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ナロト奇譚  作者: 木山碧人
第十二章 ナロト攻略

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第19話 仕立屋

挿絵(By みてみん)





 背後に展開されるのは、黒い膜状の球体。広島が手掛けた暗黒闘技場は、晴れて独創世界『永遠王国ネバーキングダム』の一部と化した。王国に追加される条件は大部分が影、もしくは暗闇で覆われた空間であること。光が届かないナロト体内の性質上、条件は十分に満たしており、広島の懸念事項はなくなった。


「「……」」


 どれぐらい振りなのか、ジェノと広島は味方同士として並び立つ。目標は同じ『ナロト攻略』であり、過去最高レベルで足並みは揃っていた。


「それで……攻略に必要なものってなんですか?」


「胃酸に強いスーツじゃ。それをこれから作りに行く」


 これは雑談でなく、会話だ。『ナロト攻略』という目標に必要なものだけで構成されており、必要ないものはあらかじめ除外される。他人から見たらビジネスライクの関係に見えるというか、人間味がなくて冷たく思えるかもしれないけど、本気で何かに取り組もうと思った時、自然とこうなるのを肌感覚で知っている。


 このやり取りを茶化したり、馬鹿にしたり、からかったりする人は、どこか本気で生きていない。できない自分が浮き彫りになるのを恐れて、何かに挑戦している人を見下すことで正気を保っているんだと思う。そりゃあ何も挑戦しないんだから失敗もしないし、挑戦して失敗している人を見たら高みにいるように見えるよね。『やらない』と『やってもできない』には大きな隔たりがあるんだけど、行動しないからその違いに気付けない。


 故郷である『ブラックマーケット』は、そういう人が多く集まる場所だった。社会に適用できなかった人たちが露店を構え、マフィアの庇護下で良くも悪くも好き勝手やっていた。主な生業は密輸品の売買だ。非合法的なブツを売りさばき、摘発されても蜥蜴の尻尾切りみたいな感じで露店の店主のみが捕まる。マフィアは関与を認めず、汚職警官に賄賂を渡し、見逃され続けるという腐敗した構造になっていた。


 胃底区は故郷とおんなじ匂いがする。攻略に行きたいけど行けない。覚醒都市には帰るに帰れない。特殊な環境だから仕方がない部分はあるけど、どこか自分の可能性に蓋を閉ざしているというか、後ろ暗い空気が漂っている。


 あれこれと考えていると、『仕立屋』という看板が目に入った。廃材だけで構築された建物で、ビルの廃墟を寄せ集めの物資で作ったような印象を受けた。まず間違いなく広島が言っていた場所だ。恐らく、スーツは各々の身体に合わせて作る必要があり、既製品じゃ布余りによる耐久性の低下とか色々と不都合があるんだろうな。


「ちなみにここって、代金とか必要なんです?」


「基本は物々交換で成り立っとる。何を欲するかは店主の気分次第じゃ」


 広島と必要最低限の会話を交わし、ジェノたちは『仕立屋』に足を踏み入れた。中には色とりどりの魔獣の皮らしきものが干されているけど、不思議と異臭はしない。むしろ良い匂いというか、ここだけ空気が浄化されているようだった。


「あ? また素材狙いのならず者ときたか。忠告が聞けないようなら……」


 物陰から放たれるのは、白色のセンス。パッと目の前が急に明るくなったことで視界が明滅している。状況的に勘違いされているのは間違いなく、このままいけば待ったなしで戦闘が始まりそうだった。


「相変わらず血の気が多いのぅ、『白獅子』」


 そこに声を発したのは広島。そのおかげか刺々しい気配は収まり、場はシンと静まり返っている。少ないやり取りだったけど、今のでなんとなく敵のことが分かった。恐らく、ロザリアが持つ肩書きと同じ――。


「七聖獣、ですか」


 行き着いた答えを耳にしたと同時に、目の前がぼんやりと見えてくる。ジェノが薄っすら纏う銀光に照らされ、正面に立っていたのは、短い白髪で茶色の毛皮のコートを着た屈強な男性だった。パッと見で分かる性格や服装で人を判断するのはよくないけど、大雑把で血気盛んな印象が先行して、仕立てに必要な技術……裁縫やデザインなどの繊細な作業には向いてなさそうに感じた。


「へぇ、こいつは懐かしい顔だな。会うのは『闘納祭とうのうさい』以来か」


 白獅子はロザリアの方に視線を向け、二人の間でしか通用しないであろう話題を持ち出している。意味をそのまま受け取るなら、『闘い』をテーマにしたお祭りか。たぶん深く語られることはないだろうけど、若かりし頃の二人に因縁があったという展開は容易に想像がついた。


「…………」


 ただ、当の本人は沈黙を貫いている。無視したようにも見えるけど、質問でもないし、今ので会話が終わってもおかしくはない。まぁ、どちらにせよ、ロザリアが白獅子に対して好意的な印象を持ってないのは間違いなさそうだった。


「だんまりときたか。……まぁいい。ここに来た本題はなんだ? 広島」


 白獅子は特に突っかかることもなく、話題を切り替えていた。


「胃酸に強いスーツを仕立てて欲しい。数は……六着かの」


「いいや、俺様はいらん。理由は神だから」


「だそうじゃ。全部で五着のオーダーメイドをお願いしたい」


 広島は短く話をまとめ、スサノオ以外の全員にスーツが行き渡るように交渉を進めている。ここに割って入る気は毛頭なく、揉めずに終わるなら何もせずに見守るのが一番のように思えた。


「あー、お前には借りもあるし、タダで作ってやってもいいが、残念ながら素材が一着分足りてないな」


「……具体的にはどの程度必要なんじゃ?」

 

「中規模の魔獣を一匹殺して持ってこい。それで不足分の皮は補える」


 提示されたのは至極真っ当な条件。


 ただ、場はどんよりとした空気に満ちていた。

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