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ナロト奇譚  作者: 木山碧人
第十二章 ナロト攻略

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第21話 個人的な因縁

挿絵(By みてみん)





 センスによる攻防を行えば、胃に充満するガスに引火する恐れがある。そんなのはやる前から分かってた。自爆覚悟で特攻したわけじゃないし、先の爆発音から考えると相手も裏の仕様に気付いていたはずだ。


「「―――」」


 辺りは煙に満ちる中、二振りのククリ刀の腹で右ストレートを受け止めたバグジーと目が合った。思った通りの展開だ。全身に赤いセンスを張り巡らせ、遠くへ吹き飛ばされてもいなければ、重度のダメージを負ったわけでもない。


 この空間は、意思の力が使えないわけじゃなく、使えば爆発が伴うだけだ。ようするに、爆発よりも上回るセンスで身体を覆えば軽傷、もしくはノーダメージで済む。その理屈が分かっていればガス爆発を攻撃に組み込むことも可能になる。


「ずいぶんなご挨拶ね。気に触れるようなことでもしたかしら?」


 脳内で考えを整理する中、バグジーはなんでもないように声をかけてくる。機嫌を損ねているようには見えず、体のいい言い訳を並べれば恐らく引き返せる。言葉選びに失敗しなければ、笑って許してくれる展開もあり得るだろう。今までだったら周りの空気と相手に流されて自分の意見を曲げていたかもしれない。


 だけど……。


「あなたは友人を傷つけた。闘う理由はそれで十分だ!!!」


 ククリ刀に止められた右拳を押し込み、再びセンスを込める。小規模のガス爆発を引き起こし、バグジーを明後日の方向へと吹き飛ばした。これで後戻りはできない。倒すか倒されるか。もしくは殺すか殺されるかの闘いになるだろう。


 ◇◇◇


『さっきの少年。ジェノ・アンダーソンとは縁を切りなさい』


 それは数か月前、実の娘であるセレーナ・シーゲルに投げかけた言葉だった。こうなる未来が見えていたわけじゃないけど、予想的中というか、あの時に感じた違和感は正しかったと見るべきでしょうね。


 問題は倒すべきか、殺すべきかの二択ね。組織としては前者を望んでいるんだろうけど、個人としては後者ね。組織の目論見はジェノを制御できる前提で考えているけど、制御不能になった時、あの子は周りを不幸にする。だから、事故を装って殺すのがベスト。目撃者がいる今この場だと難しいだろうけどね。


 ただ、あのひよっ子に負ける確率は、限りなく0に近いわ。もちろん、『白き神』が出張ってきたら話は別だけど、今の実力だと『ブラックスワン』の中堅にも満たない。せいぜい、下から二番目の銀級がいいところね。新人に毛が生えたようなレベルで、多少は修羅場をくぐっているんだろうけど、まだまだ戦闘経験が足りないし、特殊環境での攻防に慣れてない。


「…………」


 バグジーはセンスを絶ち、空中で受け身を取って地面に着地し、闇に身を潜める。相手の居所は目に見えて分かり、元いた場所付近に淡い銀光が灯っている。誘ってるのか、無計画なのかは不明ね。どちらにせよ、やることは同じ。


「――」


 両手のククリ刀をおもむろに空振り、能力の発動条件を満たす。夢現四刀流はククリ刀の動きに連動して、センス産のククリ刀を別地点に創造し、引き寄せる効果がある。センスを纏った本物のククリ刀を空振った程度じゃ起爆することはないけど、偽物の方は別。


「……ドカン」


 その効果音にふさわしい光景が目の前に広がり、ジェノがいた地点で煙が上がっている。度重なる爆発によって彼の周囲にあるガスは薄れつつあり、火力は控えめだったけど、確かに手応えはあった。偽物のククリ刀をセンスで防御したのは確実で、それが原因で起爆した。厄介なのはここからよ。

 

 ◇◇◇


 夢現四刀流。センスを創造可変し、二振りのククリ刀に連動して、偽物のククリ刀を作り出す技。フェイントも可能で、対応に慣れれば慣れるほど、ドツボにハマるタイプというか、使い手の創意工夫によっていくらでも応用が利く。今回に関して言えば、ガスが充満する特殊環境と極めて相性が良かった。連続して爆発させ続けたことによってガスが薄まって、さすがに火力が落ちてきているけど、これを何度も繰り返されたら、さすがにきつい。こっちは近距離攻撃しか取り柄がないし、離れた場所から一方的に狙われ続ければ、いつかセンスは底を尽きる。そうなれば、ゲームオーバーだ。敗者は口なしだろうし、殺されても文句は言えない。


「苦戦してるように見えるが、手を貸してやろうかぁ?」


 それを見かねて声をかけてきたのは、カグラだった。『仕立屋』裏手の少し離れた位置から手を振っており、他の仲間もそこに集まっていた。頼めば全員の力を借りることはできるだろう。さすがの赤級殲滅者(エリミネーター)でも手に余る面々のはずだ。でも、それで勝っても嬉しくないし、成長は止まる。


「いいや、ここは俺一人でやる! 手を出さないで欲しい!」


 ライバルを作れとは言われたけど、全ての事柄に二人一組で挑めとは言われていない。あくまで、無理をする範囲を見極めるためと、同じぐらいの実力者と切磋琢磨することが主な目的のはずだ。互いに因縁のある蜥蜴型の魔獣との戦闘ならまだしも、個人的な因縁のために仲間を巻き込むわけにはいかなかった。


「……っ」


 その時、再び背後からセンスが生じた気配があった。とっさに振り返り、両腕を前に突き出して、生じた二振りのククリ刀を防御。周囲のガスが尽きたのか、今度は爆発を伴うことなく、ククリ刀は弾かれて彼方へと消えていった。


 なんにしても、こちらからアクションを起こさないとまずい。このままだと防戦一方だ。恐らく、偽ククリは持ち主の方へ引き寄せられる性質があるんだろうけど、そこに意思弾を撃っても焼石に水だ。遠距離戦は得意じゃないし、この戦闘中にあれこれ工夫しても彼に通用するレベルに到達することはない。


 ワンチャンあるのは、やっぱり至近距離だ。どうにかして距離を詰め、自分の得意を押し付けるのが現状で最も勝率が高い手段と言える。問題はどうやって実現するかだ。バグジーを能動的に距離を詰めさせる理由付けができればベスト。どうにかして行動範囲を制限することができれば――。


「そうか……。この手があったか」


 ◇◇◇


 周囲に展開されるのは、銀光を放つ結界。引き寄せられた偽ククリの方向から大雑把な位置を割り出し、『肉体系』特有の出力任せな結界術による大規模な結界で周辺を覆った。恐らく、何らかの条件付けによって破壊できない性質が付与された上で、収縮を始めている。ただそれだと周り人間や構造物を巻き込む危険もあるから、対象はジェノとバグジー。それ以外は透過するように設定したはず。


「至近距離を強制するのが先か、遠距離で決着がつくのが先か。……面白い、受けて立つわ!!」


 敵の目論見を見抜いた上で、バグジーは再び二振りのククリを振るった。

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