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ナロト奇譚  作者: 木山碧人
第十二章 ナロト攻略

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第11話 INorOUT

挿絵(By みてみん)





 ターニャの件に関しての折り合いはついた。ロザリアと徹底的に議論した末に明確な結論を用意した。今ここで披露されることはないだろうけど、彼女と再び対面した際に自ずと明かされるはずだ。


「「「「…………」」」」


 ジェノ一行は緊張感のある面持ちで下咽頭を直進し、食道方面を目指している。最後尾に位置するロザリアは気絶したサイ型の魔獣を片手で持ち上げており、微塵も重さを感じさせることなく運んでいた。


「あの……先生。その体勢だと腰とか傷めませんか?」


「お忘れですか? 日常的に魔獣を食らう覚醒都市民の肉体は魔獣並み。日頃から鍛えていれば、この程度……造作もありませんよ」


 ソーニャの質問に対し、顔色一つ変えずに歩行を続けるロザリアは何でもないように言った。実際のところ事実なんだろう。魔獣因子が適合されたカグラの足刀を止めるために超原子拳アトミックインパクトを放ったけど、威力で劣っていた。センスの出力は同じぐらいに見えたけど、カグラの肉体の強さが加味された結果、押し負けたように思える。もちろん全力で打ったわけじゃないし、互いに本気だったら結果は分からないけど、フィジカルだけで考えれば魔獣を食べた人の方が強いに決まっていた。


 ハッキリ言ってしまえば、人種が違う。彼らは亜人に片足を突っ込んでおり、魔獣を一度も食していないジェノは、またしても少数派に位置していた。


「羨ましい限りです。俺が本気で肉体を鍛えても足元にも及ばないんでしょうね」


 視線を落とし、ふとした感想を口にする。努力すれば報われるという言葉もあるけど、何事にも例外がある。例えば、人間とゴリラは同じ土俵に立てない。仮に身長が同じでも、体重は2倍、握力は10倍ほどの差があり、力比べの競技があるなら成り立たないぐらいの個体差があった。


 魔獣を食した人間と食していない人間の間にも露骨な能力格差があり、フィジカルで競おうとしているのが間違いというか、別のアプローチや別の種目じゃないと勝てる気がしなかった。


「食べりゃあいいじゃねぇか。魔獣の臓物は嫌いか?」


 そこで声をかけてきたのは、右隣に並んで歩くカグラだった。同じ土俵に上がれば条件は五分だし、肉体を鍛えたら鍛えた分だけ彼らに近付ける。もちろん、先天的な才能や後天的な努力によって伸びるパラメーターに個人差が出るんだろうけど、少なくともフィジカルという分野で彼らと肩を並べられるようにはなるはずだ。


 ただ……。


「食べたくても食べられない。これも『神格化』の影響だと思うんだけど、肉や臓物を食べると吐いてしまうんだ」


「細かく刻んで胃に流し込んでもか?」


「そこまで試したことはないけど、多分無理だね。なんというか食道にセンサーみたいなものが仕込まれていて、肉や臓物を検知して、吐き出す感じかな。細かく刻んでも、眠っていたとしても俺の意思に関係なく機能する気がする」


 今の足取りとリンクしている話題に奇妙な感覚も覚えつつも、ジェノは自身の特異な体質に関する情報を口にする。


「体内の構造を考えれば、決してあり得ない話でもないでしょうね。心臓が本人の意思に関係なく動き続ける臓器なのは言うまでもありませんが、食道も似たようなもので、入口と出口の開閉は自動で管理されております。胃に流し込む必要のあるものか、そうでないものかの判定が常に行われており、ジェノ様の肉や臓物に対する拒絶反応は、その延長線上と言えるでしょうね」


 人体の構造に詳しいロザリアは饒舌に語る。自分の体質のことってのもあるけど、これから向かう場所にも関係のある話で、自然と興味がそそられた。


「へぇ……。一般的な動物の体内だと何が通れて、何が通れないんですか?」


「哺乳類の場合だと、食べ物飲み物IN、空気OUTが一般的。ジェノ様の場合は、飲み物IN、食べ物空気OUT……なのでしょうね」


「あー、今ので納得しました。言っちゃえば、INとOUTにちょっとした違いがあるだけなんですね。……でも、どちらにも共通している胃に空気を送れない理由ってなんなんです?」


「胃にガスが溜まり、最悪の場合、破裂するからでしょうね。ほんの少量ならゲップや放屁によってガス抜きできるのですが、動物によっては食道の出口が逆止弁のような構造になって強固にロックされており、胃に溜まった空気を口から出すことができません。そのため、胃に空気を自動的に送り込む構造になってしまうと、ガスによる破裂が死因の大半を占め、生物として長く生き残れないと言いますか、そういう生物が過去にいたとしてもとっくに淘汰されているはずです」


「えっと……もしかしてですけど、今から行く食道とか胃って、後戻りできないとんでもなく危険な場所だったりします?」


「今頃、お気付きになられましたか。コサック部隊がナロト攻略に踏み切れなかったのは、食道出口の逆止弁構造にあります。一度、胃に放り込まれたら最後。二度と元の場所に戻ることはできません。もちろん、『煉獄の門』や移動系意思能力という例外もありますが、基本的には地獄への片道切符だと思っていいでしょう」


 ロザリアの聞き漏らす要素のない分かりやすい説明が、足取りを重くさせているのを感じる。危険な場所へ足を踏み入れる覚悟をしていたつもりだったけど、後戻りできない可能性を頭に入れてなかった。


「引き返すなら今だぜ? 修行して、準備を万全に整えるって線もある」


 そこでカグラは、楽で魅力的な選択肢を提示してくる。彼の案に乗れば、この不安は解消されるだろうし、この重たい気持ちも少しは軽くなるだろう。パーティメンバーを増員すれば、攻略できる確率もグッと上がるかもしれない。


 でも、そんな安定志向じゃ、一生リーチェには追いつけない。


「いや、行こう。少数精鋭のパーティこそがナロト攻略における最善だ。外側から与えられた答えに合わせるんじゃなく、俺の選択を正解にして見せる」


 ジェノは、決意を新たに道を突き進む。体表面に纏われる銀光が視界の先を淡く照らし、その先に広がっているのは、食道入口と中規模の『煉獄の門』だった。

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