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ナロト奇譚  作者: 木山碧人
第十二章 ナロト攻略

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第23話 魔境

挿絵(By みてみん)





 一連の騒動に決着がつき、ジェノは気絶したバグジーを肩に乗せ、『仕立屋』前に移動する。広島を含めた五名もそこに集結しており、近くにはバグジーが討伐したと思われる三頭の魔獣が地面に置かれていた。


「素材は十分。仕立てるのは可能。……ただ、少しばかり訳アリに見えるが、お前らはどうしたい?」


 廃墟の中から出てきた『仕立屋』店主の白獅子は、冷たい目を向け、問いかける。視線は自ずと騒動の発端であるジェノに集まり、無言で判断を仰がれていた。


「それは、もちろん――」


 周りの期待に応えようと前を向き、思ったことを口にしようとする。でも、目の前が揺らぐ、足元がおぼつかなくなる、意識が遠のいていく。気付けばバタリと地面に倒れ込み、次の言葉が紡がれることはなかった。


 ◇◇◇


 魔境。解釈は様々だけど、意味は大まかに分類すると二つ。物理的な面と精神的な面で枝分かれする。前者は魔物が住まう巣窟であったり、誰も足を踏み入れたことがないような未知の環境そのものを指す。後者は中途半端に覚醒した修行僧が陥りやすい、肥大したエゴがもたらす危うい精神状態のことを指す。


 果たしてここは、どちらが優勢なのか。


 大太刀の能力によってセルゲイを仲間に加えたセレーナは、赤い樹々が生い茂る空間をマイペースに歩いていた。目的は『支配の騎士の討伐、もしくは和解』。彼が現実世界に残したオタ芸動画は今もなおネットでバズっており、その映像に感銘を受けた者は支配されるという悪循環が繰り返されていた。元の動画を消しても、一度世に放たれたものは簡単に消すことができず、根本的な解決をするには本人と接触するしかない。前情報によると、ここにいるのは間違いないけど、どこにいるかまでは不明。今のところ、あてもなく彷徨う以外に手立てはなかった。


「…………」


 その時、樹々がざわめくような感じがした。今までと明らかに挙動が異なり、何らかの前触れか、虫の知らせのような気がしてならない。支配の騎士が向こうから現れてくれるなら楽でいいんだけど、そう上手くいかないのが人生ってもの。


「誰……?」


 大して期待もせずに、セレーナは物音がした方向に声をかける。


「うちのこと、覚えてないとは言わないっすよね」


 木陰から現れたのは、短い紫髪をしたバニーガール。黒い瞳をこちらに向け、敵意を露わにしている。忘れるわけがない。様々な条件、様々なルールで長きに渡って勝ち負けを繰り返してきた因縁の相手。


「メリッサ……。正直、今は構ってる暇ないんだけど、何の用」


「首を洗って待ってろ。確か、前に会った時はそう言ったっすよね」


「時と場合ってもんがあるでしょ。それに、あんたの期待には応えられない」


「うちに勝つ自信がないんすか? それとも――」


「あたしは意思能力を覚えた。そう言えば、分かるでしょ」


「……」


「意思能力を覚えないまま強くなったあたしと対戦したかったんだろうけど、ご生憎様。あんたのためだけに世界が回ってるわけじゃないし、世界を救うためにはどうしても欠かせないことだった」


 セレーナは冷たく切り捨てるように、現実を突きつける。以前とは同じであって同じではない。互いの熱量も違えば、抱えている事情も異なる。正直言って、自分のことを優先できる状況じゃなかった。


「うちより世界を優先したってわけっすか」


 メリッサは気落ちした様子で心情を口にしている。なんというか、親に構ってくれない子供を見ているような気分。


「まぁ、大体そんな感じ。元はといえば、再戦を期待させるような言葉を言ったあたしが悪いんだろうけど、時間ってのは残酷ね。昔のままじゃいられなかった。率直に言って、あの時と同じ熱量で盛り上がることはできない」


 丁重に断っては見たものの、彼女の性格なら、無理矢理仕掛けてくることもあり得る。まぁ、そうなったら付き合ってあげるしかないんだけど、気分が乗らない。あの時より強くなってはいても、何がなんでも勝ちたいという気持ちもなければ、魂が震え上がることもなかった。


「……その心は?」


「実力の有り無しや勝ち負け自体は重要じゃない。どうしても勝ちたい理由がないと、あたしは気分が乗らない。ド派手なアクションシーンを盛り込んで、人気キャラを戦わせときゃいいんでしょという監督の意図が透けて見える作品は嫌いなの。一作目が大ヒットしたのに、二作目でコケる映画は大体コレやってる。絶対に勝たなければいけない理由があって、それを阻止しようとする敵と戦うから盛り上がるのであって、その構成を無視して戦うだけの展開は、端的に言えばおもんない」


「あぁ、分かるっす。それって例えば――」


「違う違う。分かってないなぁ。立ち話をしに来たわけでもなければ、あたしに会うためだけに来たわけでもないんでしょ。まずはあんたが魔境に足を踏み入れた理由を言ってみたら? 内容によったら興が乗るかもしれない」


「うちは……」


 メリッサは何かを口走ろうとしたけど、言葉が続くことはなかった。スゥーと灰になったように消えていき、何もなかったように時間が進んでいる。どうやら、幻覚を見ていたらしい。赤い樹々の影響ってやつかもしれない。


 恐らくここは、精神的な意味での魔境ってところかな。全員に共通するか分からないけど、中途半端に強くなった自分を増長させるような幻覚が発生。それに乗ってしまうようなら、幻覚が解けることはなく、一生ここで彷徨うハメになっただろう。一応、それに打ち勝てた形ではあるんだろうけど、終わったとは思えない。今のが始まりというか、これから先に起こる出来事の数々は、幻覚か現実か判別できないと思った方がいいな。


「早く支配の騎士を見つけないと。正気を保てるうちに……」

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