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ナロト奇譚  作者: 木山碧人
第十二章 ナロト攻略

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第4話 攻略開始

挿絵(By みてみん)





 ライバルを見つけた。追加で二人の仲間を集めた。必要最低限の身支度を整えた。これでも準備は不十分かもしれない。ナロトに関する知識を詰め込み、修行に修行を重ねて、徹底的に地力を底上げしてから挑むのも頭の片隅にあった。


 でも、それは性に合わない。準備を万全に整えても、それが通用するとは限らない。分不相応だろうが、行き当たりばったりだろうが、結局のところ、自分の目と耳で体験してみなければ本質的な情報を得ることはできない。


「準備はいいですか、皆さん」


「「「………」」」


「良さそうですね。では――ナロト攻略開始です」


 ジェノは永遠王国ネバーキングダムとナロト体内を隔てる黒い膜を手で突き破り、黒の革靴を前に一歩踏み出した。背後にはカグラ、ロザリア、ソーニャと続き、緊張した面持ちを露わにしている。手荷物はないに等しく、パッと見だと準備不足にしか見えず、ナロトを舐めているようにしか見えなかった。


 そんな四名がたどり着いたのは、右主気管支。人間でいう右肺と気管を繋ぐ部位であり、永遠王国ネバーキングダムと密接した場所であることから危険度は極めて低い。前人がとっくに開拓済みの領域であり、しばらくは平坦な道が続く。


 ブヨブヨとした弾力のある足場を踏みしめながら、ジェノはセンスを薄っすら纏った。当然ながらここは光の届かない領域であり、誰かが道を照らさなければならない。懐中電灯のような別の光源を持ち込むことも可能だったが、手荷物が増えることを懸念し、センスで代用できることから所持品から除外した。


 問題はどれだけ持続できるかだけど、恐らくこの程度の出力でいいなら半日ぐらいは維持できるはずだ。消耗が激しい戦闘を計算に入れれば別問題だけど、平常時は大した負担にならない。意思能力には『肉体系』、『芸術系』、『感覚系』という三つの系統があり、ジェノが該当する『肉体系』はセンスの量が多いのが特徴だ。気質が大容量電池と言っても遜色なく、体調や修練の度合いによって出力が大きく左右されるものの、光源役にはうってつけ。慣れない動作なら気苦労もあったかもしれないけど、この展開はイギリスのバッキンガム宮殿で行われた王位継承戦の舞台、『分霊室』で経験済みだ。あそこは常に暗く、肉眼なら足元も見えなかったけど、参加者のセンスが明かりとなって道を突き進んだ。


 さらに言えば、四人パーティというのも都合がいい。超常現象対策局……別名『ブラックスワン』の適性試験では四名+αをリーダーとして指揮し、こことは違うダンジョンを攻略した。思えば今までの人生経験の一つ一つが、ナロト攻略のために用意されたイベントとすら思える。当然、意図していたわけじゃないけど、ようやく準備期間が終わって本番に突入したような気がしていた。


「……」


 運命じみた展開を前にして、自然と口角が上がる。その理由を一から十まで説明するほどのことでもなく、知っているのは自分だけでよかった。


「不躾ながら、体調にお変わりありませんか?」


 すると、感情の機微を察したのか、ロザリアは声をかけてくる。懸念しているのは『神格化』の件だろう。ジェノの体内には『白き神』と呼ばれる存在が宿っており、一時期は痛覚を失い、感情を失い、原因不明の高熱すら伴っていた。ロザリアを殺した一件は諸々の体調不良が重なった時に起きた出来事であり、理性が暴走することを懸念してのことだろう。


「どういうわけか、ずいぶん調子がいいんですよね。痛覚もあるし、感情もあるし、熱も完治しているように思えます。強いて言えば、『白き神』と喋れなくなったぐらいですかね。詳細はよく分かっていないんですが、『堕天』とやらが関係してるのかもしれません」


 一連の騒動を思い出しながら、ジェノは言葉を連ねる。ターニングポイントは良くも悪くもロザリア殺害後だ。『人を殺してはいけない』というリーチェとの約束を破り、そのことが『堕天』に繋がったと見るのが自然だけど、確定じゃない。上手く言えないけど、『白き神』の半身であるラウラや、別の外的要因も快調の理由に絡んでいる気がした。


「…………」


 返答に対し、ロザリアは神妙な面持ちを作り、口を閉ざしていた。思い当たる節はあるけど、口に出すほどの根拠はないと言ったところかな。別に今のままでも問題ないし、どれだけ議論を深めても、仮説の域を出ないだろう。論ずるに値する建設的な方向に軌道修正なら、結論は一つしかなかった。


「万が一、俺に何かあったら殺してください。あなたにはその資格がある」


 ◇◇◇


 ナロトの気管を通り抜け、たどり着いたのは中咽頭。口から食道に向かう途中のルートであり、気管とも通じている言わば交差点だ。外敵の襲来を警戒し、数十名ほどの白軍の精鋭、『コサック部隊』の管理下にあるはずだけど、人っ子一人いない。周囲のテントは荒らされた形跡があり、物騒な雰囲気に満ちていた。


「これって……。何かと接敵したんでしょうか」


 ジェノは足を止め、周囲を見渡しながら、予想を立てる。


「その可能性が高そうですね。散策するにしても、二人一組で行動した方が良いように思えます」


 ロザリアの意見に従い、ジェノはカグラと組んで付近の散策を開始する。同じ場所を探しても効率が悪く、鼻に近い上咽頭から見て回ることにした。テントの最後尾が位置する場所であり、そこから順当に調べ続ければ最前列から散策を続けるロザリアたちと中間地点で合流することになるはずだ。


「慈善家だねぇ。毛嫌いしてくるロシア人の身を案じて、おめぇに何の得があるってんだ?」


 その道中でカグラは退屈そうな面持ちで声をかけてくる。荒れた原因を突き止める気はこれっぽちもないようで、テントの方は見向きもしなかった。


「損得だけで行動を決めるなら、困った時に誰も助けてくれなくなるよ」


「綺麗事だねぇ。裏を返せば、今のうちに恩を売っておいて困った時に誰かに助けて欲しいとも聞こえるが?」


「穿った見方をすればそう見えるかもね。別に否定はしないし、結果として事実になるだろうから間違ってないと思うよ。俺の心情は別だけど」


「へぇ。損得勘定を抜きにしたら、おめぇには何が残るってんだ?」


「それは……」


 結論を口にしかけた時、自然と足が止まる。視界の先には生存者と思わしき存在が地面に膝をついているのが見えた。小柄な体型で白い軍服を袖を通し、白い神をツーサイドアップにした少女。名前は確かターニャだ。ズタズタに切り裂かれた黒い熊のぬいぐるみが彼女の傍らに転がっており、並々ならない状況を示唆している。


「「――」」


 ジェノとカグラは口を閉ざし、互いにフルスロットルでセンスを纏った。銀と赤の激しい発光を伴い、暗がりにいた存在を明らかにする。


「……」


 見えたのは黒色のフォルムをした人型の魔獣。蜥蜴をモチーフとしたような鱗や尻尾が備わっているけど、二足歩行の体勢を維持している。……こいつは、ただの魔獣じゃない。見るからに理性があり、明確な意図をもって『コサック部隊』を襲撃したように思えた。下手したら言葉も通じるかもしれない。


「なんで戻ってくるかなぁ……。逃げろっつったじゃん」


 ターニャは振り返ることなく、『コサック部隊』である前提で声をかけてくる。少ない情報だったけど、それだけで余白を穴埋めできる。恐らく彼女は殿しんがりを申し出て、仲間を生かすために捨て駒に徹したんだ。だから荒れていたし、誰もいなかった。気管で永遠王国ネバーキングダムに引き返したと思われる残存部隊と遭遇しなかったけど、タイミング悪くすれ違いになったのかもしれない。


 ともかくだ。こちらのやることは変わらない。偽善だろうが損得勘定と言われようが、一度確立した信念は簡単に揺るがない。


「止めてやる……。お前の凶行は今日限りで打ち止めだ!!」

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