表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナロト奇譚  作者: 木山碧人
第十二章 ナロト攻略

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/64

第25話 『波』

挿絵(By みてみん)





 白獅子との話し合いは円満に終わった。スーツ作りに専念してもらって、その間に身体を休めて、後はナロト攻略に集中するだけでいいはずだった。


『あの……足りなかった素材の件ってどうなりました?』


『もちろん、保留だ。勝手に決められたら癪だろうからってな』


 それなのに、時間は逆戻りする。これが夢なのか現実なのか判別がつかないまま、会話は少し前に遡り、そこから映像は再生される。


「じゃあ、バグジーさんの素材を使って、スーツを作ってください」


 口から出たのは思ってもない言葉だった。なぜそんなことを口走ったのか自分でも分からない。ただ、雰囲気が変わった。センスが生じることはなかったものの、後ろ暗い感情が発せられているのが分かる。全身の毛が逆立つようなプレッシャーを感じ、思わず魔毛布団から飛び出し、ジェノは正面に視線を向ける。


「…………」


 そこに立っていたのは、人型の白い獅子。状態3を維持し、白のセンスが灯った鋭い眼光をこちらに向けているのが分かる。


 一度この会話の正解を引いたからこそ分かる。今の発言は完全な地雷だ。品位の欠いた『ならず者』には鉄槌が下されるだろう。


 でも……今のは本心じゃないし、こんな展開望んでない。ただ、謝っても許してくれなそうな雰囲気だし、このまま何もしなければ発言の責任を取らされる。逃げたいのは山々だけど、そもそもこの空間は一体なんなんだ。さっきの夢の続きか? 特定の動作をすれば目が覚めるのか? あーもう、分からないことだらけだ。全く見通しが立ってないけど、とにかく動いて確かめろ。論より証拠だ。


「――」


 ジェノは自らの頬を手でつねり、痛覚を確かめ、あわよくば目覚めてくれと心の中で念じる。ただ残ったのは、じんわりとした痛みだけ。身体を動かせたのはいいけど、問題は全く持って好転していない。むしろ悪化していると言ってもいい。このままいけば、『七聖獣』と戦闘になる。何か手を打たないとこのままじゃ……。


「待って、今のは」


「悪辣非道の輩に貸す耳なし」


 いつの間にか懐に迫った白獅子は、ジェノの喉元に食らいつく。鋭利な牙を突き立て、肉をえぐり、頸動脈を損傷させ、『仕立屋』は血に染まる。慈悲を乞うたり、手を打つ暇など与えられるわけがなかった。


 首元が焼けるように熱い。破裂した水道管のように血液が体外に放出され、手で押さえようとも塞がれることはない。目の前が急速に暗くなり、迫るのはバッドエンド。悲劇的な結末。それに対して抗う術を持っているわけもなく、『白き神』の力に頼ろうとも、口元が上手く動かせない。呂律が回らない。


 絞り出すように出てきたのは、たった一言。


「ごめん、なさい……」


 ◇◇◇


 「うぬぬ……涙ぐましい話ですなぁ。ディストピア世界に囚われた悲劇のヒロインが文学作品に触れて、外の世界に思いを馳せる切ない物語のように思えまする」


 赤い樹々を背景に行われるのは、オタクシアとのシェイクスピア作品に関する語り合い。一連の内容を言い終えた後、彼はオーバーなリアクションを見せている。特段、変には見えないけど、どうしてか以前にも見た光景な気がしてならない。デジャヴとでも言えばいいのかな。このまま何もしなければ、間違った結末を迎えるような予感がした。


 何かを変えなければいけない。そう本能が囁きかけてくるけど、具体的に何を変えるべきかは見当がつかない。でも仮に何らかの意思能力が作用して、時間が逆戻りして、選択をやり直す機会が与えられたと考えたら理解が早い。恐らく、間違ったのはこの後の発言であり、解決に導くキーワードは彼が今さっき口走った言葉の中にあると見るべきだ。


 仮定に仮定を重ねてしまっているけど、意思能力者という超常めいた存在が世界にいる以上、あり得ないという方がおかしい。できる前提で考えるべきだし、この違和感を無視して脊髄反射で会話を進めるのだけは絶対に避けたい。


 それらを踏まえて着目すべきなのは何か。彼が口走った言葉の中で、最も違和感があるワードは何なのか。そこまで条件を絞ると、答えは自ずと見えてきた。


「ディストピア世界? ちょっと待って……。あたしの知る『ハムレット』って、本当の『ハムレット』じゃない?」


 ターニャが口にしたのは根拠に乏しい憶測。合っているかどうかは定かじゃないけど、オタクシアの表情には確かな揺らぎがあった。当たり障りなく取り繕うために用意された仮面にヒビが入ったような感覚。ただ、口を閉ざしたままで彼の本性を引きずり出すような決定打には至ってない。ターニャは彼の返答を待つことなく、言葉の続きを口にした。


「大図書館は白軍の管理下にあった……。白龍の件を考えると、組織の隠蔽体質があったのは間違いなく、本当の『ハムレット』には人々に想起して欲しくないテーマが組み込まれていた。それを検閲し、改竄。それっぽい内容にでっち上げ、作品を成立させた。テーマは恐らく――」


「『復讐』。本当の『ハムレット』は、最初から悲劇と分かる構成。喜劇からの悲劇などという落差はありませんな。なるべくしてなったという展開であり、物語冒頭から父を毒殺した叔父に復讐するための行動を起こすため、全体のトーンは一貫して暗い。物語終盤で一部コミカルなシーンが挟まれることがありましたが、恐らく改竄者はそこを拡大解釈されたのでしょう。オタクとして突っ込みたいのは山々でしたが、それではボロが出てしまいますからな。ターニャ様が気持ちよく話せるようにだけ心がけ、内容については触れないようにしておりました」


 オタクシアは本性を露わにする。端的かつ的確に抱えていた情報を伝え、真実を明らかにしている。内容の大半は予想通りというか、あらかじめ考えていた内容の範疇にあった。ただ、気になるのは……。


「ボロを出さないことで、得られるメリットがあった」


「あのままいけばターニャ様は拙者の手駒になっていたでしょうなぁ」


 ここまで正直に言われてしまえば、千年の恋も冷めるというもの。彼は恐らく感覚系の意思能力者で心身を掌握しようとした。条件は惚れさせること。もっと広く言えば、感情を揺れ動かせること。危うく一歩踏み外してしまうところだった。


 でも、そうはならなかった。


「馬鹿だなぁ、黙ってればいいのに。聞かれたら正直に答えなければならない自分ルールでも強いてるの? まぁいいや……。乙女の純情を踏みにじった罰、その身に受けてもらうから!!!」


 ◇◇◇

 

 頭がぼーっとする。ここではないどこかの光景が脳内に直接流れ込んでくる。断片的な情報が一つにまとまっていき、煉獄界の魔境でターニャ対オタクシアの闘いが始まったのが感覚的に分かる。


 どう……なってる。白獅子に喉元を噛みつかれ、失血死したはずだ。幽霊にでもなったのか? 世界を俯瞰で見れるようになったのか? 何がなんだか分からない。ただ、やけに外が騒がしい気がした。


「起きんさい、ジェノ!! パーティがどがぁなってもええんか!!!」


 脳内に響くのは、広島の鬼気迫る声。目を見開くと、正面には白黒の袴を着た白髪の女性。両手には刀が握られており、足元にはカグラとソーニャが倒れている。善戦しているのはロザリアとスサノオで、センスを纏ってはいなかった。周囲は暗くてよく見えない。ただ、バグジーの発言を信じるなら幽門区だろう。


 問題はこれが現実かどうかだ。時系列が飛んでいるようにも感じるし、意識が飛んでいたせいで前後の記憶が抜けた可能性もある。なんにしても、パーティは崩壊寸前の状態にあり、何も行動を起こさなければ恐らく――。


「こ、ふっ」


 考えを整理し終えると、そこで耳に入ってきたのはグチャリという音と広島の息が漏れる音。嫌だ。やめてくれ。見たくない。間違いだと言ってくれ。


「あ、ああ……」


 視線を左に向けると、心臓を刀で突かれた広島の姿があった。夢なら今すぐ覚めて欲しい。これ以上、この光景を見たくない。友達が死に至る瞬間をただ見ているだけなんて、自分が死ぬより数百倍もつらい。


 それに何より……。ジェノの視線は刀を握る張本人に向く。瞳は赤く輝いており、とても正気には見えない。でも、そんなのはどうだっていい。原因があるから結果がある。広島を殺したのは、紛れもない彼女だ。やられる前に止める、止められなければ自分が悪い。そう思っていたし、今でも正しいと思ってるけど、抱いてしまった気持ちに嘘はつけない。


「アザミィィィィィイイイイっっっ!!!!!!」


 声色に乗せるのは一度否定した感情。『復讐心』に突き動かされるジェノの瞳は、黄金色に輝いていた。


 ◇◇◇


「どがぁした、ジェノ。悪いもんでも食うたような顔しよって」


 目の前にいるのは、胡坐の姿勢で串焼きにした魔獣の臓器を食らう広島の姿。『仕立屋』の前に陣取っており、解体された魔獣の臓器を囲うように仲間たちも食事にありついていた。時系列で言えば、一番順当だ。スーツ作成を頼んだ後と考えれば、納得がいく。ここまで幾度も繰り返されれば、ある程度の慣れが出てくるもので、自分の置かれた状況にも混乱することはなかった。


 ただ、それを冷静に受け止められるほど大人じゃない。


「あの……ハグしてもいいですか?」


「なんね、急に。ホームシックにでもなったんか?」


「ハグしてくれたら教えます」


「相変わらず、強情じゃのぉ。下心もなさそうじゃし、好きにしんさい」


 感情のままに抱きつくというわけにもいかず、ジェノは一言断りを入れて、彼女に両手を伸ばした。腕を回し、肩甲骨あたりで止め、服の生地越しに伝わる広島の体温を確かめる。じんわりと熱い。血流が全身に巡っているのが確かに分かる。生きた心地がするというか、ここが現実だと教えてくれている気がした。


「……もう、ええか」


 極めて真面目なトーンで広島は言った。確かに、ハグにしては長すぎだ。彼女の言われた通りに手をほどき、元いた場所に戻る。なんというか、今になって気恥ずかしい気分になって、広島の顔を見ることができなかった。


「それで……ハグした理由はなんね?」


 一方の広島は、毅然とした対応で今までと同じように接している。さすがは経験豊富な大人だ。異性とハグするのなんか慣れっ子なんだろう。それより、どこまで話すかだな。自分でも解明できたわけじゃないし、上手く説明できるか分からない。とはいえ、今まで体験した出来事は事細かに覚えているし、ある程度の予想を立てることぐらいはできる。それを短くまとめるとこうだ。


「俺……『波』が見えるのかもしれません」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ