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ナロト奇譚  作者: 木山碧人
第十二章 ナロト攻略

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第10話 白か黒か

挿絵(By みてみん)





 下咽頭に訪れるのは、束の間の静寂。肉々しい地面にはサイ型の魔獣が横向きに倒れ込んでいる。ジェノたちは勝利の余韻に浸ることはなく、戦闘の合間に起きた出来事についての状況整理が行われていた。


「つまり、ターニャさんは事件の黒幕で、都合が悪いから逃げたと?」


 ジェノは今までに出揃った情報を端的にまとめる。


「状況的にそれ以外考えられません。蜥蜴型の魔獣と手を組んでいたかどうかはともかくとして、コサック部隊を煉獄界に送ったのは彼女で間違いないでしょう。我々の知らない『煉獄の門』を使って逃亡を図ったのが良い証拠です」


 正面にいるロザリアは首肯し、持論を述べていた。


「でも、セルゲイさんの生存を確認するために煉獄界に行ったんですよね?」


「嘘という言葉をご存じですか? その場しのぎで言ったようにしか思えません」


「嘘も方便という言葉もありますよ。仮に本心でないことを口走ったとしても、必ずしも黒とは限らないはずです」


「ということは、今の情報を踏まえても彼女の肩を持つと?」


「他の人は知りませんけど、少なくとも俺はそうですね」


 ロザリアと短いやり取りを重ね、ジェノは自らのスタンスを示す。キナ臭い要素を加味しても、当初に下した決断から揺らぐことはなかった。


「念のため決を採っておきましょう。彼女を黒だと思う方は挙手を」


 ひとまず、場の意見を統一するためにロザリアは多数決を促していた。チラホラと手が上がり、ジェノ以外の三名がターニャを黒と断じていた。多数派の意見が正しいとするなら、彼女が白だとするこちらの主張は間違っていることになるだろう。ロザリアの意図は分かるんだけど、どうもモヤっとする。


「これに……なんの意味があるんです?」


「彼女と再び遭遇した時に生じる混乱を未然に防げます」


「一応、俺って、パーティのリーダーですよね?」


「ええ、紛れもなく。貴方を尊重しているからこそ話し合う場を設けているのです。こちらとしては、貴方の判断には基本従うつもりですが、過った方向に進むと事前に分かっていて、それと心中するほど盲目でも妄信的でもありません」


 ロザリアの主張はもっともだ。耳障りのいい言葉だし、筋は通っている。ターニャは多数決で黒なんだし、再び対面する時は敵として対処するんだろう。向こうがその気なら、一瞬の判断の遅れが死を招くこともあるし、議論の余地があるのは確か。こっちの意見は少数派なんだから、折れればいいだけなんだろうけど、ここを譲れば自分の根底的な部分が崩れる気がした。


「こちらとしてはって……主語がデカすぎませんか。それはロザリアさんの意見であって、カグラさんとソーニャさんは何も言っていませんよね。ターニャさんを黒だと判断したから意見をひとまとめにしたい気持ちは分かりますけど、まだ彼らの話を聞いてない。判断するのは各々の主張が出揃ってからでもいいんじゃないですか」


 ジェノの意見に対し、場の空気に緊張感が走ったのが分かる。言ってしまえばこれは、『狂犬』ロザリアとの真っ向からの意見の対立だ。厳しい教育を受けてきたであろうソーニャの表情は青ざめており、『彼女に逆らうなんてとんでもない』と顔に書いてあるようだった。


 確かに、ロザリアと比べたら実力で劣っているし、多数決でも負けている。暴力をチラつかせられたら、屈服せざるを得ない状況なのは間違いない。でも、それとこれとは話が別だ。議論の場を設けたと言ったのに、議論以外の要素を持ち込まれたら困る。おかしいと分かっていて従うのは、それこそ盲目だし妄信的だった。


「……仰る通りですね。いつもの癖で出しゃばってしまいました。残り二人の意見も踏まえ、そこから判断するとしましょう」


 当の本人であるロザリアは強気に出ることなく、話を転がしている。ひとまず、力で意見を捻じ曲げるつもりはないみたいだ。彼らの発言次第で取るべき行動は変わるけど、少なくとも今は、対等な立場で議論を進められている気がした。


「おらはリーダーの判断に従うね。ジェノが白だと言ったら黒でも白だ」


「私は先生の判断に従う。意見は一致してるし、あんたより信用してるから」


 カグラはジェノ派。ソーニャはロザリア派と意見は真っ二つに割れている。心強い味方が一人増えたわけだけど、今のままだと話はまとまりそうもなく、どちらかが折れなければ議論を終わらせるのは難しそうだった。


「盲目的な信者が二人。わたくしと貴方、どちらの意見を優先するのか、今この場で決めておかなければならなさそうですね」


「ですね。だからといって、力で訴えかけるのは無しですよ。俺があなたに敵わないのは分かり切ったことなので、それ以外の要素で白黒ハッキリつけたい」


「コイントス……というのは運任せが過ぎますね。貴方のスタンスに則るなら、ターニャを白だとする根拠を伺ってもよろしいでしょうか? わたくしがそれで納得するなら議論は終了ですし、納得しなければ別の方法を模索しましょう」


 ロザリアはあくまで話し合うことに重きを置き、こちらの意見に委ねられた。主導権を握られているようで窮屈な感じがしたけど、こればっかりは仕方がない。最終的にどうなろうとも、自分の意見を率直にぶつけるだけだ。


「俺は……」


 ◇◇◇

 

 中咽頭にある隠れ煉獄の門を通り抜け、ターニャは赤い樹々が生えた場所にたどり着く。そこは、煉獄界で『魔境』と呼ばれる場所。都市から直通の『幽遊原野』とは比べ物にならないほどの上位の魔獣が生息しており、接敵する相手が悪ければセルゲイ大尉を含めたコサック部隊が全滅してもおかしくない。


 とはいえ……彼らをここに送り込んだのはほんの数十分前のこと。その間に大尉がやられて、魔獣になって戻ってきたとは考えにくい。死んだにせよ生きているにせよ、大して遠くには行けないはずだし、何らかの痕跡が残っている可能性が高い。戻るにはひと手間かかるけど、魔獣を上手く誘導できればどうにかなる。


 なんにしても、セルゲイ大尉の生死を確認するのは最優先事項だった。仮に生きていると仮定するなら王国に裏切りを報告されることになるだろうし、計画に支障が出る。かといって、大尉が死んでいれば口封じにもなって順風満帆というわけでもなく、内心は極めて複雑だった。


「さて……どっかに手がかりは落ちてないかな」


 ターニャは周囲を見渡し、コサック部隊の痕跡を探る。パッと見ではそれらしいものがなく、気配を探ろうにも魔獣の匂いがキツすぎて鼻が機能しない感じ。厳密に言えば、強者のセンスがぐちゃぐちゃに混ざり合っていて、この中にセルゲイ大尉の気配があったとしても、個を認識できないほど殺気が入り乱れていた。


「およよ? こんなところに迷い込んだ子羊が一匹」


 不意に聞こえてきたのは飄々とした人間の声。コサック部隊に所属する誰とも該当せず、覚醒都市とは遠く離れていることから、同郷の者とも思えない。


「……誰?」


 ターニャは声がした方向に振り返り、桃色のセンスを纏う。愛用していた邪遺物イヴィル蜂蜜を食べる人(ミドヴェーチ)』は使い物にならなくなってしまったけど、ただの人間が相手なら遅れを取るわけがなかった。


 返答が来る前に見えてきたのは、奇抜な衣装を着た男性。黒髪のマッシュルームヘアで黒縁眼鏡をかけ、白を基調とした柄物シャツの裾を紺のジーンズの中に入れ込んでおり、革靴の履き心地の悪さを改良したような斬新な白の紐靴を履いている。


 ドクンと胸の高鳴る音が聞こえる。一時も目を離すことができず、自分の身に何が起きているのか頭の整理がつかない。ただ、それに合わせて時間が止まってくれるわけもなく、自然の法則に照らし合わせて動き出した。


「拙者はオタクシア。良ければ、好きな娯楽作品について語り合いませぬか?」

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