の道化服を青色に染め上げる。どうにか吹き飛ばされた勢いが止まるも、彼らの猛攻はそこで終わらなかった。
「止まって見えるぞ、余所者!!!」
次に声を発したのは、ダニールと思わしき人型の銀豹。テンポよく三拍子のリズムを刻むように周囲を跳躍しており、ドドンという規則から外れた変拍子を奏でると、気付けば眼前に迫り、繰り出したのは右拳のアッパーカット。
「……ぐッッ!?」
目で追うのが精一杯。バグジーは顎下に拳をもろに受け、無防備な状態で空中に放り出される。受け身を取ることもできず、ククリをまともに扱うのも難しい。そんな中、とっさに両足のとんがった靴を脱ぎ去り、右手に持っていたククリを右足の裏で掴み、左手のククリ刀と共に放り投げる。同時に意思能力が発動し、四刀に増えたククリは迫り来る赤牛と銀豹に迫っていた。
「殲滅者としての意地、ここで見せてあげるわぁ!!!」
誰に聞かれずとも叫び、放たれた四刀のククリは敵に接触。胃底区上部に充満するガスを刺激し、自爆覚悟の大爆発が生じていた。
◇◇◇
螺旋階段を上りきり、セレーナは塔のてっぺんに到着する。そこには不揃いなステンドグラスが円錐型で散りばめられており、色ガラスの一部に映し出された光景に、セレーナは釘付けになっていた。胃の中と思わしき場所で白軍高官二名と戦うバグジー・シーゲルの姿。苦戦を強いられており、右腕を負傷し、空中に放り出され、最後の博打に打って出ようとしている。直後、目に入ったのは大爆発。煙の中から現れたのは、見るも無残な姿となった白塗り顔の男。高官二名は上半身の衣装が破けた程度で留まっており、未だ健在だった。
敵が見せた幻覚かもしれない。支配の騎士が及ぼした影響が残っているのかもしれない。頭では分かってる。現実じゃない可能性の方が高いに決まってる。真に受ける必要はない。これがなんだと開き直ってやればいい。それなのに……。
「パパ?」
溢れ出す涙が止まらない。ボロボロと頬を伝い、悲惨な映像を映し出すステンドグラスに零れ落ちる。それが条件を満たす、表面に分針と時針を生成し、円で囲う。セレーナはそれを知っている。オクトーバーフェストでついに発現した意思能力。外付けの武器や道具に頼ることもなく、15533回のループを経て、並みの人間には容易に到達できない領域に至った。能力は単純明快。
「逆巻く運命」
時間を巻き戻す。




