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ナロト奇譚  作者: 木山碧人
第十二章 ナロト攻略

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第3話 次なる課題

挿絵(By みてみん)






 ジェノはカグラを仲間に引き入れ、向かった先は教育棟ビル。ついでだからとソーニャも同行しており、三名はビル内の廊下を突き進み、その最奥に位置する扉の前でピタリと止まる。扉上部の室内札には『特別教室』と印字されており、本来なら限られた者のみが出入りを許される場所。ジェノは決まりに遠慮することなく扉を横にスライドさせ、中に入った。


 視界に広がるのは二人分の学習机と椅子。正面には黒板と教卓が存在し、チョークや黒板消しといった学習に欠かせない備品は存在するが、それ以外のものは徹底的に排除されている。余白や遊び心といったものは感じられず、勉強をするためだけに作られた息苦しいスペースのように見えた。


 努力や習慣よりも環境が人を作るというけれど、これは最たる例だろう。娯楽のない徹底的に管理された空間に身を置くことで、普通なら逃げ出したくなるような高い水準の学習を当たり前の状態にする。恐らく、一日12時間ぐらいの勉強なんか余裕でこなすんだろうな。変わった場所に作られた学習施設だけど、外側の世界のトップ層と照らし合わせても遜色ない教育方針に思える。


 そんな厳しい箱庭の教鞭をとるのは一人の女教師ロザリア・アッカルド。『狂犬』という二つ名で知られる彼女は、『七聖獣』にも数えられ、黒色の後ろ髪を左右に分けておさげにし、黒い丸眼鏡をかけ、背筋がビシッとするようなコルセット付きの白いドレスを着ている。他には誰もおらず、予想していた人物はいない。ここが集合場所のはずだったけど、師の姿は見る影もなかった。


「リーチェ様から言伝を預かっております。ここからは自発的に動けと」


 こちらの心を読んだかのように、ロザリアは師の言葉を代わりに伝える。ライバルを見つけてくる前提で次の課題を用意していたんだろう。付きっきりで面倒を見るタイプでもないだろうし、リーチェの性格を考えれば解釈一致だった。


「このまま攻略に進むも、都市で準備を整えるのも好きにしろと?」


「わたくしの口からは何とも」


「……ですよね。それを含めて自分で考えないとか」


 自由に行動できるというのは、非常に悩ましい。これまでは追い込まれた状態で問題に直面し、それ以外のことを考えられない状況が多かったから迷う余地がなかったけど、今回は逆だ。自分のペースで物事を進めることが可能になっている。もちろん、12月25日までにリーチェと闘うという期限は設定されているけど、そこまでの経路はガチガチに固められているわけじゃなかった。究極的に言ってしまえば、ナロト攻略を後回しにして、カグラと修行に励み、実力を高める選択肢も存在する。


 問題は指標だな。どの程度の水準に達していれば攻略最前線に通用するかを知る必要がある。今の実力でも通用すると思いたいけど、主観で自分を評価するのは危険だ。自信がある状態と、驕りがある状態の判別をつけるのは難しく、失敗すれば自分のみならずカグラの命を危険にさらす可能性がある。追加で仲間を増やすかどうかも含め、今の自分がどの程度かを第三者に判断してもらう必要があった。


「あの……ロザリアさん。差し支えなければ、俺たち二人のセンスを見て、評価していただけませんか? 今の実力でも攻略可能かどうかを知りたいんです」


「それなら――」


「また先生を酷使するつもり?」


 快く受け入れてくれそうな雰囲気の中、割って入ってきたのはソーニャだった。ジェノの左側に位置しており、両腕を組みながら不服そうな表情を浮かべている。そう言われても無理はなく、ジェノはロザリアを一度殺した。不慮の事故とはいえ、加害者であることは疑いようがなかった。その光景は生中継されており、当時の視聴率は100%。覚醒都市に住まう人間でジェノの凶行を知らない者はいない。永遠王国ネバーキングダムの性質上、生と死が曖昧になり、そのおかげで息を吹き返したと言っても、行いの全てが許されるわけじゃなかった。


「出過ぎた申し出だったみたいですね。他を当たってみます」


 しゅんとする気持ちがありつつも、それを表に出さず、ジェノは出口に視線を向ける。覚醒都市民の風当たりが強いのは当然であり、援助が望めないのは覚悟していたことだ。というか、牢屋にぶち込まれなかっただけ有難いと思わなければいけない。多少、風当たりが強くとも、やったことを考えれば文句は言えなかった。


「正論は人を殺しますよ。彼らに何かあった場合、貴方は責任を取れますか」


 そこに声を響かせたのは、他ならないロザリアだった。言葉遣いは丁寧だけど、声がワントーン下がっており、子供を本気で叱りつける時に出る威圧的な印象を受けた。空気は自ずと重たくなり、視線は投げかけられた言葉の先にいる人物に向く。


「それは……取れないです」


「であれば、何をすべきか分かりますね?」


「ごめんなさい。差し支えていたのは私でした」


 独特な言い回しでソーニャは頭を下げている。悪い気はしなかったけど、良い気もしない。元はと言えばこちらが悪く、謝らせてしまった申し訳なさがあった。


「いえ、お気になさらず。それよりさっきの返答は」


「もちろん構いません。センスの量と質の両面で判断いたしましょう」


 ともかく、本人から許諾を得たことになり、これで心置きなく今の自分の実力を知ることができる。相方に目配せし、無言で頷き合うと、体表面に各々のセンスを纏わせた。ジェノは銀色、カグラは赤色の発光を伴い、最大出力に近い状態で放出を続ける。本来なら、必殺技込みで計測するべきだろうけど、体表面に維持できるセンスの量は全ての基盤になる。いかに必殺技が強力だったとしても、センス量がいまいちなら大した威力を発揮できない。それをロザリアが知らないわけがなく、必殺技が未知数な上で攻略に通用するかどうかを判断してもらえるはずだ。


「お二人とも基礎は徹底的に磨き上げられているようですね。肉体系であることを加味しても、量は申し分ない。ナロト攻略の最前線で活躍できるだけのポテンシャルはあるように思えます」


「ニュアンス的にそれで終わりじゃないですよね。遠慮なく言ってください」


「……ただ残念ながら、お二人で攻略するのは難しいかと。最低でも四人パーティを作り、優秀な後衛一名と、師範級一名を用意できれば可能性はあります。それでも二人で行きたいと言うなら止めはしませんが、命の保証はできかねます」


 ロザリアから下されるのは率直な意見。こちらの身を案じ、生き残ることができるギリギリのラインを彼女なりに考えてくれての言葉のはずだ。どこまでナロト攻略に精通しているのかは分からないけど、一考に値する良いアドバイスだった。


「先に言っとくけど、私はパス。永遠王国ネバーキングダムを維持する必要があるし、先生に頼み込まれたとしても、ぜーったい助けてやらないから」


 こちらが結論を下す前に、ソーニャは先回りして否定的な反応を示した。彼女の発言は筋が通っており、永遠王国ネバーキングダムは意思の力の延長線上にある技術だ。一定範囲内の空間を外界と切り離し、独自の理を適用する性質があり、使い手の間ではそれを『独創世界』と呼んでいる。ここは生と死や食事や睡眠などの概念が曖昧な状態となっており、外に出るまで事象が確定しないルールが定められていた。彼女は世界の中心であり、言ってしまえば神様のようなもの。独創世界を維持したまま、外の世界にも干渉できる人なんて見たことも聞いたこともなかった。


「つけあがってんねぇ。最初からお呼びじゃないっつーの」


 そこで口を開いたのはカグラだった。元々、犬猿の仲だったのは言うまでもなく、仮に同行することが可能だったとしても喧嘩が絶えないだろう。なんにしても、ソーニャを仲間に加えることは現実的じゃなかった。


「残念ですが、他を当たるしか――」


「いつからわたくしの意思決定に指図できるようになったのですが、ソーニャ・カラシニコフ」


 諦めかけた時、ピシャリと声を張り上げたのはロザリアだった。引っかかっているのは、頼み込まれても断る前提でいたことだろう。彼女の教え子であるなら黒だったとしても師が白というなら白と言わなければならないし、白だったとしても師が黒というなら黒と言わなければならないような関係に見えた。


「でも、だって……独創世界を維持しつつ外に出るなんてどうやれば……」


「不可能を可能にするのが『白金の道プラチノヴィー・プーチ』。凡人にできない所業をやってこそ、このクラスにいる価値があると言えましょう」


 言ってることは分かるけど、無茶苦茶だ。それなりに場数を踏んで、色んな使い手と闘ってきたけど、全く想像がつかない。そもそも、ロザリアの中で回答は用意されているのか? 回答白紙の状態でエリートならできるっしょ、みたいな無茶振りを要求しているようにしか思えなかった。


「あぁ、待って。あれをこうして、これをああすれば……」


 それが取っ掛かりになったのか、ソーニャは黒板に複雑な数式を描きこんでいくのが見えた。学がないから内容はさっぱりだけど、なんとかなりそうな雰囲気を醸し出している。意思能力と数学にどんな互換性があるんだろうか。原子爆弾は数学あり気で作られたのは分かるけど、スピリチュアルに近い意思能力が合わさったらどんな化学反応を起こすかなんて想像もつかなかった。


「えーっと、通常だと私を含めたエネルギーEが外壁となっているポテンシャルVより低いと、独創世界を越えることは不可能。でも、シュレーディンガー方程式の定常解を用いれば……」


「結論を」


「私、外に出れます」


「というわけです。どうやらわたくしたちはフリーのようですよ?」


 小気味のいいトーンで二人は結論を導き出し、なおかつ、主導権はこちらが握れるような形で会話を調整している。気持ちのいい人だな。リーチェの『自発的に動け』という意図も汲んでいるし、無責任に放り出すこともしない。それどころか、当事者意識を持って接し、最後まで責任を取るつもりなのが伝わってくる。ちょっと意味は違うかもしれないけど、据え膳食わぬは男の恥、だよな。


「ナロトの最奥を一緒に見ませんか? 俺たち四人で」

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