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ナロト奇譚  作者: 木山碧人
第十二章 ナロト攻略

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108/113

第108話 六重奏

挿絵(By みてみん)





 暗黒闘技場から背を向け、胃低区に乗り出したのはキツネ型の魔獣モミジ。手の内を明かすことなく、のらりくらりと場をやり過ごし、今の単独行動に至る。動機は『毛利広島を救うこと』。煉獄界からナロトに迷い込んで攻略者から救われた……というエピソードだけで行動の裏付けは取れる。魔獣側の多数派の意見に流されることなく、独自の判断軸を持つ理由としては非常に強固で明確だ。


 ただ、彼を突き動かす原動力はそれだけではない。


『悪いな、おっかさん。助けるのは今じゃねぇんだ』


 ユリアの進軍を横目に、モミジは通り抜ける。十分な距離を取っているためか、魔獣は眼中にないのか、ゆっくりと歩みを進めている。


 目的地は不明。


 覚醒都市か、暗黒闘技場か、はたまた、ナロトの外側か。行き先が語られることはなく、『残り七名の使徒を集める』という動機と、条件を達成すれば『人類が掌握される』という結末だけが明らかとなり、逆走を続けている。


 ただ、ユリアの行き先はモミジにとって重要ではなく、誰の力を借りるかが勝利に直結する。胃の中にいる攻略者に声をかけ、協力を申し出ることが必須となるが、魔獣の見た目の場合、説得するのも困難。さらに、実力者を選り好みすれば、討伐される危険性も増し、本末転倒な事態を招く可能性もある。


 諸々の事情を考慮し、モミジが選んだ攻略者は……。


『よぉ、目が覚めたか。カグラ・アンダーソン』

 

 無人駅で起き上がるカグラは、キツネ型の魔獣の姿を目にする。特に慌てる様子はなく、状況を受け入れているようにさえ見えた。


「時がきたってんだな。モミジ」


 深くを語らずとも、両者は通じ合っていた。同一人物という深い因縁がそうさせたのか。あるいは、何らかの意思能力の影響か。はたまた、別の繋がりがコミュニケーションを省略させたのか。なんにしても、二人の目的は一致する。


『「堕天反転ユリアをぶち倒す」』


 ◇◇◇


 幽門区から後退するのは二人。白い肌着姿のロザリアとスーツ姿のソーニャ。囚人男との戦闘から数分が経過し、胃体区に差し掛かろうとしている。


「それで……さっきの人、誰か思い出せた? ロザリア先生」


 横並びで走るソーニャは、前を向いたまま問いかける。声色は落ち着いており、口にする言葉は至って普通。再び幽門区に足を踏み入れる場合、囚人男との敵対は避けられない。今のうちに消化しておくべき話題であり、思い当たる節があれば真っ先に共有するべき相手なのは理解できる。


 ただ……。


「今のところ心当たりはありませんが、ずいぶん偉くなりましたね。いつからわたくしに敬意を払わなくてよいと判断したのですか?」


 ロザリアは足止め、低い声音で無礼な態度を言及し、場の空気が凍り付く。最初は些細な違和感に過ぎなかった。緊急時だからこそ、敬語を省略して意思疎通の速度を上げることが目的だと思っていた。


 しかし、今のは違う。十分に落ち着いた場で大した合理性もなく、敬意を欠いた。元からああいった性格なら気にしないが、過度に腰の低い彼女を知っているだけに突っ込まずにはいられなかった。


「え? 決まってるじゃん。先生が独創世界を台無しにした時だよ」


 語られるのは端的な理由。一度のしくじりを根拠にした、格下認定。恐れていたことが起きてしまった。自分に矛先が向けられるなんて考えてもみなかったが、遅かれ早かれエゴと自尊心が暴走するのは目に見えていた。


 師として、どう導くべきか。


 下か上かはどうでもよく、優位的な関係性を維持するためにエネルギーを消耗するほど暇ではない。ここで彼女と縁が切れたって構わないが、あの無礼な態度を貫いたまま先に進み続ければ必ず不幸になる。


 ただ、今の状態で説教したところで、聞く耳をもってくれないのは明らか。格下だと判断された以上、どれだけ筆舌をつくそうと相手の心に届かない。口論したい衝動に駆られるも、ロザリアは感情を抑え、白色のセンスを纏い、言い放つ。


「……教訓を与えましょう。肉体言語で分からせる」


 ◇◇◇


 覚醒都市を後にしたザハールとジークは、拡張し続ける『永遠王国ネバーキングダム』の領土に加えられた『仕立屋』を訪れる。ナロトの胃を攻略するには『スーツ』が必要不可欠だと身に染みて分かっており、現国王であるジークを同行させるなら装備の新調をするべきだと判断し、ここに立ち寄っていた。


「いないか。一連の騒動で一時休業、なのかもな」


 足を踏み入れたザハールは付近を物色し、店主の痕跡を捜している。


「疑問なんだけど、そこまで胃酸というのは厄介なのかい? 独自境界の条件設定で弾いておけば、余裕で対処できると思うんだが」


 一方でジークは『スーツ』の必要性に疑問を抱いている。言っていることは真っ当で、論理的な筋は通っている。ただ……。


「現場の経験則を軽んじると、火傷じゃ済まんぞ。表面的な理屈だけで未来を見通せると思うな。ここは黙って経験者の言う事を聞いとけ」


「君の言う事は尊重するが、理屈には理屈で返して欲しいな。独自境界で胃酸は攻略不可だと判断した理由をまだ聞いてない」


「どの程度お前が独自境界を使えるか知らんが、あれは異様なまでに集中力を削られる芸当だ。大量の魔獣に四方八方から囲まれ、どんな能力が来るか想像もつかない状況下で、胃酸のために独自境界を常に維持しながら、100%のパフォーマンスで戦えるのかって話だ」


「確かに、20~30%はパフォーマンスが落ちることは認めるよ。独自境界を常時展開すると全力を出せなくなるのは間違いない。ただ、私のことを少しばかり見くびりすぎじゃないか? 仮に70%の出力しか出せなくとも、魔獣如きに後れを取る気はしないのだがね」


「忘れたのか? 気にすべきは魔獣だけじゃない。ナロトの体内にはセンスによって起爆するガスが充満し、いつも以上に体表面に纏うセンスの量を多めに設定する必要がある。軽く見積もれば、ドカン。そこでゲームオーバーだ。未熟な攻略者はそれでやられるし、『スーツ』を持ち込んでも、破いて台無しにする」


「一見、筋が通っているように聞こえるが……私が思うに、『スーツ』が攻防を台無しにしているんじゃないのか?」


 ジークの何の気ない発言に、ザハールは眉根を寄せる。どれだけ丁寧に説明しても揚げ足を取って、理屈、理屈、理屈。現場の経験則を小馬鹿にされているように感じ、腹が立ってくる。とはいえ、ここで感情的になったら相手の思う壺だ。向こうが要求した土俵で堂々と戦ってやればいい。


「答えかねるな。筋の通った理屈があるなら、お聞かせ願いたいね」


「私の見立てだと、『スーツ』を守るために扱うセンスの総量は30%~50%だと読んでいる。もちろん、系統の違いや個々人の習熟度によって差はあるだろうが、今言った数字の範囲内に収まるはずだ。……意味は分かるね?」


 ジークはあえて結論をぼかし、こちらの口から言わせ、負けを認めさせようとしている。食えない野郎だ。言っていることは確かに正しい。数字上の理屈だとジークの見立てが正しいと認めざるを得ない。


 ただ、こいつの言い分にも盲点がある。

 

「だったら、『スーツ』無しで攻略してみろや。無傷で幽門区に到達し、ここまで無事に帰って来られたなら、素直に負けを認めてやるよ」


 ザハールは条件付きの勝負を申し込み、二人の攻略は始まった。

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