大切な日常でした。
「あおーげばー。」
「とうーとしー。」
「…ちょっと、まだ卒業じゃないわよ。」
急に歌い出した友人2人に突っ込みを入れる絢子の後ろで黙々と壁に向かう。
卒業式を間近に控え、練習の為に登校してきた3年生は各教室の大掃除をしている。私達は教室の後ろに設置されてる掲示板のお知らせ等を剥がしているのだが、友人達は早々に飽きたようだ。
「いやぁ、色々あったねぇ。」
「濃い1年だったよ!けど楽しかった!無事進路も決定したしね!」
さっきのセンチメンタルな空気は一瞬だったらしい。椅子を引っ張ってきたと思えば雑談を始める。まだ剥がし終えてないんだけども。まぁ、たいした量もないから私だけでも問題ないけどさ。
校内新聞やら学年通信やら、剥がしていく毎に色褪せた紙になっていくのを見て、ここで過ごしたんだよなぁとしみじみ思う。
「アタシ、紫帆は絶対に数本君と付き合うと思ってたんだけどなぁ。」
「結局あのオニーサンなのね!」
「その話はもういいでしょ…。」
背後で交わされる言葉に制止をかけたが意味はなさず。もう何度目かは分からないやり取りに絢子も苦笑いだ。
わざわざ報告するものでもないと判断して日々を送っていたのに校門まで迎えに来られてしまっては隠しようがない。仕事を早めに切り上げ(篠崎さんから逃げ出したと後に聞かされる)、スーツではないラフな格好で待つ南條さんはもう…ね。
群がる女子生徒を適当にあしらって私の手を取った時の友人の悲鳴は忘れない。
「アタシは紫帆の彼氏を見れないまま卒業すると思ってたから嬉しくて…!」
「何そのやっと孫の顔を見れた年寄りみたいな言い方。」
やっぱり卒業まで秘密にしておきたかったと友人のふざける様を見て思う。翔か南條さんで賭けてたのはしばらく許さないからね。
「私も楽しかったわよ。紫帆と友達になれて良かったと思ってる。」
「絢子まで…。まぁ、私もなんだかんだ楽しかったけど。」
ちょっと照れ臭いけど本音だ。何の心構えも出来てない状態でこの世界に放り出されて不安だったけど、絢子が話しかけてきてくれたからこうして溶け込めてるわけだし。
「えー、アタシ達だってそう思ってるんだからねぇ?」
「そうそう。すっごく仲良しさんだよー?」
「わかってるよ!だから外した所に写真張り付けないで!」
ロッカーに残ってたのかは知らないけど、文化祭で撮影した写真を画鋲で固定、更に残ったそれで周りにハートマークを作り出す友人。咎めはするけど、私も2人も、勿論絢子も笑顔だ。
ちゃんとやれってこの後委員長に怒られるんだけど、それはご愛嬌。
私の1年が間もなく終わる。




