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ナロト奇譚  作者: 木山碧人
第十二章 ナロト攻略

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第31話 予期せぬ出会い

挿絵(By みてみん)





 ターニャが走り抜けるのは、赤い樹々。コサック部隊目線だと未踏の領域だけど、一度だけ探索したことがある。煉獄界は現実世界と異なる環境が設定されていることが多く、ここも例外じゃない。もちろんそれは前来たときに体験済みであり、特徴は極めてシンプルだった。


「「――――」」


 出くわしたのはメイド服を着た赤髪ツインテールと、虚ろな目をしているセルゲイ大尉だった。これが現実なわけがなく、あまりにも支離滅裂。小さな白い柄手(カルンウェナン)の能力によって透明化したオタクシアとの決着を何よりも優先すべきであり、都合のいい妄想にかまけている暇はなかった。


「しっしっ。失せてよ、大脳皮質の異常」


 ターニャは左手の甲を払うように見せ、特殊環境に攻撃する。幻覚は現実を突きつけることで解除されるってのは既に分かっているし、意味のない行動に見えるけど、これがこの場においての最適解だと知っていた。


「「………」」


 左手を通過しようとしている二人はピタリと足を止め、こちらをギロリと睨みつけている。幻覚にしては凄味のある描写だったけど、手を打ってあるのだから怖くもなんともない。後は霧のように消え行くのみで、見届けるまでもなかった。


「桃瀬桃子……?」


 去り際に耳にしたのは全く身に覚えのない名前。これも頭の中にあるワードを適当に繋ぎ合わせただけ。そう頭では分かっているのにどうしてだろう。なぜかしっくりくるし、妙に心に残っていた。


 ◇◇◇


 すれ違ったのは、白い軍服を着た少女。長い白髪をハーフアップにして、桃色のセンスを薄っすら纏い、獲物を追うような慌ただしさで去っていく。その面影は大太刀の元所有者、桃瀬桃子に似ていた。


 彼女は帝国でVtuberをしており、二次元の顔は知っているけど、三次元の顔は知らない。ただ、先日ドイツで行われたオクトーバーフェストでは少しだけ関わりがあり、ここに来る前にビデオ通話を行ったことがある。


 共通の話題は大太刀『迦楼羅』。所有者と元所有者という繋がりがあり、『殺意の伝染』という厄介な能力の取り扱いに関しては念入りに議論を重ねた。その詳細は省くけど、短いやりとりの間で桃瀬桃子の人となりは知れた。まぁ、彼女も『鬼』だから厳密に言えば人じゃないんだけど、浅からぬ繋がりができたのは事実。


 その経験と直感が言っている。彼女は桃瀬桃子だと。


 ただ、魔境に迷い込んだ今となっては、だからなんだという話ではある。メリッサのように妄想の産物である可能性が大いに高く、仮に実在する人物だったとしても他人の空似かもしれなかった。目的はオタクの恰好が目印の『支配の騎士』である以上、スルーするのが無難。頭では分かっているけど、照合する術があるなら試さずにはいられなかった。


「あの子のこと知ってる? セルゲイ大尉」


「ターニャ・タトリン中尉。初等教育課程のエリートコースである『白金の道プラチノヴィー・プーチ』を卒業した才ある少女。一般教養のレベルは平均的に高いが、中でも抽象芸術に造詣が深い。その一方で意思能力者としての適性は感覚系であり、芸術系との相性が悪く、頭の中に思い描くものを単身で再現することができない。その不得手を穴埋めをするために用意された黒い熊を模したぬいぐるみ、邪遺物イヴィル蜂蜜を食べる人(ミドヴェーチ)』を標準装備しているが、見たところ紛失しているため、我々の脅威にはならない」


 語られるのは、血の通った一次情報。『殺意の伝染』により、絶対服従状態であることから嘘をついている可能性は皆無で、桃瀬桃子説を否定した上に実在する人物であることが明かされたことになる。


 問題は追いかけるかどうか。


 事情を説明するフェイズに持っていけば味方になってくれるかもしれないけど、あの様子だと戦闘になるのは確実。セルゲイの評価を信じるなら二人がかりならなんとかなりそうだけど、そこまでやる価値があるのかは微妙だった。『支配の騎士』に繋がる確実な証拠を持っているなら接触したくはあるものの、そうでないならできるだけ誰とも関わらずに目的を果たしたかった。


「どうされる。ご主人様(ハジャーイン)


「ひとまず保留で。触らぬ才女に祟りなし」


 セレーナはターニャを見送り、背を向けて反対方向に進む。それ以上、思いを寄せることもないまま、自分の目的を優先する。


「ほぅ……これはこれは、浅からぬ因果の糸が見えますなぁ」


 その中心人物は、向こうからやってきた。白い柄の短刀を右手に握り、オタクのような恰好をする男が正面に立っている。特に思い巡らせることもなく、セレーナは左腰にある大太刀に手をかけ、青黒い刀身を露わにし、言い放つ。


「あんた、支配の騎士でしょ。悪いけど、超切り捨て御免だから」

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