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ナロト奇譚  作者: 木山碧人
第十二章 ナロト攻略

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第32話 目まぐるしい攻防

挿絵(By みてみん)




 交渉で解決するのが大人のやり口で、戦闘は最終手段。とは言うけど、一般論で世界を救うことはできない。むしろ手順は逆で、世界征服を実現しつつある支配の騎士とまともな話し合いが行われるわけがなかった。つまるところ。


「「―――!!」」


 赤い樹々が生い茂る魔境に、剣戟音が響き渡る。セレーナは大太刀、支配の騎士は短刀を用い、戦闘が開始される。勝利条件はシンプル。こちらは大太刀で相手を斬りつければ勝利。相手はこちらの心を動かすか、倒せば勝ち。皮肉にも、どちらも相手を支配する能力が備わっており、あらゆる行動が一撃必殺になり得る。


「…………」


 そんな中、唯一の味方であるセルゲイは遠目で待機している。大太刀のリーチを考えると巻き込んでしまう可能性も高く、基本は一対一で、必要に応じて二対一に持ち込むのが適切だと考えた。


 さて……ここからどうしよう。単純な力比べは五分に近い。接戦を演じているのか、これが限界か分からないけど、恐らく前者。支配の騎士を含む黙示録の四騎士の歴史は深い。少なく見積もっても天地創造前から存在しており、世代交代があるにしても人間の寿命よりも遥かに長生きなのは間違いなかった。それに応じて、戦闘経験も豊富なはずであり、数十年生きただけの小娘じゃ勝てる道理はない。


 とはいえ、最初から諦めるのは違う。勝ち目が薄いからといって格上に挑戦しなくなれば、それは死んでいるのと同じだ。誰かに支配されるよりも性質が悪く、パパの言いなりになっていた若かりし頃の自分を思い出す。


 あの頃とは違う。パパから譲り受けたセレーナ商会から離れ、ブラックスワンから独立して魔術商社を立ち上げ、言いつけも破って独自の意思能力を覚えた。そろそろ巣立っていい頃だ。家族の言う事を頑なに守らなければならないほどの年齢じゃないし、今ならパパにも……バグジー・シーゲルにも勝ってみせる。


「……?」


 密かに決意を固めていると、視界から支配の騎士が消えていることに気付く。高速で移動したか、もしくは何らかの能力を発動したと思っていい。気配は完全に絶たれているけど、わずかな空気の揺らめきを感じる。何にしてもここから移動したのは確かで、狙いは恐らく――。


死の鎧(ペリメトル)


 予感に従い、振り返った先には反射系の意思能力を全身に纏うセルゲイの姿。さすがは戦闘経験豊富な大尉だ。軍隊の序列から考えると一番油の乗っている時期と言っても遜色なく、こちらが呼び出さない限り、戦闘は一任してある。そんな彼が意思能力を発動したということは、答えは単純明快だった。


「…………」


 セルゲイと対面する形で姿を見せたのは、支配の騎士。振るわれる短刀は黒いセンスによって防がれており、反射による自傷ダメージで決着がついたように見える。ただ、どうも様子がおかしい。支配の騎士が纏う紫色のセンスに揺らぎを一切感じず、むしろ勢いが増したようにさえ感じる。位置的に表情は見えないけど、読み通り、もしくは打開策を用意していると暗に言っている気がした。


「ちっ」


 思考を整理し終えたセレーナは軽く舌を鳴らし、二人がいる方に向かう。相手がどんな策を講じたにせよ、このまま傍観するのだけは避けたい。すぐさま至近距離に迫り、大太刀を振りかぶり支配の騎士を斬りつけようとした時、それは起きた。


「二分割の解釈は自由。強奪スラッシュとでも名付けましょうかな」


 彼の隣に立つのは、もう一人のセルゲイ大尉。二対一ではなく、二対二の極めてフェアな勝負が成立した瞬間だった。


 ◇◇◇


 『煉獄の門』前で対峙するのは七つ頭の魔獣。白軍の標準装備である小銃はさっきの戦いで使い物にならなくなり、頼れるのは己の身体とセンスのみだった。


「しゃらああ――!!!」


 ジーナは左足で横蹴りを放ち、七つ頭の魔獣は華麗なステップで回避している。どうやら、こちらが接触型の感覚系能力者であることはバレているらしい。本能的に察知しているのか、意図的にやっているのかは分からんが、後ろめたい事情を隠し持っているのは間違いない。なんにしても、今の戦法を取ったのが正解と判断してもよさそうだった。


『――――』


 すると、七つ頭のうちの一つ、紫色の頭が口をカパッと開く。見て分かる通り、遠距離戦に特化した何らかの能力を発動するつもりだろう。色味から考えれば芸術系の可能性が高いな。センスを飛ばすだけでも相当な火力が出るだろう。ただ、芸術系の本領は創造可変にある。仮にあの魔獣に人間並みの知能があるなら、何らかの工夫を施すはずだ。特定するのは難しいが、防御に徹するのは悪手。

 

「当てられるもんなら、当ててみやがれ!!」


 ジーナは七つ頭の周囲に正方形の結界を三重に張り、その上で空中に小結界を無数に展開し、縦横無尽に飛び交って、的を絞らせないようにしていた。相手目線で考えれば周囲の結界を突き破った上で、飛び交う標的に攻撃を命中させなければならない。頭同士で得意系統が違い、様々な能力を複合できるなら突き破られる可能性が高いが、ここまで予防線を張れば一撃死はないだろう。生き残って能力を確認することができれば、次の攻防に活かすことができるし、それぞれの頭が有する能力の種が割れるほど接触できる確率は上がるって寸法だ。


『――』


 その挑発に応じ、紫色の頭は能力を発動する。口から赤っぽい槍を射出し、正面にある結界を突き破り、グンと軌道を変える。ホーミングするように槍はこちらに迫ってきており、小結界による高速移動に完全に対応していた。


 赤外線誘導ミサイルかよ……と都合のいい設定に愚痴をこぼしたくなるが、一応の筋が通っていることに気付く。槍の石突部分には白い鎖が備わっており、それに追尾機能があるようだ。槍は攻撃に特化し、鎖は移動に特化していると考えていい。問題は槍の詳細だ。見たところ、神話時代の武器を再現したように感じ、装飾のない無骨な見た目から逆算すると、思い当たる節があった。


「――――――枯渇必定の槍(イグナイト)


 瞬間、赤い槍は体表面のセンスに食らいつく。凄まじい勢いで気力が減っていくのを感じ、物理的なダメージはなかったが、精神的に消耗しているのが肌感覚で分かる。水分が枯渇して枯れゆく樹々の姿がイメージとして近い。樹の幹に多少の傷がついても、深く根を張り、日光と水分が十分な環境なら生き長らえるが、水を絶たれれば恵まれた土壌も環境も無意味化する。


 どれだけ優れた感覚系の能力を持っていようが、センスが枯渇すれば勘がいい女止まりだ。魔獣の正体を把握する、なんて超能力じみた芸当ができるほどの余力が残されることなく、肉体一つで戦うことになるだろう。それどころか、センスを吸いつくされてしまえば衰弱死する可能性だってある。


 この状況なら誰だって拒否する。食らいつく槍を払い、センスの残量を確保して、再び接近を試みるのが最善だと考えるだろう。


 ただ、現場ってのは水物だ。こうだ! と凝り固まった戦法に固執すれば足元をすくわれることも多く、相手の能力が不確かな以上、計画通りにいかないのが当たり前。論理的な思考も大事だが、目まぐるしく変化する環境や戦闘に対応するなら直感的な行動を後押しする余白が重要になる。


 今がまさにその時だった。


「槍に鎖がついてるってぇことは、鎖をたどれば本体にも通じてるってことだよなぁ!!!」


 逆転の発想でジーナは槍先を素手で握り込む。センスが凄まじい勢いで目減りしていく中、間接的に七つ頭の魔獣と繋がる。これにより、能力発生の条件は満たされ、魔獣が秘めたる『心理の扉』は開かれた。

 

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