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ナロト奇譚  作者: 木山碧人
第十二章 ナロト攻略

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第28話 防衛戦

挿絵(By みてみん)





 アレクセイの要望通り、ジーナは白軍の中央本部に足を運んでいた。エントランスで行われる身元照合と身体検査などの煩わしい手続きを無視し、白軍兵の制止を振り切り、足早に階段を下り、地下に居を構える司令部にたどり着いた。目の前には長い廊下が広がっており、左右正面に扉が配置され、尋問室や元帥執務室などの部屋に通じている。が、今回はそのどちらにも用はない。


 入口手前右手に位置する扉を乱暴に開き、ジーナは会議室に足を踏み入れる。そこに顔を連ねているのは、白軍の上層部。現場仕事から一線を退いたお偉方ってやつだ。覚醒都市の開拓時代を支えた『七聖獣』が三名いた。


「「「……」」」


 正面奥には薄茶髪をミリタリーカットした精悍な顔つきをしているのが元帥ドミトリ、正面奥左手には天然パーマ気味の黒髪に長いもみ上げと長い口髭が一体化した暑苦しそうなやつが大将ボリス、正面奥右手には短い銀髪を逆立てた冷ややかな表情を作る中将ダニールが一際存在感を放っている。じゃらじゃらと白い軍服の左胸に勲章をつけ、自らの実績をこれ見よがしに主張している。その他にも白軍の高官が席につき、白いテーブル越しに会議を行っているのが一目で分かった。


 全員に共通していることだが、二十代の容姿を保っている。魔獣を食べた影響からか、老化を抑制できており、皺くちゃで年季が入ったような人相のやつは一人もいなかった。そのせいか、どれもおんなじ顔に見えやがる。年と実績を重ねて偉ぶるのが上手くなっただけで、中身はガキのまんまだ。未だに先遣隊すら動かせていないのが良い証拠。失敗に終わった時の責任を負いたくないんだろう。見苦しいというか、自分のことしか考えてないというか、腐敗しきった体制に反吐が出る。


 ただ、不平不満をぶちまけたところで意味がない。相手がどういう状態でどういう心情を抱いていようが、ここに足を運んだ理由は変わらなかった。


「いつまでチンタラ手をこまねいてやがる! とっとと兵を派遣しろ!! 取返しのつかないことになるぞ!!!」


 ジーナは声を荒げ、思いの丈をぶちまける。


「それはできんね。ジーナ一般兵」


「状況報告が先だろうが。軍人なら最低限の筋は通せ」


「感情は議論に不要。我儘を押し通したいなら理屈を通すことだ」


 ドミトリー、ボリス、ダニールの順に提案を否定し、理由を添える。言ってることは分かる。情報収集し、裏を取り、作戦を立て、手続きを踏み、確かな勝算があって軍隊を動かすのが兵法の基本だ。盤石に勝ちを積むなら安定の選択だ。その慎重な対応のおかげで、『煉獄の門』や『煉獄界』から都市を守れたといっても過言じゃない。だが……。


「時と場合ってもんがあるだろ! なんでもかんでも時間をかければいいってもんじゃない!! 煩雑な手順は無視して、可及的速やかに兵を送れ!! じゃないとアレクセイが――」


「君は……兵の死に責任が取れるのかね?」


 声を荒げ、必死に意見を伝えるが、ドミトリーは一貫して冷静な対応を貫いていた。それどころか、現場と机上の間で生じる遅れを端的に言語化していた。言葉の重みにウッと息が詰まるのを感じる。一般兵という背負うものが何もない立場だったからこそ、これまでは身軽に動けていた。だが、あいつらは違う。人の上に立つということは相応の責任がのしかかり、動かせる配下の数が多いほど判断が遅れる。対処する脅威が大きければ大きいほど、慎重にならざるを得なくなり、見切り発車で出兵すれば、痛い目を見るのは現場の人間だ。


 軍隊に属しておきながら、上層部の実情をまるで分かってなかった。判断が遅いという表面的な部分だけを叩いて、その本質的な要因を理解していなかった。


「逸る気持ちは分かるが、だからこそ慎重になれ」


「報告が正確であれば、決済権を持つ人間は必ず判断を下す」


 ボリスとダニールは続け、現場を体験した血の通った報告を待っている。頭の中にこびりついた上層部への偏見が徐々に崩れていくのが分かる。こいつらの判断を揺るがす材料を握っていることに理解が追いつく。


「もし、期待に沿える報告ができたとして、部下に任せられない事案だと判断したらどうなる」


「無論、我々が打って出る」


「『妖猿ようえん』、『顛牛てんぎゅう』、『拍豹はくひょう』」


「戦力の一点投下。高官の仕事はデスクワークだけではない」


 ◇◇◇


 魔獣化における状態4の身体への負担は想像を絶するものだった。無理な変化を維持しているせいか、足先の血管が徐々に詰まり、疑似的な動脈硬化を引き起こしているのが体感で分かる。敵対する魔獣の能力である可能性も考えられたが、能力を使ったような素振りは見えない。


 戦闘の勝敗にかかわらず、この身体は長くもたないだろう。生死が曖昧な世界であっても、病をなかったことにはできない。生きているが死んでいるような状態が続き、外的要因のものであれば蘇生可能だが、内的要因なら死と同義だ。意識もないまま植物状態で生き長らえることになり、そんな人生は御免被る。


「……ッッッ」


 その思いが、意識的に操ることができないはずの状態4の本能を揺れ動かす。アレクセイ・カラシニコフとして活動可能な時間を凝縮し、目の前の戦闘に全てを注ぎ込むことが可能になる。


「西方七宿――」


 限られた命を振り絞り、アレクセイは白虎の姿で一世一代の大博打に打って出る。迫り来る脅威を退けるかどうか、確認することはできないだろうが、王国の外に追いやることができれば、いくらでもやりようがある。そのためなら――。


「駄目だよ。無理しちゃ」


 決死の狭間に聞こえたのは、馴染みのある声。次の瞬間には首筋に衝撃が走り、視界が明滅している。無粋にもほどがあったが、不思議と心は晴れやかだった。なぜなら、目の前に現れたのは血の繋がった息子。金髪の坊ちゃんヘアに、男性用白い制服を着込んだあどけない少年の姿。


「今度は僕が相手だ。このジーノ・ロマノフがね」

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