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ナロト奇譚  作者: 木山碧人
第十二章 ナロト攻略

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第22話 ジェノ対バグジー

挿絵(By みてみん)





 距離を詰めれば勝てるとは言わない。至近距離戦に持ち込めば通用するとは限らない。得意分野を押し付けたからといって、実力差を覆せる保証はない。でも……これしか取り柄がないんだ。他は平凡か、それ以下ぐらいの腕前だし、今どれだけ創意工夫したとしてもたかが知れている。『白き神』の力を借りるって例外もあるけど、ここは自力で勝って、自信をつけたい。だからこそ今は、『いかにして距離を詰めるか』、それだけが重要だった。


「――――」


 背後から襲い来るのは、二刀のククリ。並々ならないセンスが込められており、受ければ一撃でKOされるレベルの代物なのが一目見て分かった。どのみち、まともに受けてやるつもりはない。屈んで、跳躍という二段階の動作で迫り来る投擲物を危なげなく躱した。空振りを見せた二振りのククリは、ザクリと瓦礫と思わしき地面に突き刺さったのが見えた。持ち主の方へ引き寄せる性質から考えれば、方向はあっちで間違いないな。向きを微調整し、確信を持って一直線にバグジーがいると思わしき場所へと向かう。それと同時に結界の収縮も始めており、徐々にではあったけど、得意な距離に近付きつつあった。


 ただ、どうも違和感が拭いきれない。バグジーの抵抗があまりに弱すぎる。遠距離戦に徹底するなら、偽ククリを乱発し、空中でぶつけ、軌道を変化させるなどの味変があってもいいはずだ。避ける方向をあらかじめ予想し、そこを的確に狙うような芸当も可能だろう。


 つまり、やってこないということは恐らく裏がある。何らかの罠を張り巡らせた空間に隠れ、入った瞬間に奇策を講じる可能性が高い。


「……」


 思った通りというべきか、進んだ先にはビルの廃墟があった。二階建てぐらいの高さで、天井部分は崩落している。四方は壁に囲まれていて、中を確認することはできなかった。


 乗り込めば高確率でバグジーと出くわすだろうけど、罠だと分かっているならわざわざ出向かなくてもいい。結界は今も収縮を続けており、廃墟が範囲外になれば、壁に押し潰されるのを恐れて自ずとバグジーが現れる。そうなった時に叩くのがベストだ。至近距離に固執し過ぎれば、相手の思う壺になる。


「…………」


 肌がジリジリと焼けるような感覚があった。心地よさとストレスが良い感じに入り混じった修羅場特有の空気だ。結果が揺蕩っていて、勝つか負けるか引き分けるか、生きるか死ぬか、倒すか倒されるか、なんにでも転ぶ可能性を秘めた不安定な状態が続いている。この感覚は嫌いじゃない。むしろ、死ぬかもしれない修羅場に身を置くことで生を実感することができる。


 これもある意味では、シュレーディンガー方程式の理屈に近いのかもしれないな。量子は『波』と『粒子』の両方の性質を併せ持つ。結果が確定しない場合はあらゆる可能性を内包した『波』。結果が確定した場合は可能性が一つに固定化された『粒子』になる。『波』を観測することで『粒子』になると後付けで理屈を通したのがコペンハーゲン解釈だったはずだ。


 それらを今の状況に落とし込むなら、バグジーの位置は『波』の状態にあり、極めて不安定だ。廃墟の中に潜んでいると決め打ちしているわけだけど、中を観測したわけじゃないから結果は不明。あらゆる可能性が内包されており、バグジーと接敵した瞬間に『粒子』となり、答え合わせが行われる。


 ただ、『波』は突き詰めれば確率だ。中に100%いるわけではないだろうけど、80%近くの期待値はあると思ってる。有力な証拠は、偽ククリの性質だ。持ち主に引き寄せられる性質上、方向はまず間違いなく合っている。ここに移動するまでの間に、別の場所へ逃げた可能性もあるけど、辺りは開けている。ククリを避けてから廃墟に到着するまで大して時間も経ってないし、移動できる場所は限られる。目視で確認できないってことは、廃墟の中か、廃墟外の物陰に隠れるぐらいしかなかった。


 答え合わせは、もう間もなく行われる。結界の収縮が廃墟を透過すれば、『波』が『粒子』に変わる瞬間が訪れる。そこに叩き込むのは、最大火力だ。平場での攻防なら相手を崩すための創意工夫が必要だけど、もう手は打った。出てきた時に惜しみなく全力をぶつけてやればいい。自爆しないためにも身体を満遍なくセンスで覆う必要があり、拳に割けるセンスが減るせいで威力は普段より劣るけど、相手の不意を突けたなら倒せる余地はある。


 成功するビジョンを脳内に浮かべ、準備は万端。結界は見る見ると収縮し、廃墟を透過するかしないかの瀬戸際に迫っていた。


 『あーそうそう、相手の立場で考えれば答えは見えてくるっすよ、ジェノさん』


 そんな重要なタイミングで頭の中に響いたのは、かつての仲間の言葉。短い紫髪にバニースーツを着た女性……メリッサと交わしたやり取りが思い浮かぶ。この言葉を投げかけられた経緯や前後関係はどうでもいい。わざわざ今、このタイミングで思い出したってことは何か意味があるはずだ。


 残された時間はない。熟慮できるほどの余裕はない。相手の立場ならどうするか。ただそれだけを考え、その感覚に身を投じろ。頭の中で結論を出す前に、直感で身体を動かさなければ間に合わない。


「――――超原子拳アトミックインパクト


 研ぎ澄まされた感覚により導き出されたのは、背後への右ストレート。理屈は後で考えればいい。この行動に踏み切らせた感情が全てにおいて優先される。


「…………っっ」


 そこには、顔をしかめるバグジーの姿があった。二振りのククリ刀を首元に向けて切りつけようとしているものの、ほんのわずかに届かない。右拳はバグジーの懐に食い込み、つっかえ棒のような役割を果たし、やがてそれは炸裂した。


「「――――!!!」」


 ガス爆発。十分に充満していた空間に移動したことによって、威力は最大。状況だけで言えば初手と同じように思えるけど、力の配分が全く異なる。見たところ今のバグジーは、ククリ8割、全身2割にセンスを調整していた。ガス爆発によるダメージをある程度受ける前提で攻めに特化していた。奇襲が成功することを見越した、決め打ちだ。何がなんでも今の攻防で倒すか殺すつもりだったんだろう。


 だから、こうなる。


「が、はん……」


 確率の『波』を読み切れなかったバグジーは白目を剥いている。


 一方ジェノは、赤級殲滅者(エリミネーター)単独撃破という『粒子』を自力で掴み取った。

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