さぁ、次の一歩を貴方と。
「卒業生、退場。」
色んな所から聞こえてくる啜り泣きにつられそうになるけど唇を噛んで堪える。ここまできたら泣かずに講堂を出たい。名簿順でちょうど後ろにいる友人は既に残念な顔になっているけど。
「うわぁ…。」
「流石としか言えないわね。顔だけはトップレベルだし。」
絢子がサッカー部の後輩に捕まってしまった為に早々に学校を出ることを断念した私は、少し離れた所で同じく捕まっているであろう香織先生がいる場所へ目を向けていた。シナリオからだいぶ逸れているし、正直この後のイベントは見る必要はないかなと思ったから、しんみりしないうちに学校とサヨナラしたかったんだけども。
その向けた視線の先のイケメン達は全員ブレザーの釦が1つもなかった。国立君はネクタイすらしていない。
そんなゲームみたいな光景(元はゲームなんだけど)を見て顔を歪めれば、いつの間にかやって来ていた絢子も苦笑いしていた。
「あれは近付いちゃいけないやつだ。絢子、早く帰ろう!」
「いいの?彼処にいるの、紫帆の彼氏様じゃない?約束してるんじゃないの?」
なんだって!?
その恐ろしい発言に指差された方に顔を向ける。何故だ、何故南條さんが此処にいるんだ!?彼の学校だって卒業式のはずでしょ!?篠崎さんが許すわけがないと思うんだけど!?
私の存在に気付いた南條さんが歩みを進めてきて更にパニックになる。逃げなきゃと思うも足は動かず。あっという間に目の前にイケメンががが。
「病院でお会いして以来ですね。ご無沙汰しております。」
「こちらこそ、あの時は紫帆を助けていただいてありがとうございます。こんな素敵な方が彼氏だなんて羨ましいわ。私は約束があるので失礼しますね。」
にーっこりと余所行きな笑顔で私を捧げた悪魔な彼女は恐らく社君を回収しに行ったのだろう。残された私はただ絶望していた。
「紫帆、卒業おめでとう。」
「な、んで此処にいるんですか!?そっちも卒業式でしょう!?」
「別に式は終わってるから問題ないですよ。僕は保険医ですから、担任の先生達みたいに卒業生に捕まることもないですし。」
いや、絶対女子生徒が捕まえるつもりだったと思うよ!?それこそ今頃血眼になって探してるんじゃ!?
そんな突っ込みは無駄だと分かっているので声には出さない。代わりに抗議の視線を送れば手を引かれた。何故だ。
「この前紫帆が言ってたじゃないですか。今日がゲームの最後の日だと。」
「あぁ、確かに説明しましたけど。」
「諸々の事件は解決しましたけど、紫帆がゲームというフィルター越しにこの世界を見て生活してるのに変わりありませんでしたから。本当に自由になるその瞬間に立ち会いたかったのです。」
「別にもうそこまでゲームだって意識はなかったと思うんですけど…。」
いや、この後のイベントがなんて考えてた時点で意識してるか。なるほど、確かにこの学校から出れば本当に自由な気がする。
「でもゲームっていうベースがなくなったら私がどうなるかはまだ分からないですよ?元の世界に帰れないのは確かですけど、もしかしたらこのまま消えちゃうかも…。」
管理人が許しても、世界は異分子を弾くかもしれないから。校門を出た瞬間にこの手の温もりだって消えてしまうかもしれない。
それがとても悲しい気がして我慢していた涙が溢れそうだ。そんな涙目の私を見た南條さんは極上の笑みでゆっくりと歩きだした。
「別にゲームでいうメインキャラの邪魔にはなっていないのだから許されるでしょう?それとも、やっぱり逆ハーとやらに憧れます?」
「まさか!そもそも逆ハールートは存在しないゲームだったんですってば!」
「ふふっ、分かってますよ。もし紫帆が他の男に目を向けたらその時は…ね?」
「何サラッと怖いこと言いかけてるんですか…。」
どんどん近付く正門に無意識に恐怖しているのか歩幅が狭くなってくる。俯いて引かれるままに進めば前を見ないから大丈夫なのでは?と下を見ていたら、結構な力で引っ張られ南條さんの隣に立たされた。
「大丈夫ですよ。言ったでしょう?逃がしはしない、帰らせない、と。」
「まぁ、確かに…。でも、どうやって?」
「一番手っ取り早いのはマスターを脅迫することですよね。」
うわぁ…この人ならやりかねない。その光景を思い浮かべて苦笑い。
でも、それがとても心強い。
「これからもよろしくお願いしますね。」
「こちらこそ、お手柔らかに…。」
どうかこの先もあなたの隣で。




