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ナロト奇譚  作者: 木山碧人
第十二章 ナロト攻略

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第15話 責任者

挿絵(By みてみん)





 スサノオによると、ナロトの胃に相当する荒廃都市バイカルヴォイドは大まかに三つの区画で分類されているらしい。胃の上側が胃底いてい区、中央が胃体いたい区、下側が幽門ゆうもん区と名付けられている。胃液が発生するのは胃体区から幽門区までの間らしく、胃の内容物が消化されるまでの過程は非常に緩やかで、自然に任せるなら胃に入ってから出るまでに数年ほどかかることもあるっぽい。


 暗黒闘技場は比較的安全と言える胃底区に位置している。胃の機能上、ビルのような基礎をガチガチに固めた建築をするのはコスパが悪く、サーカスのテントみたいな組み立て式の構造だと予想されるけど、詳しくは聞いてない。


 周辺は狩り尽くされているのか、魔獣と敵対することはなく、チラホラと住民と思わしき人とすれ違うことはあったけど、絡まれたりもしなかった。足取りは極めて順調と言え、『煉獄の門』が開きっぱなしという懸念点も一応は解消されたし、これで目の前のイベントに全力で集中することができる。


「ここが、例の……」


 足を止めた先に広がっていたのは、赤っぽい木材を丁寧に組み上げた円形の闘技場。土台部分は赤い結界が構築されており、使い手が自由自在に動かせるように設定しているなら、胃の蠕動運動にも対応しているように見えた。


 どこから建材を調達したのかという疑問もあるけど、恐らく、『煉獄の門』を経由して煉獄界から仕入れているはずだ。洋風というよりも和風で、作り手の思想がそのまま建築に反映されているように感じる。


「本来、飛び入り参加は不可能だが、俺様は責任者に顔が利く。ちょっくら行ってくるから、オマエらはここで大人しく待ってろ」


 スサノオは一方的に言い放ち、階段を上り始めている。他の人たちは無言で見送っており、何らかのアクションを起こす気はない様子。サイ型の魔獣が、いつ目を覚ますかも分からないし、起きた時に備えて待っていた方が無難ではある。


 ただそれじゃあ、遠回りを選んだ意味がない。


「あの……俺も同席していいですか?」


 ジェノは一歩前に踏み出し、断られても食らいつく覚悟で声をかけた。


 ◇◇◇


 闘技場内の内周沿いにあるオープンな選手控え室や魔獣が収容される小屋などを素通りし、ジェノたちは責任者がいると思われる木造の扉の前にたどり着く。横にスライドさせて開閉するタイプのもので、古めかしさもあるけど、取っ手部分が今風というか、現代に通ずるものもあった。


「えらく和の色が強いですけど、スサノオさんが建築に協力したりしました?」


 スサノオが扉に手を伸ばす中、ジェノは尋ねる。


「いんや。俺様が手伝ったのは頭の使わねぇ単純な力仕事だけだ。設計もデザインも闘技場の責任者が担当してるよ」


「それって……。いや、会えば分かる話か。邪魔してすみません」


 責任者におおよその予想を立てることができたけど、口には出さなかった。合っていようが間違っていようが、この後の展開にあんまり関係ない。同席することで交渉に支障が出る可能性もあるけど、それはその時に考えればいい。


「俺様だ。入るぞ」


 スサノオは彼らしい断りを入れ、扉を横にスライドさせる。和のテイスト強めの木造の執務室が広がっており、部屋の奥にある執務机には一人の女性が腰かけていた。二十代前半の容姿、襟足が外向きにはねた茶色の髪、青っぽいセーラー服、両手には黒の指貫グローブ。いちいち確認を取るまでもなく、正体は確定していた。


「毛利、広島さん……」


「ようやく休みが明けたようじゃのぅ、ジェノ・アンダーソン」


 ◇◇◇


 広島との因縁は根深い。大日本帝国での出会いから始まり、これまで通算で三度に渡る本気の戦闘を行った相手だ。ライバルと呼ぶにはおこがましいほどの格上で、二対一などの広島にとって不利な条件で引き分けをもぎ取るので精いっぱい。直近で行われた覚醒都市の戦闘では、完膚なきまでに敗北した。


 同じ『肉体系』ということもあって、良くも悪くも広島の戦闘スタイルに大きな影響を受けている。背伸びして無理に勝とうとする手癖もついたけど、『超原子拳アトミックインパクト』などの必殺技は彼女の受け売りだ。意思能力者のキャリアとして切っても切り離せない関係になっており、こうして再び巡り合った。


 ここまできたらそういう星の下に生まれたとしか思えない。


「「……」」


 ジェノと広島は闘技場の中心部分に立っていた。互いに右手を伸ばし、握手を交わす。背後には互いに従える魔獣がおり、勝敗条件は極めてシンプル。自分の魔獣に指示を飛ばし、相手の魔獣を倒すこと。このために用意された木彫りの首輪が互いの魔獣に装着されており、同じ材質の腕輪を通じて言葉が伝わるようだった。


 こちらは言うまでもなくサイ型の魔獣を従えており、名前もないのもあれだから『セルギウス』と名付け、決闘に関しては全員の許可を取った。長所は言うまでもなく『突進』と『反射』だ。本来、荒廃都市での意思能力を交えた戦闘は、ガス爆発の危険性があるけど、闘技場内は別口らしい。観客席を隔てる場所に出入り自由な薄い結界が張り巡らされており、それが胃に充満するガスを弾いているみたいだ。


 対して広島が従えている魔獣の名は『モミジ』。こちらと同じく4メートル級の図体をしたキツネ型の魔獣だった。言うまでもないけど、能力に関しての前情報は一切なく、探り探り闘うしかない。


 ただのプライドがかかっただけのバトルってわけでもなく、互いの勝敗には報酬が用意されている。ジェノが勝てば、胃の攻略に必要な情報と物資を得る。広島が勝てば、準備が整ったと判断するまでジェノを闘技場で引き取る。自分の進退と身柄を賭けた勝負だ。リーチェに追いつくためにも、負けるわけにはいかない。


 意気込みを新たにしたジェノはセルギウスの背後に立ち、広島も立ち位置につき、互いに準備万端の状態。観客もほどほどに動員し、スサノオを含めた四名は観客席で勝負の行く末を見守っている。ここまできたら深く考えることはない。


「突っ込め、セルギウス!!」


「ぶちまわせぇ、モミジ!!」

 

 ジェノと広島は互いの魔獣に指示を飛ばし、眩い閃光が暗闇を照らした。

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