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ナロト奇譚  作者: 木山碧人
第十二章 ナロト攻略

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第38話 死の足音

挿絵(By みてみん)





 『波』の件を広島とロザリアに話してから、それなりの時間が経った。『仕立屋』前での食事と水分補給を終え、残るは『スーツ』の完成を待つばかり。各々の時間の潰し方はまちまちで、仮眠を取る人もいれば、入念に準備運動を行う人もいれば、迷走めいたイメージトレーニングに励む人もいた。


 結局、アザミの件は話せずじまいで、間接的に伝えることも避けた。それとなく伝えることも考えたけど、あの『黒い手』が生じる可能性が高く、危ない橋を渡るのは一度で十分。言えた範囲内で手を打つしかなかった。


「……」


 ジェノは考えを整理する意味も込めて、仲間のいない『仕立屋』の裏手で遠くの方を見つめていた。秘密の一部を共有することはできたけど、広島の件は自分一人で抱え込むしかない。仮に彼女が『波』通りの結末を迎えることになれば……。


「ちょいといいか?」


 後ろ暗い感情に飲み込まれそうになった時、声をかけてきたのはカグラだった。今までの軽妙な声色とは違って、真剣に接してくれているのが態度で伝わる。


「うん。何か用?」


 どうせ込み入った話はできないと思いながらも、受け入れる。うだうだ先のことを考えるより、なんでもない雑談の方が有意義かもしれなかった。


「単刀直入に言うが、おめぇには人前で話せない秘密があるんじゃねぇか」


「……え? なんで」


「あー、詳しくは言わんでいい。変に口走って、秘密を知っちまうのだけは勘弁願いたいからな。うっかり誰かに喋っちまうかもしれねぇし、あんたの中で留めておくのが吉だ。仲間と言やぁ聞こえはいいが、あくまで他人は他人。しっかりと線引いて『ぱーそなるすぺーす』っつうもんは守った方がいい」


 何やら勝手知ったる様子でカグラは本題を切り出す。もしかしたら、『波』の話し合いに参加した二人から小耳に挟んだのかもしれないな。今のところ発言の真意は読み取れないけど、悪気がないのだけは理解できた。


「じゃあ、お言葉に甘えて言わないでおくけど、これじゃあ会話は宙ぶらりんだし、秘密があると分かったところでどうにもならないよね。なんで確認したの?」


「……あんまり気負い過ぎるな。責任を肩代わりすんのも仲間の役目だ。言えないことがあるのは分かるが、もう少し周りに頼ってもいいんじゃないか?」


 カグラの言葉は抱えていた悩やみに直結するもので、嬉しくもあり、恐ろしくもあった。心の中を丸裸にされた上で、秘密も『波』の件も全て知られ、それに刺さる的確なワードを選んだような気さえする。


 発言に至った経緯を根掘り葉掘り聞きたいところだけど、それは本題に関係ない。聞いたところで答えてくれないだろうし、今はグレーゾーンで議論を深めたい。


「頼るって、例えば?」


「万が一の場面に遭遇した時の隊列。それをあらかじめ決めておこうや」


 ◇◇◇


 独創世界『永遠王国(ネバーキングダム)』の領土は期せずして広がった。暗黒闘技場なる新たな施設が追加された。ナロト体内の胃低区に直結し、本来なら帰れなくなるリスクを無視して王国から胃への往復が可能になった。

 

 何もかもがジーナにとって都合がいい。魔獣を保護していたという点も、エミリアとの交渉での好材料となった。ただ、魔獣を食さないというルールを設けた以上、活動時間には制限がある。とはいえ、ジェノ組が攻略を進める度に独創世界の領土が増え、移動可能な範囲が増える可能性が極めて高い。


 ようするに、ジェノ組を生かさず殺さず見守り、その進行度に合わせて、足切りを行えばいい。ジェノ組より先に進んでいる攻略組は移動距離の兼ね合いで生き残ることになるが、ジェノ組より後ろにいる面々の命は保証できない。


 ようするに、白軍対攻略組のサバイバルゲームの始まりだ。


「いいか、お前ら。底辺でくすぶる半端者の喉を一人残らず掻っ切れ!!」


 ジーナは暗黒闘技場の前で、指示を送る。周囲には白軍管轄の一個小隊。30名ほどの人員がジーナの指揮下に入り、手足のように動く。胃低区の性質上、小銃を発砲することはできず、隠密行動による背後からのナイフキルが最も効率がいいと判断した。よって、小隊の装備はナイフのみ。小隊は三人一組単位に分かれて移動し、各地に散っていく。後れを取った攻略組には死の足音が迫っていた。


 ◇◇◇


 胃低区には不穏な空気が漂っていた。現場から離れていたせいで忘れて久しい戦地の真っ只中にいるような血生臭い匂い。暗がりを歩くバグジーは一人、足を止める。物陰に隠れ、三方に散ってどこからでも死角を取れるよう位置取った三人一組を見逃さない。


「やれやれ……。アタシも舐められたものね。たった三人の刺客しか用意されていないなんて」


 その言葉と共に、身を潜めていた白軍三人が同時に襲い掛かる。それぞれがナイフを手にしており、センスを纏うことなく、フィジカルのみで攻め立てた。


「「「――――ッッッ!!!」」」


 勝負は一瞬で決着がついた。ククリ刀で初撃を切り払い、空中でバランスを崩した白軍一名を鈍器のように振り回し、残り二名を巻き込んで地面に叩きつけた。同時にザクリと音を立てて、襲い掛かった三名の胴体は切断される。再起不能の状態であり、息を吸うように微塵も迷いを見せることなく殺人を行っていた。


「アタシを殺りたいなら、一個大隊は連れてきなさい」


 その言葉が誰かに届くことはなく、密かに白軍と攻略組の対立が確実なものになっていた。

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