↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪異の森には白い羽根が落ちている  作者: 久本
第2章 私の価値、あなたの価値
PR
21/27

素朴実在論:中編

・・・憧れていた英雄は、まあ、思っていたよりは、随分駄目人間だった。

好きな女を口説く勇気ひとつない。そのくせ妙に偉そうだし。

常識人を気取っているけれど、肝心なところでいつも無茶苦茶。

横暴で、我儘放題。素直さなんか微塵もない。

ちょっと気に入らないことがあるとすぐに怒鳴り散らすし。

濡らした床は拭かない。飯を作ると味が濃すぎる。靴下をすぐに片方無くす。

拭いた皿が濡れている。彼が入った後の風呂は髪の毛だらけなのも嫌。

本当、こんなガサツな男とセレナはよく生活できるよな。

保護区を飛び出してからずっと胸に秘めてきた憧れも、いい加減にしないと、そろそろ愛想が尽きそうなんだからな。

憧れる理由など山ほどあったはずなのに、もうあと精々ひとつくらいしか残っていないんだ。


この男が口にする「絶対」が、絶対だと、知っているから。

もう、そのぐらいしか、残っていない。























空気が凍りついているかのようだ。

後部座席のタイタンは窮屈そうに長い足を畳んでいる。目の前には車窓から無人の街を見つめるセレナの頸。

秋島は暇そうにハンドルの上で骨ばった指をとんとんと動かしている。

誰も話さないのは、作戦前の緊張なのか、それとも、およそ数十年ぶりになるディアンの”帰省”を前に、皆が気を遣ってくれたから、だろうか。



「暴徒どもが根城にしているのは、B58地区の工場地帯。プラスチックの製造エリアを占領している。戦闘員の多くは敵対したハンターが協会から持ち出した魔導式武器で武装している。作戦に割いてやれる時間は今日含めて2日が限界だ、その間にケリをつけろ。」

「お上品な言い方すんなよオッサン。・・・要はテントの貧民街のど真ん中、だ。」

B58地区・・・テント街、その中でも特に貧しい人間が集まる場所だ。

タイタンたちは、そこから数十メートル離れた広場に、配給車に偽装した装甲車を停めて待機している。


ここは日当たりが悪く、いつもジメジメと空気が湿っている。昼過ぎだというのに、車は一向に日陰を出る気配がない。

工場地区が近く、夜に住居が地震のように小さく振動する。

人が住むにはあまりに不適切な環境。もちろん協会だって、平等に扱うべき大切な保護区民の住所をそんな場所に割り当てたわけではない。

この地区に住むことを協会は許可していない。ここの住民は全員、勝手に通路にテントを建てて住み着いているだけなのである。

他地区で人間が溢れすぎた故に自主的に移住した人間、他の住人とうまくやれなかった故に逃げ出した人間。その程度ならまだ優しい方で、犯罪者を匿っていただとか、結界外の遺物を流通させていただとか、今までにもB58地区では多くの事件があった。

つまりは協会の目の上のタンコブ。最も治安の悪いエリアだ。


「地理的にもやりにくい場所。もともと入り組んだ路地がテントでますます狭く、複雑になっている。セレナもタイタンも戦い方は豪快なほうが得意だし、戦闘になったら地理を知らない2人は確実に不利になる。襲ってくる暴徒を殺さないように立ち回るのは結構大変だよ。」

「・・・それに、2日って。もう少しどうにかならないの?」

「馬鹿言うな。これでも頑張った方なんだよ。」

保護区の外の、しかもハンターでもなんでもない、殆ど犯罪者の人間をハンター協会の重要作戦に組みこむなど、前代未聞。

それが許可されたのは、タイタンの提案が文句のつけようもないこと、秋島の必死の説得、そして記憶をなくしたとはいえあのルーヴが立案した作戦だということがあったからだ。

「あと2日もあれば、保護区の外で活動する有力ハンターが次々保護区に帰還してくる。そうなれば俺もお前らを守ってやれなくなる。その前にケリをつけろ。成果さえ上げてしまえば誰も俺たちには逆らえなくなるんだ。」

「・・・それにしたって、もうちょっと丁重に扱ってくれてもいいんじゃないのか。」

朝から協会のよく分からない人間にあちらこちらに引き摺り回され、タイタンは苛立っているのだ。

組織のシステムというのは融通が効かない。1人の重役を納得させれば次の重役に呼ばれ、全く同じことを質問され。

正直、揃いの白いシャツの仏頂面の男たちに囲まれているだけでもかなり気が滅入る。

挙句の果てに、休む暇もなく車に詰め込まれ、既に1時間。

自分はともかく、セレナには過酷な1日だろう。

「・・・別に、平気よ?私、この車よりも大きな馬と2日追いかけっこしたことがあるんだから。」

「いいから昼飯を食べてしまえ。次がいつになるかわかったもんじゃない。」

人間嫌いで人見知り、その上引っ込み思案な少女に任せて良い役目ではないことはこの場の全員が理解していた。それでも、複雑な魔導の話になると彼女を話し合いの場に出さざるを得なかった。

そう、この作戦の中心は、ハンターのディアンでも、立案者のタイタンでも、勿論秋島でもない。この小柄なガラス細工のような少女に、作戦の全てが賭かっているのだ。




「・・・ここの人たちは、働いていないの?」

「ボイコット。俺たちに殴りかかる勇気がない連中が、反対の意思を示す方法ってやつだ。」

保護区に来てからというもの、ハンター以外の大勢の人間を見たのは初めてだったが、彼らは配給車のハンターの印を睨みつけ、去っていく。八つ当たりに車を蹴る者もいた。

可哀想に身を縮めてしまったセレナの背をそっと撫で、タイタンは窓の外のはためく白い布地を睨みつけた。

恐らくは鉄筋か何かだろう。金属棒で組み上げられた住宅に白い布が被せられ、木の板の床の上に堂々鎮座している。布が飛ばないように細い金属で固定されている。

テント、と聞いていたものだから。タイタンはてっきり、現代のホームレスのような住宅を想像していたのだが、むしろそれはモンゴルの遊牧民の住宅を想像させるしっかりとした作りだ。

真四角の布製の住宅が確かに素朴で簡素な作りだが、西洋の白磁の城塞を思わせる保護区の中では寧ろ近代的な印象を受ける。

布の上にはいくつかの金属部品が据え付けられている。空調や炊事、風呂などに使うものなのだろう。不便がないよう、最低限の生活はきちんと用意されているのだ。

「・・・雨風もろくに凌げないなんて、嘘っぱちじゃないか。」

「あれの試作には俺も携わってるが、見た目以上に快適だぜ。もともとハンターの野外活動用の簡易住宅をベースに作っているからな。」

こういった新しい住宅なのだと言われれば、そういうものなのだと受け入れられそうだ。

決して以前からあった保護区の住宅に劣っているわけでもない。

過密に建てられていた他の住宅と違い、音が抜けやすい布製住宅はそれなりに距離をとって建てられている。これを用意した協会の配慮は窺い知れた。

「・・・ディアン。」

「そこのオッサンが美化して喋ってるだけ、綺麗なのは外面だけ!どこもかしこも修理が追いついてないんだから。雨漏りするし、隣が騒げば騒音が酷いし。」

「どこもかしこも修理が追いついてないのも、年数が経った建物が雨漏りするのも、隣が騒ぐと煩いのも・・・それは全て、テントでも居住区でも同じことだぜ坊主。俺たちはテントに、居住区のコンクリート住宅と全く同じ耐久と快適性を盛り込んだんだから。・・・納得できねえならいくらでもデータを提示してやるよ。築年数が経っているぶん、居住区の住宅の方が老朽は酷いしな。いくら言ったって信用してもらえるもんじゃねえが、それは思い込み、勘違いってやつなんだぜ。」

それこそが、テント街、そして保護区に蔓延る暗雲の、諸悪の根源なのだ。

「布製だと言うだけで急造住居だと思い込む、テントより居住区のほうが優れていると思い込む、移民の生活が劣っていると思い込む・・・ここに住む多くの人間がそう思い込んでいる、それを疑うことすらしない・・・。そういう差別の根源に、保護区に余計なプライドとクソの価値もない紙幣を持ち込みやがった馬鹿野郎どもがいるのさ。」

「けっ。差別は貨幣を持ち込んだ奴のせい?じゃあ貨幣がないと成り立たない貧困生活は一体誰のせいなんだよ?この人口過密は保護区の失策以外の何だって言うつもり?」

そこで初めてあの秋島を黙らせることに成功した。ざまあ見やがれ。ディアンは小さくほくそ笑んだ。

貨幣を持ち込んだ連中がクソ野郎だと言うのは否定しない。だが、それで教会の人間が自分の失敗を棚上げするのだけは許せない。


「・・・それは、聞かせられねえなあ。」


秋島からただ一言漏れた言葉。

黙らせることに成功した。そのはずなのに・・・何故だか余裕があるような、こちらを哀れむような、羨むような、不思議な色を帯びた秋島の瞳が、ミラー越しにこちらを見据えている。

「くく、それが、お前らが欲しがってる対価ってやつだからなあ。先出しして逃げられたら困るってもんだ。話の続きは仕事を終えてから、な?」

秋島はこちらを振り向き、ディアンに向けてばちん!とウインクをした。

「気持ちの悪い。・・・はあ。そろそろ向こうも、焦れてくる頃合いだ。とにかく、僕達の目的は、向こうの首謀者を、話し合いの場に引き摺り出すこと。直接的な攻撃は、可能な限りしないし、させない。別の反乱の大義名分ができるだけ。いいね。」

「そもそもこっちは、1人の犠牲者も出さない、って最初に聞いたぜ。撤回するなら今だぞ、坊主。」

「しない。・・・俺たちは誰も殺さない。それを証明する為にここまで来たんだ。」

セレナの手が小さく震えた。

「・・・でも、本当に向こうから仕掛けにくるの?今のところ、そんな気配は微塵もないけれど。」

「いやあ・・・ちと本気で偽装しすぎたかもしれねえな。」

秋島曰く、配給車が長時間、何もせずに止まっていることなど本来あり得ない。内部に色々積まれてはいるが、見た目はただの配給車。あからさまな攻撃ではなく、だが、怪しい・・・それに仕掛けてくるようなのは間違いなく”話が早い”。

「いや、来た。」

タイタンが嗅ぎ取ったのは、ガス臭。リアゲートを迷わず蹴破り、行動の遅い3人を車の外に、文字通り、放り投げた。

「ぎゃっ!?」

人間2人に押し潰された秋島は悲鳴を上げる。だがその顔の横にナイフが突き立てられ、寸前でディアンが狙いを逸らしたことに気づき・・・秋島は狙ってきた男を投げ飛ばした。

襲ってきたのは男が3人。全員がナイフを持っている。だが、全員が焦っているようで、投げ飛ばされた男が首謀らしい男を怒鳴りつけた。

「どうすんだよ、話が違うじゃねえか!」

「・・・まさか、誰もいないと思って襲ったのか!?」

「関係ない、とにかく人を呼べ!これ全部売っぱらうぞ!」

それを聞いたディアンは端末を手に取った男の意識を落としにかかる。魔道の粒子が容易に人体に侵入し・・・だがそれが一瞬硬いものに逸らされたような感覚があり・・・粒子が大脳を叩く寸前で救援のボタンは押されてしまった。

何か変だ。

いくら腹が減ったとて、ただの市民が金欲しさにハンターの車を襲うという発想をするわけがない。そんなことを何の後ろ盾もなしにやったら、文字通り生きる術がなくなる。

タイタンは意識を落とされた1人を秋島に引き渡し、残り2人の男と・・・その後ろから押し寄せる10数人の老若男女と対峙した。

「あんたは協会に戻ってそいつの口を割れ。こっちはこっちで、行ける場所まで行ってみる。」

「はあ、俺は付いて行くつもりだったんだけどな。」

「勿論、助力が必要になったら迷わず呼ぶ。」

貰ったサングラスを掛け、それだけを言い残すとタイタンは真っ先に走り出した。

「た、タイタン!待ちなさいったら!」

セレナが慌てて後を追う。ディアンもそれに続こうとした。

「・・・頑張んな、坊主。」

「当然。」

うるさいんだよ。

ディアンは一度も秋島を振り返ることなく、仲間の背を追って車を降りた。






「聞いてくれ、俺と彼女はハンターじゃない。俺たちはあんたらと協会と、その両方と交渉するためにここに来た結界外の人間だ。」

「協会の車に乗ってた時点で奴らの犬だろ。」

当然ながら全く信用されない。タイタンは剣を抜かず、拳と蹴りだけで暴徒を押し留めていた。

「荒事にする気は無い!ただ話をさせてくれ。」

「話すことなんてねえよ、ここで死にな。」

「・・・タイタン!協会の魔導式の炎のナイフだわ!」

そう言われてじっとナイフを観察してみるが、やはり尾が出ていないとなんの変哲も無い普通のナイフにしか見えない。一体どういう武器なのだ、問おうとする前に周囲の人間の視線が右、左、タイタンの背負った大剣、ハンターらしき男・・・そして、一番か弱そうな少女に動いた。

そしてざり、と靴が石畳の砂つぶを磨り潰す音。

「ッ!!!」

暴徒たちが一歩を踏み出すより先にタイタンはセレナを庇うために動いていた。

ひゅう。誰かの息を吸う音。

そして、タイタンの動きを見たセレナは即座に自分の身を守った。

鎖を展開させ、タイタンの大きな背中の後ろで静かに敵方向を睨みつける。

だがその一歩はセレナに向けて踏み出されない。そのつま先が向いたのは、一瞬にして無防備になった、ディアンの方向。

「まずった・・・ッ!!!」

時間にしては1秒に満たないそのひと刹那。

だがその一度の判断ミスで硬直したタイタンの横をすり抜け、数メートルの距離を離れたディアンに2人の男が飛びかかった。

ディアンの肌に刃が触れた瞬間、ディアンの姿が解ける。

自分の姿をくらますなど最早癖のようなものだ。緊迫する戦場に立つときは特に。

自分の本来の立ち位置を馬鹿正直に教えることなど絶対にしない。

「過保護すぎ。お前1人で戦っているんじゃないんだからさ・・・・。」

「気を、抜くな馬鹿者!!」

タイタンの緊迫した叫び。幻影のディアンの中をそのまま通り過ぎ、ディアンの眼前に迫る男の、影が。

「はあ!?」

慌てて横飛び、ディアンの首元を正確に狙った刃を避けた。

すんでのところで空ぶったナイフが腕を掠め、受け身を取りきれず固い石畳に叩きつけられた。

「大丈夫!?」

「いったたたた!!!マジで!?僕の魔導を破りやがった!」

今度は、それを見て慌てて走ってくるセレナに少女のナイフが振りかざされる。割り込んだタイタンと銀色の槍がそれを阻むが、ぎりぎりだ。

「タイタン!保護区のハンターにしては手練れすぎる!なんなんだあいつら!?」

「腐ってもハンターだろう!舐めてかかるのは良く無いってことだ!」

暴徒たちは、最初の印象と相反して、思考回路が、戦い慣れている人間のそれだ。

そう、3人で連携して戦うのが殆ど初めてなタイタンたちは、僅かに劣勢だった。

「でも、そうよ。一体どうやって・・・間違いなく術にはかかっているのに、まるで本物のディアンと幻覚がどっちも見えていたみたいだったわ?」

タイタンの首にナイフが一本飛ぶ。

「・・・タイタン、セレナ。とにかくあいつらをここを食い止めるよ。」

カン。セレナの手の甲で弾かれたナイフが足元に落ちた。

「もう、手抜きは得意じゃないのよ、私たち。」

「全くだ。ディアンも、サボったら後で叩き切ってやるからな。」

めきめきめきめき。セレナに襲い掛かった少女はぎょっとする。

セレナの足元に落ちたナイフが、地面で砕かれている。彼女のスカートから伸びた、何本もの鎖が、獲物の骨を砕いて食べる肉食動物の牙のように音を立てて、ナイフをぱき、ぱきと砕いていた。

「峰打ち・・・峰打ち・・・ううんと・・・えと。ええ、やることはいつもとおんなじよ。ええ、頑張るわ!」

よし!と気合を入れたセレナに呼応し、鎖がビダン!と石畳を叩き割る。

「・・・あ、れ?」

セレナを置き去りに、タイタンとディアンは冷や汗を流し、それぞれの目的のため、急いで細い路地を駆け上ってゆく。

「ディアンーーーーッ!!ちょっと待ってちょうだ・・・ええと!”私の目を見て”!!」

「・・・!タイタンッ!」

ディアンの必死の叫び。

固まるセレナの視界の隅に煌めくナイフの刃が踊る。

2人の男がディアンの足に、残りの2人はセレナの首元に。赤く滾る魔導を帯びたナイフが、2人を焼こうと襲い掛かっていた。

3階の窓の縁を掴んだディアンの足に、引きずり落とそうと襲い掛かる開かれた掌。

タイタンは前を見据え、脇目もふらずにそのまま駆け抜け、青いカーテンの窓ガラスを突き破る。


次の一呼吸で、既に勝敗は決していた。

開かれた掌は痙攣し、つま先は地面を離れることを許されない。

そして青いカーテンの向こう。1人の男が地面に押さえつけられていた。

「・・・やはり、指示をしている人間が居たか。剣筋が甘いのに妙にカンが良いから・・・怪しいと思ったんだ。」

「どうやって私を見つけた・・・ッ!!」

ぎりぎりと首を押さえつけられた長髪の細身の男は、失神しかけながらも、涎を零してタイタンを睨みつける。

「教える代わりに俺たちの話を聞いてくれないか。俺たちは何もあんたらをとっ捕まえに来たんじゃない。このまま協会とあんたらが正面衝突したら間違いなく双方に甚大な被害が出る。大勢の人間が死ぬんだ。だからそれを、止めに来た。」

「私たちでは協会に勝てないと・・・呵々・・・そう言うつもりか!?」

男がタイタンの腕に爪を立てる。ただ赤い跡を残すだけの抵抗をタイタンは一度見据え、ため息を吐いた。

「そうだ。」

タイタンは男を持ち上げ、窓の外を見せる。

それはまさに神業。

全身をびくびくと痙攣される男たちが、細い路地を覆い尽くすのような鎖の群れにぐるぐる巻きにされ、倒れこんでいる。鎖は繊細に操られ、人を殺さず、かつ身動きの取れない程度に加減されていた。

「分かった、話を聞こう・・・だから、教えろ、どうやった?」

「俺じゃない、鎖の彼女だ。あんたの通信に気づいたセレナさんが、ディアン越しに俺に伝えたんだよ。」

魔導など全く読み取れない普段のタイタンがこの部屋にたどり着くことができたのは、ディアンが咄嗟の判断で、セレナとタイタンの視界を共有させたからだった。

タイタンはただ、見えるものに突っ走っただけ。止まらないことが、今彼に出来る全てだった。


老若男女の血で染まるはずだった路地は、一滴の血が落ちることもなく、ただ静かに吹き抜けるどんよりとした風の音が鳴るだけだ。男はそれを見て、諦めたように両手を挙げた。

「・・・俺たちをここに送って来たドライバーはこう言った。テント街で協会の車両は嫌でも目立つ。今、そんなことをすれば、絶対に向こうの手練れが・・・要は、話が早い奴が迎えに来ると。・・・お前が、そうだな?」

タイタンは魔導端末の通知をちらりと一瞥し、男に視線を戻した。

「お前が、ヘムレンだな。協会に反旗を翻したハンターを主導した、結界内第7小隊の隊長。」

「呵々、博識だねえッ・・・!」

蛇野郎。秋島がそう呼んだ通り、ヘムレンという男は窶れた頰に濁った赤い色の目だけがぎょろりと力強く、皮膚炎爛れた首元の肌はまるで鱗のような、蛇を思わせる風貌の男であった。

「しかしあんた・・・どうなってんだ、これ。いくら距離があったとはいえ、この俺が、まさか人の気配に気づけないなんて・・・。」

「呵々。私は魂の重量が軽いのさ。軽いから、どこまででも行ける・・・かかかかか!慣れないことをするから間抜けに地面を転がる羽目になる!呵々!」

少し手を緩めてやればこれだ。タイタンはヘムレンを抱えたまま窓を飛び降り、セレナの拘束の中に投げ込んだ。

気絶した仲間の中に投げ込まれているというのに、ヘムレンの楽しそうな振る舞いは崩れない。捕まった瞬間の余裕のない振る舞いはどこへやら。その豹変ぶりは少々・・・いや、かなり気味が悪かった。

「やあやあ久しぶりだねえ鴉。息災かい?正義の権力者ごっこはうまくいっているかい?」

「・・・誰こいつ。知り合いじゃないんだけど。」

「呵々。つれないことを言うな!君に焼かれた”意志”を取り戻すのにどれだけ時間がかかったことか!・・・なあ、正義ごっこが大好きな、鴉の異端、・・・鴉の生みの親!」

「死ね。」

「ディアンッ!?」

からからと笑う男に殴りかかろうとしたディアンを慌ててタイタンが止める。

「落ち着け!俺たちがこいつに危害を加えたら全てが台無しだろうが!?」

「呵々!君のことは嫌いではないよ!正義ごっこが趣味なのは私も同じだからね!悪人というのは楽しくない、人に好かれて必要とされる気持ち良さの虜になってしまう気持ちは、呵々、ああよく分かるともさ!」

「黙りな。僕はこれからもっともっと幸せになる。崩落がなくなった世界は、きっと今の何倍も幸せだからな!」

そう言って、ディアンは一発ヘムレンに蹴りを入れた。だがそれまで。

「これで手打ちにしてやるよ。あとはリーダーに任せた。」

「はあ、ヘムレン。俺たちは反協会勢力と交渉をしに来たんだ。」

「交渉、か。君たちは確かにずっとそう言っていたな?こちらを傷つける意図はない、自分たちは協会とは違う第三勢力だと。」

こちらの長い言い争いを心底愉快そうに見つめていたヘムレンは、思い出したようにそう質問する。

「こちらのリーダーは正式には私ではないけれど・・・まあ、ハンターを実質的に仕切っているのは私だし、それでいいか。交渉、交渉・・・。私たちに何を要求する?」

「・・・俺たちは協会と約束を取り付けて来た。もしあんたらが俺たちの要求を飲んだら、反協会勢力に参加した全員を無罪放免して構わないと。」

「な・・・ッ!?」

顎が外れたかのように驚くヘムレンにセレナは書類を突きつける。

「・・・たしか、に。協会の公式文書だ。」

「勿論監視はつくわ。居住区もしばらくは専用のものに分けられる。完全な無罪放免とは流石にいかなかったけれど・・・でもその方が貴方達だって安全でしょう?日常生活になんら支障は出ないわけだし。何より、命を取る真似はしないし、勿論第4部隊の干渉もない。・・・そこはディアンが頑張ってくれたのでしょう?」

「まあ、脅せば一発だったよ。」

具体的にどう脅したのかは聞かないことにした。確かにあまりにさらっと交渉を済ませたので見直してはいたのだが、まさか、鴉の生みの親。・・・それほど地位がある人間だとは思っていなかったのだ。

「そん・・・なもの。呵々。協会に賛同する人間達が納得するわけがないだろう。嘘だな?」

「それはね、ふふ。私たちの条件を聞けば納得すると思うわ?私たちが望むのは協会の敗北でも、貴方達の敗北でもなくて、協会と貴方達がお友達になることなの。」

「・・・友達?友達だと?呵々!」

ヘムレンの笑い声は侮蔑の色を帯びていた。

話は聞くと言ったが、彼はセレナたちに賛同するなど一言も言っていない。

「私たちは女帝を殺す!呵々、無罪放免だと!?そんなもの、私たちは最初から欲していない!私たちと交渉がしたいなら、女帝の首をここまでもってくるといい!それができればどんな要求だって呑んでやるともさ!」

「あんたらは、協会に何を要求するんだ。十分な配給か、差別の改善か?」

「・・・首だ。殺したいほど憎むとはそういうことだ少年少女よ。私たちはそれ以外の欲しかったものなど既に望んでいない。それで解決できると思ったのなら、来るのが遅かったなァ。」

強烈な違和感。この妙な余裕はなんなのだ。

ころころと切り替わる、別人のような表情に動揺しながらも、セレナは少しずつヘムレンに歩み寄る。

「・・・っ、お話をね、聞いて欲しいの。そもそも貴方たちが女帝を憎んだのは、貧困や差別という原因があったからでしょう?女帝を殺しても、混乱が起きるだけ・・・貴方たちが苦しいのは何一つ変わらないはずでしょうに。」

「アァそうだなあ。だがそんなものは何一つ関係ない。女帝を殺せるならその後の人生を投げ出しても構わないと我々全員が誓ったのだ。罪なき民衆の怒り、人生を捧げた復讐劇に応える。呵々!最高の正義の味方だろう!」

がっ!!!!!

耳を劈いた轟音。タイタンはぎょっとする。

ヘムレンの寄りかかった壁。彼の右頬を掠めるように白銀の槍が突き刺さっていた。

「余計な真似はしなくていいの。あまりこちらを舐めないで。」

「・・・・・通信を見破ったのは君だったな?」

「・・・・・助けを呼ぼうなんて考えるだけ無駄、やめなさいな。」

セレナはヘムレンを脅そうと詰め寄る。

鼻と鼻が触れ合うほどの距離で、月光の瞳がどろりと蕩ける。

「呵々。囲まれて勝つ自信がないか?それとも人殺しになるのが怖いか?」

「・・・彼らと違って私は優しくないのよ。黙って話を聞く気がないならなんだってするわ?ええ。耳と口があれば交渉はできるでしょう?」

「悪党慣れしていないなァ少女。やるならこのように徹底的かつエレガントに、だ。」

覗き込んだ濁色の瞳。まるで泥のようだと思った。

視界全てが溢れ出した泥に塗りつぶされる、それが頭の奥から小指の先まで、どろどろと侵食していくかのようだ。

「ーーーーーーっあ。」

まずった。

「私は君に負けず劣らず目が良いのだ。」

セレナとコンクリートが激突する音。

「が・・・・ぁ、」

倒れ込んだセレナの白魚のような細腕が、自身の首をめりめりと締め上げている。

苦しそうにぎゅっと閉じられた瞳からぼろぼろ涙が溢れ、拘束から逃れようと激しく暴れる真白の足。だが彼女の手だけが別人のように、容赦なく、ぎりぎりと、細い首を的確に締め上げる。

「おっと、余計なことをするな。君が少しでも余計な素振りを見せたら彼女の首を捻じ切る、君が浸透するよりずっと早くだ。分かるね?」

ディアンは下唇を噛んだ。

「違う、ディアン・・・っ。狙いは、ここじゃない・・・!」

「ーーーーーーーッ!!!!!」

即座にセレナの背後に回ったタイタンがセレナの肩関節を外す。

あまりの早業に味方のはずのディアンも一瞬思考停止しかける。セレナの悲鳴と共にがくんと腕の力が抜けた。

「激痛で妨害が途切れたな。私の勝ちだ、鴉!」

「っ、ディアン。この地区の、外に、魔道が飛んだわ!」

「今動かせる人員は、さほど多くはないが。女帝の首を取るだけなら容易いこと。」

ヘムレンの瞳が、三日月のように歪んだ。

「・・・っ。協会を直接狙ったのか!?」

「先に言っておこう。私は第7小隊隊長という以前に、魔道の研究者だ。実証の足りない推論で行動を起こすことは美学に反する。それでも、今回は"そうするしかない"と判断した。・・・故に、恐らくは、もう何をしても無駄だ、諦めたまえ。」

「協会を襲撃したって、待機しているハンターたちを倒せるわけがないでしょう。一体何を企んでいるの?」

とてつもなく嫌な予感がする。この背筋が凍る感覚、押し寄せる吐き気・・・タイタンは、覚えがある。


「真実は秘匿されている。だが、恐らくは、人が多く集まる場所に崩落はやって来るのではないのかね?」


「ーーー正気か!?」

この男は、女帝を、ハンター協会ごと崩落に落とすつもりなのだ。

「結界とは、完璧ではない。魔道である以上、魔道の原理からは逃れられない・・・例えグリムメタルで留め置いたとしても、時間が経てば経つほど強い効果は維持できなくなるな?門に近ければ近いほど効力は弱まるな?呵々、協会が普段死に物狂いで分散させている、人間を、一箇所に集めたら、今の協会の門は耐えられない!崩落を、保護区に呼び込むことができる・・・!」

「この人の魔道は・・・通信が本質じゃない。忠誠・・・盲信・・・?」

「絆、と言ってもらおうか!呵々、鴉、私は条件付きだが、貴様より精密に他者に干渉ができる。残された仲間は多くない、だが・・・この混乱している保護区を扇動して回るには、十分だ。分かったかね?」

なんと悪辣な。3人は目の前の外道に、怒りを通り越して呆然とする他なかった。

「お前は!自分の目的の為にどれだけの人間を犠牲にする気なんだよ!?」

「・・・鴉よ。先代を葬った痛烈な魔道、的確な拷問魔道の開発、歴代で唯一殺されることなく鴉を去った・・・そんな輝かしい経歴を持つハンターの君でも、一度は思ったことがあるのではないかね?"こんな人生はもううんざりだ"と。それが我々の、絆の意志だ。保護区の意志だ。呵々!」

「うるっさいな!黙ってろ!!」

ディアンはヘムレンをもう一発蹴り飛ばした。だが当然魔道はびくともしない。

「とに、かく。秋島に連絡を繋ぎましょう!ハンターを動員して・・・。」

「もう繋いでる!セレナさんが解析する方が早いんじゃ・・・!」

「セレナも!!お前らとにかく全員黙れーーー!!」

黙れ。

黙れ黙れ。ディアンはディアンのやり方で勝つのだ。

「セレナ、簡易結界の計算式、持ってるよね!?」

「え、ええ。」

「そのまま僕に寄越して!保護区の門まで吹き飛ばす!!」

だがディアンの魔道は例えるならば霧吹きだ。魂の重量がとにかく希薄故に、可能となった神業。

彼は細かく細かく、霧のように磨り潰して分割した自分の魔導たちを、霧散させる。

セレナの魔道塾の応用だ。グリムメタルは練るように、自身の魔道を成形して、それをそのまま飛ばしてしまえばいい。

「そんな、承認がされるわけ。」

「坊主、遅くなって悪い。受けとれ。」

ディアンの右腕に激痛が走った。ここまでやって来る間の激闘で、左半身が焼け焦げたようになってしまっている秋島の左手から、何か計算式を手渡され、そして強引に秋島が押し当てたセレナの手から、簡易結界の設計図が渡される。

いつか、森でセレナと意識を繋げた時の・・・いや、あの時の数段凄まじい頭痛がディアンを襲った。

だが、同時に流れ込んだ2つの計算式は、これが”真実”であると、そう言わんばかりに、ぴたりと重なった。

「・・・っぐ。」

「諦めが悪いな。」

滑り込んだタイタンが蹴飛ばしたのは、床に落ちていた炎の魔導ナイフ。サーペンティンの縄は既に半分ほど焼き切れていた。

「諦めたまえ、だ。ああなればディアンは絶対に失敗しないんだ。」

今度こそ、タイタンの拳がヘムレンの鳩尾を射抜いた。

もう指一本動かない。脳以外の器官が全て停止したかのようだ。やけにゆっくりと脈打つ心臓の音と、タイタンのどこか哀れむような声を他人事のように蛇は聞いていた。

「あんたの正義は所詮模倣止まりだ。仲間とやらの、人生を引き換えに女帝を抹殺するだなんて、本当にそんな言葉を鵜呑みにしたのか。」

「・・・な・・・に?」

「決死の覚悟をしたらしいあんたの仲間の、母親の気持ちを想像したことはあるか?友人は?決死の覚悟なんて建前に決まっているだろ、皆女帝の首より美味い飯が欲しいに決まってる。それが想像できない時点であんたは馬鹿正直の阿呆野郎だ。」

馬鹿正直・・・呵々、秋島操にも昔同じことを言われたな。その言葉は声になる前に意識は暗闇に落ち、直後に一条の光が協会の門へと発射された。





ヘムレンを再拘束し終わった直後。

流石だ。そう言ってディアンを褒め讃えたタイタンは即座にグーで殴られた。

「ばっかじゃないの!?動くなって脅迫されたら動くなよこの脳ミソ筋肉大馬鹿野郎!!セレナが死にかけてるからって焦ってんじゃねーーーよッ!」

彼はすっかり忘れてしまっていたが、そもそもタイタンがセレナの肩関節を外した結果起きかけた大惨事である。

「な、何とかなっただろ!?」

「僕が!なんとかしたんだろ!セレナも!!魔道使い相手に油断してノコノコ近づいてさあ!」

「その、それは本当にごめんなさい・・・。」

まさか自分にタイタンを殴り飛ばす筋力があるなんて知らなかった。ぜえぜえ息を切らせながら叫ぶディアンの心臓はまだばくばくと不健康すぎる激しい脈動を繰り返している。

「なんというか、本当に隊長だったんだな、あんた。」

「尻拭いが得意って意味か。死ね。」

何だかんだ土壇場で1番頭が回るのは彼なのかもしれない。悪く言えば1番の苦労性だ。

可愛い弟分に本気で叱られた2人は、未だ敵地のど真ん中だというのにちょっとションボリしている。そういう、怒られ方が下手くそなところも大変気に食わないのだが、ぐっとそれを呑み込んだ。

向き合ったのは捕縛されたヘムレンの仲間たち。ディアンが張った簡易結界は数分で消滅してしまったが、崩落さえ止めてしまえば鎮圧は容易だった。

「コイツは馬鹿正直だから。いい?お前らが死んでも女帝の首を取るなんて言った暁には、コイツは本当にお前らの命を作戦の為に使い潰すよ。比喩表現なんか分かんないんだ、馬鹿だから。わかる?」

「比喩なんかであるものか!!俺たちは本気の死ぬ覚悟を!!」

「秋島。」

「はいはい。オッサンを顎で使いやがって。」

タイタンの真後ろの扉から、喫煙室帰りのような気安さで突如現れた秋島。悲鳴を上げかけたが驚いたのはタイタンと拘束された男達だけ。セレナとディアンにはバレバレだったらしい。

「・・・秋島操。」

同じく拘束されているヘムレンは苦虫を噛み潰した顔をした。

「ったくよ。言われるまで気づかなかった俺が全面的に悪いって言えばそうなんだが。お前、いったい何人身内を殺してる?殆ど鉄砲玉みたいに仲間を扱いやがって。人体実験、致死毒、爆弾を仕込んで特攻・・・結界内部隊のくせに随分荒事に関わっていたみたいだな?こんなとんでもねえ情報を上層に伏せやがって。」

「・・・ッ!!」

男たちは一撃で黙り込んだ。一転してヘムレンに畏怖の視線を送る男たち。

「・・・とにかく分かったよね?ヘムレンに命を賭けるっていうのは文字通り、こいつに命をどう使われても文句を言わないって意味だからね。その覚悟が、本当にお前たちにあったの?欲しいのは女帝の命じゃなくて、現状の改善じゃないの?」

「・・・ヘムレンさん。」

ヘムレンは首を垂れた。断罪される覚悟はできていた。

いつもこんなことばかりだ。

力を貸してと頼む人間がいたら、力の限り全力で応えてみせた。自分としてはそれだけのつもりなのだが、自分はいつもどこか噛み合っていないらしい。人を助けるといつも怖がられるか憎まれるかのどちらかだ。

今回は作戦自体もうまくいっていた。彼らが死んだ後は第2第3の彼らがすぐに現れる。自分さえ生きていれば彼らの意思を継いで、完成した大軍隊で女帝の首を取れる。だが、それは彼らの意図するところではなかったらしい。

「・・・すまない。私は、その。人の心に疎いところがある。君たちに対して悪意はなかったのだ、と言っても信じてもらえないだろうが。」

「・・・あんたと2年、共に計画を立ててきた。だからヘムレンさん、あんたが変わり者だってことぐらいわかっているし、あんたが純粋な良い奴だってことぐれえよくわかってらあよ。」

驚き俯いていた顔を上げた。仲間たちは困ったように笑っている。

絆の魔道。それはちゃんと彼の心に由来するものだと、彼と繋がっていた人間たちは理解していた。

「そう、か。それは・・・ありがとう。その、・・・後は私に任せておいてくれ。・・・秋島操、情けなく敗北した我々と、今更交渉など必要か?」

「こっちの頭領は俺じゃねえよ。おら、交渉は誰がやることになってんだ?」

「・・・私たちは、貴方達のね、誤解を解きたいの。誤解を解いた上で、貴方達に助けて欲しいの。この保護区の問題を解決する最高の方法を考えたのだけど、人手が足りなくて困っているから。」

セレナはまだ辛そうに肩を抑えながら、ヘムレンの元に蹲み込んだ。

「労働条件は悪くないって約束するわ。それに・・・女帝様は決して"悪意があって貴方達を苦しめたんじゃない"。ヘムレンだけじゃない、貴方達が目の敵にしてる秋島も、女帝の勅令を受けて、移民を救うために動いているわ。金銭の禁止、違法な配給物の取引の禁止・・・貴方達を苦しめる根源を撲滅する為に沢山の法が敷かれたのでしょう?それを拒絶したのは貴方達の方だし・・・それに、それでもどうにもならない危機に保護区は直面している。そうでしょう?」

「ああ。お前らが憎む女帝様はな、その幼い命を削って全世界に魔導を展開させ、寝る間も惜しんで崩落の起きる場所を探して、人を救ってんだ。全身に刻んだ魔導式のせいで、あの子は長く生きられない。それでも、結界の外に住む人間が死なずに済むよう血眼で世界を見つめて、保護区の人間が幸せになるよう法を考えている。・・・あの子の覚悟を知って尚、女帝を悪く言えるものなら言ってみろ。」

秋島の気迫に、隣に立つセレナすら怯えた。

秋島の瞳にあるのは父の覚悟だ。自分だって仲間たちをあのように貶められれば激昂する。

ハンターも、移民も、保護区民も、変わらないのだ。皆、大切なものを救いたいと願っている、のかもしれない。

「・・・保護区の問題を解決する最高の方法と言ったな。それは・・・何だ。」

「ふふ。聞いて頂戴!私いっぱい頑張ったのよ!」

セレナがにっこりと笑う。ようやく出番が来たと、セレナはポシェットに締まっていた一枚の紙を取り出す。















保護区国営放送。

ハンター協会の行う式典は、実に2年ぶり・・・現女帝の即位式以来のこと。

反協会勢力の動きが止まったという喜ばしいニュースが人類保護区域を駆け回ったのはつい昨日のこと。そして、それについての詳しい説明を、なんと女帝自ら保護区の大劇場前広場で行うという通達も、全住民に同時に行われた。

・・・勿論全住民が集まることのできる広場などこの狭い保護区には存在しない。

なので、今回の集会は全家庭に中継される。

中継されるというのに、だ。

「なんだよ、この人数・・・集まりすぎだろ、道路まで人がはみ出してる。」

「本当、びっくりしたわ。保護区にこんなに人がいたなんて。労働日があるのもそうだけれど、皆暴動が怖くて、休日でも家に篭っていただけだったのね?秋島が言っていたわ。」

広場を埋め尽くす、ひと、ひと、ひと。

それを見下ろすことのできるバルコニーの窓から、セレナ達は広場を覗いて驚いた声を上げていた。

秋島はというと、平穏に解決したとはいえ勝手にいろいろやりすぎだと、上司に思い切り叱り飛ばされている最中らしい。

「私たちのために頑張ってくれたの・・・よね、いろいろ。秋島に、後からちゃんと謝らないと、だわ・・・。」

「彼には謝罪より感謝を言ってあげてください。それに、貴方達の成功を誰より待ち望んでいたのは、他でもないあの人なんですから。謝る必要なんて、ひとつもないですよ。」

背後から鈴が転がるような可愛らしい声。

「あ、女帝様だわ!ふふ!いつものきらきらの赤いお洋服も素敵だけれど、今日の真っ白なお洋服もとっても素敵ね!本当の女神様みたい!」

「だーかーらーッ!!気安すぎるんだよあんたはッ!!世界で一番偉い人なんだぞ!?」

「いいのです、タイタン。同い年の女の子の友達なんて、わたくし、初めてで・・・とっても嬉しいんです。畏まったセレナより、自然体のセレナのほうが、わたくしは好きですし。」

「いや、女帝様はそれでいいのかもしれないですけどね!」

セレナが無用意な発言をする度に、彼女の側近からセレナが・・・というよりもセレナの保護者だと思われているタイタンが睨まれるのだ。胃に穴が空いてしまいそうである。

そう、今セレナと談笑しているこの金髪の少女が、現ハンター協会最高権力者・・・女帝カナリー・クライシスである。

同年代だと女帝が勝手に思っているだけで、彼女はディアンと同じ18歳で、実際はセレナの方がお姉さんなのだが・・・そう思い込んでいる方が女帝が楽しそうだという一点だけで、セレナは自分の年齢を伏せることに決めたらしい。

それに、こうして並んでいるぶんには、ただ可愛らしい女の子2人がじゃれあっているようにしか見えないのだから、なんだかもうそれで良いかな、という気にはなる。

そう、セレナと女帝は出会って数日・・・あの作戦の終わった夜だというのに、既に長年の親友のように打ち解けていた。式典の準備でそれなりに忙しい中、それを放ってお喋りばかりしているものだから、2人纏めて秋島に叱り飛ばされるくらいには。

白い花冠と、真っ白なドレスで着飾った少女は、セレナの言った通り、本物の女神様のように美しい。セレナも相当な美人だが、近寄りがたい綺麗系美人のセレナとはまた毛色の違う、愛らしい美少女である。

ふわふわとした長い金髪は、例えるならばトイプードルのような人懐こい印象を思わせる。

瞳は熟れた金柑の果実のような、はたまたキャンディーのような、甘く溶けたオレンジ色。

向日葵のように咲き誇る笑顔を見て、悪い印象を抱く人間などこの世に居ないだろう。

女帝と対面する人間の緊張など、この笑顔の前には消し去ってしまう。そういった、魔法のような不思議な魅力を持つ少女であるな、というのがタイタンの持つ女帝への印象だった。

「・・・タイタン。お前やっぱりそういう趣味なんだ。」

「・・・どういう意味だ?」

「やっぱりちょっと幼い感じの子が好きっていうか、少女趣味が・・・いででででで!」

不敬罪もいいところだ。心底気持ち悪い表情をしたディアンの腕を思い切り抓って黙らせる。

「犯罪になるような年齢差ではないし、そもそも俺はセレナさん一筋だ。これ以上余計なことを言うなら今すぐバルコニーから放り投げてやる。」

「セレナだったら犯罪じゃないけどさ。お前はただでさえ老け顔だから、その趣味は犯罪臭が凄いと言うか。時代が時代なら火炙りにされてるぜ。」

女帝とセレナの視線が逸れた瞬間、ディアンの足を思い切り踏みつけてやった。






「本日はご視聴いただきありがとうございます。人類保護区域ハンター協会最高指揮官、カナリー・クライシスです。まずは、先日の争いによって失われた命に、哀悼の意を捧げ、黙祷を。」

協会の前には小さな真白の広場がある。普段は何もない広場だが、今日は保護区の一部の住民が集まり、その背後に映像通信装置が並べられている。

今日は保護区で定期的に行われる、女帝のスピーチの日だ。

ここ最近の動乱で随分久しぶりの開催になったそうで、冒頭では一分間の黙祷が行われることとなった。セレナも女帝に教わった手順通りの所作を行い、最後に一度手を組む。

「先日、皆様もご存知の通りでしょう。協会の今の方針に疑問を持った人々が協会に反旗を翻し・・・数週間に及ぶ激しい暴動が起きました。たくさんの命が失われました。だからこそ、先日の発表に疑問を持った方も多いのではないでしょうか。2ヶ月間の監視、住居の隔離。あまりに刑罰が軽すぎるのではないかと、不安を覚えた方も少なくないことは、わたくしも十分分かっております。ですが・・・ええ。私がこのような決断を下したのは、今の保護区の現状を不安に思うのは、きっとあの方々だけではないのだと思ったからなのです。彼らは民衆の声の代表者。彼らの主張は・・・このような貧しい生活に人々を追い込んだ女帝を殺したいほど憎む気持ちをねじ伏せることは、愛する市民の皆様の不安を権力で捩じ伏せる事と何も変わりません。」

ずきりと胸が痛んだ。

女帝のこのスピーチを聞くのは初めてではなかった。彼女が練習しているのを昨日何回も聞いた。だが、それでもセレナは苦しい気持ちになる。

保護区の統治者は、やはり、民から搾取することなど1つも望んでなどいなかったのだ。

「だからこそ、今回は・・・ええ、混乱を防ぐための一時の拘束こそありますが、彼らにこれ以上の刑罰を与えることはしません。私たちハンター協会と彼ら反協会勢力は、ある条約を結ぶことで平和的に和解し、手と手を取り合うことになったからなのです。その条約というのを・・・今回、彼らとの交渉に当たってくださった3人に、説明していただこうと思います。・・・セレナ、頑張ってくださいね。」

「ええ!ふふ!こんなにたくさんの人の前でお話しするの、初めてだわ。」

そう、今回の事件の功労者として、3人は式典でスピーチをするように頼まれたのだ。

最初は断った。タイタンは顔が割れると困る。ディアンも保護区で会いたくない人間がいる。やるならせめてセレナだけを犠牲にしてくれと。

そう言ったタイタンに女帝は一言。

「なら隠匿の魔導をかけましょうか。」

女帝の魔導はやはり絶大。顔だけが周囲から認識できなくなる隠匿魔導は、映像媒体にすら影響を及ぼすらしい。

女帝直々にそこまでしてもらっては、タイタンも断りにくい。極め付けに、

「事実上の表彰なのですから。保護区の皆だって、自分たちを救った人間のお話を聞くことができたら、きっととっても喜びます。」

そう屈託無い笑顔で言われて断ることのできる人間などこの世に居まい。そうして強制的に女帝のお願いを聞くことになった3人は、再び会議室に放り込まれ、カンヅメになってスピーチの練習に勤しむこととなった。

しかし、セレナはあれだけ気が小さいくせに、これっぽっちも緊張していないのはいったいどういう訳なのだろう?

「・・・ええと。結論から申し上げますと、今回彼らに事実上の無罪放免・・・2ヶ月間の監視と居住区の隔離という条件付きではありますが。それを約束しました。その代わり、一切の戦闘行為を今すぐやめること。そうすればハンター協会から彼らに危害を加える真似は一切しない、と。」

お前も全然緊張してないじゃないか、と小声でディアンが茶々を入れてくる。

だが、ディアンのその声は誰よりも緊張で情けなく震えている。意外といえば意外なのだが、人前に立つのが一番苦手なのは彼らしい。

ただ、自分より緊張している人間がいると妙にこちらも落ち着けるというだけで、隠匿魔導があろうとサングラスを外せなかったくらいには、タイタンだって人前に立つことに怯えているのは変わらないのである。

「まあ、当然・・・それだけだと彼らは納得しない。彼らは保護区の急激な人口増加による配給不足や、・・・移民差別。そういうものに苦しみ、その現状を変えようとして立ち上がったのです。彼らが望んでいるのはあくまで現状の改善で、ハンター協会を倒すことや、罪のない民衆を殺戮することや・・・ましてや女帝を殺すことなんて、そんなことを望んでいるわけではなかったから。」

念のためにと持ってスピーチ用紙は、すでに背広の胸ポケットに仕舞われている。

これは儀礼用に用意した文言などではなく、タイタンの考え、タイタンの言葉だ。

サングラス越しの人々が、じっとタイタンの言葉に耳を傾けている。

もさもさと伸ばした髪、いつも背を丸めて歩いて居たルーヴと、この堂々と人前で話す短髪の謎の青年が、まさか同一人物であるとは、隠匿の魔導がなくとも誰も気づかなかったかもしれない。

「・・・だから、俺たち3人は、協会と彼らに、ある1つの約束をしました。保護区の食糧問題の解決策を、提示します。」

会場が一気にざわめきに包まれた。

「ええと・・・要は、保護区の屋根に設置できる、小型の農業用魔道具だわ。ここの建物はどれも四角いから、屋上に土地がたくさん余っているでしょう?」

セレナはいつも通り淡々と説明を重ねていく。

敬語で話すように、と何度も頼み込んだが、全く意味がなかったようだ。

「今更居住区を増設して、人口問題を解決・・・というのも難しいでしょうから。農業に使ってしまうのが一番現実的だわ。設計図は・・・ええと、見てもわかる人はそう多くないと思うけれど、証拠の提示ということで、後から協会が公開するわ。この魔道具のポイントは3つ。とにかく省スペースなこと。そして作物栽培が、魔導さえ注げば収穫以外は全て自動化できること。そして、使用するグリムメタル・・・ええと、魔道具を製造するのに必要な特殊な金属のこと。貴重なグリムメタルの使用量が、とにかく少ないわ。」

セレナがこの魔道具を設計するにおいて、一番拘ったのがそこなのだと、とにかく力説された。

グリムメタルという金属は・・・セレナがじゃぶじゃぶ使っているから忘れそうになるが、とても貴重なものだ。保護区では特に価値が高騰しており、グリムメタルの欠乏が保護区の魔道具の技術発展を阻害していると言っても過言ではないということ。

『単純に産出量が少ないのもそうだけれど・・・一度使ってしまったら、他の金属のように溶かして再利用することができない、というのが難しいの。グリムメタルは消耗品なのよ。』

いつか、そのようにセレナから聞かされたことがあった。

「ふふ。使うグリムメタルはじゃがいもくらいのサイズで済むもの。今協会が保有しているグリムメタルだけでも・・・ざっと10万台以上は作れる計算になるわ。機械の製造も、ディアンに・・・ええと、保護区の技術レベルに詳しい人に設計図を確認してもらっているから大丈夫。魔道具製造をある程度学んだ人間なら作れる簡単な設計よ。製造期間を見積もっても・・・1年以内で保護区の食糧問題は解決するわ。」

1年で。

もうちょっと長めに見積もったらどうなんだと必死にセレナを止めたのだが、こういうのは盛るのが大事なのだと聞きやしなかった。

「今回私たちが提供するのはその設計図。そして、私たちが品種改良を重ねた作物の種子を沢山。種類は、小麦と、人参と・・・ええと、その、忘れちゃったわ・・・後でリストを協会の人に渡すわ?とにかく、種子も特別製だってことが言いたかったの。虫害、冷害、日光量不足は基本的に心配ないし、育つ速度も早いわ?ええと、その種子の提供と、あとは5ヶ月に1度、保護区からの魔道具の発注を受け付ける約束をするわ。」

セレナが女帝の方を振り返り、顔を見合わせた2人はいたずらっこのように笑い合う。

「ええ。彼女・・・セレナに発注する魔道具は、保護区の皆様の意見を募って決めます。自分たちの生活に足りないと思うものの意見を、協会に寄せてください。その中から要望が多かったものをいくつかリストアップして、皆様に投票してもらい、決まったものを彼女に発注します。」

「・・・ええと、その、あくまでできる範囲で、だわ。あんまり無理なものは、断るかもしれないけど・・・。」

「そこはちゃんと事前に相談するから大丈夫です。でもセレナは魔道具作りの天才ですから、私には奇跡にしか思えないようなものも、きっと作ってしまうんでしょう?この魔道具だって、詳しくない私には、神様の奇跡にしか思えませんから。」

大勢の前で褒められて、セレナは照れたようにはにかんだ。そして再び広場に向き合う。

「ええと・・・あとはね、そう。反乱を起こした人たちにもお願いをしたの。元々保護区の外で暮らしていた人たちは魔導に慣れているし・・・その中でも協会と戦うことを選んだ選りすぐりの人たちだもの、あの人たちはハンターでもないのにとっても魔道に詳しいわ。だからね、忙しいハンターの代わりに、魔道具の製造を学んでもらうことにしたの。そうしたら保護区の魔道具の技術は格段に上昇するし、保護区の技術を担えるようになったら、それは移民の地位の回復にも繋がるでしょう?」

テント民らしき人々からどよめきが上がる。

・・・彼女の魔道具講座がどれほどスパルタなのかを知っている約2名はそっと目を逸らしたが。

「・・・保護区に住んでいると、まるで飼われているみたいだって言っていたひとを知っているの。毎日与えられたものを食べて、与えられた仕事をこなして、与えられた娯楽を享受して。そんなのは人生ではないって、その人はとっても怒って、悲しんでいたわ。」

仮にも、保護区を統べる女帝の前だ。こんなこと、保護区の公式の発表の場で言っていい言葉ではなかっただろう。

「でも、でも!今までの保護区が悪い場所だったなんて、私には思えないわ!だって、保護区のことを大好きな人たちに、私はここに来て沢山出会ったわ!」

だが。セレナの滅茶苦茶なスピーチを何度割り込んで止めてやろうかと思ったか分からないタイタンは・・・彼女を止めることをしようとは思わなかった。ただ静かに、彼女の言葉を待つ。

「だから、保護区のことが大好きな人たちが一丸となって・・・こうしてこれから保護区の技術が発展して、自分たちが作ったものが、少しずつ生活を豊かに、便利にするわ。明日はもっとお腹いっぱいご飯が食べられるようになるかもしれないわ、その次の日にはもっと暖かくて軽い服を着られるかもしれないわ!そう考えたらとってもワクワクするでしょう?」

ディアンはただ、セレナの背中を見つめていた。

今は羽根などない、その小さくて華奢な背中は、いつだってディアンの先を歩いている。

彼女もまた彼女の目線で、もっともっと幸せになる世界を思い描いている。夢見ている。

「だから、ふふ、大丈夫よ。保護区は今までだって前に進んでいたし、これからもっと前に進んでいくわ!」

セレナがそう言って振り返った。

ディアンが説明するはずだった部分も好き勝手に喋り放題して、頭を抱えるタイタンに横目で睨まれながら、セレナは屈託無く笑う。

本日は晴天。彼女の笑みのように澄み切った空に、彼女の銀糸が溶けてゆくかのよう。

「・・・あんた、説教。」

「・・・堂々としている方がいいに決まっているわ。敬語なんか話したら噛んでしまうもの。」

ディアンの前に立つ2人は、小声で言葉を交わし、再び前に向き直った。

向かい風を気持ちよさそうに浴びて、2人は眼下の人々を見下ろし、顔を見合わせてくすりと笑う。

2人の影が緊張で足が動かないディアンに落ちる。


英雄。僕の英雄。・・・僕の英雄達。

遠くから手を伸ばし続けて尚届かない戦いの境地。尚届かない魔導の境地。

ディアンとして彼らの横に立ちたい。尊敬する彼らの隣に堂々と立てる、素晴らしい自分が欲しい。

「・・・僕を差し置いて前に立つなよ!僕がいなけりゃ死んでたくせに!」

ディアンが叫んだ声は思い切りマイクに拾われてしまった。

ずっこける2人を睨みつけ、震える足をずか、ずかと無理矢理動かし、ディアンはタイタンとセレナの横に、並んだ。その表情は不機嫌で、未だ緊張で固いが・・・どこか晴れやかだ。

「・・・ふふ。改めて、今回の功労者の3人に拍手を。そして、お礼を。ありがとうございました。貴方達がこうして駆けつけてくれたからこそ、私は今彼らとこうして手を取り合うことができるのです。」

秋島の監視のもと、背後に控えていたヘムレンが女帝に歩み寄る。

言葉は交わされなかった。だが、ヘムレンが無言で差し出した手を、女帝が優しく握る。

決して重なるはずなどなかった嗄れた手と、真白の小さな手。

殺しあって居たはずの2人が不器用に握手を交わした瞬間。

それは保護区の平和の象徴として末長く語られることとなったのだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。